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5話 バケモノが奏でる剣の音色②
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5話 バケモノが奏でる剣の音色②
令嬢を近くのベンチへと案内した。ずっと放置された古いベンチは令嬢が座るにはふさわしくないベンチだが、シンプルなライトブルーのドレスが汚れるのもお構いなしにストンと腰掛けた。
しまった。僕のマント敷くべきだった…
「まぁ。下弦の月の仮面も素敵ですね」
令嬢の表情に変わりはなく、まるで悪意はない。
この仮面は大公家の職人が作ってくれたものだ。
苦しみが減っていきますようにと。
僕といるところを誰かにでも見られたら、すぐに悪い噂が広がるだろう。
でも僕の素顔を見ても驚かない令嬢と、もう少し一緒にいたかった。
「君は、私のこと、怖くないのか?」
声が震えて上手く話せない。なぜ平気で僕を見ていられるのだろう。
不思議でたまらなかった。自分でも未だに見慣れない顔なのに。
心臓の早鐘が全身にまで響き渡る。
「実は本当のことを申しますと、少し怖かったんです。剣を向けられたのは初めてだったので」
いや…怖いのは剣よりこの顔だと思うが…
「でも騎士さまのあの美しく繊細な音色を、耳元で聴くことができたら幸せなことです」
「耳元で剣を振ったら危ないだろ!」
しまった!思わず大声を出してしまった。
怖がらせてしまっただろうか…
「…大きな声を出してすまない」
どうにも調子が狂う。
「騎士さまの剣が奏でるその音色は、女神の涙をそっと拭いて差し上げるような繊細なメロディに感じました。
ずっとその音色に浸っていたくて、コソッと見学させて頂き…いや、あの、覗き見をするつもりではなかったのですが…その、鍛錬中をお邪魔してはいけないと思いまして、コソッと、その、覗き見するつもりは…」
一つだけ分かったことがある。
この令嬢は”覗き見“と思われたくないということだ。
剣筋を褒められることは多々あったが、女神はないな。
んん⁈僕が女神の涙を拭くのか?
「いや…そうではなくて君は、僕の顔が怖くないのか?」
キョトンとした表情をしている。やはり子リスのようだ。
「うーん、ずっと仮面をつけていらっしゃるせいか傷痕が汗でかぶれているようですね。
清潔に保ちお薬を塗るしかございませんが、スーッとする軽めの保湿薬が良いかもしれませんね」
令嬢は一体何者だろうか。
あっけに取られた僕に気づいたのか、
「あっ!申し遅れました!私下級薬術師のミスティア・…ああーーー!!」
今度は何なんだ。どうしたんだ!
「大変!どうしましょ。来月から始まる研修のご挨拶にお伺いにきましたのに、他の方とはぐれてここに来てしまいました。大変!先生に叱られてしまうわ!どうしましょう?」
えっ⁈僕もどうすれば良いんだ…
「…それは早く戻った方が良いんじゃないかな?」
他に良い答え方があるのだろうか。
「そうですわね。大変失礼しました。お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」
そう言ってペコリとお辞儀をして僕がきた道の方へと去っていった。
お見苦しいものを見せたのは僕なのに。
すれ違いにタキトスがやってきた。
どうやら僕が戻ってこないので呼びにきたらしい。
「さっきの娘はなんだ?」
こんなところ誰も来ないから気になだろう。
「うーん…迷子の子リス?」
盟友とはいえ、なんとなくあの娘のことは内緒にしておきたかった。
「子リス?なんだそれ」
気にするでもなく、「休憩後の鍛錬はいつも通りでいくか」と一人で話している。
僕は「ミスティア・ああーー」が可笑しくて、かわいらしく、仮面を付け直すフリして緩んだ顔を隠した。
“ミスティア”という名前は、女性では珍しくないが、一つ心当たりがあった。
それに下級薬術師ということは——
「タキトス。次の団長会議は僕も出るよ」
これは負けられない戦い=会議になる。
令嬢を近くのベンチへと案内した。ずっと放置された古いベンチは令嬢が座るにはふさわしくないベンチだが、シンプルなライトブルーのドレスが汚れるのもお構いなしにストンと腰掛けた。
しまった。僕のマント敷くべきだった…
「まぁ。下弦の月の仮面も素敵ですね」
令嬢の表情に変わりはなく、まるで悪意はない。
この仮面は大公家の職人が作ってくれたものだ。
苦しみが減っていきますようにと。
僕といるところを誰かにでも見られたら、すぐに悪い噂が広がるだろう。
でも僕の素顔を見ても驚かない令嬢と、もう少し一緒にいたかった。
「君は、私のこと、怖くないのか?」
声が震えて上手く話せない。なぜ平気で僕を見ていられるのだろう。
不思議でたまらなかった。自分でも未だに見慣れない顔なのに。
心臓の早鐘が全身にまで響き渡る。
「実は本当のことを申しますと、少し怖かったんです。剣を向けられたのは初めてだったので」
いや…怖いのは剣よりこの顔だと思うが…
「でも騎士さまのあの美しく繊細な音色を、耳元で聴くことができたら幸せなことです」
「耳元で剣を振ったら危ないだろ!」
しまった!思わず大声を出してしまった。
怖がらせてしまっただろうか…
「…大きな声を出してすまない」
どうにも調子が狂う。
「騎士さまの剣が奏でるその音色は、女神の涙をそっと拭いて差し上げるような繊細なメロディに感じました。
ずっとその音色に浸っていたくて、コソッと見学させて頂き…いや、あの、覗き見をするつもりではなかったのですが…その、鍛錬中をお邪魔してはいけないと思いまして、コソッと、その、覗き見するつもりは…」
一つだけ分かったことがある。
この令嬢は”覗き見“と思われたくないということだ。
剣筋を褒められることは多々あったが、女神はないな。
んん⁈僕が女神の涙を拭くのか?
「いや…そうではなくて君は、僕の顔が怖くないのか?」
キョトンとした表情をしている。やはり子リスのようだ。
「うーん、ずっと仮面をつけていらっしゃるせいか傷痕が汗でかぶれているようですね。
清潔に保ちお薬を塗るしかございませんが、スーッとする軽めの保湿薬が良いかもしれませんね」
令嬢は一体何者だろうか。
あっけに取られた僕に気づいたのか、
「あっ!申し遅れました!私下級薬術師のミスティア・…ああーーー!!」
今度は何なんだ。どうしたんだ!
「大変!どうしましょ。来月から始まる研修のご挨拶にお伺いにきましたのに、他の方とはぐれてここに来てしまいました。大変!先生に叱られてしまうわ!どうしましょう?」
えっ⁈僕もどうすれば良いんだ…
「…それは早く戻った方が良いんじゃないかな?」
他に良い答え方があるのだろうか。
「そうですわね。大変失礼しました。お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」
そう言ってペコリとお辞儀をして僕がきた道の方へと去っていった。
お見苦しいものを見せたのは僕なのに。
すれ違いにタキトスがやってきた。
どうやら僕が戻ってこないので呼びにきたらしい。
「さっきの娘はなんだ?」
こんなところ誰も来ないから気になだろう。
「うーん…迷子の子リス?」
盟友とはいえ、なんとなくあの娘のことは内緒にしておきたかった。
「子リス?なんだそれ」
気にするでもなく、「休憩後の鍛錬はいつも通りでいくか」と一人で話している。
僕は「ミスティア・ああーー」が可笑しくて、かわいらしく、仮面を付け直すフリして緩んだ顔を隠した。
“ミスティア”という名前は、女性では珍しくないが、一つ心当たりがあった。
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