はるかかなた

相馬正

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一章 ラストワン

1-10 ポテスナ平原

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 すっかり辺りは薄暗くなり街灯も点き始めた頃、ようやく小金沢の家に着いた。
 さんざんB子、もとい倉田さんに振り回されはしたが、その程度はどうとでも言い訳できるはずだった。最後のメッセを除いては。

 ピーンポーン

 悩んでも仕方なかったのでチャイムを鳴らした。しばらく待つと、玄関のドアがゆっくりと、そして少しだけ開いた。その狭い隙間からは小金沢の据わった目がこちらを覗いていた。

「あ、小金沢わり、遅くなっ……」

「へ~え、カナタどうしたの? 今日はもう来ないかと思ったわ」

 怒ってらっしゃいます。

「本当っゴメン!」

「別にいいわよ。カナタが誰と何をしようと」

 トゲだらけです。

「あ、あがっていいかな?」

「……」

 返事はなく、“勝手にあがれば”とでも言うようにドアが開かれた。その無言の圧力に俺は黙って小金沢の後に続くしかなかった。
 おかしい、俺達はクラスだけじゃなく学校中で噂になりかけている。もし昨日みたいに一緒にいるところを見られたら、それこそ言い逃れできなくなる。それを回避する為に、別々に帰ったはずなのに……却って小金沢の機嫌を悪くしてしまった。
 昨日も今日も、ただ小金沢の家にゲームしに来ただけなのに。どうしてこんなに悩まされなきゃならないんだ。

 再び留守中の兄貴の部屋に通される。俺は黙々と昨日買ったバイザーを本体に繋げた。横には終始無言であからさまに不機嫌な小金沢が座っている。これから二人でゲームしようっていうのに非常にやりずらい。

「バイザー、準備いいか? 電源入れるぞ」

「……」

 当然のようにダンマリが続いている。これから嫌でもゲームの中で顔を合わせるんだが、もうそこは割り切るしかないか。

『Far World』

 バイザー内の空間にゲームタイトルが浮かび上がった。今回は二人プレイを選んで画面を進める。
 例によって下から上に流れる光エフェクトに包まれると、本当に空間転移しているようでなぜか落ち着いてくる。よし、余計なことは考えるな、ゲームに集中だ。

「……よくお茶なんかするお金あったね」

 現実の声。横で小金沢が俺に話し掛けてきた。

「ああ、倉田さんにおごってもらった」

「ダッサ」

「しかたねーだろ」

「そうね、タダ飯は正義なんだっけ」

「う……」

 相当根に持ってるみたいだ。どうも小金沢は、俺が白銀と話したり他の女子と話すのが気に食わないようだ。あのさらっと言われた告白は、どこまで本気だったのだろう?

「明日は……私がお弁当持っていくから」

 さらにボソッと小金沢が呟いた。今、「弁当」って言ったのか? もしかして、機嫌が悪かったのは誰かと話したことじゃなく、白銀と一緒に昼メシを食ったことか。

「マジで?」

「何よ」

 少し尖った声。ねた感じが伝わってきた。

「すっげ助かる」

 横で小さく「くすっ」って笑ったのが聞こえた。
 あ……でも、弁当なんて作ってもらったら、エラいことになるんじゃないか? なんて一瞬考えたが、せっかく仲直りできたんだ、そこに水を差す必要はない。

 目の前に画面が広がると、そこは第一フィールドといわれる《ポテスナ平原》にある始まりの街、《パフューム》だった。

「ええっと、そーだ、小金沢のキャラ名は?」

「私は《ミスリル》。たぶんすぐ近くにいるわ。よろしくね」

 周りにいるログインしてきた他プレイヤーの頭上にある表示を確認すると、すぐ真横に立っているキャラに《ミスリル》を見つけた。そのまま目線を下ろすと、そこには気取ったべっぴんさんがいた。しかもかなりセクシーだ。

「おおっ、コイツか、エラい美人だな。髪型も凝ってるしメイクもコスチュームもバッチリじゃん。案外、スタイリストとか向いてるんじゃ……」

「ぷっ、はははははっ!」

 突然、目の前の美女がお腹を抱えて笑い出した。

「な、人がせっかくまともなこと言ってんのに」

「あははっ、ごめーん、だってカナタのキャラ……」

 彼女が再び顔を上げてこちらを見る。

「あっはっはっー! ダメー! こ、こっち見ないでー! いや、もうっ、名前も! 《タナーカー》とかまじ勘弁して!!」

「なにをっ……」

「ぷはーっはっ! しゃべらないで、お願いっ! デフォ顔4、表情なさ過ぎてキモい!!」

「くっ、この」

 昨日は俺の視点だったせいで、実際に姿を見るのは始めてなのか。確かに設定を端折はしょったのは俺だが、なんて不愉快な!

 その後、小金沢が俺のキャラに慣れるまで三十分近くかかった。



「さー、まずはどこに行けばいいんだ?」

 若干苛立ち気味な俺。

「ゴメンってば。いい加減機嫌直してよカナタ」

「今の俺は《カナタ》じゃねー、《タナーカー》だ!」

「ぷわーっはっは! もう本気でやめて! やっと慣れてきたのに、なに真顔で言ってんのよ!!」

 かっこよく決めたつもりが再び笑いを誘ってしまった。やっぱキャラ変えよっかな……

「なあ、このゲーム、キャラ変えってあり?」

「ええっ? あはっ、い、いいじゃん《タナーカー》、勿体ないって。うん。名前も顔も馴染んできた、うん、んふっ」

「笑ってゆーな」

 今の小金沢じゃ話にならないので、自分でヘルプを覗いた。
 残念なことに途中キャラクター変更は不可能のようだ。髪型やメイク、コスチュームくらいは変更できるようだが、それ以外は作り直しだ。となると今のキャラを潰さなきゃならない。
 いかん、早く決めないと愛着がどんどん涌いてしまう。だったら、コイツは残したまま別キャラ作るか? メアドさえ他に用意すれば、いくらでもキャラは作れるようだ。あ、けどキャラの数だけPOSOが必要って……俺の懐事情じゃ無理じゃないか!

 はっとした。なに言ってんだ、そうじゃない。金とかじゃない。俺がここに来てゲームを始めたように、タナーカーの冒険は既に始まってるんだ。誰に笑われようと構わない。俺はタナーカーだ!
 迷いは消えた。

 改めて小金沢のキャラを見る。コイツは《ミスリル》。おっと、ついついセクシーボディーに目がいってしまう。

「エロカッコイイでしょ?」

「なっ、エロって、なんだよその露出の高い衣装は!」

「あっはは、衣装じゃなくて鎧だし。実際、私、スタイルいいし」

「ん、なこと誰も聞いてねーよ!」

「あははは、どもってるどもってる」

 コイツ絶対に俺をからかってやがる!

「つーかなんだよミスリル! レベル2って低すぎだろ!」

「やだ、ボロ布着た奴に言われたくないわ」

 ミスリルはスラリと大型の剣を抜いた。

「たぶん戦ったら私のが強いし」

「ほー、言うじゃねーか」

 互いに“表に出ろ”的に首を動かした。このゲームはプレイヤー同士の戦闘も街の外なら可能になっている。つまりそういうことだ。
 面白ぇ、どっちが上か、すぐにハッキリさせてやろうじゃねぇか。
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