邪神さまのペット

水無月

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第一の芸

邪神さまは芸を仕込みたい

 か、考えてなかったんかい!
 唇に人差し指を当て、「えーっとぉ」と悩んでおいでだ。

『アクティとか?』

 ――アクティさまは人間が買い物できるって、多分知ってますよ。

 なんせ人類の産みの親だ。
 しかし、買い物か。

「買い物なら……。行ってきますよ」
『えへへ? ドールちゃんにできるかなぁ~』

 顎をくすぐられ、「んっ」と変な声が漏れる。邪神さまの爪はいつも丸く切りそろえられているので、とっってもくすぐったい!

「ひゃあ」
『くすぐりに弱いドールちゃん、かわいい~』

 こちょこちょと細い指先が肌を這いまわる。
 たまにこうやってくすぐり攻撃をされるのだ。お許しを、お許しを!

「ひゃひひひひひ! あはっ、無理! あはははっあ。ああうひゃああっ」
『もうギブアップかにゃ? んん? んん?』

 床に転がった俺の背中に跨ってくる。後ろから回された腕が、胸やお腹をこしょこしょしてきて転げ回りそうだ。
 間違っても殴り飛ばしてはいけない。なにか掴む物でもあれば……

「邪神さま! くすぐったいで、あひゃああははは、そこ、おやめくださ、ひいいい!」

 ちょうど良い所にあった白タイツに包まれた柱に抱きつく。脚に人間が抱きついてきたナメンソンは人を三~四人は殺した表情だった。それなら助けてくれていいんですよ?
 こちょこちょ。こしょこしょ。

「んっ、んんん……」

 身体が痙攣し始めると、ようやく指の動きを止めてくれた。俺はパタッと力尽きる。
 やれやれと頭を掻いている邪神さま。

『あーん。こんなかわいいドールちゃんを一人外に出して大丈夫かな~? 誰かに取られちゃいそう』

 倒れている俺にまだ座りながら考え込んでいる。背中に当たるお尻の感触はもっちりあたたかい。

『どうしよっか。ナメちゃん』
「邪神さまの物を奪う命知らずなどいないでしょうが……。そうですね」

 顎に指をかけ、ナメちゃんことナメンソンさんが悩む仕草をする。

「ひとり、天使でもつけましょう。見張りに。まあ、首輪の付いた人間など、全生物がスルーするでしょうが……」
『そっか。じゃ、ナメちゃんお願いね』

 いい案だ! とドヤ顔していたナメンソンさんが見事に固まった。

「は、はあっ⁉ わ、私めですか?」

 何故私ガハッ‼ と血を吐いておられる。そんなに嫌かなぁ。嫌なんだろうな。
 俺の髪を撫でながら邪神さまが見上げる。

『嫌なの?』
「万事、このナメンソンにお任せください。完璧に遂行してみせます」

 白い歯が煌めく完全無欠の笑顔だ。素晴らしい切り替えの早さ。見習うものがある。

『ドールちゃん。これ、買い物メモね』

 まだ座ったままの邪神さまがすっと紙の切れ端を渡してくる。背中はあたたかいんですがお腹が冷えてきました。

「はい……」

 差し出された紙を受け取る。
 目を通すと、びっしりお菓子の名前。文字は読めないけど邪神さまが口にされるものに、よくこの模様(文字)が書かれてある。

「「……」」

 俺とナメンソンさんに見つめられ、美少年はぷくうと頬を膨らます。握った拳を上下に振りながら。

『何⁉ 僕にもお菓子を食べる権利はあるよ!』
「食べ過ぎです。太りますよ」

 天使がぴしゃりと告げる。俺はこんな物言いできないからカッケェわ……。

『んむむむ……』
「そんなお顔されてもダメです」
『ちゃんと三日に分けて食べうもん!』

 噛んじゃってる邪神さまが愛らしいっす。

「これは一週間に分けて食べなきゃいけない量です」
『ナメちゃん全然僕にお菓子くれないんだもん! ナメちゃんがいけないんだー』
「ほっとくとお菓子ばっかり食べるからでしょうが!」

 オカンと息子の会話みたくなってきた。
 暇なので頬杖をついて邪神さまを眺めておく。早く下りてくれないかな。
 ぷるぷる震えると、邪神さまが背中にくっついてきた。

『あああ~ん。ナメちゃんがいじめううぅ……』

 肩甲骨辺りにもちもちしたものが押し当てられる。ぬっけぇなぁ。

「よしよし。邪神さま。でもナメさんは間違ったこと言ってませんよ。邪神さまを愛しているが故の台詞です」
『ふえ……』

 溢れそうなほど涙を溜めた瞳が見つめてくる。何を思ったのか、俺の頬ににほっぺを重ねてきた。もっちぃ。ふわふわの髪がくすぐったい。

『ナメちゃん。僕のこと好きなの?』
「きっとそうですよ」
「おい! 勝手なことを言うな」

 今は邪神さましか見えないけれど、降ってきた声音はそこまで不快感を孕んでいなかった。
 起き上がった邪神さまは袖で涙を拭こうとする。さっとナメンソンさんがハンカチを差し出すも、受け取らないし動かない邪神さま。

『……』
「あ、はい」

 ハンカチで涙を拭いてあげている。そういうところは甘やかすんですね。

「じゃあ、そのお菓子たちは、一週間に分けて食べましょう」

 俺の提案に、邪神さまとゴミを見る目のナメさんが同時に顔を向けてくる。

「俺が食べ過ぎないように見てますから」
「そんなこと言って。お前は邪神さまに甘いだろうが。隠れて渡す危険性がある」
「それなら罰を与えてくださって構いません」
『ええ?』

 邪神さまが楽しそうなお声を漏らす。くすぐっちゃおっかな~と企んでいる目だ。

「邪神さまに」
『ええっ⁉』

 絶望に塗り潰す。

「まあ……。飼い犬の責任は飼い主が取るものだしな」
『んええぇ⁉』

 邪神さまが満点リアクションしてくれるので面白い。
 ナメさんは頷く。

「ふん。それならいいだろう。一週間以内に無くなっていたらケツ叩き百回ということで」
「はい」
『えっえ⁉ 決まったの? 決定なの? 僕のお尻が……』

 ぐすん、と俺の上で丸まってしまう邪神さま。なんで始まる前から諦めムードなんですか。
 首を背後に捻る。

「邪神さま。俺と一緒に頑張りましょう?」
『……ドールちゃんが一緒に? そばにいてくれるの?』
「はい」

 邪神さまは人差し指の先を銜える。

『……分かったよ。その代わり、ちゃんと僕を見ててね?』
「はい。しっかり見てます」
『んへへ。ちゅぱちゅぱ』
「指を食べてはダメです」

 ちゅぽん、と引き抜かれていた。

『あー、あーっ!』
「泣くんじゃありません! 赤子のようなことをして! めっ、ですよ」

 サファイアの瞳にこれでもかと涙を溜め、頬をぱんぱんに膨らます。 

『んぶううううう』
「なんですか⁉ ほっぺ膨らまして。威嚇のつもりですか?」

 はよ下りてくれないかなぁ。

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