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第二の芸
邪神さまと「人間」たち
遅れないようについていく。
昨日と違い、校舎はざわめきで満ちていた。たまに、同じ服の人間とすれ違う。俺を見てぎょっとしていた。
(……あの人もおんなじ服を着ている)
邪神さまが教えてくれたが、同じ服の人がいるという環境に慣れていない俺は驚きを隠せない。人間に気を取られ歩みが遅くなり、前を行く学園長との距離が開いてしまう。
俺が気づいた時には、足を止めた学園長がこちらを睨んでいた。
「すみません」
「……はぁっ」
重いため息だ。
「やる気がないのなら、このまま帰ってくださって結構」
ぴしゃりと告げられ息を呑む俺を置き、学園長は廊下を曲がる。
「やっちまった……」
邪神さまの城でもやらかしたことを思い出し、気も重くなった。
学園長に追いつくと、扉の前で止まる。
「ここが我が校唯一の魔法科です。中に担任の教師がおられますので、きちんとノックして、挨拶してから入るように」
「はい!」
背筋を伸ばすと学園長は背を向けた。
「ありがとうございます! 学園長さん」
「……バナー学園長と呼びなさい」
「はい」
俺の返事を待たず去っていく。
呼び方を教えてくれるなんて。俺が学園初心者だから配慮してくれたのだろう。
緊張した。なんせ女の人だ。しかも綺麗な人……。美人は見慣れてきたが、同族だと思うとどうしても、神や天使とは違うドキドキがある。
胸を撫でて、息を吐くと扉をノックした。
「おおおお! 待ってたぞ」
「――」
挨拶しようとした声が空ぶり、音にならなかった。音もなくスライドしていった扉から、人間にしては大柄な男性が顔を出す。ハニワ顔になっている俺の腕を掴むと、室内に引き込んだ。
ミヤマさんはゆっくり入り、後ろ手で扉を閉める。
中途半端な高さの机? の横まで引っ張っていかれた。
「みんな! 休み前に言っておいた新しい仲間だ。共に学ぶように。さ、挨拶して」
男性はにこやかに笑っているが、どうも笑みが仮面のように感じた。背中をポンと押され、俺は顔を身体ごと前に向ける。
後ろがよく見えるようにだろうか。階段状になっている床。
広い室内に横長の机が複数並び、たくさんの椅子に青い制服と茶色の制服が腰かけていた。茶色は女子生徒なのだろう。青より数は少ない。男女共に年齢にはばらつきがあるように思う。
俺が愕然としたのは、女子生徒が少ないからではない。
傷だらけだ。
女子も男子も区別なく。
顔にガーゼを貼っている者。指に痛々しいほど包帯を巻いている者。寝てた方が良いんじゃないかと思うほど顔色が悪い者。松葉杖を机の横に立て掛けている者もいる。
脳裏によぎるのはガースの「暴力で支配していた」という言葉。
――え? これ全部。モンスターたちにやられたの?
漂ってくるのは鉄と薬のにおい。彼らの怪我がどれほど酷いのかを物語っている。誰も彼も心の内を探るかのように、俺を見つめていた。敵かどうか判断している目だ。
手を握ったり開いたりを繰り返し、息を吸い込んだ。
「……初めまして。ドールと申します。よろしくお願いします」
誰も口を開かない。俺に視線が突き刺さるだけ。不気味な静けさが充満していた。
学園長と色違いで同じ服装の男性が机を指差す。
「好きな席に座って。目が悪かったら前の方が良いぞ」
あまり空気を読んでいないような明るい声音だ。
「……はい」
鞄を肩から下ろして進み、前から二番目くらいに腰掛けた。二個隣には松葉杖の人。頬杖をついたままじぃっと俺を見てくる。
「どうも……?」
座った状態で頭を下げるも、松葉杖男子は瞬きもしない。
ミヤマさんは俺の横を通り過ぎて行き、教室の最後尾。部屋の壁を背にして立つ。
彼に対し、数人が殺意に近い目を向けたが、大柄な男性が手を叩くと前に向き直った。
「よろしくなドールくん! 担任のクライツラードだ! クライツ先生と呼んでくれ」
笑顔で自分を親指で指差している。先生だったのか。先生の顔にも切り傷があり、頬には湿布が貼られていた。
無傷の者がいない。
廊下ですれ違った人たちもそうだった。おっちょこちょいなのかなと思っていたが、まったく違う。
そうだ。
人間など家畜に過ぎない。生み出すのがミルクか便利なアイテムかの違いだけ。人間は家畜を無暗に殴ったりはしないだろうが、モンスターたちからすれば、便利なものを作ればそれでいい。作らなければ叩けばいい。その程度の価値。
――俺はなんと幸せな場所にいたのだろう。
乾いた喉で、ごくっと生唾を呑んだ。
昨日と違い、校舎はざわめきで満ちていた。たまに、同じ服の人間とすれ違う。俺を見てぎょっとしていた。
(……あの人もおんなじ服を着ている)
邪神さまが教えてくれたが、同じ服の人がいるという環境に慣れていない俺は驚きを隠せない。人間に気を取られ歩みが遅くなり、前を行く学園長との距離が開いてしまう。
俺が気づいた時には、足を止めた学園長がこちらを睨んでいた。
「すみません」
「……はぁっ」
重いため息だ。
「やる気がないのなら、このまま帰ってくださって結構」
ぴしゃりと告げられ息を呑む俺を置き、学園長は廊下を曲がる。
「やっちまった……」
邪神さまの城でもやらかしたことを思い出し、気も重くなった。
学園長に追いつくと、扉の前で止まる。
「ここが我が校唯一の魔法科です。中に担任の教師がおられますので、きちんとノックして、挨拶してから入るように」
「はい!」
背筋を伸ばすと学園長は背を向けた。
「ありがとうございます! 学園長さん」
「……バナー学園長と呼びなさい」
「はい」
俺の返事を待たず去っていく。
呼び方を教えてくれるなんて。俺が学園初心者だから配慮してくれたのだろう。
緊張した。なんせ女の人だ。しかも綺麗な人……。美人は見慣れてきたが、同族だと思うとどうしても、神や天使とは違うドキドキがある。
胸を撫でて、息を吐くと扉をノックした。
「おおおお! 待ってたぞ」
「――」
挨拶しようとした声が空ぶり、音にならなかった。音もなくスライドしていった扉から、人間にしては大柄な男性が顔を出す。ハニワ顔になっている俺の腕を掴むと、室内に引き込んだ。
ミヤマさんはゆっくり入り、後ろ手で扉を閉める。
中途半端な高さの机? の横まで引っ張っていかれた。
「みんな! 休み前に言っておいた新しい仲間だ。共に学ぶように。さ、挨拶して」
男性はにこやかに笑っているが、どうも笑みが仮面のように感じた。背中をポンと押され、俺は顔を身体ごと前に向ける。
後ろがよく見えるようにだろうか。階段状になっている床。
広い室内に横長の机が複数並び、たくさんの椅子に青い制服と茶色の制服が腰かけていた。茶色は女子生徒なのだろう。青より数は少ない。男女共に年齢にはばらつきがあるように思う。
俺が愕然としたのは、女子生徒が少ないからではない。
傷だらけだ。
女子も男子も区別なく。
顔にガーゼを貼っている者。指に痛々しいほど包帯を巻いている者。寝てた方が良いんじゃないかと思うほど顔色が悪い者。松葉杖を机の横に立て掛けている者もいる。
脳裏によぎるのはガースの「暴力で支配していた」という言葉。
――え? これ全部。モンスターたちにやられたの?
漂ってくるのは鉄と薬のにおい。彼らの怪我がどれほど酷いのかを物語っている。誰も彼も心の内を探るかのように、俺を見つめていた。敵かどうか判断している目だ。
手を握ったり開いたりを繰り返し、息を吸い込んだ。
「……初めまして。ドールと申します。よろしくお願いします」
誰も口を開かない。俺に視線が突き刺さるだけ。不気味な静けさが充満していた。
学園長と色違いで同じ服装の男性が机を指差す。
「好きな席に座って。目が悪かったら前の方が良いぞ」
あまり空気を読んでいないような明るい声音だ。
「……はい」
鞄を肩から下ろして進み、前から二番目くらいに腰掛けた。二個隣には松葉杖の人。頬杖をついたままじぃっと俺を見てくる。
「どうも……?」
座った状態で頭を下げるも、松葉杖男子は瞬きもしない。
ミヤマさんは俺の横を通り過ぎて行き、教室の最後尾。部屋の壁を背にして立つ。
彼に対し、数人が殺意に近い目を向けたが、大柄な男性が手を叩くと前に向き直った。
「よろしくなドールくん! 担任のクライツラードだ! クライツ先生と呼んでくれ」
笑顔で自分を親指で指差している。先生だったのか。先生の顔にも切り傷があり、頬には湿布が貼られていた。
無傷の者がいない。
廊下ですれ違った人たちもそうだった。おっちょこちょいなのかなと思っていたが、まったく違う。
そうだ。
人間など家畜に過ぎない。生み出すのがミルクか便利なアイテムかの違いだけ。人間は家畜を無暗に殴ったりはしないだろうが、モンスターたちからすれば、便利なものを作ればそれでいい。作らなければ叩けばいい。その程度の価値。
――俺はなんと幸せな場所にいたのだろう。
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