のんきな兎は今日も外に出る【完】

おはぎ

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のんきな兎は今日も外に出る

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「あれ?これ、忘れ物だ……!」

今日はロイだけが仕事の日で、僕は休み。だが、財布が机の上に置かれていて、忘れ物だと気付く。ロイも忘れることあるんだなぁとちょっと嬉しくなりながら、届けに行こうと思い立った。僕は、いそいそと部屋に戻って鞄を斜め掛けすると、ついでに買い物して帰ろうと、今ある食材を見に行く。

「えっと、芋と葉野菜、お肉と……。あ、冷やし飴だ!」

ロイが買っておいてくれていたのか、冷やし飴が入っており手に取る。口に入れると、すぐにトロリと溶けて冷たく甘い味が広がった。

「美味しい、後はロイと一緒に食べよう。」

残りは置いておいて、食後にロイとのんびりしながら食べようとわくわくする。ロイは、自分では甘い物は食べないが、僕が好きだからという理由でいつの間にか買って置いてくれていることが多いのだ。初めのうちは、僕が買ったものじゃないから、ロイのだと思ってチラチラ見ながら過ごしていたのだが、

「食わねぇのか?お前のだぞ。」

と何でもないように言われて、ぽかんとした後にロイに飛びついたものだ。それから、ちょこちょことあちらこちらの棚や保冷庫などにお菓子が入れられており、それらを見つけるのが楽しみの一つになっている。

ロイからは好きに何でも買えと言われるが、いざ買おうと思っても、何でもない日だし…。と結局買えない僕。そのため、ロイが買って来るようになって、減りが早いお菓子はいつの間にか追加されていることもある。

「そうだ、皆に差し入れを買って行こう!」

薬草も売ったばかりで少し懐が温かいため、そう考える。そして、何を買おうかなと外へと出た僕。

「うーん、どうしよう。みんな、何が好きかなぁ。」

「おーい、ウルル。何探してんだ?今日は新鮮な魚が入ってるぞ!」

「お、買い物か?団子はどうだい?」

それぞれのお店の誘惑で、僕はあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。うぅ、どれも美味しそう…。出店で美味しそうな串焼きを買って、食べながら歩く。喉が渇いて、ドリンクを飲みながら一休み。

さわさわと涼しい風を受けて、お腹いっぱいということもあり少し眠たくなってくる。ベンチに座りながら、温かい陽を浴びながらうつらうつらしていた。そして、いつの間にか眠っていた僕。

「おーい、ウルル。お前こんなとこで寝てんなよ~。隊長さんに怒られるぞ~!」

散歩していただろう街の人に揺り起こされて、飛び起きた。

「はっ!差し入れ買わなきゃ……!」

そして、ハッと思い出してわたわたと立ち上がると、お礼を言ってまた歩き回る。そして、再び悩む僕。結局、重たい物は運べないため、前に食べたことのあるフルーツサンドを買った。そして、騎士団のもとへ。

「あれ?ウルル君どうしたんすか?」

「お?何かやらかしたのか?」

行って早々に声を掛けられる。

「あのね、みんなに差し入れ持って来たよ。休憩で食べて。」

そう言って、フルーツサンドが入った袋を渡すと驚かれる。

「え、わざわざこのために来たんすか?あ、そういえば、今日食堂で団子を作ってるらしくて。多分まだ余ってると思いますよ。」

ソニーからそう言われ、僕は良い事を聞いた!とルンルンで食堂に向かう。食堂ではもうお昼ご飯を食べている人はほとんどいなくて、受付に行って話し掛けると、奥から職員が出て来た。

「あら、ウルルちゃん。今日出勤だったの?休み?あらあら、私たちにも差し入れだなんてまぁ、ありがとうねぇ。」

食堂の人たちにも、とフルーツサンドを渡すとすごく喜んでくれて、僕も嬉しくなって兎耳をパタパタ揺らす。

「みんなで食べてね。あのね、お団子いっぱいあるって言われたの。まだ余ってる?」

そう聞くと、甘い蜜を掛けたお団子を出してくれた。僕は、お礼を言って美味しい美味しいと食べた後、何故かお土産でお団子を貰ってしまった。そのため、団子を抱えて歩いていると、

「あれ、ウルル、どうしたの?」

コリンが不思議そうにそう言って近寄って来た。

「あ、コリン。さっき、ソニーに差し入れ渡したから、コリンも食べてね。」

そう言い、コリンと少し談笑。その後、騎士団長部屋へ。ノックするも、返事がない。あれれ、いないのかな。そう思っていると、どこからか声が聞こえてくる。訓練場だ、と耳をすませて歩くと、そこに僕の番がいた。丁度休憩になったらしく、座って水を飲んでいるのを発見。

「あ?ウルル?どうした、何かあったのか?」

「ううん、あのね、差し入れ持ってきたよ。あと、食堂でお団子貰ったの。」

僕に気付いたロイがそう言って近付いてきてそう聞かれたため、ふるふると首を振ってそう言った。

「差し入れをしに来たのか?」

少し驚いたようにそう言ったロイに、僕は、はて、と首を傾げる。何か忘れているような……。

「あ!そうだ、ロイ、お財布忘れてたよ!僕、届けに来たの。」

偉いでしょ、褒めて褒めて、とぴょんぴょんロイの周りを飛び跳ねていると、

「あー、そうか、ありがとな。で、財布はどこだ?」

そう言って苦笑しながら頭を撫でてくれる。僕はえへへとにこにこしながら、鞄の中からロイの財布を……。あれ?

「えっと……。あれ?ロイの財布、あれれ?……忘れちゃった。」

ロイの財布を見て、届けに行こうと思った時に買い物もしようと自分の鞄を取りに行ったらそのまま忘れて出て来てしまったことを思い出した。僕は兎耳をしょぼんと垂れさせる。

「届けに来たのに忘れたのか?何しに来たんだよ。」

ロイは可笑しそうに笑って僕の頭を引き寄せると額に唇を落とした。

「うぅ、届けに来たのに忘れちゃった……。せっかく来たのに……。」

「なくても大丈夫だ、差し入れありがとな。何買って来たんだ?昼は食ったのか?」

めそめそする僕を慰めながら聞くロイ。

「あのねお昼にね、美味しそうな串焼き買って食べたの。座ってたらちょっと寝ちゃって、起こしてもらって、それからもいっぱい歩いて……。」

「待て。寝た……?どこで?」

少し低くなったロイの声には気付かず、

「えっとね、噴水のあるところのベンチだったよ。あのね、そしたら甘いフルーツの匂いがしてね。」

「ベンチで?外で?寝ただと?」

「うん?フルーツサンドがね、美味しそうで買ってきたよ!」

初めてみんなのために買ってきた差し入れに、喜んでくれるかなと期待して興奮気味に話す僕に、

「この馬鹿うさぎ!外で寝るなって言っただろーが!」

「ぴゃあっ!」

ガァッと怒られ、僕は何を言われたか理解できず驚いて飛び跳ねる。

「何回目だこの馬鹿うさぎ!」

それから、さっきまでの嬉しい褒めての気持ちはどこへやら。その場で座らされて、ロイから怒られるはめになった僕。

「うぅ、ロイのために来たのに、差し入れも持って来たのに……。怒られるのやだ、もうお休みの日にお外出ない……。」

兎耳を垂らしてしくしく泣く僕に、

「いや、結局俺の財布忘れてんだろーが。」

呆れたようにそう言ってため息をついたロイがその場で蹲る僕の前にしゃがみ込んだ。

「ぐすっ、怒られた、怖い。力出ない……。もうここに住む……。」

めそめそしている僕がそう言うと、

「ったく、いい加減危機感を持て。心配してんだよ。」

ロイが僕の垂れている兎耳を掬ってうにうにと揉んでくる。

「うぅ、ごめんなさい……。抱っこして……。」

そんなロイに両手を伸ばすと苦笑して抱き上げてくれる。しがみついてぐすぐすと泣く僕に、騎士たちはいつもの光景だと言わんばかりに笑っていた。

「隊長、今日はもう帰ったらどうです?もう後は通常通りの訓練して終わりですし。ウルル、差し入れありがとな~。」

そう言った騎士に、

「あぁ、そうする。お前ら、後は任せた。」

ロイはそう言うと、僕を抱き上げたまま歩き始める。僕は、手を振ってくれる皆に、ロイの肩越しに鼻をすすりながら振り返した。家に着くと、降ろされてしまったため後ろから抱き着いて引っ付く僕。ロイはそんな僕に苦笑してしたいようにさせてくれる。

「あ、そうだ。お団子いっぱい貰ったの。」

食堂でたくさん残っていたお団子を貰ったことを思い出して、いそいそと離れて取り出す。お団子と一緒にお茶を入れて、一緒に食べながら話していると、するっと頬を撫でられ、そのまま振ってくる唇を受け入れる。頭を優しく撫でられ、とろんと気持ち良くなってくる僕に笑ったロイ。そんなロイにぺったりとくっつくと、その温かさに嬉しくなる。

しばらくして一緒にご飯を作り、ロイに問答無用でお風呂に連れて行かれて体中洗われる。のぼせそうになってぐったりしながらもロイから離れない僕をタオルで包むとそのまま寝室に連れて行かれた。ギュッとされながら愛されて、僕は安心しながら眠りにつく。

そして、朝日が昇り、また二人で日常を送っていく。

優しく囲われ愛される兎は、番の虎に怒られ守られながら今日もまた、のんきに外へと出るのだった。




【完】





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