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第一章 初めての外界
01 平和な世界
しおりを挟むオルワルドの大地は、歪な星型の中央大陸を花の花序とするならば、その東西南北に位置する各大陸は巨大な四枚の花弁と言える配置と形状をしている。
それは中央大陸の反対──世界の裏側に存在する魔大陸から見ても同様だ。
僕はいま西大陸ど真ん中から、やや南東に位置する。
海と街が一望できる景色のいい山の頂上で。
「ヤッホー」
と、超ベタな奇声を上げていた。
正直、まだ外の世界に不安はある。無理に大声をあげてもそれは変わらない。
でも空が青くて、風が気持ちいい!
「もっと早く外に出るべきだったな、こりゃ……」
僕はぽりぽりと頬をかき、嘆息した。
外が、外敵が怖くて千年単位で引きこもっていた僕が心からそう思えるのは、アインスの持ってきた分析結果を聞いたからだ──。
僕は女神からスキル【魔素感知・神級】をもらって以来、自分の頭に鞭打って何度かスキルを使ってみた。理由は情報収集ため。
魔素の状況がわかれば見えてくるものがある。
ま、アインスの受け売りだけど。
オーバースペックな神級スキルは力不足の僕に大きな負担を強いる。
症状は人間風に言えば、激しい頭痛、めまいや吐き気みたいな感じ。
そんなだから短時間しか使えないし、十分な休憩が必要だ。ちょっと無理をしたらスキル使用時の記憶がぶっ飛んだ。それ以来、【魔素感知・神級】の使用はアインスが許可してくれない。
つまり得られる情報は少ない上、グロッキー状態で成果をアインスへ伝えていたわけだ。
そんな要領を得ない、わずかな情報をアインスがうまく汲み取り分析してくれた結果。
「人は世界の半分を諦めた可能性が極めて高い、と推測されます」
アインスは僕にそう告げた。
オルワルドは中央大陸を中心とする人の領域と、魔大陸を中心とする魔物の領域に二分される。
その半分を諦めたってことは。
「人の領域に引きこもり、魔物と関わらないように生きているってこと?」
「ほぼ間違いないかと……。魔物の領域で例外的な場所がいくつかありそうですが──そちらは情報を精査中です」
人が魔物を殺さない。だから魔素の消費がない。
その結果、世界が滅びそうってこと?
もしその仮定どおりなら、オルワルドって欠陥住宅ならぬ、欠陥世界だろ……。
「まじか……」
「はい、マスター」
「そりゃ、魔物は人の領域に入れない。素材、経験値……あとは食材利用くらいか。まぁ、いろいろと諦めたら無理にリスクをとる必要はない……か」
リスクを避けた生き方。僕の考え方にそっくりだと思いながら続けた。
「安全に穏やかに暮らせる方法に人類は気がついちゃったんだ。ま、その判断が結果的に世界の危機につながるのは皮肉だけどね」
しかし僕はスキルでだいたい把握したけど、魔物の領域と人の領域はきれいに世界を二分しているわけじゃない。
境界線はけっこう入り組んでいる。
その判別作業は時間と労力、そしてたくさんの犠牲が必要だったに違いない。
「ところでマスター、最初の外出先ですが……西大陸の中央──人と魔物の領域の境界を確認していただけませんか?」
「オッケー。で、具体的にはなにをしたらいいの? ただそこに行くだけってわけじゃないでしょ」
「はい、マスター。実は──」
そんなアインスとのやり取りを思い出しながら、山頂から街並みを望む。
初めての景観だけど不思議と懐かしい。
僕は既視感に似た感覚に引き寄せられるように舗装された山道を下ると。
「まんま日本の田舎じゃん……」
僕は無意識にひとり呟きながら、キョロキョロと不審者オーラ全開で南西に見えた、位置的に人魔の領域境界線にかなり近いはずの港町を目指して歩き出した。
周囲は見渡す限り田んぼと畑。ビニールハウスなんてものまである。
それを区切るようにある道路はアスファルトで舗装され、それに視線を這わせていると、数百メートル先を車が走り抜けた。
たいして詳しいわけじゃないけど僕の感覚でいえば、かなり古いデザインの自動車だ。
さらにこの世界には信号があって、木製の電柱があって、電線がある。
僕のイメージする異世界像がばらばらと崩れていく。
なんか笑える……。
こんな穏やかで日本的な世界を恐れていたなんて。
僕は恐れるばかりで目をそらし、地上の情報を遮断してきた。もっと他にやりようがあったかも。今更だけどね。ま、僕はまだまだ生きるつまりだから今後の教訓ってことにしておこう。
「お、軽トラっぽい」
道路わきに無造作に路駐された軽自動車サイズのトラック。その近くのビニールハウスには農作業をするおじいさんとおばあさん。
僕はふたりに目が合ったので軽く会釈し、その場を通り過ぎた。
ふたりはなぜか少しの間じっと僕を見つめ、作業に戻った。そのあとも農作業するたくさんの人を見かけたけど似たような反応だった。
「僕みたいな人種は珍しいのかな」
元日本人の僕が作った分体は日本人っぽい。というか、まんま前世の僕だ。ひとつだけ言い訳させてもらうと、別にこの容姿は自分でデザインしたわけじゃなく、デフォルトがそうだったというだけ。まぁ自分の体を作りますってときに、一番強く連想したのが前世の僕だったってだけだと思うけど。
で、いじるのが面倒だからそのままにした。
対して、僕が今までに見たオルワルド人は女神を含め、すべて白人に近い。
白い肌、堀が深く、鼻が高い。
そんな些細なことが現状を再認識させてくれる。ここは日本ではなく、僕の知らない場所であると。
のんびりした光景がしばらく続き、僕ものんびりと考えながら歩いていたら。
「ねーそこのお兄さん。こんなところを歩き? どこから来たの?」
突然、声をかけられ。
僕の肩は跳ね上がった。
あー、びくった。心臓に悪いからいきなりはやめて欲しい。
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