はるかかなた

相馬正

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一章 ラストワン

1-07 告白

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 駅前のファッションモールはどこを見てもおしゃれな店ばかり並んでいる。

「こっちこっち」

 小金沢だ。少し離れたところから女子に呼ばれる。うん、悪くない。いいな、こういうの。どこからどう見てもカップルだ。
 えっと、でも、ゲーム用のバイザーを見に来たんだよな? 

「ほら、見てー」

 ガラス張りの店頭ディスプレイを指差して、まるでウィンドウショッピングだ。
 おおいっ、目的忘れてるだろ! 小金沢を強引に連れ出したのは俺なのに、なんで逆に振り回されてるんだ。そう思いつつも完全には無下にできない。仕方なく彼女が指差す先を覗き込んだ。

「えっ!? これは」

「ね、ここのお店、凄く安いでしょ」

 バイザーだ! それもさっきの商店街で見た価格より三割は安い。この為にわざわざ駅前まで来たのか。しかも数量限定だ。迷わず即決でバイザーを購入した。

「すっげ、サンキュ小金沢!」

「ふふ、感謝しろよー」

「するする」

「じゃー今度は私の買い物に付き合ってもらおっかなー」

 途端に小金沢の目が輝き出した。横に長く伸びる口は微笑みを通り越して恐怖すら感じる。反射的に悪寒が走った。

「なあ、まさかさっきのお返しとばかりに俺にたかる気じゃ……」

「あははっ、ないない、安心して。ちゃんと自分で買うってば。でも荷物は持ってよね」

 今度は俺が小金沢に手を引かれる。

「ほら急いで、さっきから気になってるお店いくつも素通りしてたんだから!」

 ぐいぐい引っ張られる。バイザーを買った時とは歩く速さも違う。なんだこのハイテンションは、ここに来た理由って本当はこっちなんじゃねーの?
 しかも荷物持ちができたのをいいことに、小金沢は買いまくった。女子高生・カード・ブランド品、絵に描いたような現代っ子だ。



「あああー、買ったー!」

 コイツ、頭の先から足先まで本当に一通り買い物しやがった。おかげで外はもう薄暗くなっていた。

「だいぶ遅くなっちゃったね。田中君、家、大丈夫?」

「ああ、そういうのうちは平気なんだ。それより小金沢、本当に礼がこんなんでいいのか?」

 両手に大量の荷物を持たされてはいるが、バイザーの特価に比べたら安いもんだ。

「いいよいいよ。あ、それじゃもう一つ。喉が渇いたからジュースおごってよ」

「おっけ、それならさっきのモールに良さげな店があったよな」

「えー戻るの? いーよ自販機で。私、オレンジがいーな」

 すぐ横にあった自販機の前で立ち止まる。

「そんなんでいいのかよ」

「っていうか、いいも何も、私の方こそ楽しかったし、こっちがお礼したいくらいだってば」

 お財布的にはありがたい言葉だが、コイツって意外にサバサバしてんだな。学校で絡むのとはちょっと違う印象だ。ジュースを買って小金沢に手渡す。それを開けて一口飲んだ彼女は缶のラベルをぐるっと見た。

「ねえねえ、この果汁1%って何だろーね? っていうか、いるのコレ?」

「解ってねーな。たかが1%だけど、それがあって始めて“オレンジ”って商品名が付けられるんだぞ」

「あっはっは、やーだ、しったかー」

 今日の小金沢はよく笑う。いつにも増して楽しそうだ。
 学校じゃここまでくだけたところは見たことがない。どっちかっていうと、いつも周りを引っ張って盛り上げる側だ。それでいて日直とか学校の仕事はキチンとこなす。もしかすると意外に普段は自分を抑えて周りに気を使っているのかもしれない。
 けどまあ今は人の周りをうろちょろして、落ち着きのない子供みたいだ。こっちが“素”の小金沢なんだろうか。

「ねえ、田中君って、今、彼女とかいるの?」

「いたらこうして一緒に歩いてないって」

「あ、そっか」

 なんとなく会話が途切れた。それから少しの間、微妙な空気が流れる。

「あのさ、私と付き合……」

「待った。そういうのは男から言うもんだろ?」

「ぷっ、はは」

 小金沢は軽く膝を曲げて前にかがみ込むように笑い出した。え、ウケるとこなくね?

「なんだよ?」

「いや、意外に古い考えなんだね田中君って」

 気にしてることをさらっと言われた。しかも笑顔で。悪気がないのがタチ悪い。

「うっせ。だからって別に俺は告るとは言ってないからな」

「ええー、どうしろっていうのよ?」

「条件がある」

「げ、何?」

 小金沢は身構えた。

「すっぴんを見せてくれたら……」

「ムリ! ムリムリムリ!!」

「おい、今、全く考えもしなかったろ」

「だって無理なものはムリ!」

 ここまで拒絶されるとは思わなかったが、結果オーライだ。はなから小金沢が受け入れないだろうと思った条件を出したのだから。少なくとも今の状況では付き合うとか考えられない。

 横では小金沢が未だに「やっ……ううん、ムリムリっ」と呟いては頭を振っていた。
 取りあえずこれで付き合う云々はなくなったはずだ。それにしても……何がどうなって恋愛スイッチが入るのか分かったもんじゃないな。

「ねえ」

 突然、小金沢は足を止めた。

「どした?」

「ここでいいよ。荷物ありがと」

 そう言って俺の両手から自分の荷物を全て取ると、最後にバイザーも取った。

「これも家に置いとくから。じゃあここで」

 少し様子が変だ。どこか落ち込んでいるというか、思い詰めているような。もしかするとさっきの話……うやむやにしたとはいえ、結局は俺が小金沢を振ったってことになるんだよな。

「ああ、それじゃな」

 かといって気の利いたことも言えず、元来た道へ戻った。他に何か上手いこと言えなかったのか? 考えても何もできず、ただただ後悔する。

「カナタ!」

 突然、後ろから名前を呼ばれて驚いた。声は小金沢だ。振り返ると、少し離れたところで大きく手を振る彼女がいる。

「思い切って告ったんだから、呼び捨てくらいいいよね! このままじゃ私、ただの告白損だし」

「……なんだよ『告白損』って」

 つい悪態をついてしまう。

「えー? 聞こえないよ! なんか言っても聞かないけど! それじゃあまた明日!」

 言うだけ言うと小金沢は行ってしまった。
 つーか何が「カナタ」だっての。何で呼び捨てなんだよ。わけ分からない奴だ。でも、おかげでさっきの後悔はどこかに吹っ飛んで、逆に笑いすら込み上げてきた。
 !?
 今日一日、俺は何を見てた? アイツは人一倍周りに気を使う奴だった。今のは……俺に気を使ったんだ。明日会った時にやりにくくないように。

「何やってんだ俺は……」

 せっかく素の小金沢が見れたのに、さっきまで奔放だったアイツに結局は気を使わせることになってしまった。

 待て待て、いいんだよ! 付き合う気がないんだからハッキリして良かったろ。それに今、頭を悩ませるのはそこじゃないはずだ。宮原のこと、小金沢のこと、ゲームのこと、登校拒否のこと、あー、色々あり過ぎてよく分からなくなってきた。
 だけど一つだけ確実なのは、明日から俺、金欠だよな……
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