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私は佐伯茜。
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茜が車に乗ると、運転手はすぐに車を発車させ、高層ビルが並ぶオフィス街を、驚くほどのスピードで走っていく。
派手な外見の外車は、停められているだけでも目をみはるほどだが、茜が乗るこの車は、自身が出すスピードの速さによって目立っているようだ。通行人が二度見するのもおかしくはない。もし、警察がこの場にいたら、間違いなくこの車は捕まっていたであろう。
運良く警察に捕まらずに、茜は目的の建物へ到着した。車が、その建物の前に停まると、茜は車から颯爽と降りた。このビルは、ある出版社の本部で、茜が契約する予定の雑誌の編集部は5階にあるらしい。
茜は、入り口の少し手前の壁に貼り付けられた出版社の名前を確認すると、そのビルの中へ入った。ロビーを少し歩いた先にある受け付けを見据えながら、茜は歩いた。
受付に座っている女性は、歩いて近づいてくる茜にふと気づくと、書類などを整理していたであろう手を止め、真っ直ぐ前を向きなおした。
「私、佐伯茜。編集部との打ち合わせできたんだけど」
茜は、愛想笑い一つせずに自分の名前と用件だけを短く伝えた。受付のその女は、その言葉を聞くと、
「佐伯様ですね。お待ちしておりました。今、ご案内いたします」
と言って、今座っていた椅子から立ち上がり、すぐ横にあるエレベーターのボタンを押した。しばらくしてドアが開くと、その女はエレベーターのドアが閉まらないよう手で押さえながら入り、茜が乗ったのを確認すると、閉のボタンと、5階のボタンに触れた。
5階に到着し、エレベーターのドアが開くと、そのフロアは全てオフィスになっており、そこには、別の1人の女性が立っていた。
「おはようございます。佐伯様。私、雑誌STYLEの編集長を務めさせていただいております、中村瑠璃子と申します」
そして、よろしくお願いします、と言うように、茜に名刺を渡した。瑠璃子と名乗ったその女は、極力腰を低くして茜に接している。佐伯茜という人物が大企業の社長である上に、いかにも不機嫌そうな態度をしていることが瑠璃子をそうさせているのであろう。
「それではこちらでお話させていただいてもよろしいでしょうか」
そう言うと、少し離れた場所にあるソファとテーブルへ茜を誘導した。
茜と瑠璃子はそこへ腰を下ろすと、話を始めた。もっとも、打ち合わせを始める予定の時間よりも10分遅れているのだが。
「まあ、この特集を組むのなら、使うブランドを変えたほうがいいわね。seasonsよりも、CHIP's_か-Misora-を使ったほうがいいと思うわ」
仕事をしている時の茜は真剣だ。すべてのことに一切の妥協を許さない。世間の働く女性は、そんな茜に憧れるのであろうか。瑠璃子もまた、茜の話を熱心に聞いている。
「ああ、でもseasonsはもうすぐ新デザインを発表するんだったわ」
ふと思い出したように茜が瑠璃子に言う。
「そうなんですか」
瑠璃子がそう尋ねる。
「ええ、そうよ。今までのseasonsとは違ったタイプのね」
茜は得意げにそう言った。
「良かったら、その新デザインも見せましょうか?その服が特集に使えるかもしれないし。新しいものを雑誌に使ってもらえれば、宣伝にもなるしね」
と茜が言った。
「それは、ぜひお願いします」
瑠璃子はすぐにそう返事をした。その言葉を聞くと、茜は、自分のカバンから小さめのサイズのファイルを取り出した。ファイルのサイズは小さいが、ぎっしりと書類が詰まったそれは、至極重そうだ。
茜はその中から数十枚のデザイン画を取り出し、机に広げた。
「このワンピースなんかは使えるんじゃないかしら」
あとこれも、と言って数枚の紙を瑠璃子の前に置く。それを見た瑠璃子は、一気に表情が明るくなったのが目に見えてわかった。
「これ、イメージにぴったりですね!あと、これも。よかったらこれ全部使わせていただいてもよろしいですか」
瑠璃子がそういうと、
「もちろんよ」
と茜が言った。
「ただ、まだデザインの段階であって、いつ発売されるかはわからないの。サンプルができたら、ここに連絡するわ」
そう言いながら、今机の上に出されているデザイン画を丁寧に全てファイルに戻し、その分厚いファイルを、カバンにしまった。
「はい、ありがとうございます」
瑠璃子がそう言うと、茜は立ち上がり、
「じゃあ、この服のサンプルできてからもう一度打ち合わせをしましょう。今日はこれで失礼するわ」
と言った。
予定通りの時間ぴったりに打ち合わせを切り上げ、茜は帰ろうと、エレベーターに向かう。玄関まで見送りをしようと、瑠璃子は茜についていこうと走り出すが、エレベーターのボタンを押した茜はそれを制した。
「見送りなんて結構よ。そんな大した客じゃないのだから」
と言って、たった今ドアが開いたエレベーターに乗り込んだ。瑠璃子は戸惑っていたが、ドアが閉まる直前に、茜に向かって一礼した。
エレベーターを降り、受付の横を通り過ぎると、ロビーを抜けて、ビルの外へ出た。そこには、数十分前と何も変わらず、茜が乗ってきた車が停まっていた。
車に茜が乗り込むと、やはり運転手はすぐに車を発車させた。
ここへ来るときよりも少し遅めのスピードで、チップズ本社のビルへ帰って行った。
派手な外見の外車は、停められているだけでも目をみはるほどだが、茜が乗るこの車は、自身が出すスピードの速さによって目立っているようだ。通行人が二度見するのもおかしくはない。もし、警察がこの場にいたら、間違いなくこの車は捕まっていたであろう。
運良く警察に捕まらずに、茜は目的の建物へ到着した。車が、その建物の前に停まると、茜は車から颯爽と降りた。このビルは、ある出版社の本部で、茜が契約する予定の雑誌の編集部は5階にあるらしい。
茜は、入り口の少し手前の壁に貼り付けられた出版社の名前を確認すると、そのビルの中へ入った。ロビーを少し歩いた先にある受け付けを見据えながら、茜は歩いた。
受付に座っている女性は、歩いて近づいてくる茜にふと気づくと、書類などを整理していたであろう手を止め、真っ直ぐ前を向きなおした。
「私、佐伯茜。編集部との打ち合わせできたんだけど」
茜は、愛想笑い一つせずに自分の名前と用件だけを短く伝えた。受付のその女は、その言葉を聞くと、
「佐伯様ですね。お待ちしておりました。今、ご案内いたします」
と言って、今座っていた椅子から立ち上がり、すぐ横にあるエレベーターのボタンを押した。しばらくしてドアが開くと、その女はエレベーターのドアが閉まらないよう手で押さえながら入り、茜が乗ったのを確認すると、閉のボタンと、5階のボタンに触れた。
5階に到着し、エレベーターのドアが開くと、そのフロアは全てオフィスになっており、そこには、別の1人の女性が立っていた。
「おはようございます。佐伯様。私、雑誌STYLEの編集長を務めさせていただいております、中村瑠璃子と申します」
そして、よろしくお願いします、と言うように、茜に名刺を渡した。瑠璃子と名乗ったその女は、極力腰を低くして茜に接している。佐伯茜という人物が大企業の社長である上に、いかにも不機嫌そうな態度をしていることが瑠璃子をそうさせているのであろう。
「それではこちらでお話させていただいてもよろしいでしょうか」
そう言うと、少し離れた場所にあるソファとテーブルへ茜を誘導した。
茜と瑠璃子はそこへ腰を下ろすと、話を始めた。もっとも、打ち合わせを始める予定の時間よりも10分遅れているのだが。
「まあ、この特集を組むのなら、使うブランドを変えたほうがいいわね。seasonsよりも、CHIP's_か-Misora-を使ったほうがいいと思うわ」
仕事をしている時の茜は真剣だ。すべてのことに一切の妥協を許さない。世間の働く女性は、そんな茜に憧れるのであろうか。瑠璃子もまた、茜の話を熱心に聞いている。
「ああ、でもseasonsはもうすぐ新デザインを発表するんだったわ」
ふと思い出したように茜が瑠璃子に言う。
「そうなんですか」
瑠璃子がそう尋ねる。
「ええ、そうよ。今までのseasonsとは違ったタイプのね」
茜は得意げにそう言った。
「良かったら、その新デザインも見せましょうか?その服が特集に使えるかもしれないし。新しいものを雑誌に使ってもらえれば、宣伝にもなるしね」
と茜が言った。
「それは、ぜひお願いします」
瑠璃子はすぐにそう返事をした。その言葉を聞くと、茜は、自分のカバンから小さめのサイズのファイルを取り出した。ファイルのサイズは小さいが、ぎっしりと書類が詰まったそれは、至極重そうだ。
茜はその中から数十枚のデザイン画を取り出し、机に広げた。
「このワンピースなんかは使えるんじゃないかしら」
あとこれも、と言って数枚の紙を瑠璃子の前に置く。それを見た瑠璃子は、一気に表情が明るくなったのが目に見えてわかった。
「これ、イメージにぴったりですね!あと、これも。よかったらこれ全部使わせていただいてもよろしいですか」
瑠璃子がそういうと、
「もちろんよ」
と茜が言った。
「ただ、まだデザインの段階であって、いつ発売されるかはわからないの。サンプルができたら、ここに連絡するわ」
そう言いながら、今机の上に出されているデザイン画を丁寧に全てファイルに戻し、その分厚いファイルを、カバンにしまった。
「はい、ありがとうございます」
瑠璃子がそう言うと、茜は立ち上がり、
「じゃあ、この服のサンプルできてからもう一度打ち合わせをしましょう。今日はこれで失礼するわ」
と言った。
予定通りの時間ぴったりに打ち合わせを切り上げ、茜は帰ろうと、エレベーターに向かう。玄関まで見送りをしようと、瑠璃子は茜についていこうと走り出すが、エレベーターのボタンを押した茜はそれを制した。
「見送りなんて結構よ。そんな大した客じゃないのだから」
と言って、たった今ドアが開いたエレベーターに乗り込んだ。瑠璃子は戸惑っていたが、ドアが閉まる直前に、茜に向かって一礼した。
エレベーターを降り、受付の横を通り過ぎると、ロビーを抜けて、ビルの外へ出た。そこには、数十分前と何も変わらず、茜が乗ってきた車が停まっていた。
車に茜が乗り込むと、やはり運転手はすぐに車を発車させた。
ここへ来るときよりも少し遅めのスピードで、チップズ本社のビルへ帰って行った。
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