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第一の芸
邪神さまの天使
「あっ……ぁあ」
倒れ込み、袋から買ったばかりのお菓子が転がってしまう。拾おうと伸ばした手は、震えていた。風邪でも引いたのか、俺は。
「ナメさん。ペットちゃんが」
「くそが」
息をするように悪態をつくと、マッスルイケメンは俺を抱き締めた。
「……」
圧がある。挟まれる。
真っ先に浮かんだのがこの言葉だった。
いつも抱きついてくるのがわたあめのような美少年だけだったので、胸筋と腕の筋肉にむぎゅっと挟まれ思考停止する。
「ナメ……?」
「黙っていろ」
ベストを脱ぎ捨てると、ナメンソンさんの背中から輝く白い翼が出現した。サナギを割って蝶が出てくるように、ふかふかの羽毛が姿を現す。シャツには、翼用の穴が開けられていた。
「つばさ……?」
天使なので、白い羽があるんだろうなーと予想はしていたけれど、
「ナメさん白い翼なんですか⁉ 嘘だ! あんなに口と目付き悪いのに!」
つい正直に叫んでしまった。詐欺ですね。絶対黒翼だと思っていた。
リップルが噴き出し、ナメさんは鬼の形相で俺を睨んでくる。ヒェッ。
顔面を鷲掴みにされた。
「無礼な生き物め。坂道でぶち転がしてやろうか」
俺の頭部から割とシャレにならない音がする。ミヂミヂって。
「ナメさんダメよ! 邪神さまの持ち物よ」
リップルさんが俺の代わりに止めてくれたので九死に一生を得た。もうこの店に足を向けて眠れない。
「チッ。おい。いいかクソ人間」
「ドールです」
「黙れ。口を開くな。精神汚染系の力を持つモンスターが近づいているんだボケが。私たちは平気だがお前はどうだろうな。一応聖壁(バリア)を張ってやるから動くなカス」
守ろうとしてくれていたんですね。失礼なこと言っちゃったよ。
「通り過ぎるだけでしょうから、ペットちゃんは目を閉じていなさぁい? いいって言うまで、目を開けちゃ、ダメよん?」
「はい! 分かりました」
「なんで私の時よりハキハキ返事しとるんだ貴様……」
だってナメさんコエェもん。
目を閉じ、筋肉に抱きつく。舌打ちが聞こえたが、引き剥がそうとはしてこなかった。背中や肩にもふっとしたものが当たる。多分白い翼で包み込まれているんだろう。俺を隠すように。
ズン、ズゥン、と地響きがして、店の商品が揺れ始める。え、そんなでかいモンスターがくるの? でも邪神さまよりはデカくないでしょ……
怖いので、邪神さまを思い浮かべておく。
俺を見かけると駆け寄ってくる邪神さま。
俺を抱き締めて眠るようになった邪神さま。
当然のように髪を梳いてもらおうとスタンバイしている後ろ姿。
勉強が嫌で、俺の元へ逃げてくる邪神さまと追いかけてくる般若顔のナメさん。
もしかして、一番怖いのってナメさんかな?
ズズン!
足音が店の近くで止まる。一瞬、目を開けかけた。
(あっぶね)
すぐにきつく閉ざしたが、真っ黒い獣の足のような物が見えた。かなり大きい。
それなのに正気でいられたのは、天使の力のおかげなのだろう。人肌恋しさが満たされていない俺は存分に背中に腕を回して抱きついておく。
足音の主は店内を除いただけだったのか。また足音が響き出し、徐々に遠ざかっていった。
「……」
一~二分ほど息を潜めていただろうか。
羽ばたく音がしてナメさんが離れると、リップルさんの「もういいわよ」と言う声が聞こえた。
それでもゆっくりと目を開ける。
店の前には誰もいなくなっていた。店内には商品がいくつか落ちているだけ。ナメさんも翼を引っ込めていた。
俺はへたり込んだまま、肺の中を空にする。
「……もう、いいんですか?」
「ええ。あっちへ行ったみたいね」
ナメさんは素早く、落ちてしまった商品を拾う。
「これは私が買い取ろう」
リップルは頬に手を当てる。
「あらぁ。いいのに」
「それと人間。お前は零した商品を買い替えろ。邪神さまに落としたものを食べさせる気か」
「そのくらい、サービスするわよん?」
リップルさんはお金はいらないと言っていたが、ナメさんは硬貨を押しつけるように渡していた。それなら俺も。
「落としちゃってすみません。俺が食べますんで」
「いやん。落としたお菓子はわたしが引き取るわよぉ」
「大丈夫ですよ。包装紙に包まれてますし」
それと、
「ナメさんも。ありがとう」
守ってくれて。
「はあ……。くだらん」
ベストに袖を通し、ボタンを留めている。もう一回くっついたらダメかな?
お礼を言って店を出た。
倒れ込み、袋から買ったばかりのお菓子が転がってしまう。拾おうと伸ばした手は、震えていた。風邪でも引いたのか、俺は。
「ナメさん。ペットちゃんが」
「くそが」
息をするように悪態をつくと、マッスルイケメンは俺を抱き締めた。
「……」
圧がある。挟まれる。
真っ先に浮かんだのがこの言葉だった。
いつも抱きついてくるのがわたあめのような美少年だけだったので、胸筋と腕の筋肉にむぎゅっと挟まれ思考停止する。
「ナメ……?」
「黙っていろ」
ベストを脱ぎ捨てると、ナメンソンさんの背中から輝く白い翼が出現した。サナギを割って蝶が出てくるように、ふかふかの羽毛が姿を現す。シャツには、翼用の穴が開けられていた。
「つばさ……?」
天使なので、白い羽があるんだろうなーと予想はしていたけれど、
「ナメさん白い翼なんですか⁉ 嘘だ! あんなに口と目付き悪いのに!」
つい正直に叫んでしまった。詐欺ですね。絶対黒翼だと思っていた。
リップルが噴き出し、ナメさんは鬼の形相で俺を睨んでくる。ヒェッ。
顔面を鷲掴みにされた。
「無礼な生き物め。坂道でぶち転がしてやろうか」
俺の頭部から割とシャレにならない音がする。ミヂミヂって。
「ナメさんダメよ! 邪神さまの持ち物よ」
リップルさんが俺の代わりに止めてくれたので九死に一生を得た。もうこの店に足を向けて眠れない。
「チッ。おい。いいかクソ人間」
「ドールです」
「黙れ。口を開くな。精神汚染系の力を持つモンスターが近づいているんだボケが。私たちは平気だがお前はどうだろうな。一応聖壁(バリア)を張ってやるから動くなカス」
守ろうとしてくれていたんですね。失礼なこと言っちゃったよ。
「通り過ぎるだけでしょうから、ペットちゃんは目を閉じていなさぁい? いいって言うまで、目を開けちゃ、ダメよん?」
「はい! 分かりました」
「なんで私の時よりハキハキ返事しとるんだ貴様……」
だってナメさんコエェもん。
目を閉じ、筋肉に抱きつく。舌打ちが聞こえたが、引き剥がそうとはしてこなかった。背中や肩にもふっとしたものが当たる。多分白い翼で包み込まれているんだろう。俺を隠すように。
ズン、ズゥン、と地響きがして、店の商品が揺れ始める。え、そんなでかいモンスターがくるの? でも邪神さまよりはデカくないでしょ……
怖いので、邪神さまを思い浮かべておく。
俺を見かけると駆け寄ってくる邪神さま。
俺を抱き締めて眠るようになった邪神さま。
当然のように髪を梳いてもらおうとスタンバイしている後ろ姿。
勉強が嫌で、俺の元へ逃げてくる邪神さまと追いかけてくる般若顔のナメさん。
もしかして、一番怖いのってナメさんかな?
ズズン!
足音が店の近くで止まる。一瞬、目を開けかけた。
(あっぶね)
すぐにきつく閉ざしたが、真っ黒い獣の足のような物が見えた。かなり大きい。
それなのに正気でいられたのは、天使の力のおかげなのだろう。人肌恋しさが満たされていない俺は存分に背中に腕を回して抱きついておく。
足音の主は店内を除いただけだったのか。また足音が響き出し、徐々に遠ざかっていった。
「……」
一~二分ほど息を潜めていただろうか。
羽ばたく音がしてナメさんが離れると、リップルさんの「もういいわよ」と言う声が聞こえた。
それでもゆっくりと目を開ける。
店の前には誰もいなくなっていた。店内には商品がいくつか落ちているだけ。ナメさんも翼を引っ込めていた。
俺はへたり込んだまま、肺の中を空にする。
「……もう、いいんですか?」
「ええ。あっちへ行ったみたいね」
ナメさんは素早く、落ちてしまった商品を拾う。
「これは私が買い取ろう」
リップルは頬に手を当てる。
「あらぁ。いいのに」
「それと人間。お前は零した商品を買い替えろ。邪神さまに落としたものを食べさせる気か」
「そのくらい、サービスするわよん?」
リップルさんはお金はいらないと言っていたが、ナメさんは硬貨を押しつけるように渡していた。それなら俺も。
「落としちゃってすみません。俺が食べますんで」
「いやん。落としたお菓子はわたしが引き取るわよぉ」
「大丈夫ですよ。包装紙に包まれてますし」
それと、
「ナメさんも。ありがとう」
守ってくれて。
「はあ……。くだらん」
ベストに袖を通し、ボタンを留めている。もう一回くっついたらダメかな?
お礼を言って店を出た。
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