邪神さまのペット

水無月

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第一の芸

邪神さまとペットの絵

 にこっと目を細める。

「可愛いですよ。邪神さま。外に出したくないです」
『むっ。……大袈裟だよ。でもまあ? どの辺がかわいいとか、聞いてあげてもいいよ?』
「そのファーが邪神さまの白い肌とマッチしていて、雪に埋もれているようで可愛いです。頬のピンク色が際立ちます。コートは前を閉めてしまうとワンピースになって、短パンが見えなくなるのでスッキリしますし、ズボン履いてないのかなー? と気になってしまいますね。素足じゃないところもありがとうございます。いつもの長い靴下もステキですがタイツにはタイツの良さが(中略)。タイツはズボンの下に履きますよね。そのせいで包み込まれているお尻を想像してしまうと言いますか。だぼっとした服から伸びる細い足がすらっとしていて可愛いしメリハリ? が利いていてもこもこしすぎない見た目がトイプーのようでよろしいんじゃと頷いてしまいます。マフラーリボンが大きいせいで小顔効果にもなっていますし、ふわもこに覆われたお顔がとにかく愛らしくて大きな瞳で見上げてくるのが最高ですね閉じ込めておきたい外に出ないでください。あ、うさちゃん好きなんですか? あたたかそうな手袋も似合ってますよ邪神さま。やっぱりいつもより笑顔が自然で愛くるしいです」

 まだ言い足りないが、天使たちが邪神さまを背中で庇い、両手を広げて俺を威嚇してくる。
 一体どうしたというのだ。

「こ、こいつ……! 本性を現したな。邪神さまの、お、お尻だと? そういう目で見ていたのか。無害そうな顔して!」
「性的に見るなど許せん。こいつは危険です。捨ててきましょう!」
『僕のお尻が魅力的だから、見ちゃうのは当然じゃない?』
「まったくその通りです」
「邪神さまのお尻は世界、いえ宇宙一!」

 あんだこいつら。気が合うじゃないか。
 小走りで邪神さまが天使の背から出ると、飛びついてくる。即座に抱きしめた。もふぅとしている。

「あー。いい。大好きです。邪神さま。俺の自慢です」

 いっぱい褒められてご満悦なのか、温泉に浸かっているような顔だ。しばし離れそうになかったので、その間に天使たちが衣装を片付けていく。

『ぺーろぺーろ』

 ほっぺを舐めてくる。こしょばい。ええい。俺も舐める。

『ドールちゃんもふひゃ。くすぐっちゃい。僕みたいなほっぺになれるといいね。肉が足らないよ、肉が。もっと太ってね』
「難しいですね。あまり食べると気分が悪くなるので」
『ふぁっ。なんで?』
「食べてこなかったので」
『なんでぇっ⁉』

 モンスターに負けて、命以外奪い取られたからですよ。いや、悉く奪い取っていったのは獣人たちか? 人間に虐げられていた分、彼らの怒りは大きかったからな。
 ふかふかする美少年を撫で回す。

「努力しますが、すぐにはもちもちボディになれないです。すみません」
『むむっ。悲しいね。じゃ、もちもちしたくなったら僕のほっぺをもちもちしていいからね』

 自分で頬を押したり離したりしている。押された頬肉で唇がきゅっと尖るのが犯罪的に可愛い。

「外に出ないでください」
『ふえ?』
「可愛いです誘拐されます」
『大丈夫だよ。ナメちゃん強いし』

 ぐっと拳を握っている。
 あれ? 他人任せだな。邪神さま自身はお強くないのだろうか。それとも強すぎて戦えないのか。
 そうだ。ナメさんだ。

「邪神さま。俺が描いた絵を見てくれませんか?」
『いいよー。ちょい待ってね』

 踊るように一回転し、いつもの服装に戻る。その魔法、何気に便利ですね。

『なになに? 見せて見せて』

 サファイアの瞳が煌めいている。自分を描いてくれたと信じ切っている目だ。あ、やべ。邪神さまを描いたわけではないんだ。今回は。

「服を描いてみたんです」
『……』

 一瞬で興味を無くされたように笑みがしぼんだ。それどころか部屋を出て行こうとする。俺は走って追いかけ、背後から邪神さまを抱き上げた。
 捕まえたぞ。

「邪神さま? 見てくれないとちゅーの刑ですよ?」

 美少年は分かりやすく両手で目元を隠した。見ないってことですね? くらえ! 邪神さまのほっぺ。
 ぶちゅーーーーーーーーーーっっっ。
 や、やわらかい。顔が沈んでいきそう。

 天使たちが遠い目で見てくる。

『きゃう。きゃはっ』

 赤子のような笑い声。誰かと思えば邪神さまか。音を記録する魔法とか、ないですかね。今の声、もう一回聞きたい。

『しょうがないにゃー。見てあげるよ』

 ほくほくと満足そうな声だ。表情をきりっとさせようとしているが、口元が緩むのを止められない様子。天使さんたち。景色を記録する魔法とか使えませんか?

 俺は一枚の紙を見せた。白い紙とか初め見た時はその白さに驚いたものだ。紙だと信じられなかった。そのくらい白く、さらさらしていて書きやすく、インクも滲まない。天使たちは「画用紙」と呼んでいた。
 この城では安価で大量生産されているとのこと。天使たちの技術が気になる。
 恐らく一枚で目が飛び出る金額であろう紙に描いたのは黒い服。
 邪神さまが覗き込む。

『なぁに? コレ』
「執事服です。メイド服の対となる衣装ですよ。天使たちにメイド服を着せていますが、こういうのもどうでしょうか」

 この時の俺はかなり適当なことを喋っていた。メイド服と執事服の知識がなかったのもあるが。でも間違っているとも思ってなくて。
 執事服と聞いて、天使たちの瞳がギンッとぎらついた。メイド服に辟易していたのはマッチョだけではなかったようだ。
 城の主の反応は……

『あんまりふりふりしてないねー。好きじゃないや』
「っあ……。ダメですか」

 肩を落とす。ナメさんの力になれると思ったんだが。一瞬、希望を見てしまった天使たちは事切れたように項垂れている。
 俺の落ち込みっぷりに、邪神さまが気遣うように見上げてくる。

『この服、着たいの?』
「これを着ている天使さんたちが見たくなって」
『あれ? 着たいんじゃないんだ』
「でもいいんです。邪神さまが好きじゃないものを、わざわざ。好きじゃないものは少ない方がいいですから」

 髪を丸めようとすると俺の手から画用紙が煙となって消えた。

「あれ?」

 邪神さまの手に、画用紙が出現する。

『待ってよ。僕もだよ。ドールちゃんに喜んでほしいのは。……ふーん? ま、この燕の尻尾みたいなところに、フリルを忍ばせてくれたら採用してもいいよ?』

 背後で天使さんたちが抱き合って涙を流している。
 俺も拳を天に突き上げた。
 俺と天使たちの歓喜の雄たけびが、天井を貫く。

「「「やったぁーーーーっ‼」」」

 びりびりと部屋全体が揺れる。
 取り残された邪神さまは、喜んでいる民衆をあ然とした顔で見回す。

『そんな喜ぶ?』
「はいもちろん! 邪神さま、ありがとうございます‼」

 美少年は耳に髪をかける。

『別にいいよ。さっきいっぱい褒めてくれたし。僕、ドールちゃんを幸せにしたくて連れてきたんだもん。このくらいは、いいよ。なんかドールちゃんが喜んでると、僕も、嬉しいっていうか……ああぁぁん』

 邪神さまを抱き上げるとその場で振り回した。寛大な主だ。天使たちも泣きながらやってきて仲間に加わる。気がつけば三人で邪神さまを胴上げしていた。

「「「わーっしょい。わーっしょい。わーっしょい!」」」
『……』

 ぽかんとしていた主だったが、楽しくなってきたのか「きゅうう」と、小動物のような愛らしい声を漏らす。

 胴上げはナメさんが様子を見に来るまで続いた。

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