川底の鍵

季徒川 魚影

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「俺、引っ越そうがど思って」
「引っ越すって、下宿ば」
「うん」「なんか、今の下宿、普通の家で、居候みだいな感じで」
「うんだのが」
「あど、なんか、いろいろ干渉されっから、めんどくさい」
 明義と良子は、花山市内のデパートに来た帰りに、駅近くのフャミレスで遅めのランチを食べていた。
「あてはあんのが」
「うん、同じ陸上部のヤヅが下宿してるどごがいいなあ、て思ってる」
「ふうん」
 明義は、トマトソースのパスタを一口頬張った。
「そごの下宿なら、良子も遊びに来れるがら」
 その言葉は、いかにも取ってつけたように、良子には思えた。
「私のためが」
 良子のいたずらな視線に、明義は引っ越しの本当の理由を見透かされているような気がして、一瞬言葉に詰まった。
「そげな、無理すねくてもいいよ」「私なら、いづもこうして、アキちゃんに会えるがら」
 良子が素直に喜んでいることに、明義は自分の狡さを恥じた
「なんて言うや、今の下宿の人さ」
 明義の父は、引っ越しに反対した。
 今の下宿は、明義の父の職場の人からの紹介ということもあって、不義理なことはできないという事情もあった。
 それに対しての明義は、受験を控えて、同級生が多くいる下宿の方が、勉強にだんぜん有利だ、と反論した。
「話は、俺がら、まず先生さするし、お父さんは、息子が勝手に決めできたごどだ、ってごどにしてけろ」
「ほげな自分勝手な」
 最後は、強引に押し切った明義だった。

 十二月の中旬、明義は留美子が新聞配達のアルバイトに出て居ないタイミングを見計らって、先生が晩酌をする居間に入っていった。
「先生すみません、お寛ぎ中に」「ちょっと、相談があるんですが」
 明義は、受験勉強には、一緒に切磋琢磨する仲間がいた方が何かと心強い、ということをメインに先生を説得した。
 明義の父同様に、受験勉強を理由にされたのでは、先生も無理に引き止めることはできなかった。
 それに、伊藤の前例があっただけになおさらだった。
 環境に問題があったために進学出来なかった、というような結果は、彼としては避けなければならなかったのだ。
 次の週、明義は早々と新しい引き受け先の大家のところに、父と下見に言った。
 もっとも、既に何回も出入りしている明義は、部屋の間取りなどはよく知っていたので、実質は、俊夫と大家の顔合わせになった。
 新しい引き受け先は、中華料理屋を営んでおり、その昔座敷として使っていた二階の何部屋かを下宿部屋として貸出していた。
 寄宿者のほとんどが、新田北高の学生で、冬の間だけ下宿するという者も多かったので、明義が急に寄宿できるのは運がよいとしか言いようがなかった。
 更に幸運にも、一つだけ空いていた部屋は、窓から川が見える角部屋だった。
 その日のうちに、入居日も二月からということで決まった。
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