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闘技大会開幕
第百五十九話 初戦終幕
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コロッセウムは戦う気がなくなった雷使いの男にブーイングを浴びせ始める。異様な空気感にシェリーさえ、戸惑いを隠せなかった。それを見て男は命がけで懇願し始める。
「ルール上、お前たちが許可すればお前たちの勝ちだ。俺には恋人がいるんだよ、こんなところで死ねないんだ。なあ、頼む! 一生のお願いだ! 命を助けてくれるなら何でもする、だから……!」
メリッサはその震えてたまに裏返った声を目を閉じて聞き、僕らがみんな沈黙しているのを感じて、その男をにらみつけた。彼は段々余裕がなくなり、なりふり構わず両手を地に付ける。
「頼む……! 殺さないでくれ……! 死にたくない──死にたくないんだ! お願いだ!」
観客は状況を見て試合場にものを投げ始めた。貴重な食べ物ですら男に投げつける。そして誰かが現地語だろう、僕には判別がつかなかった怒声を上げた。
「殺せ──っ‼」
その言葉が投げつけられたとたん会場はどんどんヒートアップしていく……!
「殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!──殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!……」
何を言っているのかは僕にはわからないが、なんとなく会場の雰囲気から察することができた。ほかのみんなもそうだろう、ヴァルキュリアとレイラたちは言葉が理解できるため、顔が真っ青になっている。ほかのみんなも殺気じみた会場に、言葉が出てこない。
──わかった。これは僕の役目だ。責任を取らなくてはならない、大人としての責任を……。
僕は男の頭に向かってAKMを構える、彼は動揺を隠せるような覚悟はなかった。
「やめろ、やめろ! やめてくれっ、助けて、助けてくれ──っ‼」
叫び声が終わる前に僕は引き金を引いた。銃声が鳴り響き、会場に脳みそと血が地面にぶちまかれると、観客は歓喜の声を上げた。
「おおっ──‼」
それを見計らったのだろう、コロッセウムに角笛が鳴り響く、複雑な感情を抱きながら、狂った会場を僕たちはゆっくりと後にした。
その廊下の途中だった、シェリーが唇を震わせて言った。
「……何故だ⁉ 何故、殺した!」
納得できないのだろう、それは人間として当然の感情だ、僕も十分理解できる。他のみんなも勝ったのに暗い顔を隠せなかった。彼女に対し僕は冷静に諭した。
「例え降参しても、教会団が始末するだろう。またそれから万が一逃げ延びたりしたら、むしろ僕らにとって厄介だ。何故か? このラグナロクでは十二人しか席がないからだ、必然彼の席を奪わなければ、僕たちの席を一つ譲らないといけなくなるかもしれない。
できるかい? 納得できるかい、戦いから逃げた男が神の一員となり、戦っている僕たちの誰かが犠牲になる。そんなの無理だろ、これは鉄の掟だ。わかったら僕を睨むより、運命を睨んでくれ。
……話はこれで十分だろ?」
「……くっ! けっ、胸糞悪い!」
そう言ってシェリーは壁を思いっきり蹴った、行き場のない怒りをぶちまけたのだろう、理解しているさ、むしろ直接手を下した僕の方が。ブライアンは小さく呟いた。
「そう簡単に割り切れないですよ……、すごいですね……、──佑月さんは!」
当てつけだってわかっているよ、そらそうだろうさ、僕も不満を言えるなら言いたい。そういう気分だ。でも僕はリーダーなんだ、汚れ役は買って出るさ。そんな不穏な空気の中、ゆっくりとした拍手の音が聞こえた。音の主はクラリーナだった。
いつの間にか僕たちの前に現れたようだ、何の用だこんなときに……!
「あん⁉ てめえ喧嘩売ってるのか?」
シェリーがクラリーナに食って掛かった。だが、クラリーナは不思議そうな顔をしていた。
「はい? いえ、何です、どうしたんですか、見事初戦を乗り越えて勝ったのに、そんなにみんな暗い顔をして、喜ばないんです?」
「君は何しに来たんだい?」
僕はクラリーナの真意を探るように彼女を眺めた。
「ああ、はい、私、大会の管理者として皆さんをねぎらいに来ただけですよ。変な雰囲気ですね、あんなに試合が盛り上がったのに。観客の皆さん大喜びでしたよ、私も気分が高揚しました。
エイミアさんが大暴れして、試合が決まったと思いきや、むしろ皆さんの方が混乱しちゃって、あわやという時に、一気に逆転、最後はきっちりカタをつける。素晴らしいショーでした。なかなか劇演出でもこんなことできないですよ、脚本も面白いものですし。
──ええ、最高の試合です」
「……あたし、先に帰ってるわ」
聞いていられないのかシェリーは速足でこの場を後にした。
「へっ? 何です、失礼な人。ああ、そうそう、コロッセウムの壁を蹴らないでください。このコンクリート高価なんですよ、特殊なやつで、100年かけて建造したものですし、聞いてます? シェリーさん──!」
シェリーに呼び掛けるが返事は帰ってこない。クラリーナはきょとんとしていた。どうやらこの女性も天然ものみたいだ。僕はただ休みたかったので、
「すまないが後にしてくれないか、みんな疲れているんだ」
「ああ、なるほど! 確かにそうですよね、お疲れ様です」
彼女の間の抜けた声を後にして僕たちはコロッセウムから立ち去った。
─────────────────────────────
場面は移る、この初戦をじっくりと豪華な席で眺めるものがいた、聖帝だ。その部屋にはアウティスと聖女マレサもおり、佑月たちの戦いを興味深く見ていた。
「どう思う……? アウティス、あの男を……」
聖帝の問いに、アウティスは恭しく答えた。
「素晴らしいコメディーショーでした、ああも、人間性の出る戦いを見るのは、そこいらの三流演劇よりも、ためになるものです」
その言葉にマレサは怒りながらアウティスに詰め寄った。
「ええ、コメディーですね、エイミア・ヴァルキュリアがあいつらと一緒にいるのを含めて、アウティス、お前の失態だ、いったい何を考えているのだ、あれほどエイミアに気を付けろと言っただろ、神階第一階層の力はあんなものではない。
ヴァルキュリア大戦で彼女は証明しました、“暁のヴァルキュリア”と呼ばれる所以を……!」
「古い伝説の話です」
「伝説ではない! 私はこの目で見たのだ、存在する半分のヴァルキュリアたちが消滅したのを。貴様は彼女の重要性をわかってない! あの女は危険だ、決して敵対するなと命じたはずだ!」
「これはこれは、乱れた物言いですな、聖女と呼ばれるマレサ様とあろうものが」
「ふざけるな! アウティス!」
その二人の会話を聞きながら静かに聖帝は、アウティスに尋ねた。
「あれはどうなっている?」
「やつのことでしょうか、無論協力的です、我々の素晴らしいコマとなってくれるでしょう、なあララァ?」
部屋の隅っこで、ゴシックロリータの服に身を包んだララァがそこに居た。
「ええ、アウティス様、聖帝様、あの人も自分の役割をわかっているはずです。きっと教会団の貴重な戦力になるでしょう」
聖帝は目をつぶり静かにうなずいた。そして諭すようにアウティスに語る。
「あれをうまく扱え、アウティス。エイミアと同じ失敗をするな、二度はない、わかるな、審問官?」
「聖帝様と聖女マレサ様の仰せのままに……!」
そうしてアウティスが軽く頭を下げると聖帝は満足したようで、それ以上彼を問いたださなかった。
「ルール上、お前たちが許可すればお前たちの勝ちだ。俺には恋人がいるんだよ、こんなところで死ねないんだ。なあ、頼む! 一生のお願いだ! 命を助けてくれるなら何でもする、だから……!」
メリッサはその震えてたまに裏返った声を目を閉じて聞き、僕らがみんな沈黙しているのを感じて、その男をにらみつけた。彼は段々余裕がなくなり、なりふり構わず両手を地に付ける。
「頼む……! 殺さないでくれ……! 死にたくない──死にたくないんだ! お願いだ!」
観客は状況を見て試合場にものを投げ始めた。貴重な食べ物ですら男に投げつける。そして誰かが現地語だろう、僕には判別がつかなかった怒声を上げた。
「殺せ──っ‼」
その言葉が投げつけられたとたん会場はどんどんヒートアップしていく……!
「殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!──殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!……」
何を言っているのかは僕にはわからないが、なんとなく会場の雰囲気から察することができた。ほかのみんなもそうだろう、ヴァルキュリアとレイラたちは言葉が理解できるため、顔が真っ青になっている。ほかのみんなも殺気じみた会場に、言葉が出てこない。
──わかった。これは僕の役目だ。責任を取らなくてはならない、大人としての責任を……。
僕は男の頭に向かってAKMを構える、彼は動揺を隠せるような覚悟はなかった。
「やめろ、やめろ! やめてくれっ、助けて、助けてくれ──っ‼」
叫び声が終わる前に僕は引き金を引いた。銃声が鳴り響き、会場に脳みそと血が地面にぶちまかれると、観客は歓喜の声を上げた。
「おおっ──‼」
それを見計らったのだろう、コロッセウムに角笛が鳴り響く、複雑な感情を抱きながら、狂った会場を僕たちはゆっくりと後にした。
その廊下の途中だった、シェリーが唇を震わせて言った。
「……何故だ⁉ 何故、殺した!」
納得できないのだろう、それは人間として当然の感情だ、僕も十分理解できる。他のみんなも勝ったのに暗い顔を隠せなかった。彼女に対し僕は冷静に諭した。
「例え降参しても、教会団が始末するだろう。またそれから万が一逃げ延びたりしたら、むしろ僕らにとって厄介だ。何故か? このラグナロクでは十二人しか席がないからだ、必然彼の席を奪わなければ、僕たちの席を一つ譲らないといけなくなるかもしれない。
できるかい? 納得できるかい、戦いから逃げた男が神の一員となり、戦っている僕たちの誰かが犠牲になる。そんなの無理だろ、これは鉄の掟だ。わかったら僕を睨むより、運命を睨んでくれ。
……話はこれで十分だろ?」
「……くっ! けっ、胸糞悪い!」
そう言ってシェリーは壁を思いっきり蹴った、行き場のない怒りをぶちまけたのだろう、理解しているさ、むしろ直接手を下した僕の方が。ブライアンは小さく呟いた。
「そう簡単に割り切れないですよ……、すごいですね……、──佑月さんは!」
当てつけだってわかっているよ、そらそうだろうさ、僕も不満を言えるなら言いたい。そういう気分だ。でも僕はリーダーなんだ、汚れ役は買って出るさ。そんな不穏な空気の中、ゆっくりとした拍手の音が聞こえた。音の主はクラリーナだった。
いつの間にか僕たちの前に現れたようだ、何の用だこんなときに……!
「あん⁉ てめえ喧嘩売ってるのか?」
シェリーがクラリーナに食って掛かった。だが、クラリーナは不思議そうな顔をしていた。
「はい? いえ、何です、どうしたんですか、見事初戦を乗り越えて勝ったのに、そんなにみんな暗い顔をして、喜ばないんです?」
「君は何しに来たんだい?」
僕はクラリーナの真意を探るように彼女を眺めた。
「ああ、はい、私、大会の管理者として皆さんをねぎらいに来ただけですよ。変な雰囲気ですね、あんなに試合が盛り上がったのに。観客の皆さん大喜びでしたよ、私も気分が高揚しました。
エイミアさんが大暴れして、試合が決まったと思いきや、むしろ皆さんの方が混乱しちゃって、あわやという時に、一気に逆転、最後はきっちりカタをつける。素晴らしいショーでした。なかなか劇演出でもこんなことできないですよ、脚本も面白いものですし。
──ええ、最高の試合です」
「……あたし、先に帰ってるわ」
聞いていられないのかシェリーは速足でこの場を後にした。
「へっ? 何です、失礼な人。ああ、そうそう、コロッセウムの壁を蹴らないでください。このコンクリート高価なんですよ、特殊なやつで、100年かけて建造したものですし、聞いてます? シェリーさん──!」
シェリーに呼び掛けるが返事は帰ってこない。クラリーナはきょとんとしていた。どうやらこの女性も天然ものみたいだ。僕はただ休みたかったので、
「すまないが後にしてくれないか、みんな疲れているんだ」
「ああ、なるほど! 確かにそうですよね、お疲れ様です」
彼女の間の抜けた声を後にして僕たちはコロッセウムから立ち去った。
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場面は移る、この初戦をじっくりと豪華な席で眺めるものがいた、聖帝だ。その部屋にはアウティスと聖女マレサもおり、佑月たちの戦いを興味深く見ていた。
「どう思う……? アウティス、あの男を……」
聖帝の問いに、アウティスは恭しく答えた。
「素晴らしいコメディーショーでした、ああも、人間性の出る戦いを見るのは、そこいらの三流演劇よりも、ためになるものです」
その言葉にマレサは怒りながらアウティスに詰め寄った。
「ええ、コメディーですね、エイミア・ヴァルキュリアがあいつらと一緒にいるのを含めて、アウティス、お前の失態だ、いったい何を考えているのだ、あれほどエイミアに気を付けろと言っただろ、神階第一階層の力はあんなものではない。
ヴァルキュリア大戦で彼女は証明しました、“暁のヴァルキュリア”と呼ばれる所以を……!」
「古い伝説の話です」
「伝説ではない! 私はこの目で見たのだ、存在する半分のヴァルキュリアたちが消滅したのを。貴様は彼女の重要性をわかってない! あの女は危険だ、決して敵対するなと命じたはずだ!」
「これはこれは、乱れた物言いですな、聖女と呼ばれるマレサ様とあろうものが」
「ふざけるな! アウティス!」
その二人の会話を聞きながら静かに聖帝は、アウティスに尋ねた。
「あれはどうなっている?」
「やつのことでしょうか、無論協力的です、我々の素晴らしいコマとなってくれるでしょう、なあララァ?」
部屋の隅っこで、ゴシックロリータの服に身を包んだララァがそこに居た。
「ええ、アウティス様、聖帝様、あの人も自分の役割をわかっているはずです。きっと教会団の貴重な戦力になるでしょう」
聖帝は目をつぶり静かにうなずいた。そして諭すようにアウティスに語る。
「あれをうまく扱え、アウティス。エイミアと同じ失敗をするな、二度はない、わかるな、審問官?」
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