バケモノ貴公子は傷を負った令嬢を寵愛する

冬野 海

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10話 総騎士団長の困惑

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10話 総騎士団長の困惑


プレスト・フルーレ総騎士団長視点


様子のおかしさに気づいたのは3日前だった。
各騎士団同士の空気が重い。
この空気感は敵と対峙した時のものではない。

そして今朝になってそのおかしさが顕著に現れた。
普段俺に会うとビクビクしながら挨拶してくる若手騎士たちが、しっかりこちらを見据えて滑舌はっきり挨拶をする。

各騎士団長の日頃の教育の賜物か?

…いや。これは違う。

第二騎士団では怒号が飛び交っている。
立場もある手前、深く関わりすぎないことを心得ているが、今回は声をかけてみた。

しかし「どうぞ、お構いなく」と丁重に追い出されてしまい呆れてしまった。

第三騎士団は「いくら総騎士団長でも手の内は見せられない」と思ってもいない返答に困惑した。

第四騎士団に至っては「第四騎士団員以外立ち入り禁止」との立札に、俺は無の境地に至った。

一体何なんだ……?

嫌な予感というものは当たるものだ。
今は他国との軍事的緊張感がないが、いつ何が起こるか分からない。
総騎士団長である俺が知らないところで何かあるのか…

第一騎士団に確認に行くといつもと変わりはない様子だった。
中堅騎士に変わったことがないか声をかけてみるが、「異常ありません。いつでも出動可能です」と返答があった。

僅かに声が上擦っているか…?

タキトスとリソルートはまだ鍛錬から戻らないらしい。
さすが第一騎士団だ。
あの2人がしっかりと第一騎士団をまとめている。

今回の嫌な予感は外れたか…

だが、他の騎士団に関してはまだ注視すべきだな。
違和感の正体を拭えずいつも団長会議が行われる部屋へ向かう。

扉を開けると、ざっと百名ほどの騎士たちが、山のようにそびえ立っていた。

「⁈ おっと。すまない。部屋を間違えた」

扉を閉めて部屋を確認するが間違えていない。

再度、扉をそっと開けると
「お待ちしておりましたぜ。総騎士団長殿」
第三騎士団長の低い声が俺の腹に響く。
なぜこんなにみんな殺気だっているんだ?

団長の背後に団員たちが構えている。

団長会議とはいえ毎回、必ず各団長が出席するわけではない。
副団長までは出席を許すとしよう。なぜこんなに若手の騎士がいるんだ?

そしてリソルートはなぜ、そんなに他者を威圧するんだ?
おいおい!俺にまで威圧を向けるな‼︎

「おい!関係ない者は出ていけ!」

各団員たちが顔を見合わせてコソコソと話し
「吉報を待っています」などと言い、団長たちは「後は俺に任せろ」など言っている。
団長職を任せられているのに、今更何言ってんだ。

リソルートに至っては、出て行く騎士たちにまだ威圧を送っている。
おい!タキトス。止めろよ。

ようやく出ていった。

ふん。今日は何か起こる。間違いない。

来期の予算分配、各団の報告、伝達事項、王女殿下の護衛ローテーションなどいつも以上にスムーズに進む。

まぁ、こんな日もあるのか。

「では最後の伝達事項ですが」と衛生部隊長が議題を示した瞬間、

「うぉらきたーーー!」
「よっしゃーーー!」
「いよいよですね」

団長たちが勇み立つ。

思わぬ怒号にさらに困惑した。
そんな中、第一騎士団長であるリソルートだけは、微動だにせず腕を組んで前を見ている。

仮面で顔の半分は隠れているが、威圧を超え、冷気が漂うようだった。
野郎ばかりで暑っ苦しいはずが、寒気がしてくる。

衛生部隊が示した議題。
それは上級薬術師養成校の研修生の案内だった。

あー、失念していた…
思わず頭を抱える。

我が国の医術進歩、薬術技術は他国に遅れをとっている。
医術師、薬術師の養成には力を入れているが、予算を十分に組めておらず医術師、薬術師はとても貴重な存在なのだ。

騎士団でも慢性的な人材不足の為、研修生とはいえ資格のある下級薬術師は頼られる存在なのだ。

毎年この時期になると研修生は各騎士団に3~4人程配属される。

第一騎士団は職務内容が、他の騎士団とは異なるという理由で受け付けていないのだが、実際のところ騎士ではない研修生にとって、第一騎士団専属の上級薬術師ペサンテと、団長のリソルートは恐怖の対象でしかないのだ。

衛生部隊が差し出した今年の研修生名を一読する。

ある令嬢の名に目がとまる。

そうか、あの娘が…

我が国は女性にも学問の扉は開かれているが、薬術師になるには高度な学問知識が要求される為、平民では極めて困難であったし、貴族令嬢のほぼ全てが学園卒業後に結婚するため、研修生として来るのは非常に珍しいことである。

むさ苦しい騎士団に貴族令嬢がやって来るとは、多少の不純な下心があるのは理解できる。

だが騎士たちの下心のために研修に来るわけではない。
上級薬術師を目指すために来るのだ。

目の前の団長たちは、己の騎士団になぜ女性薬術師の研修生が必要なのか、団員たちの下心を必死に隠し、俺と衛生部隊に訴えるが、どれも説得力に欠ける。

リソルートは微動だにせず「何を言ってるか、雑魚どもが」という表情だ。

長い付き合いだ。
顔の半分を下弦の月で隠しても俺にはわかるんだ。

さて、渦中の貴族令嬢——

“ミスティア・レガート伯爵令嬢“

この名前を忘れてはならない。

ヴィヴァーチェ王女殿下の“イタズラ”による最初の被害者だから——
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