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邪神さまとサンドイッチ
「邪神さまはどうして地上に?」
神とは天界にいるものではないのか?
朝食の時間も終わる頃、気になった俺は問いかけてみることにした。
……膝に乗っかっている邪神さまに。
ご飯食べよ~、とワゴンを押してきた美少年。総菜サンドイッチや果物が挟まれたデザートイッチまで。パーティのようにずらりと並ぶ。皿が。床に。
こんなに大量の食事を目にしたのは初めてだ。口が開いてしまう。
床に座っている俺を座椅子代わりにすると、邪神さまは指差すだけ。
『あのイチゴのやつがいい~』
「えっと」
取れってこと?
失礼して前のめりになり、赤い実が挟んであるパンを手に取る。
「どうぞ……?」
『あーん』
お口を開けてじっとしている。
食べさせろと?
小さなお口に近づけると、白いパンをはむっと齧った。細長いお菓子でも食べているような速度ではむはむと口に吸い込まれていく。
(おもしろ……)
『スカイメロン取ってー』
「はい」
『次、パイナップリュ』
「んふ。はぁい」
邪神さまに食べさせるだけの簡単なお仕事です。
『白いクリームの取ってー』
「邪神さま。お野菜も食べないと」
我ながら命知らずなことを言ったと思う。顔だけ振り返った邪神さまは「ガーン」の表情だった。
『ドールちゃんまでそんなこと言う』
やだやだ甘やかして、と言わんばかりに俺に抱きつき、額を擦り付けてくる。
ドールちゃん「まで」ということは、他にも言われたのだろうか。邪神さまに? 誰が? 俺のような命知らずが他にもいるのか。
これ以上は命に関わると思い、クリーム入りに手を伸ばす。
「どうぞ」
『わあぁっ。ドールちゃんは優しいんだね』
目を子どものように輝かせ、はむはむと吸い込んでいく。この小さなお口によく入るなと思う。
『ドールちゃんは、どれがいいー?』
「え?」
俺にもくれるのか?
てっきり「自動、口に運ぶ機械」に徹しろとばかり……
「ハムと、チーズのものを。良ければ」
『あ、野菜を選ばないってことはー? もしかしてドールちゃんも?』
仲間を見つけた顔で、悪い笑顔を披露なさる。
困り眉でニシシッと白い歯を見せて、身体を小刻みに揺らして笑う。なんだか弟ができたような錯覚が。いや油断するな俺。気を引き締めろ死ぬぞ。それと俺の弟にしては顔の造形が良すぎる。
「いえ、その。……虫や雑草は食べ飽きたといいますか……。身体が肉や乳製品を欲しているといいますか」
『ドールちゃん草食べてたの? 人間が食べたらお腹壊しちゃう草を多く配置したから、やめなー?』
草を配置。なんだろう、この創造神しか吐かないようなセリフは。貴方はモンスターの創造神なのに、もしや他の生き物も担当しているのか。
謎だ。
「は、はい」
『ハムとチーズ。これだ。はい、あーん』
俺の膝で俺以上にくつろぎながら、サンドイッチを差し出してくる。受け取ろうと手を差し出すも、サファイアの瞳はまったく手を見てこない。
「あ、あーん」
仕方なく口を開けるとやわらかなパンが押し込まれた。
「ふがっ」
『おいしい? おいしい?』
食べさせるとすぐに感想を聞いてくるタイプかな?
久しぶりにまともな食事。だが感想を訊かれていて、「早く答えなければ」と焦る俺は味わう暇もなく咀嚼した。口内が見えないように手で隠す。
「おっ、おいひいへふ」
『かわいいー。次はどれがいい?』
待って下さい。人間はダイ〇ンみたいに次々いけないんです。バターと塩気が利いていて、ハムチーズの相性が抜群、とかもっと感想を言わせてください。ひっさびさのまとも飯なんです!
でも待たせるのは無礼だと感じて、適当にチキンサンドを指差す。
「ふごっごごごご」
『鶏肉好きなの?』
なんで分かったんですか邪神さま。心読めますか?
『はい。あーんしてね』
「もがっ! ががががが」
ぐいぐいと詰め込まれる。
サンドイッチを三つほど口に押し込まれたところでひっくり返った。
死んでると扉が開く。
「邪神さま。お飲み物をお持ちしました」
沢山の瓶詰ドリンクや果実を乗せたワゴンを押し、メイドさんが入室してくる。親しい間柄なのか、邪神さまは「はやくー」と手を振っていた。
『僕のドールちゃんが動かなくなっちゃったんだよー! きっと喉に詰まったんだ。ジュースジュース!』
「お、落ち着いてください。ドールちゃんってなんですか?」
ふっと、俺とメイドさんの目が合う。「人間だ!」とメイドさんは叫んでいた。
頭痛そうに額を押さえる。
「また勝手に拾ってきて……」
『あーん。どうしようー。僕のわんちゃんがぁ』
邪神さまには俺が犬に見えていたのか。メイドさんのスカートに縋りついてわんわん泣いている。……あんなに悲しんでくれるなんて。俺のことで泣いてくれたのは親を除けば、邪神さまが初めてだったかもしれない。
スカートに邪神さまをくっつけたまま俺の近くに寄ると、詰まっていたパンを引っこ抜いてくれた。
ありがとうございます。この恩は忘れません。
「はあ……川の向こうでじーちゃんが手を振ってた」
「人間風情が入り込むなど」
特大の舌打ちが聞こえた。
思わず固まってしまったが脳内では爆速で、嫌われていることは理解する。
頭は下げておく。
「ありがとうございます」
「邪神さま。もう大丈夫そうですよ」
スルーされたが、飼い主は飛びついてきた。
『ドールちゃん。死んじゃ駄目ぇ~。死んだらねぇ? サンダリン(冥府の神)の物になっちゃうんだよー? あいつ独占欲強くて取り返すの面倒なんだから。死んじゃいけません。ドールちゃんは、僕の物なんだからね?』
俺の服を握りしめ、潤んだ瞳を近づけてくる。
「はい。(あなたに殺されかけたんですけど)申し訳ありません。そう言っていただけて、嬉しいです」
『むふっ。聞いた聞いた~? ドールちゃんは、僕に懐いてるんだよ?』
「良かったですね」
メイドさんに自慢する邪神さま。無邪気だ。
(目が笑ってない)メイドさんはクソどうでも良さそうに頷き、カップを用意する。
「ホットですか? アイスですか?」
『オレンジジュース! アイスで』
メイドさんは俺にも笑みを向けてくれた。
「そこの、クソ人間様はどうなさいますか?」
「え、あ。俺も同じものを。ホットで」
「気安く話しかけるな」
「……」
どうしろと?
オドオドしながら見守っていると、きちんと二人分を用意してくれた。一つは湯気が立っている。
『ドールちゃんはオレンジをホットで飲むの?』
変わってる~と言いたげにグラスを両手で持つ邪神さま。寒かったんで、ホット以外口にしたくない気分ですね。
「アイスだとお腹冷えますから。邪神さまは、冷えませんか?」
『ドールちゃんとくっついてるから平気~』
俺を背もたれにして、両足をバタつかせている。正座しているメイドさんは静かに控えつつ、チンピラのような形相で睨んでくる。俺、何かしたかなぁ……。
口にしたオレンジホットはまろやかで甘い。ちっとも酸っぱくなくて飲みやすい。
「おいしい……」
「貴様には勿体ないな」
爽やかな笑顔のメイドさんが毒を吐いてくる。
「初めまして。俺は……ドールと申します。あなたは?」
「っ」
挨拶されると思っていなかったのか、メイドさんの肩が大袈裟なほど揺れた。邪神さまははむはむしつつ、目だけ俺たちに向けている。
邪神さまの手前。シカトできなかったようで、そっと胸に手を当てた。
「下等種族がぁ……。私は、ナメンソン。よろしくしなくていいですよ」
ガックガク震えておられる。すごい。こんなに引き攣った笑みは見たことがない。
「よろしくお願いします」
俺がぺこっと頭を下げるとワゴンを押して、「失礼します!」と去っていく。
しばし見送ったのち、止まることなくパンを食い続けている美少年に目を落とす。
「『彼』は……? モンスター、ですか? 獣人ではないですよね」
神とは天界にいるものではないのか?
朝食の時間も終わる頃、気になった俺は問いかけてみることにした。
……膝に乗っかっている邪神さまに。
ご飯食べよ~、とワゴンを押してきた美少年。総菜サンドイッチや果物が挟まれたデザートイッチまで。パーティのようにずらりと並ぶ。皿が。床に。
こんなに大量の食事を目にしたのは初めてだ。口が開いてしまう。
床に座っている俺を座椅子代わりにすると、邪神さまは指差すだけ。
『あのイチゴのやつがいい~』
「えっと」
取れってこと?
失礼して前のめりになり、赤い実が挟んであるパンを手に取る。
「どうぞ……?」
『あーん』
お口を開けてじっとしている。
食べさせろと?
小さなお口に近づけると、白いパンをはむっと齧った。細長いお菓子でも食べているような速度ではむはむと口に吸い込まれていく。
(おもしろ……)
『スカイメロン取ってー』
「はい」
『次、パイナップリュ』
「んふ。はぁい」
邪神さまに食べさせるだけの簡単なお仕事です。
『白いクリームの取ってー』
「邪神さま。お野菜も食べないと」
我ながら命知らずなことを言ったと思う。顔だけ振り返った邪神さまは「ガーン」の表情だった。
『ドールちゃんまでそんなこと言う』
やだやだ甘やかして、と言わんばかりに俺に抱きつき、額を擦り付けてくる。
ドールちゃん「まで」ということは、他にも言われたのだろうか。邪神さまに? 誰が? 俺のような命知らずが他にもいるのか。
これ以上は命に関わると思い、クリーム入りに手を伸ばす。
「どうぞ」
『わあぁっ。ドールちゃんは優しいんだね』
目を子どものように輝かせ、はむはむと吸い込んでいく。この小さなお口によく入るなと思う。
『ドールちゃんは、どれがいいー?』
「え?」
俺にもくれるのか?
てっきり「自動、口に運ぶ機械」に徹しろとばかり……
「ハムと、チーズのものを。良ければ」
『あ、野菜を選ばないってことはー? もしかしてドールちゃんも?』
仲間を見つけた顔で、悪い笑顔を披露なさる。
困り眉でニシシッと白い歯を見せて、身体を小刻みに揺らして笑う。なんだか弟ができたような錯覚が。いや油断するな俺。気を引き締めろ死ぬぞ。それと俺の弟にしては顔の造形が良すぎる。
「いえ、その。……虫や雑草は食べ飽きたといいますか……。身体が肉や乳製品を欲しているといいますか」
『ドールちゃん草食べてたの? 人間が食べたらお腹壊しちゃう草を多く配置したから、やめなー?』
草を配置。なんだろう、この創造神しか吐かないようなセリフは。貴方はモンスターの創造神なのに、もしや他の生き物も担当しているのか。
謎だ。
「は、はい」
『ハムとチーズ。これだ。はい、あーん』
俺の膝で俺以上にくつろぎながら、サンドイッチを差し出してくる。受け取ろうと手を差し出すも、サファイアの瞳はまったく手を見てこない。
「あ、あーん」
仕方なく口を開けるとやわらかなパンが押し込まれた。
「ふがっ」
『おいしい? おいしい?』
食べさせるとすぐに感想を聞いてくるタイプかな?
久しぶりにまともな食事。だが感想を訊かれていて、「早く答えなければ」と焦る俺は味わう暇もなく咀嚼した。口内が見えないように手で隠す。
「おっ、おいひいへふ」
『かわいいー。次はどれがいい?』
待って下さい。人間はダイ〇ンみたいに次々いけないんです。バターと塩気が利いていて、ハムチーズの相性が抜群、とかもっと感想を言わせてください。ひっさびさのまとも飯なんです!
でも待たせるのは無礼だと感じて、適当にチキンサンドを指差す。
「ふごっごごごご」
『鶏肉好きなの?』
なんで分かったんですか邪神さま。心読めますか?
『はい。あーんしてね』
「もがっ! ががががが」
ぐいぐいと詰め込まれる。
サンドイッチを三つほど口に押し込まれたところでひっくり返った。
死んでると扉が開く。
「邪神さま。お飲み物をお持ちしました」
沢山の瓶詰ドリンクや果実を乗せたワゴンを押し、メイドさんが入室してくる。親しい間柄なのか、邪神さまは「はやくー」と手を振っていた。
『僕のドールちゃんが動かなくなっちゃったんだよー! きっと喉に詰まったんだ。ジュースジュース!』
「お、落ち着いてください。ドールちゃんってなんですか?」
ふっと、俺とメイドさんの目が合う。「人間だ!」とメイドさんは叫んでいた。
頭痛そうに額を押さえる。
「また勝手に拾ってきて……」
『あーん。どうしようー。僕のわんちゃんがぁ』
邪神さまには俺が犬に見えていたのか。メイドさんのスカートに縋りついてわんわん泣いている。……あんなに悲しんでくれるなんて。俺のことで泣いてくれたのは親を除けば、邪神さまが初めてだったかもしれない。
スカートに邪神さまをくっつけたまま俺の近くに寄ると、詰まっていたパンを引っこ抜いてくれた。
ありがとうございます。この恩は忘れません。
「はあ……川の向こうでじーちゃんが手を振ってた」
「人間風情が入り込むなど」
特大の舌打ちが聞こえた。
思わず固まってしまったが脳内では爆速で、嫌われていることは理解する。
頭は下げておく。
「ありがとうございます」
「邪神さま。もう大丈夫そうですよ」
スルーされたが、飼い主は飛びついてきた。
『ドールちゃん。死んじゃ駄目ぇ~。死んだらねぇ? サンダリン(冥府の神)の物になっちゃうんだよー? あいつ独占欲強くて取り返すの面倒なんだから。死んじゃいけません。ドールちゃんは、僕の物なんだからね?』
俺の服を握りしめ、潤んだ瞳を近づけてくる。
「はい。(あなたに殺されかけたんですけど)申し訳ありません。そう言っていただけて、嬉しいです」
『むふっ。聞いた聞いた~? ドールちゃんは、僕に懐いてるんだよ?』
「良かったですね」
メイドさんに自慢する邪神さま。無邪気だ。
(目が笑ってない)メイドさんはクソどうでも良さそうに頷き、カップを用意する。
「ホットですか? アイスですか?」
『オレンジジュース! アイスで』
メイドさんは俺にも笑みを向けてくれた。
「そこの、クソ人間様はどうなさいますか?」
「え、あ。俺も同じものを。ホットで」
「気安く話しかけるな」
「……」
どうしろと?
オドオドしながら見守っていると、きちんと二人分を用意してくれた。一つは湯気が立っている。
『ドールちゃんはオレンジをホットで飲むの?』
変わってる~と言いたげにグラスを両手で持つ邪神さま。寒かったんで、ホット以外口にしたくない気分ですね。
「アイスだとお腹冷えますから。邪神さまは、冷えませんか?」
『ドールちゃんとくっついてるから平気~』
俺を背もたれにして、両足をバタつかせている。正座しているメイドさんは静かに控えつつ、チンピラのような形相で睨んでくる。俺、何かしたかなぁ……。
口にしたオレンジホットはまろやかで甘い。ちっとも酸っぱくなくて飲みやすい。
「おいしい……」
「貴様には勿体ないな」
爽やかな笑顔のメイドさんが毒を吐いてくる。
「初めまして。俺は……ドールと申します。あなたは?」
「っ」
挨拶されると思っていなかったのか、メイドさんの肩が大袈裟なほど揺れた。邪神さまははむはむしつつ、目だけ俺たちに向けている。
邪神さまの手前。シカトできなかったようで、そっと胸に手を当てた。
「下等種族がぁ……。私は、ナメンソン。よろしくしなくていいですよ」
ガックガク震えておられる。すごい。こんなに引き攣った笑みは見たことがない。
「よろしくお願いします」
俺がぺこっと頭を下げるとワゴンを押して、「失礼します!」と去っていく。
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クスッと笑えて、気づけば胸を撃ち抜かれている。
理性崩壊系・文学ラブコメ、堂々開幕。
※他サイトにもタイトル話、二話目、三話目のみ再掲。
※二年前の作品です。改稿しようとして断念しました。