上 下
4 / 10

4

しおりを挟む
「ただいま! アズサ、調子はどう?」
「おかえり! 今日はタケヤの好きなクリームシチューを作ったよ。上手く出来たと思うんだけど……一緒に食べよ?」
「こらっ! また無理して……。でも、ありがとう。嬉しいよ! ご飯の準備してくるね!」

 タケヤが帰ってきた!
 ……早速叱られてしまったけれど。

 動画の中とは違う、私だけに向けられる笑顔。太陽のように眩しくて、満月のように美しい。何よりも愛おしく、自分の命よりも大切な宝物だ。

 杖をついてベッドから立ち上がり、ワンテンポ遅れて動くチグハグな体でリビングへと向かう。転ばないように、慎重に。

「温めるのにもうしばらく時間がかかるし、日課を終わらせちゃったら?」
「……うん。そうしようかな」

 私にとって辛い時間の1つ。ストレッチとマッサージだ。朝と夜に2回行う。
 すじは硬く縮こまり、筋肉は麻痺で言うことを聞かない。足を開いて前屈しながら、太腿から順に揉みほぐしていく。

「くっ……。ぐうっ……」

 まともな体だった頃には感じなかった耐え難い痛みに襲われる。焼けるような、電流が走るような、無数の針で刺されているかのような。
 でも、これをやらなければ体の可動域が狭まり、そのうち動く事すら難しくなってしまう。

 私が今の私を保つ為には欠かせない。これ以上、タケヤに迷惑をかけないように。

「ねえ、アズサ?」
「ん? どうしたの?」
「今日さ、一緒にお風呂入ろうよ」
「……いいけど」

 彼はたまに意地悪をする。
 そんなところもたまらなく好き。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

箸で掴める程良い戯曲

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

エガオが笑う時〜最強部隊をクビになった女戦士は恋をする〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:228pt お気に入り:6

ブラック企業勤めの俺、全部が嫌になり山奥のシェアハウスに行く

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

スーザン·ジョングレア

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...