川底の鍵

季徒川 魚影

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 夕食前に、英語の構文の勉強をしていると、伊藤が部屋に入ってきた。
「最近、義くん、実家帰ってねえべ」「何があったな」
「いや、なんでもないっすよ」
「何か、買ってきてほすい物あったら言って」「明日帰ってくっ時、買ってきてけるさげ」
「ああ、特に」
「何だよ、かわいぐねえなあ」
 良子のことがあって、ささくれ立った気持ちが、明義の態度に出ているようだった。
 明義のそっけない態度に、伊藤はがっかりして、自室に戻った。
 九月の第一週の土曜日の夜だった。
 そのうち、ご飯だよ、という留美子の呼びかけに、明義がダイニングに入っていくと、留美子一人だけがいて、台所で何かを切っていた。
「明義くん、簡単で悪いけど、ちょっと出かけないといけないから」「ちょっと、留守番しててほしいの」
「はい、分かりました」
 晩御飯は、カレーうどんだった。
 急いで食べて席を立とうとすると、留美子が明義を引き止めて言った。
「明義くん、洗濯物しておいたから、持ってって」
「ありがとうございます、すみません」
 そういえば、明義が遠慮するのを、いいからと言って、留美子が半ば強引に洗ってしまったのだ。
 明義は奥の座敷行き、洗濯物の塊に目を落とした。
 畳の上に、家族の物とは、分けて明義のTシャツやトランクスが畳んで置いてあった。
 意図せず横に目をやると、井上家の洗濯物が畳んであり、例よって、留美子の下着らしきものが目に入った。
 明義は、二度と洗濯物をお願いすべきではない、と思いながら、自室に戻り、勉強を再開した。
 三十分ほどで、留美子は戻ってきて、しばらくすると、お風呂よ、という声がして、明義は一番風呂に入った。
 どうやら先生や子供たちはまた外出のようだった。
「お先にいただきました」
「はい」「あ、明義くん、ぶどう食べない」
「あ、いや、結構です」「歯磨いてしまったので」
 明義は、急いで自室に上がり、早々と布団に入り、本を読み始めた。
 そして、いつものことだが、そのまま寝てしまった。

 明義は、何か違和感を感じ、目を開けた。
 最初は、心霊現象だと思った。
 明義は、霊感が強いほうらしく、幼いころからよく金縛りになった。その時も、その前触れかと思ったのだった。
 しかし、それは霊ではなく、生身の人間だった。
 それは、左横向きに寝ている明義を背後から包むように添い寝をしていた。
 正確には、添い寝だけではなかった。
 手が、明義の股間のものをパジャマの上から掴み、そして先の方を揉んでいた。
 寝ていたためか、幸い明義のものは反応していなかった。
 明義は、瞬時にどういう反応をすればいいか考えたが、結局寝返りをうつぐらいしか思い浮かばなかった。
 しかし、身体が何故か硬直して、動かないのだった。
 その時明義はなぜか、女性が襲われる感覚って、こんな感じだろうか、と想像した。
 彼はそれから二、三分は動けなかった。
 けれども、勇気を振り絞ってやっとのことで寝返り、反対側を向いた。
 明義は薄眼を開けて、その人物を見ようと試みた。
 帰省したはずの伊藤かもしれず、むしろそうあってほしい、と明義は思った。
 しかし、その期待すら外れた。
 髪型のシルエットの一部しか見えなかったが、それが留美子であることは明らかだった。
 そもそも、寝返りは相手を追い払うために取った策であったのに、それはそのまま動かなかった。
 さらに、それは明義の想定外の行動に出た。
「明義くん、起きたのね」
 声の主は、やはり留美子だった。
 明義は、すぐに言葉を返せずにいたが、不思議にもその声を聞いたことで、なぜが少し安心していた。
 それと同時に、明義の五感が瞬間的に覚醒した。
 留美子の吐息、匂い、感触が伝わり始めていた。
 留美子は裸のようだった。
「明義くん、好きよ」
 留美子は、そういうと、明義のパジャマのズボンの中に手を入れ、更にトランクスの中に手を忍び込ませると、彼のものを直に掴んだ。
 ひとときの安堵感はただちに恐怖感へ変わり、明義は布団から畳みに飛び出た。
 二人の目があった。
 目が暗闇に慣れてきたせいか、留美子は微笑んでるのが明義には分かった。
「私に、恥をかかせるの」
 明義は返す言葉が無かった。
「誰もいないから、大丈夫よ」
 そういうと、留美子は掛け布団を上げて、明義は入りやすいようにした。
 明義は、吸い寄せられるように布団の中に戻った。
「いいこね」
 留美子は、また先ほどと同じように、明義の性器を直に触り始めたが、前とは感じが違うと明義は思った。
 そこには、明確に目的があるようだった。
 やがて明義のものは反応し始めた。
 留美子は、起き上がり、明義を仰向けに転がすと、パジャマのズボンとトランクスを一緒に降ろした。
 そして、少し硬くなった明義のペニスを握り、しごき始めた。
 ゆっくりと、長い間、留美子はそれをしごいていた。
 それでも、明義には刺激的で、ペニスはすぐに限界に近いほど、膨張した。
「やめてください、留美子さん」
 声は低くかすれていても、明義の心からの叫びだった。
 留美子は、手を止めた。
 明義が、安堵したのも束の間だった。
「駄目よ」
 留美子は、そういうと、今度は明義の硬くなったものを口に含んだ。
 限界だと思われた明義のペニスは、留美子の口の中で更に膨張し、硬くなっていった。
 明義が経験する初めて快感だった。
 間も無く、限界を遥かに超えた明義のものは、留美子の口の中で突然暴発した。
 脈動がしばらく続いて、明義は留美子の口内の感触を感じていた。
 明義は目をつむったまま、荒くなった息を鎮めようとしていた。
 やがて、留美子は離れ、部屋を出ていく音がした。
 そのうち、明義の深呼吸は、自然と寝息に代わった。
 明義が再び気がついたのは、朝になってからだった。
 明義は、ふと思い立ったように、布団やパジャマ、トランクスに触れてみた。
 しかし、不自然なくらいに、痕跡は、どこにも残っていなかった。
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