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再会
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「あたし! あ、あたしは……ディーは初めて出来た友達だし、その……あたしも好きだけど……でも、まだ結婚とかは違うと思う。それに、あたしはダディより強い人がいいなって」
「ふむ、そんな簡単な事でよいのか。勇者よ、お手並み拝見だのう?」
ディーが右の口角を歪め、邪悪な笑みを浮かべる。
小さな体から漆黒のオーラが解き放たれた。
それは渦を巻き、龍がうねるかのように立ち昇っていく。
膨大な闇が衝撃波を発生させ、大地が砕け散る。
ナタリアは咄嗟に後ろに飛んで回避したようだが、俺はそうはいかない。
竜巻に巻き込まれたかのように吹き飛ばされ、錐揉み状に捻れた全身の骨がメキメキと音を立てて折れていくのが分かった。
空に投げ出された俺は、痛みと共に目の前が暗くなっていくのを感じた。
終わった……。
そう思った時、後頭部に感じたポヨンと柔らかな感触が意識を繋ぎ止めた。
誰かに抱き留められたようだが、どうやら俺は死ぬ寸前らしい。
目を開けることすら出来ない。
抱き上げられたまま地上に着地すると、口に何かが入ってくる。
カレーのようなスパイシーな香りだ。
その臭いで脳が覚醒した。
何かを思い出したかのように喉が動き、その液体を飲み込もうとする。
あまりの不味さに体が拒否反応を起こし、吐き出したくなるが、そんな力すら残されていなかった。
ただゆっくりと、俺の体に染み込んでいくのが分かった。
なんだか体の調子が良くなった気がして目を開けると、涙を浮かべて俺の顔を覗き込むアルがいた。
俺はアルに助けられたらしい。
「私もナタリアちゃんのお友達が気になっちゃいましたっ。ナタリアちゃんを探してたら、パパが飛んで来てびっくりしたんですよっ! えへへっ」
「ありゅ……」
※アル……
胸が締め付けられるような気持ちになり、俺はアルを抱きしめた。
アルの柔らかさが、体温が、生きている事を実感させてくれた。
すぐにナタリアが心配になり、公園へと走り出す。
ハイポーションとは凄いもので、先程まで死にかけていた体が完全に回復しているようだ。
俺が手を引いているせいで、アルも後ろから追いかけてくる。
公園に戻ると、ディーが正座させられていた。
ナタリアに怒られているらしい。
アルが足を止めたようで、繋いでいた右手が引っ張られた。
振り返ると、アルが驚愕の表情を浮かべていた。
「なっ……! ま、魔王……ディアブラ・サイクスっ!」
「おうアルテグラジーナ、久しいではないか! 貴様が結婚したと聞いたものでな。様子を見に来てやったのだ」
……え?
魔王と呼ばれた銀髪の少年が、アルに向けて右手を振っている。
「ちょっとディー! まだあたしが話してる途中でしょ! だいたいね、ダディが子供相手に本気になるはず無いじゃないの! それなのに攻撃するなんて、あなたは卑怯者だわ! そもそも、結婚なんて子供がするような話じゃないのよ!」
「では、余とナタリアが大人になればよいのだな? その時、正式に勇者と戦おうではないか。余が勝てば、ナタリアは……け、結婚するのだぞ!」
……ちょっと?
ダメだ、頭がパンクしそうだ。
このディーという少年が魔王だったという事だけは理解出来た。
ナタリアがプリプリと怒っているのもなんとなく分かる。
だが、話の内容が全く入ってこない。
「いいわよ! じゃあ、それまでディーは誰も傷つけたらダメなのよ! あたし、弱い者イジメする人って好きじゃないわ!」
「よかろう。では、魔王ディアブラ・サイクスの名を持って契約する。余は、勇者と戦うその日まで、弱い者イジメをしないと誓う。この契約が破られた時、余は死ぬとしようか! 命をもって、ナタリアへの愛を証明しよう!」
魔王が誓を立てると、空が割れた。
その隙間から這い出た骨のような両手が空を掴む。
空間が左右に引き裂かれると、闇より闇い冥府の入り口から巨大な死神が現れた。
死神はゆっくりと歩み寄り、魔王ディアブラ・サイクスの胸に杭の先をあてる。
魔王が両手を広げて目を伏せると、不快な笑い声を上げた死神が杭を打ち込んだ。
金属音とは違う、胸が張り裂けるような甲高い音が鳴り響く。
魔王は、顔を顰めて片膝をついた。
その額には大粒の汗が滲んでいる。
その様子を堪能した死神は、ゆっくりと闇の中に消えていった。
「あ、ありえないっ! 魔王が契約に自らの命を差し出すなんてっ!」
アルが信じられない物を見たような顔をしている。
ここに居るみんなには申し訳無いが、色々ありすぎて俺の脳の許容量を超えてしまっている。
全然理解が追いついていない。
早く部屋に戻って一度寝たい。
起きてからゆっくり整理したい。
「ちょっちょ、いっきゃいりぇいしぇいににゃりょう? ちゃんちょきゃんぎゃえにゃいちょ。おりぇはきゃえりゅ」
※ちょっと、一回冷静になろう? ちゃんと考えないと。俺は帰る
「そうですねっ! 私も色々と驚いちゃって、頭が回ってない気がしますっ。ナタリアちゃんは遅くならないように帰って来てねっ?」
一緒に帰ろうとアルの手を握ると、小さく震えていた。
理解が及ばない物を見たからなのか、魔王という存在が恐ろしかったのかは分からない。
しかし、不安を感じているのは事実だ。
俺は、握る手に少し力を入れ、アルに微笑みかけた。
意図に気付いてくれたのか、アルがへにゃりと笑った。
「ふむ、余の決意は示した。今日は帰るとしようか! ナタリア、明日は何して遊ぶかを考えておくがいい!」
「ちょっとディー! 今日の串焼きは特別らしいわよ?」
「何? では、それを食べてから帰るとしよう!」
小さな二人は仲が良さそうだ。
命を賭けて愛を誓った魔王がナタリアに何かするとは思えない。
俺は、アルの手を引いて城へと戻った。
途中で串焼きを買って。
「ふむ、そんな簡単な事でよいのか。勇者よ、お手並み拝見だのう?」
ディーが右の口角を歪め、邪悪な笑みを浮かべる。
小さな体から漆黒のオーラが解き放たれた。
それは渦を巻き、龍がうねるかのように立ち昇っていく。
膨大な闇が衝撃波を発生させ、大地が砕け散る。
ナタリアは咄嗟に後ろに飛んで回避したようだが、俺はそうはいかない。
竜巻に巻き込まれたかのように吹き飛ばされ、錐揉み状に捻れた全身の骨がメキメキと音を立てて折れていくのが分かった。
空に投げ出された俺は、痛みと共に目の前が暗くなっていくのを感じた。
終わった……。
そう思った時、後頭部に感じたポヨンと柔らかな感触が意識を繋ぎ止めた。
誰かに抱き留められたようだが、どうやら俺は死ぬ寸前らしい。
目を開けることすら出来ない。
抱き上げられたまま地上に着地すると、口に何かが入ってくる。
カレーのようなスパイシーな香りだ。
その臭いで脳が覚醒した。
何かを思い出したかのように喉が動き、その液体を飲み込もうとする。
あまりの不味さに体が拒否反応を起こし、吐き出したくなるが、そんな力すら残されていなかった。
ただゆっくりと、俺の体に染み込んでいくのが分かった。
なんだか体の調子が良くなった気がして目を開けると、涙を浮かべて俺の顔を覗き込むアルがいた。
俺はアルに助けられたらしい。
「私もナタリアちゃんのお友達が気になっちゃいましたっ。ナタリアちゃんを探してたら、パパが飛んで来てびっくりしたんですよっ! えへへっ」
「ありゅ……」
※アル……
胸が締め付けられるような気持ちになり、俺はアルを抱きしめた。
アルの柔らかさが、体温が、生きている事を実感させてくれた。
すぐにナタリアが心配になり、公園へと走り出す。
ハイポーションとは凄いもので、先程まで死にかけていた体が完全に回復しているようだ。
俺が手を引いているせいで、アルも後ろから追いかけてくる。
公園に戻ると、ディーが正座させられていた。
ナタリアに怒られているらしい。
アルが足を止めたようで、繋いでいた右手が引っ張られた。
振り返ると、アルが驚愕の表情を浮かべていた。
「なっ……! ま、魔王……ディアブラ・サイクスっ!」
「おうアルテグラジーナ、久しいではないか! 貴様が結婚したと聞いたものでな。様子を見に来てやったのだ」
……え?
魔王と呼ばれた銀髪の少年が、アルに向けて右手を振っている。
「ちょっとディー! まだあたしが話してる途中でしょ! だいたいね、ダディが子供相手に本気になるはず無いじゃないの! それなのに攻撃するなんて、あなたは卑怯者だわ! そもそも、結婚なんて子供がするような話じゃないのよ!」
「では、余とナタリアが大人になればよいのだな? その時、正式に勇者と戦おうではないか。余が勝てば、ナタリアは……け、結婚するのだぞ!」
……ちょっと?
ダメだ、頭がパンクしそうだ。
このディーという少年が魔王だったという事だけは理解出来た。
ナタリアがプリプリと怒っているのもなんとなく分かる。
だが、話の内容が全く入ってこない。
「いいわよ! じゃあ、それまでディーは誰も傷つけたらダメなのよ! あたし、弱い者イジメする人って好きじゃないわ!」
「よかろう。では、魔王ディアブラ・サイクスの名を持って契約する。余は、勇者と戦うその日まで、弱い者イジメをしないと誓う。この契約が破られた時、余は死ぬとしようか! 命をもって、ナタリアへの愛を証明しよう!」
魔王が誓を立てると、空が割れた。
その隙間から這い出た骨のような両手が空を掴む。
空間が左右に引き裂かれると、闇より闇い冥府の入り口から巨大な死神が現れた。
死神はゆっくりと歩み寄り、魔王ディアブラ・サイクスの胸に杭の先をあてる。
魔王が両手を広げて目を伏せると、不快な笑い声を上げた死神が杭を打ち込んだ。
金属音とは違う、胸が張り裂けるような甲高い音が鳴り響く。
魔王は、顔を顰めて片膝をついた。
その額には大粒の汗が滲んでいる。
その様子を堪能した死神は、ゆっくりと闇の中に消えていった。
「あ、ありえないっ! 魔王が契約に自らの命を差し出すなんてっ!」
アルが信じられない物を見たような顔をしている。
ここに居るみんなには申し訳無いが、色々ありすぎて俺の脳の許容量を超えてしまっている。
全然理解が追いついていない。
早く部屋に戻って一度寝たい。
起きてからゆっくり整理したい。
「ちょっちょ、いっきゃいりぇいしぇいににゃりょう? ちゃんちょきゃんぎゃえにゃいちょ。おりぇはきゃえりゅ」
※ちょっと、一回冷静になろう? ちゃんと考えないと。俺は帰る
「そうですねっ! 私も色々と驚いちゃって、頭が回ってない気がしますっ。ナタリアちゃんは遅くならないように帰って来てねっ?」
一緒に帰ろうとアルの手を握ると、小さく震えていた。
理解が及ばない物を見たからなのか、魔王という存在が恐ろしかったのかは分からない。
しかし、不安を感じているのは事実だ。
俺は、握る手に少し力を入れ、アルに微笑みかけた。
意図に気付いてくれたのか、アルがへにゃりと笑った。
「ふむ、余の決意は示した。今日は帰るとしようか! ナタリア、明日は何して遊ぶかを考えておくがいい!」
「ちょっとディー! 今日の串焼きは特別らしいわよ?」
「何? では、それを食べてから帰るとしよう!」
小さな二人は仲が良さそうだ。
命を賭けて愛を誓った魔王がナタリアに何かするとは思えない。
俺は、アルの手を引いて城へと戻った。
途中で串焼きを買って。
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