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第二の芸
邪神さまのドールの護衛
「外套……ありがとう、ごさいます。初めまして。俺はドールと言います」
まだ立てないので、悪いと思うがこのまま頭を下げた。ガースは居心地悪そうに首を振る。
「よせよせ。邪神さまの持ち物に頭を下げられては落ち着かん。ドール殿。ようこそ。歓迎しますぞ」
外套に当たる雨粒が大きくなってくる。
腰が抜けている俺を抱き上げると、神官さんは俺を校舎まで運んでくれた。
応接室のような部屋でお茶を出してもらったが、ガースと二人きりになれない。帰ろうとした神官の衣装を手放せず、三人でお茶をすることに。
ハンガーにかけてもらった外套から、ぽたぽたと雫が落ちる。
俺がこんな態度なのに、帰り損ねた神官さんもガースもちっとも怒り出さない。
「えっと。……ガースさんが、学園長、なんですか?」
「いえ。ここはあくまで人間の学園。学園の長は人間が務めておる。わしは学園の人間を管理するモンスターを統括するのが役目。学園長なら腹下してトイレに籠っとるから、また時間のある時に紹介しよう」
お腹弱いのかな。学園長さん。
「あの。質問、いいですか?」
「いくらでも」
どうぞ、と手を差し出す仕草をしてくれる。
では遠慮なく。
「なんで腰にピコハン下げてるんですか……?」
鬼だからね。金棒とか刀とか下げているなら分かるよ? 疑問にも持たなかったと思う。でもなぜ叩くと「ピッ」と音が鳴る、ふにゃふにゃしたおもちゃのハンマー?
気になって仕方がない。
ガースは不思議そうに顎を撫でる。
「ふぅむ。ちょい前までは暴力で人間共を支配していたが、邪神さまに『あんまり叩かないで』と言われてしまってのぅ。謎じゃ。しかし人間共が脱走しようとしたり歯向かってきたりすると、罰を与えねばならん。悩みに悩んだ結果がこれじゃ」
「……そ、です、か」
ここの人間たち……急にモンスターがピコハンを装備しだしたとき、どんな心境だったんだろうか。
と、そこで、素早いノック音が四回響いた。ガースが「おお、来たか」と振り返る。
「入れ」
扉が開くと、気の強そうな青年が入ってきた。
渋い灰色の肌に、吊り上がった細い瞳。髪はオールバックで耳が邪神さまより長く尖っている。襟を立てた服は性格を現すようにきちっとボタンが留められ、足首に行くにつれ八の字に広がったズボンを身に着けている。二足歩行のモンスターだが、なんの種類だろうか。見たこともない。
灰色の青年はガースの真横で、手を後ろに組んで姿勢良く立つ。
「紹介しよう。ペッ……ト殿じゃなくて、ドール殿。こちらが貴方につける護衛じゃ。貴方に怪我をされては(世界規模で)困りますからな」
紹介された青年は優雅に腰を折った。
「初めまして。針毒のミヤマと申します。この島にいる間、わたくしがお守りいたします」
顔を上げ、怪訝そうな顔をする。多分、俺が神官さんの膝に乗る勢いで抱きついているから、「なんだこいつ」と思っているんだろう。
針毒。毒を持つ銀蜂のモンスターだ。彼らは女王を守るために、即死の毒針と小さな六角形を隙間なく敷き詰めたハニカムの盾を使用する。
銀のボディは鋼のように固く、守りに秀でている。抜擢されるのも納得だ。納得だが即死の毒とか怖すぎる。もうやだ。帰りたい。ナメさんがいてくれたらこんな怖がらずに済んだのに!
ヤギさんにくっついて震える俺を、灰色の青年が控えめに指差す。
「彼、寒いのでは?」
「いやどうにも、わしらのことが怖いようなんじゃ……。かといって低級モンスターに任せることもできん。奴らは知能が低いから、人間の管理とか向かんしなぁ」
「ほう」
神官さんは色々意に介さず、まったりお茶を飲んでいる。
青年が近寄ってきた。
「怖くありませんよ? ほら。毒の騎槍(ランス)は島に持ち込めませんし。手ぶらです」
手のひらを開いて見せてくる。
俺がまじまじ見つめても微動だにせず笑みも崩さない。怯えている小動物に構おうとすればするだけ余計に怯えられると、知っているかのような態度だ。
ゆっくりと神官さんから離れる。
「は、初めまして。ドールです」
「ドールさま。よろしくお願いいたします。それでは制服を渡しますので」
「せ、せいふく……?」
何かを包んだ風呂敷を差し出してくる。
受け取って膝の上で開くと、上等そうな上着とズボン。
「学園にいる間はそれを身につけてください。明日からは制服を着てから登校してくださいませ」
人間がもう服を作っている余裕がないから、服を支給してくれたって意味なのかな?
「ありがとうございます。カッコイイ、デザインですね」
「礼儀正しいですね。流石はペット殿。では校舎内を案内します。ついてきてください」
「何かあれば、ミヤマに質問するんじゃぞ?」
「はい」
ガースさんと神官さんに礼を言い、外套を持って応接室から出て行く。心に余裕がなかったせいで、結局お茶は飲めなかった。
扉が閉まると、ガースは疲れた顔で自分の肩を揉む。
「……他のモンスターたちにも、威圧感は引っ込めろと言っておかねばならんかのぅ」
「あの怯えようでは、そうですね」
勝手にお湯を注いでお茶のおかわりしている神官は、のほほんと頷いた。
まだ立てないので、悪いと思うがこのまま頭を下げた。ガースは居心地悪そうに首を振る。
「よせよせ。邪神さまの持ち物に頭を下げられては落ち着かん。ドール殿。ようこそ。歓迎しますぞ」
外套に当たる雨粒が大きくなってくる。
腰が抜けている俺を抱き上げると、神官さんは俺を校舎まで運んでくれた。
応接室のような部屋でお茶を出してもらったが、ガースと二人きりになれない。帰ろうとした神官の衣装を手放せず、三人でお茶をすることに。
ハンガーにかけてもらった外套から、ぽたぽたと雫が落ちる。
俺がこんな態度なのに、帰り損ねた神官さんもガースもちっとも怒り出さない。
「えっと。……ガースさんが、学園長、なんですか?」
「いえ。ここはあくまで人間の学園。学園の長は人間が務めておる。わしは学園の人間を管理するモンスターを統括するのが役目。学園長なら腹下してトイレに籠っとるから、また時間のある時に紹介しよう」
お腹弱いのかな。学園長さん。
「あの。質問、いいですか?」
「いくらでも」
どうぞ、と手を差し出す仕草をしてくれる。
では遠慮なく。
「なんで腰にピコハン下げてるんですか……?」
鬼だからね。金棒とか刀とか下げているなら分かるよ? 疑問にも持たなかったと思う。でもなぜ叩くと「ピッ」と音が鳴る、ふにゃふにゃしたおもちゃのハンマー?
気になって仕方がない。
ガースは不思議そうに顎を撫でる。
「ふぅむ。ちょい前までは暴力で人間共を支配していたが、邪神さまに『あんまり叩かないで』と言われてしまってのぅ。謎じゃ。しかし人間共が脱走しようとしたり歯向かってきたりすると、罰を与えねばならん。悩みに悩んだ結果がこれじゃ」
「……そ、です、か」
ここの人間たち……急にモンスターがピコハンを装備しだしたとき、どんな心境だったんだろうか。
と、そこで、素早いノック音が四回響いた。ガースが「おお、来たか」と振り返る。
「入れ」
扉が開くと、気の強そうな青年が入ってきた。
渋い灰色の肌に、吊り上がった細い瞳。髪はオールバックで耳が邪神さまより長く尖っている。襟を立てた服は性格を現すようにきちっとボタンが留められ、足首に行くにつれ八の字に広がったズボンを身に着けている。二足歩行のモンスターだが、なんの種類だろうか。見たこともない。
灰色の青年はガースの真横で、手を後ろに組んで姿勢良く立つ。
「紹介しよう。ペッ……ト殿じゃなくて、ドール殿。こちらが貴方につける護衛じゃ。貴方に怪我をされては(世界規模で)困りますからな」
紹介された青年は優雅に腰を折った。
「初めまして。針毒のミヤマと申します。この島にいる間、わたくしがお守りいたします」
顔を上げ、怪訝そうな顔をする。多分、俺が神官さんの膝に乗る勢いで抱きついているから、「なんだこいつ」と思っているんだろう。
針毒。毒を持つ銀蜂のモンスターだ。彼らは女王を守るために、即死の毒針と小さな六角形を隙間なく敷き詰めたハニカムの盾を使用する。
銀のボディは鋼のように固く、守りに秀でている。抜擢されるのも納得だ。納得だが即死の毒とか怖すぎる。もうやだ。帰りたい。ナメさんがいてくれたらこんな怖がらずに済んだのに!
ヤギさんにくっついて震える俺を、灰色の青年が控えめに指差す。
「彼、寒いのでは?」
「いやどうにも、わしらのことが怖いようなんじゃ……。かといって低級モンスターに任せることもできん。奴らは知能が低いから、人間の管理とか向かんしなぁ」
「ほう」
神官さんは色々意に介さず、まったりお茶を飲んでいる。
青年が近寄ってきた。
「怖くありませんよ? ほら。毒の騎槍(ランス)は島に持ち込めませんし。手ぶらです」
手のひらを開いて見せてくる。
俺がまじまじ見つめても微動だにせず笑みも崩さない。怯えている小動物に構おうとすればするだけ余計に怯えられると、知っているかのような態度だ。
ゆっくりと神官さんから離れる。
「は、初めまして。ドールです」
「ドールさま。よろしくお願いいたします。それでは制服を渡しますので」
「せ、せいふく……?」
何かを包んだ風呂敷を差し出してくる。
受け取って膝の上で開くと、上等そうな上着とズボン。
「学園にいる間はそれを身につけてください。明日からは制服を着てから登校してくださいませ」
人間がもう服を作っている余裕がないから、服を支給してくれたって意味なのかな?
「ありがとうございます。カッコイイ、デザインですね」
「礼儀正しいですね。流石はペット殿。では校舎内を案内します。ついてきてください」
「何かあれば、ミヤマに質問するんじゃぞ?」
「はい」
ガースさんと神官さんに礼を言い、外套を持って応接室から出て行く。心に余裕がなかったせいで、結局お茶は飲めなかった。
扉が閉まると、ガースは疲れた顔で自分の肩を揉む。
「……他のモンスターたちにも、威圧感は引っ込めろと言っておかねばならんかのぅ」
「あの怯えようでは、そうですね」
勝手にお湯を注いでお茶のおかわりしている神官は、のほほんと頷いた。
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