ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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マハロブ市街戦

第二百二話 男の意地

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 クラリーナの報告書が僕のもとに届いた。いわく、

 はいけい 佑月様

 お手紙の返事ありがとうございます。ひじょうに私、手紙があることに気づくのは難しかったです。だって、鎧と服のすきまですよ!? もうあせでぐちゃぐちゃで、私、ずっと三日ぐらいナオコさんを守るために見張ってたから、湯あみしてな……そ、そんなことどうでもいいです!
 それよりも問題は、彼と私の関係ってどういうことですか! 湯築さんはただのお友達です! あの方は50ぐらいの老けた人です、それを恋愛対象に見るわけないじゃないですか! 貴方とは違うんです!
 いいですか、私は処女ですよ、男なんて知りません、それなのに男性関係をきくなんて、いじめですか!? ひどいです! だいたいですね、貴方はせっそうがないです。きけばソフィアを口説いたそうじゃないですか、私もう怒りでいっぱいです。
 貴方は私のことをどう思っているんですか! 遊びですか、そうですか、ひどい人です。私真剣なんですよ、貴方とメリッサさんのことを考えておさえにおさえて、あ、いや、どうでもいいです! とりあえず、彼とのことをごかいしないでください!
 怒りますよ、ほんとに!
 で、彼との関係ですが、湯築さんは教会団のほばく対象にあった人です。街中でさわぎを起こして、私がたまたま遠征していたので騎士としてほばくしたのですが、妻とお子さんをのこしたままで、戦争で死んでしまったので、とてもかわいそうと思って私がかくまいました。
 言っときますけど、不純な気持ちなんてありませんから。純粋に同情です。何言ってるんですか貴方はもう! それで日本のことを聞きました。とても変わった国だなって印象で、それでなつかしそうに語るので、ああいいなあ、故郷って思ったんです。
 私マハロブの都会育ちだから彼の田舎の風景の話がとても楽しかったんです。それだけですよ! それで、彼はエインヘリャルとの戦いに参加して死んでしまいました。どこか死に急いだ方のような印象を受けました。
 もう30年前ですかね、それだけですよ。下心ありませんよ、貴方とは違うんです! と、とにかくごかいをされているようなので、急いで手紙を書きました。見直してないので変な日本語になっていたら、ごめんなさい。
 貴方のごかいを解きたくて……。そうだ、今度一緒にお食事しませんか? いろいろおいしい店あるんですよ、貴方と親しくなりたいです。貴方のお手紙をもらったのはとてもうれしかったです。貴方からも日本の話が聞きたいです。お返事待ってます。

             貴方のクラリーナより          けいぐ

 ……どんな返事をクラリーナに送ったんだっけ、別にその湯築って男の人はどんな人って書いたような気がするけど、彼女の気に障ったのかな。えらい怒っているのかかなり殴り書きだぞ、この手紙。返事書かなきゃ呪われそう。

 少し何か恐怖を感じさせる、圧力のある文を書くなあクラリーナは。まあとりあえず、誤解だよってことと、君と親しくなれてうれしいってことと、今度ディナーを一緒に食べたいねと書いておこう。よし、これで良し。アイリ―に渡そう。

 メリッサは手紙の内容が気になるのかクラリーナの手紙を見ながら、僕に、

「えらい汚い字だな、これクラリーナか? イメージにないな」

 とく。だから、僕は、

「メリッサは日本語読めないの?」

 と言ったので、彼女はため息をつきながら答えた。

「話すと書くと読むは違う。神族はどんな言葉でも話せるが、文字を読むには勉強しないといけない。東洋のよくわからんマイナーな言葉を読めって言われても無理だ。勉強してないからな。お前も英語読めないだろ? 私は一応、戦闘関連に興味があったのでヴァルハラで少し勉強したけど、そんなもんだ」

「なるほどね」

 と納得した。そんな万能でもないのか神族は。この世界の字は読めるように神に力を与えられたといってたけど、異世界がおびただしくありまくるこの世界観で、たかだか一国の文字を読めるかっていうと、流石に無理か。

 手紙を印章で封をしてアイリ―の部屋へと向かった。僕がノックすると、「はい? 何です?」と声が聞こえたので、僕だ、佑月だ、報告書の返事をクラリーナにと言ったので、「あーはいはい、了解でーす」と言って扉が開くとびっくりした、アンダードレスで出てきたのだ。

「ちょ、ちょ、ちょっと!? 服……」
「あい? 似合ってません? 男なら欲情をかき立てられるとか、恋愛詩で読みましたけど、刺激が足りません? じゃあ脱ぎましょうか?」

 僕の言葉に対しいきなり、ドレスをまくろうとしたので、慌てて静止する。

「ま、まて、早まるな、お前にも家族がいるだろう……、だから待てって!」

 なんかよくわからない言葉がとっさに出てきたけど、どうやら、彼女はそんなムードじゃないことに気づいて、とりあえず落ち着いたようだ。

「ああ、胸が足りませんか、クラリーナ先輩凄いですからね。あれは女の私でも流石にやばいと思いますからね」
「な、何の話をしているんだ!」

「あれ、まだ知りません? 鎧脱ぐと凄いんですよ、彼女……」

 すごいって何がだ……。いかんいかん想像するな、想像浮気だ、やめろ! 僕を正気に戻せ! よし、落ち着いた。とりあえずアイリーに用件だけ告げよう。

「はい、クラリーナへの報告書の返事」
「ああ、ラブレターですか?」

「違う! 報告書の返事だ」
「じゃあ、ラブレターじゃないですか」

「え? 君日本語読めるの……?」
「何それ、に……、何ですって? クラリーナ先輩が真っ赤な顔をして、手紙書いていたのを見ましたから、そうじゃないかって思っただけですけど」

 何だ内容知られているわけじゃないのか、ならよかった。

「ちがうよ、急いで書いていたんだろう、内容は試合の事だった。その返事だよ」
「じゃあ、ラブレターじゃないですか」

「違う!」

 僕が慌てているとアイリーはほがらかに笑いだした。ちっ、からかわれていたのか、覚えておけよ、もう。その時──

「二人とも何してるんです?」

 いきなり女性に話しかけられたので僕は驚いて、アイリーが下着姿なのを二度見して、慌ててしまった。

「こ、これは……」
「あいびきですか?」

 声の主はユリアだった、妙に落ち着いたトーンで言い放つので、逆にあせってしまう。

「ち、違う! 無実だ、無実!」
「何言ってるんですか、冗談ですよ。アイリーさんでしたっけ、下着姿で館をうろうろしていたので、注意しに来ただけです。殿方もいらっしゃるんで慎んでください、アイリーさん」

「え、これ楽なのになあ」
「襲われたらどうするんですか? 佑月さんも男ですからね、ケダモノですよ」

「誰がケダモノだ!」

 ユリアはジト目でこちらを見る。そう言えばクラリーナと夜まで劇をみて、変な噂が僕には立っているんだった。冷静に冷静に。

「そう……アイリーに用かい、じゃあ僕はこれで──」
「あ、佑月さん訓練の時間ですよ、これから行きましょう」

「あ、そうか、ユリアありがとう。じゃあアイリー、僕はユリアと一緒に訓練に向かうからこれで」
「あー訓練ですか私も見たいです、見たいです、じゃあ、私も―」

「──いいから、着替えろ!」

 思わず僕とユリアの声がハモってしまった。調子崩すなあ、アイリーと一緒にいると。

 僕たちはメリッサの指導の下フォーメーションの進化を急いだ。お互いの距離感を保って、飽和攻撃をフィールドで発揮できるようになっていた。なら次の段階、相手をどう崩すかだ。相手が黙ってやられるようなやつがベスト8まで残っているわけがない。

 なら、戦術的にも戦力的にも熟成された相手に戦うにはさらなる戦術が必要だ。僕たちはフォーメーションを保ちつつ、相手に対応できるよう柔軟に陣形を変化していった。

「レイラ! 佑月が裏に回ったなら、トップ下にお前が入れ! 人が少なくなる。スペースが空くからフォーメーションをコンパクトにしろ。距離を縮めて、最終ラインを上げろ!」

 メリッサの声が飛んでいく。僕が後ろに回り遊撃に回っている間、他のみんなは陣形を小さくし、最終ライン、アデル、ダイアナ、ミーナが前に上がり相手との距離を縮める。そうすることで、空間的に狭まり、銃弾が数多く相手に届くことになる。

 そして小さくなったこっちを攻略しようとして、相手が走り込んできたら僕が相手の中に入り、敵の陣形を乱しながら、側面攻撃を仕掛ける。

 攻防一体の戦術だ、実に理に適っている。

 ……だが問題なのは……。

「よし! 今日の訓練は終了だ、みんな体を休めろ、解散!」

 お互いに手を叩いたり抱き合ったりして、今日の訓練をやりげたことを祝うが、誰もブライアンのもとにはいかない。やはり前回の裏切りがみんなの心のしこりになっているんだろう。

 僕は彼が輪の中に入れるように彼の方に向かうが、ブライアンは僕を素通りした。ん? どういうつもりだ?

 その瞬間ブライアンはシェリーに向かって片膝をついた。シェリーが戸惑った様子で、

「あ!? なんだよ、てめえなんてあたしはお呼びじゃねえんだよ!」

 と手で払いのけるが、ブライアンは真剣な表情で彼女に告げた。

「シェリーさん! 僕を男にしてください!」

 お、おい。いきなり何を言ってるんだ、ブライアンは……?
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