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序章 終わりの始まり
06 ドライの新装備
しおりを挟むその日もツヴァイを相手に訓練をしていると、ダンジョン管理を代行するアインスの声が部屋に響く。
装備完成の報告だ。
僕はツヴァイを伴いコアルームへ移動した。
アインスとドライが片膝を突いて僕を迎えてくれる。
僕はもっと楽にして欲しいけど、守護者たちがこれだけはと固辞する。だから毎回その後は楽にしてもらってる。
さて、ドライが作ってくれた最高の装備は。
「……ん?」
僕はそれを一目見て、言葉に詰まった。
素人目にも素晴らしい出来。女神の加護が付与された黄金鎧にも迫る勢いを感じるけど……。
「お気に召しませんでしたか?」
アインスは僕のなにかを察したようだ。その言葉に反応して。
小さな体をビクリと震わせるアイテム制作責任者ドライ。
炎を思わせる真っ赤な髪は鎮火寸前のように力なく。
赤い瞳は不安に揺れ、風になびく炎のように揺蕩う。
「いや、凄く出来はいいと思うよ。でも音が出るから偵察向きじゃないかな……」
僕の眼前には黒光りする全身鎧が大きな薙刀を持って仁王立ちしており。
僕はそれをやんわり否定した。
「消音効果の付与はしました!」
ドライの必死の訴え。
でもごめん。
本当の問題はそこじゃない。
「あー、僕が始めにもっと明確な指示を出しておけばよかったよね。今回は偵察だから鎧じゃない方がいいかなって思ってて」
僕は自分の着ているジャージをつかんで続けた。
「このジャージみたいに素材を繊維状に加工して作った、見た目は普通で実は強化された服みたいな物がいいかな。デザインは現地人に自然と溶け込める感じの違和感がないものにして欲しい」
僕の意見に。
「かしこまりました。考えが及ばず申し訳ありません」
ドライが膝を突き、頭を下げて答える。
「アインス、食べた人間の服一覧を資料として出してあげて。あ、できるだけ新しいもので。デザインの参考になると思うから。なるべく庶民的なやつがいいかな」
僕の黒歴史時代、女神の手によって人の領域にも数多くのダンジョン入口が作られ。
たくさんの人間がダンジョンで死んだ。
「かしこまりました」
アインスがさっそくデータの照会に入った。
「ドライ、この鎧は別の機会に必ず使わせてもらうからね。格好いいから」
実はこの鎧のデザインけっこう好きだ。
「ありがとうございます。次こそは必ずご期待に添えるものをお持ちします」
ドライの目に決意の炎が宿ったような気がした。
「いい服、楽しみにしてるよ。ツヴァイ訓練に戻ろうか」
「はい、マスター」
僕は終始空気だったツヴァイと再び訓練に戻った。
◇
その数日後、ジャージ姿の僕とツヴァイはコアルームいた。新装備完成の報告が届いたのだ。
「こんなにたくさん作ってくれたの? じっくり見させてもらっていいかな」
ドライの作品がコアルームに大量に並ぶ。服以外に小物も多い。
「はい、マスター」
膝を突いたドライがやや硬い表情で答えた。
「ドライ、説明してもらってもいい?」
「もちろんです!」
ドライの案内で一点一点を見比べる。
さすがはドライ。
僕と趣味を共有する出土品愛好家仲間──ま、ドライの場合はアイテム作りの素材としての興味が強いから、僕の収集癖とはベクトルが少し違うけど──僕の趣味嗜好をよくとらえている。
なにげない小物にも特殊効果の付与がされた丁寧な仕事ぶりは職人ドライの本領発揮だ。
「最高だね、ドライ」
「──ありがとうございます!」
僕の言葉に弾かれたようにドライは勢いよく腰を折ると、無造作に腰まで伸びた赤髪が炎のように舞う。
まだ幼さを残すドライの表情は火が灯ったように明るくなった。
さっそく、いまの装備を全部外して収納に放り込む。
守護者たちもどの装備を選ぶのか興味津々といった風に僕に熱い視線を注いでいる。
その視線が少しくすぐったい。
まずはインナーから。
ブリーフ、トランクス、ボクサーの三択か。僕は黒いボクサーパンツを選び、白い半袖Tシャツ。ついでに黒の靴下を装備した。
肌触り抜群、伸縮性もいい。軽くて薄いのにさっきまで着ていたジャージ以上の防御力。
「これだけでもすごいね、ドライ」
僕は感動的な装備の出来に少し興奮気味にそう伝えると。
「はい、マスターもすごいです!」
ドライも興奮気味にそう返した。
「え? なにが?」
「……」
ドライから返事はなく、アインスは大きく咳ばらいをし、ツヴァイはニヤニヤしていた。
……まぁ、いいか。
アウターは細めのジーパンと七分丈の黒いシャツ。
黒ぶちの伊達眼鏡と白いキャップ。
靴は白のスニーカー。
鞄は黒のリュックサック。
腕時計と……よくわからない紐状の腕輪を二つ、指輪を左右に三つずつ、シルバーっぽいネックレスもしておいた。
これで防御力最強!
なんか遠足前の気分になってきた。
リュックサックになに詰めようかな……。
僕たちの戦いはこれからだ──。
序章完
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