邪神さまのペット

水無月

文字の大きさ
17 / 74
第一の芸

邪神さまと溶けるチョコ

 膝立ちになった邪神さまが頬に吸いついてきた。ちょっと強めのキスのように。ちううっ。
 自然と口角が上がる。いつものことなんで、いいんですけどね。

『火事で燃えたら新しい家を作れるでしょ? それを楽しむために木製にしているの』
「うえ? 火事?」

 人間が大嫌いな火事を楽しもうというのか。そりゃモンスターの腕力なら、家くらいぱぱっと作れるんだろうけど。
 人間と考え方や価値観が違い過ぎるな。

「そうでしたか」
『うん。おいち』

 頬をペロペロされるとくすぐったい。

「そうだ。お店でお菓子を落としちゃって、これは俺がもらっていいですか?」

 落としてしまったお菓子はポッケに入れておいたのだ。

「……あれ?」

 包装紙の上から触れたのに、なんだかぬるっとする。
 急いでテーブルに置いて包装紙を開けると、ケーキを閉じ込めているチョコ卵が少しだけ、変形していた。

「え? 溶けてる? なんでっ?」
『んへへ~。新鮮なリアクション』
「チョコは温かいところで溶けるんだ。今は冬だが、お前ずっとポッケに入れていただろう」

 お、俺の体温で溶けたってこと? ……言ってくださいよ、ナメさぁん。

「溶けても、食べられるんですか?」
『うん。僕は溶けてるチョコも好きなんだ~』

 ルンルン気分でチョコを掴もうとする、その手首を背後から掴む。

『……』

 つぶらな瞳で見てくる邪神さまに微笑む。

「ダメです。俺のです」

 落ちちゃいましたからね、これ。床に。

『あああん! お菓子が目の前にあるのにぃ! 食べたい食べちゃい! あーん、してよぉ』

 じたばたと足をばたつかせる。
 あんまり暴れないで。落ちちゃいますよ。

 俺にがばっと抱きつき、ぐりぐりと顔を押し当ててきた。
 頼りない背中を撫で、両腕で抱きしめる。

「あーんはしません。落としちゃったんで、三つも」

 ポッケからキャンディ擬態型洋菓子を出して、テーブルに転がす。キランとサファイアの瞳が煌めく。

『手伝ってあげる! 食べるのを!』
「大丈夫です。多いなと思ったらナメさんに渡すんで」
「いらんわ。クソボケが」

 え? 甘いの苦手? でも向こうでチョコを平然と食べていたしな。
 俺が考え事をしていると、「今のうちに」とお菓子に手を伸ばす美少年をがっちり抱きしめる。シートベルトに徹するんだ俺。じたばたもがいている邪神さまが非力で可愛い。……? 何か違和感を覚えたが、可愛い後ろ姿を眺めるのに忙しく忘れてしまった。

『ナメちゃん! 一個くらいいいよね⁉』
「ダメです」

 邪神さまがテーブルに突っ伏している。
 静かになったのでなんとなしに、眼下に広がる庭園を見る。
 クリスマスローズやスノーホワイトといった季節の小花が、緑に積もる雪の結晶のよう。ヒュウと冷たい風が吹き、邪神さまを抱き締める腕に力が入った。

「……さむっ」

 嘆息しながら、ナメさんが温かなお茶の入ったカップを置いてくれる。

「邪神さま。ペットをお風呂に入れた方がよろしいかと。外を歩いたので汚れていますし」
『お風呂? ドールちゃん。お風呂行きたい?』

 ほっぺたをテーブルに押し付けたまま瞳だけ向けてくる。

「はい。あったまりたいです。あ、一人で入れますよ」

 買い物にも行けたんだ。お風呂も一人で大丈夫だと伝えると喜んでくれるはず。あの広すぎてどこか不安になる大浴場でも、初めに入った猫足バスタブでも。使い方も覚えましたし。

 お風呂の気持ち良さを思い出してほっこりしていると、邪神さまがお餅になっていた。
 限界まで頬に空気を溜めて、もの言いたげに睨んでくる。
 なんですか。その可愛いお顔は。
 指が勝手に、ぱんぱんほっぺをつんつんしてしまう。

『あむ』

 指先が食われた。薄い唇でちうちうと吸われる。

「どうしました? 邪神さま?」
『…………』

 指が第二関節まで飲まれていく。ちょ、ストップストップ! あったかいですけど。

 何か言ってくださいよ。何を望まれてます? 邪神さま。邪神さま……は、甘えん坊。……ハッ!


「あ、あー。お風呂不安だなー。寂しいし。邪神さまが一緒に、入ってくれないかなー?」
『しょうがないね! ドールちゃんはっ。僕が一緒に居ないとダメなんだから』


 どやっと胸を張ると、いそいそと身体の向きを変えて俺に抱きついてくる。忙しい神様だな。
 抱き締め合っていると満足したのか、邪神さまは膝から飛び降り、「タオルの用意してくるね」とお部屋に走って行く。俺はナメさんの淹れてくれたお茶を飲み干すと、すぐに後を追った。こうなると予想していたのか、お茶は飲みやすい温度だった。リンゴの風味が美味しいです。

「ナメさん。ご馳走様!」
「走るな。歩け。大声を出すな」

 父さんを思い出しちゃうな。
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。

ゆう
BL
八代秋(10月12日) 高校一年生 15歳 美術部 真面目な方 感情が乏しい 普通 独特な絵 短い癖っ毛の黒髪に黒目 七星礼矢(1月1日) 高校三年生 17歳 帰宅部 チャラい イケメン 広く浅く 主人公に対してストーカー気質 サラサラの黒髪に黒目

仏頂面の上司OFFが可愛すぎる件

子ネコの親子
BL
社会人5年目の俺は今日も部下と上司に板挟みされている。 唯一の楽しみはお昼休憩の行きつけのカフェ。 その日は運悪く相席を頼まれて、時間がないので仕方なく座った席にいたのは、休みのはずの苦手な上司で……。 ジャンルはBLですが、ただただ、主人公が上司の新たな一面を見て胸をときめかしているだけの話。 主な人物 主人公……椎名(一人称) 上司………橘(仏頂面の上司) 新人………新人(確認が苦手な新人) 店員さん…橘の妹 行きつけのカフェのオーナー……桂木(橘の幼馴染)

拗らせ問題児は癒しの君を独占したい

結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。 一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。 補習課題のペアとして出会った二人。 セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。 身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。 期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。 これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

可愛いは有罪

零壱
BL
───「可愛い」とは理性を狂わせる「罪」である。 美貌・頭脳・魔法に剣の腕前まで完璧な公爵子息リオハルト・ユーグリウスには、ただ一つ、致命的な欠点があった。 それは─── “かわいげ”がないこと。 鉄面皮、超合金と揶揄されるほど動かぬ表情筋。 圧倒的合理主義からくる感情の伝わらない言動。 完璧すぎて、人間味が壊滅的だった。 父侯爵にも匙を投げられたリオハルトは、己を変えようと一念発起。 学園の中庭で“可愛いとは何か?”を観察し続けること、一カ月。 数多の生徒の中でただ一人、リオハルトが“可愛い”と刮目したのは───騎士科の平民、ジーク。 弟子入りを申し出たその日から、ジークの前でだけリオハルトの完璧な理性が音を立てて崩れていく。 理性で“かわいげ”を解明しようとしては惨敗するポンコツ貴族(受)と、不屈の忍耐でそれを受け止める平民(攻)。 クスッと笑えて、気づけば胸を撃ち抜かれている。 理性崩壊系・文学ラブコメ、堂々開幕。 ※他サイトにもタイトル話、二話目、三話目のみ再掲。 ※二年前の作品です。改稿しようとして断念しました。