5 / 8
序章 終わりの始まり
05 ツヴァイの準備運動
しおりを挟む「マスター、足元がお留守ですよぉ」
人懐っこい笑顔の美少女がそう言うと同時に、彼女の肩まであるチョコレート色の髪がふわりと舞い上がり。
「な?」
僕の視界から消えた。
次の瞬間、僕は宙を舞い。
「──ぐっ!」
背中を強かに打ちつけた。
ダメージは軽い。
が、なにが起こったのか理解が追い付かない。
「ツヴァイ、いまのどうやったの?」
僕は床に転がったまま聞いた。
「いまの? 下段の回し蹴りですよぉ」
事もなげにツヴァイが答える。
「じゃあ、消えたように見えたのって……」
「シュバって、しゃがんだからかなぁ?」
なるほど。高速でしゃがみこんだってことか。
僕の分体はハイスペックだ。少なくとも女神はこの分体で凶悪な魔物を鼻歌交じりに次々となぎ倒していた。
パワー、スピード……すべてが近接戦闘特化の脳筋ツヴァイより上のはず。
でも操る僕はポンコツで、分体の性能を引き出せずにいる。
「あのときの状況に似てるかも……」
「あのときって? マスター」
無意識に声に出してしまったらしい。
「いや、何でもないよ。ちょっと休憩しようか」
「はい、マスター」
と、ごまかしつつ。
シャドーをするツヴァイをよそ目に、僕はそのまま床に転がり天井を見つめた。
前世ですごくゲームの好きな友人がいた。名前は……忘れた。
僕もゲームは好きだったけど、ジャンルはRPGがほとんど。
ある日、その友人の家でゾンビを銃で倒すアクションゲームを勧められ、ゲーム的に即死した。僕は救いようがないレベルでアクション系が下手だった。
友人はため息をつきながら。
「これならどうだ?」
と、クリア特典の最強装備一式、弾丸無限状態で一番初めから僕にゲームをさせた。
結果、多少進めたけどやっぱり酷いものだった。
そのあとにハードモードをナイフ一本でプレイする友人を見て、二度とアクションゲームをするものかと心に誓った。
あー懐かし……。
じゃなくて!
技量の差ってすごく大きな要素だと言いたいわけだ。
片や最強装備のド素人、片や最弱装備のエキスパート。僕はゲームでその違いを見せつけられた。
いまの僕は戦闘の経験どころか、体を動かす経験すらほとんどない。ほぼ赤ん坊状態。
対してツヴァイは魔物を与えたら、笑顔でひたすら殺し続ける殺戮マシーン。
それと合わせて知覚の差も大きい。
コア本体の視野は全方位。さらにダンジョン内のあらゆる情報が次々と入ってくる。つまりダンジョンのどこに誰がいるのか常に分かる状態……コア本体とはそれだけ知覚に優れている。
分体──人の知覚は狭すぎる。まるで世界の九割が暗闇に閉ざされたような感覚だ。
でもゲームのように投げ出すわけにはいかない。
ツヴァイと僕でなにが違うのか?
いまは負けていい。とにかくツヴァイの動きをよく見るところから始めてみよう。
「……強いな、ツヴァイは」
「えへへぇ」
シャドーをやめ、ツヴァイは僕の横にしゃがみ込み満面の笑みで僕の顔を覗き込んできた。足の隙間から見えるふわふわの尻尾も盛大に喜びの感情を表している。
「ツヴァイ、もう一回だ」
「はい、マスター」
「──かはっ!」
僕はボコられ続けながら、ツヴァイの動きを観察した。
「まだまだぁ!」
「はい、マスター」
「──ぐぇ!」
スピードで勝る僕の攻撃は避けられ、ツヴァイの前に膝を突く。
軽く汗をと始めた訓練が、次第に熱を帯びていく。
「もう一丁!」
「はい、マスター」
「しまった、そっち──かはぁ!」
少しツヴァイの動きに慣れたと思った矢先、ツヴァイがフェイントなどの小技をいれ始めた。
勉強になる。
僕は自分が強くなったつもりでいた。
まぁ実際、体は強い。いわゆる心技体のうち、体だけを手に入れた。でもそれは、自分の努力で手に入れたものではなく、借り物の強さだ。
それであのドラゴンのくだりとか……まじ、恥ずかしい!
新しい黒歴史だわ。
己の分をわきまえるって大切だ。少し前まで僕はただの臆病なダンジョンコアだったのに。
でもいつか。
心と技を自分で手に入れて、この体を十全に使いこなしてみたい……そんな気持ちもある。
「ふぅ、ちょっと休憩しよっか」
「はい、マスター」
僕は床に腰かけ、ツヴァイもそれに倣う。
「しかしツヴァイは楽しそうに戦うな」
「ツヴァイ、戦うの好きです。マスターと一緒も嬉しいです」
えへへぇと照れ笑い、垂れた両耳を両手で撫でるツヴァイ。
「そっか。僕は戦うのちょっと苦手だな」
「えぇ! 勿体無いです、マスター」
肩を落とし残念そうなツヴァイの言葉は、僕にとって意外なもので。
「勿体無い?」
つい、おうむ返しをすると。
「マスター、すごい速さで強くなってます。だからツヴァイも負けてられない!」
「そっか」
ツヴァイに指一本触れられずボコられ続けた僕は上達の実感がなかった。
いまのもお世辞なのかどうなのかわからない。
それでも、ちょっと嬉しいかも。
「はい、マスター」
ツヴァイの満面の笑みが僕を肯定してくれている、ような気がした。
彼女の尻尾に連動し、いつもは垂れている犬耳がパタパタ動く。
これは頭を撫でて欲しいときに顔を出す癖だ。
僕がふわりと頭に手をのせたとき。
ふと名前の件を思い出した。
「あ、そうだ。ツヴァイ、もし僕に名前を付けるとしたら、なにがいいと思う?」
ツヴァイは驚きの表情で。
「え? マスターから別の名前に変えちゃうんですか?」
「え……?」
僕の名前はマスターじゃないよ、ツヴァイ。千年くらい一緒にいるのになんで知らないの?
「……」
「あー、いや、ごめん。変なこと聞いちゃって。……続き始めよっか」
「はい、マスター」
……まぁ、名前なんかどうでもいいか。
僕は装備完成までの時間をほぼ訓練に当てることにした。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
中条景泰に転生した私。場所は魚津。目の前には織田の大軍。当主も越後に去り、後は死を待つばかり。今日は天正10年の6月2日……ん!?
俣彦
ファンタジー
ふとした切っ掛けで戦国武将に転生。
しかし場所は魚津城で目の前には織田の大軍。
当主上杉景勝も去り絶望的な状況。
皆が死を覚悟し準備に取り掛かっている中、
暦を見ると今日は天正10年の6月2日。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる