21 / 26
3
しおりを挟む
。
「そう身構えるな。今は何かするつもりはない」
ウィルが毛を逆立てる猫を宥めるみたいに結子を宥めるが、それで宥まるはずがない。
先ほど、危機感がないといったのはどの口か。警戒心剥き出しでそれをすぐに言葉一つで
解くのも愚かな行為だろう。
結子にしてはめい一杯の睨みを利かせてウィルを睨む。
だが、当然だけれどそれでウィルが怯むはずもない。
結局、立場的に不利なのは結子だ。ウィルの言うとおり一人でいたことが
問題だった。助けを呼ぶにも聖域で入ってこれる人間は限られている。
そして、ここで叫んで外まで聞こえるかは定かではなかった。
「愚か者は状況を把握して、それでも下手に騒ぎ立てて噛み付こうとすることだ。
お前は俺の手のひらの上だ。それとも運よく助けが来るのを待つか?
神官長か…それともお前を探しにくるルイ、か?」
それほど都合の良いことが続けば良いがな。
世間話のように自然と話して嫌味にもならないのか平静な顔で行ってくる。
それが屈辱だった。まさに今の結子にはそれしか目の前の敵に対抗する術が浮かばない。
結子は非力だ。
相手は軍人もかくやと一目見て鍛えられた肉体だと分かる。隆起した胸、腕。
引き締まった腰、足。蹴られただけでどれだけのダメージが結子に襲いくるか
それを考えるだけで恐ろしい。
喧嘩という喧嘩を現代っ子らしく経験したこともなければ
殴り合いで勝つとか、格闘技の技でなんて無理難題過ぎる。
受身も取れないのに投げ技なんか知らない。
遊びでだって兄弟とプロレスごっこもしたことがないのに、ラスボスのような男に敵うと思うか。
それでも逃げるのが嫌だ。
結子は瞬発的に答えを出した。それは悲壮な答えだ。
でも、男に諂うなど毛頭なかった。
「…。」
「沈黙か、それも聡い一つの選択だろう」
目の前の男のイメージが少し変化する。
それまでは絵に描いたような傲慢な男だったが、急になにか遠くをみる。
はかない男に見えて目の錯覚かと疑う。
「いつまでお前らは神木に依存したきりなのだろうな…。」
誰に対してなのか、吐かれた言葉に結子の答えはない。
その言葉自身、男が結子に吐いたようには見えなかった。
結子を通してその背に見える何かに。ウィルは苦言を表したのだろう。
それに結子も興味を持つ。
はじめて結子なりに誰かに聞かされた言葉ではなく本人を見て芽生えた興味。
この男もこの男なりの信念を持って、この惨い行いを起したのか。
そこではじめて男側への関心が結子に生まれた。
いつだって様々なことには当事者の数だけといって良いほど多くの側面があり、
見た者、感じた者によっては真実さえ別物のとして映る。
結子の怒りもそれを思い至ると凪いでいく。
これはただ悪いことをした、悪事だ。木をきるのは悪いと子供に言い聞かせる
叱ることではない。木を切ることで表明できた男の意思表示にも見える。
そして決断。決意。強い何かを秘めている。
「お前はどうおも…、いや詮無いな。お前は何も知らない。操り人形だ」
そして、男の視線が結子の手元に再び落ちる。そこは切り株の上に置かれていた。
自分が起した騒動を確認するように置かれた視線だろうが、何気なく落とされた視線が
徐々ににわかに見開かれていく。
男が何を見たのか。驚いている。結子は首をかしげてその視線を追い、自分の手元に目を落とす。
何もない。でも、何もないわけもないだろう。
男は声を失おうほど驚いているのだから。
ゆっくりと自分の手を外し、切り株の様子を確かめると結子も気付いた。
「あ」
芽だ。
ご神木から新たな芽が切り株の横から芽吹いていた。
「そう身構えるな。今は何かするつもりはない」
ウィルが毛を逆立てる猫を宥めるみたいに結子を宥めるが、それで宥まるはずがない。
先ほど、危機感がないといったのはどの口か。警戒心剥き出しでそれをすぐに言葉一つで
解くのも愚かな行為だろう。
結子にしてはめい一杯の睨みを利かせてウィルを睨む。
だが、当然だけれどそれでウィルが怯むはずもない。
結局、立場的に不利なのは結子だ。ウィルの言うとおり一人でいたことが
問題だった。助けを呼ぶにも聖域で入ってこれる人間は限られている。
そして、ここで叫んで外まで聞こえるかは定かではなかった。
「愚か者は状況を把握して、それでも下手に騒ぎ立てて噛み付こうとすることだ。
お前は俺の手のひらの上だ。それとも運よく助けが来るのを待つか?
神官長か…それともお前を探しにくるルイ、か?」
それほど都合の良いことが続けば良いがな。
世間話のように自然と話して嫌味にもならないのか平静な顔で行ってくる。
それが屈辱だった。まさに今の結子にはそれしか目の前の敵に対抗する術が浮かばない。
結子は非力だ。
相手は軍人もかくやと一目見て鍛えられた肉体だと分かる。隆起した胸、腕。
引き締まった腰、足。蹴られただけでどれだけのダメージが結子に襲いくるか
それを考えるだけで恐ろしい。
喧嘩という喧嘩を現代っ子らしく経験したこともなければ
殴り合いで勝つとか、格闘技の技でなんて無理難題過ぎる。
受身も取れないのに投げ技なんか知らない。
遊びでだって兄弟とプロレスごっこもしたことがないのに、ラスボスのような男に敵うと思うか。
それでも逃げるのが嫌だ。
結子は瞬発的に答えを出した。それは悲壮な答えだ。
でも、男に諂うなど毛頭なかった。
「…。」
「沈黙か、それも聡い一つの選択だろう」
目の前の男のイメージが少し変化する。
それまでは絵に描いたような傲慢な男だったが、急になにか遠くをみる。
はかない男に見えて目の錯覚かと疑う。
「いつまでお前らは神木に依存したきりなのだろうな…。」
誰に対してなのか、吐かれた言葉に結子の答えはない。
その言葉自身、男が結子に吐いたようには見えなかった。
結子を通してその背に見える何かに。ウィルは苦言を表したのだろう。
それに結子も興味を持つ。
はじめて結子なりに誰かに聞かされた言葉ではなく本人を見て芽生えた興味。
この男もこの男なりの信念を持って、この惨い行いを起したのか。
そこではじめて男側への関心が結子に生まれた。
いつだって様々なことには当事者の数だけといって良いほど多くの側面があり、
見た者、感じた者によっては真実さえ別物のとして映る。
結子の怒りもそれを思い至ると凪いでいく。
これはただ悪いことをした、悪事だ。木をきるのは悪いと子供に言い聞かせる
叱ることではない。木を切ることで表明できた男の意思表示にも見える。
そして決断。決意。強い何かを秘めている。
「お前はどうおも…、いや詮無いな。お前は何も知らない。操り人形だ」
そして、男の視線が結子の手元に再び落ちる。そこは切り株の上に置かれていた。
自分が起した騒動を確認するように置かれた視線だろうが、何気なく落とされた視線が
徐々ににわかに見開かれていく。
男が何を見たのか。驚いている。結子は首をかしげてその視線を追い、自分の手元に目を落とす。
何もない。でも、何もないわけもないだろう。
男は声を失おうほど驚いているのだから。
ゆっくりと自分の手を外し、切り株の様子を確かめると結子も気付いた。
「あ」
芽だ。
ご神木から新たな芽が切り株の横から芽吹いていた。
0
あなたにおすすめの小説
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
薔薇の令嬢はやっぱり婚約破棄したい!
蔵崎とら
恋愛
本編完結済み、現在番外編更新中です。
家庭環境の都合で根暗のコミュ障に育ちましたし私に悪役令嬢は無理無理の無理です勘弁してください婚約破棄ならご自由にどうぞ私ちゃんと手に職あるんで大丈夫ですから……!
ふとした瞬間に前世を思い出し、己が悪役令嬢に転生していることに気が付いたクレアだったが、時すでに遅し。
己の性格上悪役令嬢のような立ち回りは不可能なので、悪足掻きはせず捨てられる未来を受け入れることにした。
なぜなら今度こそ好きなことをして穏やかに生きていきたいから。
三度の飯より薔薇の品種改良が大好きな令嬢は、無事穏便な婚約破棄が出来るのか――?
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる