川底の鍵

季徒川 魚影

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 穏やかな秋晴れの夕暮れだった。
 どこかで藁を燃やしている匂いが、東山グラウンドまで届いた。
 久々にタイムトライアルをする、ということで、日曜日にもかかわらず陸上部の練習があった。
 その日、明義は部の仲間たちと夕ご飯を食べていく約束をしていて、下宿を出る前に、留美子にそう伝えてあった。
「あら、そうなの」「今日は主人は遅いし、子供たちは実家だから、出前でも取ろうと思ったのに、残念」
 内心、明義はほっとした。
 あの夜以来、明義は、極力、留美子と二人きりになるような事態にならないように、細心の注意を払っていた。
 もっとも、あれから、だいぶ経つし、留美子も何事も無かったように接していることもあり、明義も、落ち着きを取り戻し、更には、あれは夢だったのではなかったか、と思い始めていた。
 練習の後、明義たちが、向かったのは、いつもの駅前の喫茶店だった。
 食後は、電車が出る時間まで、明義も付き合い、くだらない話で盛り上がった。
「そいえば、今日、また斎藤先輩来てだけね」
 阿部が言ったのへ、空かさず長南が反応した。
「うん、来てだけね」「相変わらずノーブラだけね、あはは」
 斎藤先輩とは、三年のマネージャーの斎藤玲子のことだった。
 通常三年の秋となると、ほとんどの生徒は練習に出なかったから、彼女は珍しい存在だった。
 しかも、小柄でかわいらしい容貌から、後輩の男子からは人気があり、何かと噂の対象となりやすかったのだ。
「なんかさ、少し走るど、ぶるんぶるんいってるっしょ」
 長南が続けた。
 明義は、意図せず、いつかの大会のテントの中で、ふと屈んだ齊藤の白いTシャツの襟元から、乳房が見えた時のことを思い出した。
「え、俺、気づがねけなあ」
 阿部たちは、その後、斎藤先輩のあること無いことを噂して盛り上がったが、明義は、ただ聞いていた。
 唯一反応したのは、長南が言ったことに対してだった。
「斎藤先輩って、石川秀美に似でね」
「それはねえよ」
 明義は言下に否定した。

 明義が、下宿に帰ったのは、九時頃だった。
 帰ってすぐに風呂に入ると、明義は次の日の授業の準備だけをして、早めに布団に入り、枕元のスタンドの灯りで、本を読んだ。
 しかし、本の内容がどうしても頭に入ってこなかった。
 振り切っても振り切っても、何故か斎藤玲子のことが頭を離れないのだった。
 それでも部活の疲れもあり、明義はそのうち眠りに引き込まれていった。

 明義は、また、夜中に目が覚めた。
 足元に、人の気配を感じた。
 いやそれは、気配どころではなった。
 明義の下半身は、すでに裸にされていた。
「寒い」
 明義が目を覚ましたことに気付いた誰かが聞いてきた。
 それは、留美子の声だった。
 明義が答えずにいると、はだけた布団を元に戻し、その中で、彼女は行為を続けた。
「止めてください」
 明義は努めて、冷静に言った。
 その方が効果があると思ったからだった。
 留美子は、素直に止めると、布団から出て、明義の顔を見た。
 つけっ放しのスタンドの灯りに、留美子の顔が照らされて浮かび上がった。何となく、微笑んでいるようだった。
「先生に気づかれたら、どうするんですか」
 膠着状態を打ち破るため、考えて末に放った明義の言葉は、不適切で間が抜けたように響いた。
 彼にしてみれば、見つからなければいい、というつもりで言ったわけではなかったのだが、留美子は上手くその点を利用した。
「先生、飲み過ぎたから、実家に泊まるって、電話がきたの」
 明義は、すぐに打ち消そうと考えを巡らせたが、適当な言葉が浮かばなかった。
 明義の沈黙を、留美子は同意と受け止めたのかのしれなかった。
 彼女は、部屋を去らなかった。
 代わりに、明義の右隣に彼に抱きつくように添い寝した。
 既に、明義のものは、留美子の右手の中だった。
 留美子は、明義にキスをしてきた。
 それは、ただの唇の触れ合いではなかった。
 彼女は、自分の舌を明義の口の中に入れてきて、明義の舌を探し当て、そして執拗に絡みついた。
 明義は、初めての感覚に圧倒されてしまっていた。
 留美子の唇と舌は、明義の口を離れ、首、胸、脇の下、お腹、と移動していき、やがて硬くなった明義のペニスにたどり着いた。
 明義は、拒絶するどころか、快楽を味わい始めている自分に気付いた。
 留美子は明義のペニスを咥えながら舐めまわすと、同時に手でしごいた。
「うわ」
 明義は思わず、声を出した。 
 その声に反応したのか、留美子は口を離し、コンドームの封を切ると、口を使って器用にそれを明義のペニスに装着した。
 そして、あっという間に、明義にまたがり自分の中に導き入れた。
「ああ」
 留美子が、声を上げ、そしてゆっくり腰を動かし始めた。
 直ぐに明義は到達しそうになったが、何故か留美子はそれを察したようで、明義のものを外に出すと、また、明義の唇を貪った。
 今度は、明義も留美子の舌に呼応するように、自分の舌を動かした。
 相手と同化している感覚。
 明義は、頭がしびれてきていた。
 しばらくして、留美子が唇を離すと、明義の右隣に仰向けに寝た。
 突然の制止に、明義は一瞬戸惑った。
「明義くん、来て」
 明義は、ハッと飛び起きて、留美子の上に重なった。
 留美子の大きな胸が明義の目に入り、無意識に左手で掴み、揉んだ。
「ああ、いい、明義くん、早く来て」
 明義は、留美子に導かれ、再び彼女の中に入っていった。
 そして、予期せず、良子との行為を思い出した。
 最低だ、と思った。
 しかし、止めることはできなかった。
 自然に腰を上下して、ペニスを留美子の膣内でピストン運動した。
 あの時とは全く違って、明義は自覚して行為に及んでいた。
 留美子は、壊れてしまうのではないか、と明義が不安になるほどに、声を上げ、体をくねらせていた。
 明義は、彼女のその動きの全部を冷静に観察していた。
 そして、留美子の動きに呼応するように、明義は、上下動のスピードを速くしていき、これ以上は無理だ、という速さに達したと同時に、射精した。
 痛いほどの快感が明義の脳天に走った。
 そして、全てを注ぎ入れるかのように、挿入をキープした。
 やがて、潮が引くように、ペニスの脈動が徐々に遠ざかって行った。
 明義は体を離すとあおむけに寝転んだ。
 息を整えているうちに、明義は眠りに落ちていった。
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