ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
127 / 211
宿命と対決

第百二十七話 団らん

しおりを挟む
「パパ~ママ~」

 僕たちは商人の館に入り、迎えるナオコ。トテトテと軽快な音がする。そして銀髪のメリッサの胸の中に顔を埋める黒髪の娘。メリッサはぎっしりと強く抱きしめる。

「ママ! 会いたかった」
「すまないな、寂しい思いをさせて」

 ナオコの頭を優しくなでて浮かべる柔らかな母のほほえみ、暖かな風景、母親の温かさに包まれている小さな体。見ていると僕は心が安らいでいく、よかった、またこの光景が見られて。

「良い風景ね、良い結果が出て良かったね」

 エイミアは僕の顔をのぞき込んだ。

「ああ、そうだね」
「あーら、つれないお返事」

「女性にはわからないかもね、こういうときの男の感情は」
「何よそれ、ひっかかる言い方ね、お姉さんに教えてちょうだい」

 僕は軽くため息をついた。

「渡り鳥にも帰る森があった、という感じかな」
「あら素敵、あなたは渡り鳥なの?」

「この世界に来るまでは帰る森なんてなかったと思っていたけどね」
「ふ~ん、いいじゃんそれ、よかったね」

 そう言って満足そうに母と子を眺めているエイミア、僕の翼はこのためにあるんだ。

「パパ、約束守ってくれたんだね」
「僕が約束を破ったことあったかい?」

「ないよ、だからパパ大好き」

 ナオコは僕のほうへ笑顔を振りまいてくれる。それが戦いに勝ったことよりも嬉しかったんだ。

「ナオコ、いい子にお留守番していたかい?」
「うん、そーだよ。私、いい子でしょ?」
「そうか……、えらいぞ」

 ナオコの頭をもじゃもじゃとなでる僕。彼女は照れて恥ずかしそうにうつむいている。

「エイミアお姉ちゃんもありがとう」

 愛らしい娘さんは今度はエイミアのほうへ駆け寄って来た。

「あらー、お姉さんうれしいわ。可愛いファンがいてくれて」
「ファン?」

「ナオコちゃん私のこと好きかしら」
「うん! 大好き」

「なら、私のファンねー」

 ナオコは、不思議そうにエイミアを眺めていた、屈託もなく笑うエイミアにつられてナオコも笑った。
 
 その後みんな笑顔で暖める暖炉の間。赤い火がほんのりと優しく揺らめいている。

「エイミア、ここの館の台所借りて良いか?」

 メリッサはエイミアへと振り返る。

「話しは通しておくけどなんで」
「久しぶりに私の手料理を披露しようと思ってな、変なもん食わされて私も食に飢えている」

「わーい、ママの手料理!」

 僕も心の中でガッツポーズをする。メリッサの手料理、想像するだけでよだれが出てくる。どんな料理が出てくるのだろう、想像を膨らましていく。肉、サラダ、スープ、パスタ、デザート。

 彼女は何でも魔法のように美味しいものへと作り出していく。僕の胃袋はメリッサの料理を食べるためにあるんだ。
 
「ほー、まあ、お手並み拝見と言ったところかしら」

 エイミアはなぜか余裕ぶっているけど、アンタ料理出来ないだろ。

 待っている間、僕とエイミアとナオコで談笑していた。客室でソファーに座ってくつろいでいる。ここの商人の家の主人は本当に病気らしく、部屋に閉じこもっていた。……エイミアはホントに恐ろしい女だ。

「ナオコちゃんママのどこが好き?」

 エイミアが優しそうな目でナオコを見つめる。どうやら子ども好きというのは本当らしい。

「えっとねー、温かいところ、それでねー柔らかいところ」
「お姉ちゃんも温かいわよ、ねえ、佑月?」

「関係ない僕に話題を振らないでほしい、子どもの前で危険な冗談はよしてくれ」
「つれないなー」

 口を尖らせるエイミア。ナオコは不思議そうに僕とエイミアの間をキョロキョロしている。

「じゃあ、佑月、メリッサちゃんのどこが好き?」

 おいおい、やめてくれよ。娘の前で恥ずかしい。でもここで答えないと、後でメリッサに怒られるからな、慎重に言葉を選ぼう。

「まずは瞳、芯が強くてまっすぐなまなざしで僕を見つめてくれる。次は唇、口から放たれる言葉は、時には厳しく時には優しく、僕を正しい道へと導いてくれた。

 そして手の温かさ、指先は繊細で僕の傷ついた心を癒してくれて、さらに器用、彼女の料理や家事は僕のがさつな部分を補ってくれた。あとは、心かな。優しくて強い。メリッサのおかげでここまでこれたんだ、とても感謝している」
 
 自分で言っておきながら少し照れてしまった。それを見て嬉しそうにするエイミア。

「あらーごちそうさま。お姉さんほっこりしたわ。一言一句メリッサちゃんに伝えておくから安心しなさい」

 よかった、余計なこと言わなくて。メリッサの氷の瞳は心臓に悪いからなあ。

「さあ、できたぞ召し上がれ」

 僕たちが食事部屋に入ったら、メリッサの愛情手料理が置かれていた。

 まずは、白い豆の煮込み料理。ソーセージと鴨肉が乗せてありオーブンでじっくり煮込まれていてオニオンの良い匂いがする。

 次は牛肉の煮込み料理。肉とソースの甘い香りがして喉からよだれが出そうで食欲がそそられる。そして、肉汁がキラキラと輝いていた。

 あと、フルーツとのサラダ。ブドウと柑橘類かんきつるいの盛り合わせでドレッシングがかけられていた。最後はパンだが小麦のパンで元からこの館にあったものだろう。

 飲み物はブドウの生搾りのジュースだ。黒ずんだパープル色が汁の濃厚さを見せていた。

「わーおいしそー」

 ナオコが率直な感想を述べる。メリッサが嬉しそうに、

「ここは金持ちの館だから、具材がいっぱいあって何を作ろうか迷ったよ」
「むむ、やるわね。この牛肉の煮込み美味しいわ」

 エイミアはすでに席について勝手に食べていた。僕も負けてたまるか。

 白い豆の煮込み料理を口に運ぶ。鴨の肉汁のうまみと豆の甘みがからみあって煮込んでいて味わい深い。じっくりと煮込んでからオーブンで焼き上げているので味がずっしりと詰まっており、旨みと脂を吸っていて口が幸せになる。

 次に牛肉の煮込み料理だ。これは赤ワインでじっくり煮込まれていてニンジンやセロリが添えてあって実に美味い。味が濃く肉がトロトロととろけて口の中で旨みが広がっていく。

 噛めば噛むほどワインの深みが出て、庶民から貴族まで愛される実に味がはっきりとした料理だった。

 フルーツサラダはこの豊かな農村で採れたブドウと柑橘類(かんきつるい)が使われていて、甘みが合わさって素材が生きている。ドレッシングが酸味を抑えてフルーツの豊かな味を助けている。

 そしてブドウジュースを飲み僕は一言いう。

「今回も大豊作だね」
「ん? どういう意味だ」

 メリッサは不思議そうに尋ねる。

「これほど素材を生かす料理はすごいよ! とても美味しいよ、メリッサ」
「そうよ、メリッサちゃん、サイコー。私のお嫁さんにならない?」

 エイミアも同意する。初めて意見が合ったような気がする。君にはメリッサはやらんがな。

「ママは料理の魔法使いだね。おいしー!」
「そんなに褒めるな」

 メリッサは白い肌を少しピンク色に染める。その表情がいじらしくて可愛らしい。

 温かな暖炉と小さな家族と仲間の火、僕の心は優しさで包まれていた。この優しい家族団らんの中、あらためてメリッサが帰ってきたんだと実感して、その幸福に浸っていた。メリッサが返ってきてくれて本当に良かった。僕たちはもう本当の家族になるべきなんだ、僕たちには確かな絆がある、あとは神に認められるだけ。ただそれだけだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...