バケモノ貴公子は傷を負った令嬢を寵愛する

冬野 海

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4話 バケモノが奏でる剣の音色①

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4話 バケモノが奏でる剣の音色①


僕の顔はだいぶ回復したが、左目は垂れ下がったままで、頬はケロイド状でボコボコだった。

口元はかなり意識しないと閉じられなくなった。
時々顔面が痙攣を起こしたり、痛みがひどかったが、どんなに高価な薬も「魔女の毒薬」には無力だった。

その為一日のほとんどを仮面をつけて過ごした。

余計な雑念を追い払うように、鍛錬漬けの日々を送り第一騎士団長になった。

あの夜、襲撃してきた第一騎士団長、プレスト団長は総騎士団長になり、タキトスは第一騎士団の副団長として活躍している。

騎士団ではあまり悪意の目を感じなかったが、社交界では「バケモノ大公子息」と呼ばれるようになった。

新年の儀が無事に終わり、いつもの日常に戻った。
今日は朝から第一騎士団全体での鍛錬だ。
若手騎士達の休憩時間に僕はある場所へ一人で向かう。

その行き先はタキトスしか知らない。
ここは昔、ある大量処刑が行われた場所だから、忌み嫌って誰も近づかない。

仮面を外すと視界が広がり、冷たい空気が頬に当たり刺すような痛みがあるが、解放感でそれも心地良い。

夢中になって架空の騎士と剣を交えていると、

カサ…ガサ…

なんだ?うさぎでもいるのか?
音のする方へ振り向くと一人の令嬢が木陰からチラっと僕の方を見ている。

——こんな場所になぜ令嬢が?

「騎士さまの剣の音色がとても素敵で、誘われて来てしまいました」

全く理解できなかったが、令嬢は逃げるどころか距離を縮めてきた。
つられて僕も一歩近づいてしまった。

ラピスラズリを思わせる大きな瞳は、仮面を外した僕を映しているのに、その表情は穏やかなままだ。

右に寄せて結えたナチュラルブラウンのウェーブヘアが、まるで子リスのしっぽのようだ。

冷たい空気も、頬の痛みも、周囲のざわめきも感じない。

——まるで時が止まったようだ。

しまった…仮面を付ける機会を完全に失った。

「申し訳ございません。私が騎士さまの鍛錬をお邪魔したせいですね。
…でも、もう覚悟はできております。
最期に騎士さまの剣が奏でる音色を耳に残せるのなら…」

令嬢はその場で静かに膝をつき、目を瞑り胸の前で両手を組んだ。

あぁー、そうか、剣先が令嬢に向いているから?

しかし、そこまで覚悟しなくてもいいと思うが…

「ちょっと待ってくれ。君を傷つけるつもりはないから、落ち着いてくれ!」

落ち着いてくれと言っている僕が一番慌てている。
仮面をつけるつもりが、手が震えてうまくつけられない。

僕の顔を見て驚かないことに驚き、動揺を隠し切れない。
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