21 / 74
第一の芸
邪神さまにお願い
俺個人(ペットニンゲン)の話だと知ると興味を無くし、扉を直してから去っていく。ゆっくりしていけば良いのに。
『モンスターの都でぇ。同族が暴力を振るわれていたんだね? それがショックだったんだ?』
「はい。そうなんです。暴力を……気持ち控えてくれるだけでもいいんです! どうかっ。俺にできることならやります」
クッションから下り、みつゆびをついて土下座した。暴力を見たくないというだけの、俺の我が儘。
人間如きの声が、神に届くとは思っていない。でも邪神さまなら。ひとかけらでも掬い取ってくれると思う。
……おかしいな。「邪」の神なのに。慈悲深く思うのは、邪神さまの優しい一面を知っているからか。
『ドールちゃん。寝たの? ごめん寝ってやつ? かーわーいーい~』
小さな手に頭を撫でられる感触。
寝た? え? ごめん寝って?
もしかして。
邪神さまは土下座のことを知らないようだ。子守歌を歌い始めたので急いで顔を上げた。
「起きてます」
『にゃ?』
「今のは土下座で……」
『どげ?』
「……」
ぐだぐだになったのでセルフで仕切り直した。冷蔵庫(氷の魔石入りの、密閉度の高い箱)に置いてある瓶入りジュースをカップに注ぐ。
邪神さまに差し出した。
「どうぞ」
『……』
邪神さまはジュースの気分じゃなかったのか、受けとってくれなかった。
「俺が飲みます」
邪神さまが座りやすいようにクッションを並べて置いたのだが、膝上に乗ってくる。クッションの方が座り心地良いと思うんですが。まあいいか。
「ペットニンゲンたちに、暴力を振るわないよう、言ってもらえませんか?」
『いいよ~』
軽ッッ‼ いや待て、早まるな。邪神さまは悩み抜いて答えを出してくれたかも知れないだろ。
『言っておくよ。僕の声が聴ける神官あたりに。一ヶ月もあれば大陸全土に広まるでしょ』
「いっ、いい、いいんですか⁉」
『そんな驚く? いいよ。安心したよ。この子ちっとも我が儘言わないな~って、心配になってたから。ドールちゃんが意見を口にしてくれて。うれち』
「邪神さま……」
そんなことを言ってくださるなんて。
大人しく、しすぎていたのかな、俺。考えながら自分の顔が映り込むジュースを見つめる。
こくっとカップを傾けると、邪神さまの目がキランと光った。今だ! というように。
『ちゅーーー』
「んっ⁉」
唇に吸いつかれる。口内のジュースが奪われていく。
「ンンッ、んう」
『口あけてー』
パニックになりかけ、ペット用クッションの上にひっくり返ってしまった。バシャンと、カップの中身がぶちまけられる。
「あ、ぁ……」
俺の口をカップだと思われているのか、猫がミルクを飲むように舌を伸ばして舐め取っていく。根性で口を開けたままを維持した。
『んー。おいち』
顔を上げ、唇を舐めると頬ずりしてくる。
邪神さま。カップを受け取らなかったのって……
手の甲で口元を拭う。
「俺のことカップだと思ってません?」
『ジュースも飲めるしキスもできるよ? 僕、天才』
得意げなお顔だ。邪神さまをくっつけたまま起き上がる。
「あーあ。こぼしちまった。すみません」
床に転がったカップを拾おうと手を伸ばす。そこには倒れていないカップと零れていないジュースが。時間が巻き戻ったかのように。何事もなく佇んでいた。
「ふぁっ?」
『ドールちゃんの反応、かわいい』
「どっ……! これは。どういう魔法なんです? 水魔法、ですか?」
『知りたい? 知りたいの?』
にんまり顔でくすくすと笑っている。本当にお綺麗だわ。
「教えてくれないと、キスしますよ?」
『……』
目をぱちくりさせた邪神さまが全力でそっぽを向く。
教えてくれないんですね? では、頬に唇スタンプ。唇を押し当てる。邪神さまほっぺはほにゃんとしていて、離したくねぇ~。
断腸の思いで顔を離す。
『んふっ。キスするって……なにその脅し文句。怖がると思ってるの?』
ナメさんと似たようなことを言うなぁ。
「邪神さまにキスしたかっただけです」
『しょうがないなぁ。カップの時間を巻き戻しただけだよ。時間に干渉するとうるさい神がいるけど。このくらいなら何も言わないし』
「俺が掃除するのに」
『僕を無視してカップに構うなんて! カップに時間取られてる間、僕は放置されてるんだよ⁉ 僕に寂しい思いをさせる気?』
いや掃除……あーでもそうか。その間、邪神さまに構うことが出来なくなるしな。
「ありがとうございます。助かりました。邪神さまに寂しい思いはさせません」
『分かればいいよ。言いたいことはそれだけ?』
「はい」
『じゃ、何して遊ぶ? 投げたボール取ってくる?』
「いつもボールを投げないじゃないですか。足元に落とすだけで。俺は謎の屈伸運動させられただけなんですけど」
『投げたら、ドールちゃんが離れるからでしょ? 僕から』
「ちゃんと戻ってきますよ」
『ぷんっ』
「……」
膨らんだ頬をつんつんする。
床に寝転んで、お絵かきして遊んだ。肩の荷が下りたせいか、この時間を楽しめた。
あなたにおすすめの小説
愛されたいだけなのに
まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。
気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。
しかしまた殺される。
何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。
ゆう
BL
八代秋(10月12日)
高校一年生 15歳
美術部
真面目な方
感情が乏しい
普通
独特な絵
短い癖っ毛の黒髪に黒目
七星礼矢(1月1日)
高校三年生 17歳
帰宅部
チャラい
イケメン
広く浅く
主人公に対してストーカー気質
サラサラの黒髪に黒目
仏頂面の上司OFFが可愛すぎる件
子ネコの親子
BL
社会人5年目の俺は今日も部下と上司に板挟みされている。
唯一の楽しみはお昼休憩の行きつけのカフェ。
その日は運悪く相席を頼まれて、時間がないので仕方なく座った席にいたのは、休みのはずの苦手な上司で……。
ジャンルはBLですが、ただただ、主人公が上司の新たな一面を見て胸をときめかしているだけの話。
主な人物
主人公……椎名(一人称)
上司………橘(仏頂面の上司)
新人………新人(確認が苦手な新人)
店員さん…橘の妹
行きつけのカフェのオーナー……桂木(橘の幼馴染)
拗らせ問題児は癒しの君を独占したい
結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。
一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。
補習課題のペアとして出会った二人。
セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。
身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。
期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。
これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
可愛いは有罪
零壱
BL
───「可愛い」とは理性を狂わせる「罪」である。
美貌・頭脳・魔法に剣の腕前まで完璧な公爵子息リオハルト・ユーグリウスには、ただ一つ、致命的な欠点があった。
それは─── “かわいげ”がないこと。
鉄面皮、超合金と揶揄されるほど動かぬ表情筋。
圧倒的合理主義からくる感情の伝わらない言動。
完璧すぎて、人間味が壊滅的だった。
父侯爵にも匙を投げられたリオハルトは、己を変えようと一念発起。
学園の中庭で“可愛いとは何か?”を観察し続けること、一カ月。
数多の生徒の中でただ一人、リオハルトが“可愛い”と刮目したのは───騎士科の平民、ジーク。
弟子入りを申し出たその日から、ジークの前でだけリオハルトの完璧な理性が音を立てて崩れていく。
理性で“かわいげ”を解明しようとしては惨敗するポンコツ貴族(受)と、不屈の忍耐でそれを受け止める平民(攻)。
クスッと笑えて、気づけば胸を撃ち抜かれている。
理性崩壊系・文学ラブコメ、堂々開幕。
※他サイトにもタイトル話、二話目、三話目のみ再掲。
※二年前の作品です。改稿しようとして断念しました。