邪神さまのペット

水無月

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第一の芸

邪神さまはお着替え中

 邪神さまの部屋に行くと、扉の前にストレートヘアーの天使メイドさんが立っていた。俺に気づくと「邪神さまは着替え中だから入るな。どっか行ってろ」と教えてくれる。
 ドアノブを握った。

「お邪魔します」
「話聞いてたかっ⁉」

 扉を開けると、室内に衣装がハンガーにかけられた状態でずらりと並んでいる。中に居た衣服を畳んでいる天使二人と邪神さまが瞳を向けてきた。
 鏡の前で上半身裸の美少年がにぱっと笑う。

『ドールちゃん!』
「邪神さま」

 駆け寄ると抱きしめた。邪神さまも抱きしめ返してくれる。天使たちはもう慣れた顔で終わるのを待っている。

『ドールちゃん。遊びたいの?』
「いえ。会いたかっただけです」
『んー。かわいい……。今ね。お洋服選んでるの』

 俺の腕を抱き締めたまま、ぐいぐいと引っ張っていく。
 ベッドの上には脱ぎ散らかされた服が散乱していた。これは……

「アクティさまが来られるからですか?」
『そうなんだよ! アクティってばオシャレさんだから、こっちも大変なんだよ』

 ぷーっと膨れたかと思うと、やれやれと腕に顔を擦り付けてくる。天使の一人が「何か着てください」と邪神さまの方にふわもこロングケープをかけた。俺が首元でリボンを結ぶ。

「何を着るか悩んでらっしゃった、と」
『そうそう。僕もかっこつけたいし』

 そのうさ耳の付いたフードケープでいいと思いますが。
 そっとフードを被せてみる。あら可愛い。可愛いけど実体のない角が突き抜けていた。穴は開いていないので、すり抜けているだけなんだろう。角うさぎになってしまった。
 んむむと腕を組む。

「何時間くらい悩んでます?」
『もう一時間。ちゅかれた』

 抱っこ、と両手を伸ばしてくる。抱き上げて、服を踏まないようにベッドに腰を下ろす。邪神さまを膝に座らせた。

「この前の礼服、かっこよかったですけどね」
『え、そお? そうかなぁ……? かっこよかった? 僕』
「ええ。大人びて見えましたよ」

 邪神さまがふんぞり返っている。むっふーという顔だ。連動するようにうさ耳がピコピコと動いている。繋がっているのかと、ついうさ耳を摘む。
 だが邪神さまは落ち込んでいく。

『前回と同じ服だと変って思われないかなぁ?』

 うさ耳も垂れた。

「服を選ぶの面倒だからこれからはジャージで会おうと言ってみたらどうです?」

 天使の一人が噴き出し、一人が耳打ちしてくる。

「流石にそれは……! 適当なこと言うな」

 ダメかぁ。良いと思ったんだけど。お偉いさんって何をするにも金がかかるって言うしな。

「邪神さまの魅力を引き出す、激かわラブリー服で決めましょうよ」
『子どもっぽいって思われちゃうでしょ! やーだーやーだー』
「可愛い服、好きでしょう?」
『それはっ……。しゅきだけど……』
「邪神さまの好きな服を着て会った方が、喜ばれますよ。少なくとも、俺はその方が嬉しいです」

 いじいじと俺の服を引っ張っていたうさ耳フード美少年がぱっと顔を上げる。

『え? なんでぇ?』
「可愛い服を着ている時の方が、邪神さまの笑顔は二割増しで可愛く映るからです」
『たった二割?』
「すみません。あんまり数字を知らなくて。不勉強ですね」

 勉強の話は嫌なのか、邪神さまは嫌そうに首を振る。

『そうなの? かわいく……僕がかわいい方が良いの?』
「はい。可愛い邪神さまを、アクティさまに自慢したいです」

 邪神さまにもかっこつけたい気持ちはある。だが可愛い服の方が好きなようで、そわそわと身体を揺らしている。

『……まあ? ドールちゃんがそこまで言うなら? 一度、かわいい系の服で、会ってみようかな。僕は、かっこいい服の方が、いいんだけどなー。ドールちゃんがそこまで、そぉぉぉこまで言うなら、仕方ないかー』
「そうですよ」

 邪神さまは上機嫌で可愛い系の服を持ってこさせる。かしこまった場でないのなら、自分が一番気に入っている服で行くのも良いと思う。……おかしい考えかな? 畑仕事しかしてこなかったからな。経験値がねぇや。
 やはり好きなだけあり、可愛い系統の服選びはすぐに決まった。

『どお! これ』

 俺の方に走ってくる。見せてくれるなんて優しい。
 結婚もしていないのに、孫を見るような微笑みを浮かべてしまう。
 ファーの付いた白いコート。短パンからは雪の結晶柄のタイツに包まれた足が伸び、もこもこブーツが足首を覆っていた。マフラーは顎の下でリボン結びされ、手袋はうさちゃんの顔が笑っている。
 全体的に白い。

「可愛いです。雪の妖精さんみたいですねー」

 本当に愛らしい。
 心からの言葉だったが、邪神さまから笑顔が消えた。

『はあ? なにそれ。なんで、妖精で例えてるの? 僕より! 妖精の方がかわいいって言うの⁉』

 主の怒りに天使たちが息を呑む。「バカ。怒らせるな」と非難混じりの目線が突き刺さる。
 俺はのんきに口角を上げた。

「いえ。妖精とか見たことないので知りません。妖精さんって、いるんですか?」
『……』
「……」
「……」

 あまりの台詞に、着替えを手伝っていた天使までもが沈黙してしまった。
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