はるかかなた

相馬正

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二章 勇者誕生

2-11 ドラマティックRPG

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 城門をくぐって敷地内に入ると、中庭があるはずのその場所は植物で埋め尽くされていた。これでは奥の森と城の境界がどこか判別できない。その膝丈ほどある草の中にミスリルが足を踏み入れる。

「こんなところまで森の草木が……一体どうなってるの?」

 まあ、この状態が普通ってことはないだろう。元々は庭園で城内に続く道や入り口があったはずだ。と、注意深く周囲を見回した。

「ミスリル、少し右手に鉄戸が見える。あそこから城の中に入れるかもしれない」

 そう言って中庭を突っ切ろうとした時、ミスリルの手が伸びて俺を止めた。

「待って、何かいるわ」

 “ギキィイー”という鉄同士が擦れる音に目をやると、先ほどの鉄戸がゆっくりと開いた。そして中からは長身の騎士が姿を現した。

「どうやら一筋縄ってわけにはいかないようだな」

「まだ戦うとは決まってないわ。私が一度話してみる」

「ばか、それでさっき襲い掛かってきたんだろ」

 俺の話など聞く耳も持たず騎士に歩み寄る。まあいいか、もし危ない展開になってもコイツの《鉄壁》があれば問題ないだろう。それにしても今度の奴はかなり長身だ。ミスリルが目の前に立つと頭二つ分ほどは差があった。もはや見上げる感じだ。

「私達は遥か東の平原よりやって来ました」

「ふむ、何やら騒がしいと思って見に来れば、予期せぬ客人であったか。それはそうと、なぜ《バッカス》の姿が見えぬ?」

 微妙に噛み合っていないトーク。既に男の右手は剣の柄にかかり、いかにも戦闘ムードが漂っている。

「彼は私達をここへ通してくれたのです。どうかキュール王にお目通しを!」

 なんかさっきからミスリルの台詞が妙に演技がかってる気がする。俺が「自分の殻なんか取っ払っちまえ」なんて言ったせいかもしれないけど、かっこつけようがつけまいが回答は変わらないだろうに。

「バッカスをどう言いくるめたかは知らんが、この《ラミー》の目は節穴ではないぞ!」

 ほらな、奴のアイコンにライフゲージが出てきた。直後、長身の騎士は剣を抜いて大きく振りかぶり、一気に振り下ろしてきた。

 ガカーン!

 当然ミスリルのオートガードが反応する。

「だから言ったろ! ほら、いったん退け!」

「待って! 話しを聞いて!」

 攻撃が始まっているにも関わらずミスリルは食い下がる。しかし男の手は一向に休まる気配がない。

 ガン カカン ガカカッ カカン カカカッ

 次から次と長身から繰り出される剣撃は、ただでさえリーチが長い上に、しなってまるでムチのようだ。辺りの草木が束ごと刈り取られては無数に舞い上がっていく。その様子からも、奴の剣の軌道を捉えるのは容易ではないはずだ。けれど、それすらも全て《鉄壁》がその名のごとく捌ききる。ただし、完璧な防御だけじゃいつまで経っても勝てやしない。

「何やってんだ! 俺がそいつの相手するから例のボウガンで決めちまえよ!」

 カキィーン

 始めて音が変わった。防戦一方だったミスリルが、自慢の一振り《氷の微笑》を抜いたのだ。

「剣には剣で応える!」

 は?

「それが騎士道というものよ!」

 ええっ、いつから騎士になったんだよ!? しかも、決闘さながらの激しい剣の応酬になってきた。こんな状態じゃ迂闊に手も出せやしない。

「タナーカー! ここは私が食い止めるから先へ行って!」

「え、いや、そいつを倒さないと進めないし」

「いいから行って!!」

「いや、だから、行けないし」

 “ガギッ”っと、互いの剣がぶつかり、つばぜり合いのようになった。どちらも譲らず力を押しつけ合う。

「く、なぜ分からないの!? 森の侵食がこんなにも進んでいるというのに……このままではキュールは滅んでしまう。本気でこの国を思うのならば、私を王の元へ!」

 さっきから気になってたけど、それ全部アドリブっすか?

 キィーン

 互いが剣を弾くようにして距離が開いた。おそらくは次の一撃で決まる。男はいかにも大振りな一撃を繰り出した。それをミスリルがオートガード……いや、盾をしてない! まさか、外したのか!?

「ばか、喰らうぞ!!」

 無意識にそう叫んでいた。その瞬間、目の前の女戦士は、ほんの半歩足を引いて体の軸をずらし、かするほどの軌道で奴の剣撃がすり抜けていった。それはまるで映画のワンシーンを見ているようだった。
 同時に、絶妙なタイミングでミスリルは剣を下から突き上げた。おいおい、これは……カウンター入るぞ!

「氷のびしょーじょ!!」

 意味不明な掛け声と共に、細い剣は男を串刺すように貫いた。そして直後に凍りつく。恐ろしいまでの特殊効果だ……ああ、さっきのは「氷の美少女」って言ったのか。はは、ただの剣撃のクセにまた変な決め台詞つけやがって。

「今よタナーカー!」

 は? ここで俺? ついさっきまで先に行けとか言ってたよな。

「奴を倒せるのは今しかないわ!」

 おいおい、剣と剣の勝負はどこいったんだよ?

「早く! 奴の凍結が解ける前に!」

 なら自分で攻撃すりゃいいだろ。一体なんなんだ、ワザと奴の剣撃を受けたり、攻撃を見切ったかのようなカウンター決めたり、特殊効果でせっかく動きを封じたかと思ったら、俺に攻撃しろとか……って、まさか?
 ミスリルを見ると、未だ男に剣を突き刺した状態のまま動かない。動けない……わけはない。つまり、奴を抑えつけて絶好のチャンスを作ったってすか?
 ミスリルのカウンターアタックで奴のライフゲージは半分以下にまで落ちている。おまけに動きを封じ込んでいるから、負ける要素など一つもない。非常に面倒臭いと思いつつ男に近付くと、どこからか強い視線を感じた。これはリアルのバイザー越し、たぶん小金沢のものだ。このプレッシャー……生半可な攻撃は御所望じゃないってことだろう。えええい、もう!

「た、頼むぜミスリル、もう少しの間だけ堪えてくれよ!」

「まかせて!」

 と言ったところで、特殊効果は時間がくれば切れてしまう。急いで装備を“ナックル雷土いかづち”に切り替えた。威力は落ちるが雷の付加属性付きで、演出効果の派手な武器だ。そして溜め攻撃を放つ為、軽く膝を曲げ、腰を落とし、両肘を張って目の高さで拳同士をぶつけ合わせた。勿論、こんなポーズは必要ない。過剰演出だ。コントローラ側では溜めの操作で、その間にアイ・ムーブでロックオンをかけまくる。奴の凍結は解ける寸前だが、間に合う!

「サンダーァアアア……ボルトォーー!」

 黄色い閃光が線を描くように、男の腹部目掛けて奔った。いいタイミングで奴を覆っていた氷が弾け散った。さらにここからアイ・トリガーでロックしておいた箇所にコンボを打ち込む!

「サンダーァア……カーニボォー!!」

 全て拳撃でありったけのコンボを叩き込む。奴の全身が電撃の火花に包まれていく。咄嗟に叫んだわりにカーニバルとは言い得て妙だったかもしれない。
 連撃が終わるのと同時に奴は倒れ込んだ。

 ポワワワーン♪

『エリアクエスト“キュール宮廷の騎士”を攻略しました』

 よしっ、まあ、内容はともかく無事にクリアだ。するとミスリルが男に歩み寄った。

「安心して、峰打ちよ」

 は? パンチに峰も何もないっての。つーか、自分はめっちゃ突き刺してたろ!

「くくく、まさか《バッカス》だけでなく、この《ラミー》までもやられるとはな……」

 そう言って大ダメージで倒れたはずの男が片膝立ちで体を起こした。つーかお前等! なんか台詞とか間の取り方が妙に息合ってるな!

「いいえ、私とアナタに力の差はほとんどなかった。ただ、アナタはこの城の為に、私はこの世界の為に闘った。そこには背負ったモノのちょっとした差しかなかった」

 いや、だからそれ、全部アドリブっすか? けど今のって、遠回しにお前の闘う理由は小せーって言ってない? まあ、どうせ脇役の俺は口を挟むなって話だろうけど。

「さあ、行くがよい、我が王の元へ。貴殿らなら必ずやこのキュールに光を取り戻せるであろう」

 片膝のラミーに向かい合って、ミスリルも腰を落とし、目線を合わせた。

「ええ、必ず」

 ちょっとした名シーンの出来上がりだ。さらに驚いたのは次の瞬間だった。

 パチパチパチパチパチパチ!

「おおー!! すげー!」

「なんか映画みてーだ!」

「カッコイイー!」

「きゃー! ミスリルさーん!」

「なにこれ、イベントか何か?」

「私、ちょっと感動しちゃったー」

「私も私もー」

「でも、『カーニボォー』って、笑」

「あはははは」


 いつの間にか後ろ手には後続プレイヤー達のギャラリーができあがっていた。皆じっとこの戦いを見守っていたらしい。ってか俺、めっちゃ恥ずかしい。ミスリルはそんな連中には目もくれず、鉄戸に向き直して言った。

「立ち止まっている暇はないわ。行きましょうタナーカー、キュール王の元へ!」

 この状況にも全く動じていない。まるで本物の映画俳優のような……いや、本物の騎士をも彷彿させていた。
 ミスリルが道を示して先へ進むと、それに俺が続き、さらにはさっきの野次馬達までが続いてきた。ちょっとしたスター誕生の瞬間だった。
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