薬屋の受難【完】

おはぎ

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番外編

薬草採取 1




「あの、僕のためにありがとうございます。わざわざ護衛なんて……。」

「いや、俺も用があったからついでだって。それに、ノルンに何かあった時の方が我が国は終わりそうだしな。」

苦笑しながら言ったグラン様に、僕は首を傾げた。


――数時間前、薬草採取のために街から出ようとしていた僕。その時、丁度門番の人と話していたグラン騎士団長がいて、話し掛けられたのだ。


薬草採取に行くと伝えると、少し考えるような素振りの後、「ルーベルトのやつには話してるんだな?」と聞かれた。僕は首を傾げながら頷き、再度、一人か聞かれ、それも頷いた。

「そうか……。あー、数時間ぐらいで戻る予定だな?じゃあ俺も行くわ。丁度、ポーションの材料を取って来いって言われてたからなぁ。丁度いい。」

そう言うと、僕の護衛も兼ねて一緒に行ってくれることになったのだ。

薬草は、依頼して取って来てもらうこともあるが、自分で採りに行くことも多い。薬屋で栽培しているものもあり、それで事足りる時もあるが。僕が作る薬の中には使用する薬草が一般的でないものもあり、依頼しても間違ったものを採って来られることがあるのだ。そういうものに限って、似たり寄ったりの薬草が多いため、間違えられることが多い。そのため、そういう薬草が必要な時は特に自分で摂りに行くようにしている。

「それにしても、良くあいつが一人で街の外に出ることを許したな。あいつなら絶対、自分も付いて行くとか言いそうなのにな。」

笑いながら言ったグラン様に、僕は首を傾げた。

「あいつって、誰ですか?」

「あいつだよ、ルーベルトのやつ。仕事のためだから容認してんのか?」

……?一体、何の話だろう。

「ルーが何を許すんですか?」

僕は、薬草を束ねて籠に入れながら聞く。ポーションの材料となる薬草を自分の鞄に入れるグラン様が、僕の質問に一瞬固まると、

「……ルーベルトのやつには、薬草採取をすること話してるんだよな?」

真剣な顔で再度そう聞かれた。

「はい。今日は薬草採取に行くって言いました。」

「そうか、なら良いんだが……。いや、ちょっと待て。街の外に、薬草採取に行くってちゃんと言ったんだよな?」

「……?いえ、外に出るとは言ってませんけど……。」

僕がそう言った途端、グラン様は「あちゃー……。」と顔を片手で覆い天を仰いだ。

「え、あのどうしたんですか。何か駄目でした……?」

不安になり聞くと、

「いや、いや、大丈夫だ。でも、ちょっと早く戻ろうぜ。まぁ数時間だけだしな、いくらなんでも大丈夫だろ。」

グラン様は少し考え込んだ後、そう言うと手を動かす速度を上げて、早々に必要分の薬草を採り終えると、僕の分も手伝い始めた。

「ありがとうございます……?」

様子が変わったグラン様にお礼を言いつつ、僕も必要分を採取し、帰路についた。昼食後にすぐ店を出て採取に向かったため、まだまだ日は高いし、今の時期は魔物も活発ではないため特に問題はないはずなのだが……。

どこか急いでいる様子のグラン様に、首を傾げつつも、騎士団で何か用事があることを思い出したのかもしれないと考えて僕も気持ち急いだ。といっても、街からさほど離れていない場所での採取だったため、帰りも時間はあまりかからず。門が見えてきたため、そのまま通らせてもらおうと思ったのだが。

……何かあったのかな。

何やら、言い争うような声や、慌ただしい足音も聞こえてきて足が止まる。

「あ、あの、グラン様。何かあったのでしょうか……?」

僕は怖くなり、横にいるグラン様に聞くと、

「あー……。遅かったか……。」

苦笑してそちらを見た後、僕を見下ろして「悪いな、ノルン。あいつの機嫌取りよろしく頼む。」と僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でた後、背中を押されてそのまま門まで連れて行かれた。僕は言われた意味も分からないまま、連れられて門をくぐる。門番の人は出た時とは違う人で、街に入ってきた僕を見て呼び止めようと口を開くも、グラン様に手で制されていた。

……外出時も帰宅時も身分確認はされるものなのに、どうしたんだろう。

変わらず急いでいる様子のグラン様に、首を傾げていると、中に入った途端、

「ノルン!」

「……ルー?」

ルーが勢い良く向かって来て、そのまま力強く抱き締められた。

「うっ……ルー、うーん。苦しいよ……。どうしたの?」

何とか顔を上げて、焦った様子のルーにそう聞く。今はまだ仕事中のはずでは?

「ノルン!あぁ、無事で良かった!さっき同僚が店に行ったら誰もいなかったと言っていてな、そんなはずがないと俺も見に行ってみれば、店は休業中の札が掛かってノルンの姿がどこにもなかった!一体、どこに行っていたんだ。一人で行っては駄目だと言っただろう?危険な目に合ったらどうする?こんなに可愛いんだ、襲われでもしたら……。」

「ま、待って、待ってルー!どうしたの?僕、薬草採取に行ってただけだよ?朝、ちゃんと言ったでしょ。」

まだまだ続きそうなノンストップのルーの言葉を慌てて止め、そう説明する。ルーは少し体を離すと僕の顔を覗き込んできた。

「……薬草採取?それは店で栽培しているものを採取するということではないのか?」

怪訝な顔でそう返され、ふるふると首を振る。

「えっと、店の薬草も使うけど、今日は街の外に生えてる薬草が必要だったから採りに行ってたんだよ。」

「何だと!街の外に出たのか!」

目を見開いて、怒鳴るような口調でそう言われてしまい、僕は驚いて肩を震わせる。そして、怒った様子のルーにじわじわと目頭が熱くなる。

「うっ、だって、必要な、薬草があったから……っひっく……。い、言ったもん……。ぐすっ……。」

ちゃんと、薬草採取に行くって、朝言ったもん……。そう思いながら、ぐすぐすと泣く僕に、ルーは瞬時に怒りを引っ込め慌てた様子で僕を強く抱き締めた。

「あぁ、あぁ、すまない、ノルン。そうだな、確かに言っていたな、採取に行く、と。行くと言っていたのだから、どこか別の場所での採取だと気付くべきだった。俺の過失を君にぶつけてしまう所だった、すまない。泣かないでくれ。でもノルン、一人で街の外に出るのも危険なんだ。だから……。」

「ひ、一人じゃないもん…。グラン様が、一緒に行ってくれたもん……。」

一人で出たと責められている気がして、ルーに抱き締められたまま、服をギュッと握って反論する。

「……何だと?グランと一緒に行った…?ほぅ。どうやら騎士団は私を敵に回したいらしい。良い度胸だ。」

低くなったルーの声に、僕は恐る恐る顔を上げると、

「おいおいおい、とんだとばっちりだぜ。俺は、さすがにお前が許可してると思ってたし、それでも何かあったらまずいと判断して護衛も兼ねて一緒に行ったんだぜ。」

両手を上げて無実だとアピールするグラン様を睨み付けるルーがいた。

「許可?一人で街の外に行くのを許す訳ないだろう。そういえばお前、前からノルンの周りをうろちょろしているな。護衛だとかこつけて邪な心があったんだろ。」

……な、何てことを!グラン様が僕をそんな目で見ている訳ないのに!

いかにも、僕を狙っているんだろうというルーの勘違いが突破している物言いに、恥ずかしくなってくる。そして、ここがまだ門を通ったところで街中であることに気付き、一気に顔に熱が集まる。

「る、ルー、あの、帰ろ。帰ろうよ……。」

涙目になりながら、すごく注目されていることに気が引けてルーを呼ぶのだが、

「ふん。だいたい、騎士団は無駄な注文や難癖をつけてくるやつが多すぎる。何も理解していない脳筋の集団の相手をするほど暇ではない。そもそも……。」

「お前、だからって拘束して送り返してくんなよな…。新人はまだお前らのこと分かってないやつがいるのは事実だが、だからってあれはやり過ぎだ。まぁ態度が悪かったらしいから大目には見るがな、でもあの時……。」

グラン様と言い合うルーは、僕の小さい声が聞こえないのか、こっちを見ない。ポンポンと言い合う二人は何だかんだと息が合っているんだと思う。思うのだが、ほっとかれているような気持ちになり、だんだん悲しくなってくる。

「ぐすっ……うぅ、ルー、僕、帰る……。」

ルーの胸に両手を突っぱねて、その腕の中から出ようと身体を捩る。

「……!?ど、どうしたんだ、ノルン。あぁ、そうか、疲れたのか?帰ろう、今すぐ……。」

「いい、ルーは、グラン様と話してたらいいでしょ……。」

ぐすぐすと鼻を啜りながら、口を尖らせて目を合わせないままそう言った。

「なっ!嫌だ!俺はノルンと帰る!どうしてそんなことを言うんだ、俺がノルンを一人で帰らせる訳が無いだろう?何か気に触ったのか?それとも、あいつに何か嫌なことをされたのか?」

焦った口調で顔を両手で包まれると、目線を合わせられながらそう言われ、僕はそれに逆らってふいっと顔を背けた。

「の、ノルン、何故顔を背ける?俺が悪かった、すまない、こっちを見てくれ。あぁ、ノルン。君の可愛い顔が見たいんだ、お願いだ、許してくれ。俺が悪かった、責めてるんじゃなくて、ただノルンが心配なんだ、こんなに可愛くて、でも色気もあって、輝いている君は……。」

「も、もういいよぉ……、ごめんね、あの、帰ろ。ね、帰ろ……。」

僕の頭に擦り寄るようにして唇を落とされ、懇願されながら情熱的な告白を浴びせられる。そんなルーに思わず、真っ赤な顔のままストップをかけると、慌てて帰ろうと伝える。

「そうだな、こんなやつと言い合うなど時間の無駄だ。すぐに帰ろう。」

ルーは、そう言うと僕を抱き上げようとしたため、慌てて逃げようと身体を引く。

「っ、ノルン、何故だ、どうして逃げる?」

「え、あの、恥ずかしいから……。」

この世の終わりだとでも言うような悲痛な顔で言われて、僕は驚きながら、ただ単に抱えられて街中を歩くのは恥ずかしいのだと伝える。

「ルー、歩いて帰ろ?」

まだ不安そうな顔をするため、僕はルーの手を取って指を絡めた。恥ずかしいけれど、僕を心配してくれていたことは伝わっているため、どうにか納得して欲しいと繋いだ手を引いてみる。

「っあぁ、帰ろう!」

すると、途端に嬉しそうに力強く手を握り返されて、そのまま僕が持っていた籠を持つと周りのことも気にせず歩き始めた。僕は慌てて振り向き、グラン様にお礼の言葉を伝えると、苦笑しながらヒラヒラと手を振ってくれた。

「薬草を置きに、薬屋に寄ってもいい?」

何故か街の人たちに拝まれたり、良かったなと言われたりと不思議な対応をされながら、採ってきた薬草を置きに行きたい旨を伝えた。

「……あぁ、そうだな。一度、採寸して……。光の向きや温度、湿度も必要か。後は……。」

すると何か考え込み始めて、店に着いた時には、

「ノルン、採ってきた薬草を見せてくれ。あと、今日採った薬草以外で街の外にしかないものは何だ?それと……。」

何故か薬草に興味を持ち始めたルー。一体どうしたんだと思いながらも、僕はそれぞれの薬草を、図鑑も持ってきて細かく説明する。その後、ルーは店の中や外、薬草を栽培している畑を見たり、何かを測ったりぶつぶつ言いながらウロウロし始めた。

首を傾げながら、何か気になることがあったのだろうかと椅子に座ってお茶を飲んでいる僕。こういうルーにはあまり話し掛けないようにしている。家でも、外にいる時でも偶にあるのだ。何かが気になって考え込んでいることが。

だがしかし。僕も学習した。

以前、外でこうなってしまったルーに、邪魔するのは悪いと思って、先に自分の買い物を済ませようと数分離れたことがあった。いや、一応声は掛けたんだけど。その場にいた店の人にも一応、言付けを頼んだのだけれど。買い物を済ませて戻ろうとした時、後ろから腕を引っ張られて振り向くと、血相を変えて僕を探し回っていたらしいルーがいたのだ。そしてその日は一日中べったり張り付かれて街中を歩くはめになってしまった。言付けを頼んだはずの店の人も、「いやぁ、ルーベルト様が君がいないことに気付いた様子だったから俺も伝えたんだけどね。耳に入ってない感じで顔を青くして勢い良く出て行ってしまって……。」と苦笑していた。だから、何か考え込んで周りが見えなくなっている時は出来る限り離れないようにはしているのだ。

「……よし。ノルン、もう用事は済んだか?では俺達の家に帰ろう。」

どうやら、終わったらしい。ルーに呼ばれて傍に寄ると、抱き寄せられて店を出る。そしていつものように僕たちの家へと帰ったのだった。

家に帰ってから、僕は街の外には一人で行かないこと、行く時はルーに声を掛けること、そもそも一人で何処かに行かないようになど、色々と取り決めをされたのだが、全て覚えきれず。そんな僕に必死で説明するルーは、またしても何か考え込んでしまい、僕は話が終わったとそっとお茶を飲むのだった。





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