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第一章 初めての外界
02 いいニュース
しおりを挟む僕は声の方へ向くと。
車──オフロード車とトラックの中間のような、まるで装甲車を思わせる無骨な一台の車。ガンメタリックの車体がそれをより際立たせているようにも思えた。
声の主は助手席から体を乗り出した金髪の美人らしく、目が合うと。
「どこから来たの?」
同じ質問を笑顔と興味本位が入り混じったような表情でぶつけてきた。
僕は一瞬きょどり、キョロキョロと辺りに僕しかいないことを確認して、最後に自分を指差した。
「……あ、僕ですか?」
それに対して。
「そうそう」
と、金髪美女は笑顔でうなずき肯定した。
僕は少し迷ったけど、嘘を考えるのが大変だから。
「どこからって……山からですど──」
さっき下った山を指差しながら素直に答えた。
「やまぁ?」
金髪美人は、僕の想定外の答えに何を思ったのか素っ頓狂な声をあげ、少しなにかを耐えたのち、堰を切ったように笑い転げた。
確かに山から来たなんて変な答えだけど、事実だからしょうがない。でもちょっとこの人、笑いすぎ。
初現地人との会話に実は緊張気味だった僕。
ツボにはまった彼女の泣き笑い姿を見ていたら、けっこう冷静になれた気がした。
彼女の年は二十歳くらい。笑い転げ、振り乱れた状態でも神々しく輝く金髪は素人目でもわかるほど手入れが行き届いている。服装はOLか就活生って感じにしか見えないけど、オルワルドにもスーツってあるんだな。
その奥の運転席には、やはりスーツ姿の壮年男性がハンドルを握っていて、僕の方をじっと見ている。いや、睨まれていると言ってもいい感じだ。
彼氏というには年が離れすぎている感はあるけど、年の差カップルなんてよくある話。声をかけられたついでに情報収集をしたいのは山々なんだけど、彼をあまり刺激したくないってのが本音かな。だって、僕を見る彼の目が徐々にきつくなってきているから。
ひとしきり笑い終わった彼女は、咳ばらいをして。
「……ごめんなさい」
と、謝罪したと思ったら、ころっと表情を笑顔に戻し続けた。
「で、お兄さんはどこまでいくつもり?」
「えーとりあえず、この道の先にある港町までいこうかと」
「……セイナン市まで?」
なんだろう。表情は変わってないけどちょっと声のトーンが落ちたような。
「ええ、まぁ」
たぶん。
あの港町がセイナン市なら。
「なぜ、こんな時期にわざわざ?」
彼女の意外な言葉に。
「こんな時期?」
おうむ返しで聞き返した。
その僕の返答が気に入らなかったのか、なぜか壮年男がしびれを切らし、運転席から怒鳴るように叫ぶ。
「君はニュースを見てないのか? いま、セイナン市周辺で急激に野獣、魔獣、魔物被害が増加しているんだぞ。子供でも危険だとわかるだろ。だからなぜ、わざわざこんな時期にと聞いている」
事情はわかったけど怒鳴るなよ。カルシウム不足か? って顔で僕が壮年男を見たら、十倍返しのその筋の人を思わせる恐ろしい形相で睨み返された。
この人、こわっ。
僕は金髪美女に視線を合わせ、金髪美女に話をする。
「野獣、魔獣、魔物、ですか? それは大変ですね」
野獣とはいわゆる野生の獣。それが魔素を取り込み進化すると魔獣となる。
どうやら僕はすごくいいタイミングでここに来たみたいだ。
「まるで他人事だな。まさか本当に知らなかったのか……」
壮年男は呆れたといった感じで首を振る。
ちょっとあんたには話してないのに割り込んでこないで欲しい。
「私が彼と話をしている。少し黙っていろ、ベルトラム」
冷ややかな声がとぶ。
おっさん怒られてやんのと思いつつ、なぜか僕も怒られた学生のようにピシッと直立不動の気をつけの姿勢をとっていた。
「し、失礼しました。お嬢様」
「部下が失礼しました」
「あ、いえ……」
お嬢様とベルトラムか。ふたりには明確な上下関係があるようだ。若い彼女が上司で、おっさんのベルトラムが部下。どうやた年の差カップルでもないっぽい。
ってか、この人たち何者?
まぁ、それはこの際どうでもいいか。魔物絡みの情報が欲しい。もっと詳しく。
「なんか僕の方こそ無知ですいません。僕、セイナン市のおじさんのところへ行く途中なんですが、なにも知らなくて……ニュースも見てなくて、教えて下さい。どんな被害が出ているんですか?」
「もちろん、いいわよ。あ、ところでまだ貴方の名前を聞いてなかったわね」
うわ、きた。
あれ……前世の名前ってなんだっけ。えーと。あーもういいや。
「……僕のことはマスターと呼んでください。そう、みんなに呼ばれるので」
「そう、マスターよろしくね。順を追って説明するから──」
「あ、ちょっと待って。まだ名前聞いてないよね」
「──え?」
「いや、僕はあなたの名前を知らないので……」
「……あ、ごめんなさい。私はアナスタシア。改めてよろしく、マスター」
「うん。こちらこそよろしく、アナスタシア」
意外とすんなり僕のマスター呼びを受け入れたアナスタシアが、嘘の混じった質問に答えてくれた。
「事の起こりは、セイナン市の田畑が野獣に荒らされる被害が続発した件。これは知っている?」
僕は首を横に振りながら、農家の人たちの様子を思い出し妙に納得してしまった。
ピリピリしている時期に普段はない歩行者の存在。僕は彼らをさぞ驚かせたのだろう。
「じゃあ当然、軍と警察が野獣の排除にあたったことも?」
「うん、初耳」
「だよね。実はそのときに世界を揺るがす大事件が起こったの」
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