初めての友達

水無月

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キース王子

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 地球とは違う世界でおまけに魔法まであるらしい。魔法。本などろくに読んだことも無い俺には「エクスペクト・パト〇ーナム」しか出てこなかった。

「それって、正体を見抜く魔法とかあったりするか?」
(ん? 右舷の居た場所には魔法は無かったの?)
「無い」

 科学ならあったが。そちらにも俺は疎い。
 魔法が無いのは意外なことなのか、ガーデアは一瞬言い淀んでいた。

(そっ……か。正体を見抜くなんて魔法は無いね。火や水、風を操ったりするくらいさ)

 ガスや水道、扇風機ってとこか。

「めちゃくちゃいいじゃん」
(うん。でも私は使えないけどね。ところで、どうするの?)
「まあ、見てろって」

 ガーデアの指示でこっそりと王都に入り込んだが、警備が厳しいなんてものじゃなかった。城の周りだけでなく、都や市民街にまで武装した兵士がうろついている。ぶちまけられた星屑が美しいこんな時間帯でも。
 高台にある王城からシャボン玉色で塗装されたメインストリートが伸び、周辺には似たような色のレンガの建物が並んでいた。
 王都チェロは別名「妖精の羽」とも呼ばれる美しい都である。らしい。
 それらに一ミリたりとも関心を示さない俺に、ガーデアは観光地を案内したそうだった。

「兵士でも、赤いマントを付けてる奴は上の立場なんだっけ?」
(そうだよ。でも強いから――って、な、何を?)

 気配を消すと、通りかかった兵士を路地裏の闇に引きずり込んだ。即座に首を捻って意識を刈り取る。

(……)
「これなら紛れ込めるだろ」

 鎧を剥ぎ取り、パンイチのおじさんを縛ってゴミ箱に詰めておく。当分は目を覚まさないだろうが念のため。
 汗臭いプレートアーマーを着込んで赤のマントを羽織る。

「どうだ? 違和感ある?」
(……君、暗殺者か何かだったのかい? アサシンの動きだったよ。それも、私の身体で)
「細かい事気にすんな。ハゲるぞ」

 生きるためになんでもやったんだ。泥水だろうが汚いおっさんのブツだろうが舐めてきた。だが鍛えている兵士相手では、このような闇討ちでないと勝てない。白兵戦は左舷の得意分野だ。
 転がった槍を拾い上げる。

「おもっ! ……いや、お前が貧弱なだけか」
(うっ)

 胸を押さえるガーデアを無視して、王城へずんずん歩いていく。

(君、度胸あるね)
「それより。城内部の構造を教えてくれ」
(知ってる範囲だけど)
「ああ。頼む」

 するすると蟻んこのように入り込んでいく。ガーデアは口が開きっぱなしだった。その辺の民家ではない。王の住まう城だというのに。途中、合言葉を訊ねられるというヒヤッとする場面もあったが、なんなく切り抜けた。

(どうして合言葉を⁉)

 コツコツと、鎧を爪先でつつく。

「鎧の内側に刻んであった。多分コイツ、物覚えるの苦手なんだろうな」

 ガーデアは引き攣った顔でハハッと笑った。

(見事だよ。恐れ入る)
「科学や魔法のぶっ飛んだ防犯対策がなけりゃ、こんなもんだろ」

 結婚式は明日。
 適当に時間を潰すか。

(寝なくて、平気かい?)
「余裕。普段からそんなに寝ないし」
(……)

 母性でも刺激されたのか、俺の頭を撫でてくる。

「やーめろ!」
(はあ。君って子は)

 息子を見るような目をするな。てか多分。俺の方が年上だろ!








 他愛もない話で時間を潰したが、ガーデアは自分のことは語ろうとしなかった。年齢すら教えてくれない。
 あっという間に朝日が昇る。

(今更だけど、左舷君も君も見た目変わっているんだし、お互いが兄弟だと分かるのかい?)
「知らん。とにかく顔を見たい」

 キース左舷王子はどんな外見になっているのか。
 おっさんになっていたらどうしよう。
 いやだぞ。俺の方が年上じゃなきゃ!
 ドキドキしっぱなしのガーデアを連れて会場に入る。自分と同じ鎧が並んでいるので、その列に紛れ込む。横の鎧が「あれ? お前の持ち場ここだっけ?」という感じでチラ見してきたが、無駄に胸を張って頷くと何も言ってこなくなった。
 馬車から着飾った老若男女が降りてきて会場入りしてくる。華やかなドレスやコートを着ているが、やはり美人さんが一番いいかな。

(右舷っ!)

 赤い顔で肘打ちしてくる。んだよ! 本当のこと言っ、思っただけだろ。
 周囲に人がいるのでガーデアとは脳内会話だ。

(料理うまそう。食べに行っちゃ駄目か?)
(はあ~。なんで生きてる時に会えなかったんだろう。お菓子作ってあげたい)
(だから、マザーかよお前はよ! いつ頃始まるんだ?)
(全員が会場入りして、王族の方々が入るから。もうしばらくはかかるね)
(暇だな。旅芸人でも呼べよ王子様よぉ~)

 鎧の中で盛大に顔をしかめ舌打ちする。
 ガーデアに宥められながら待つこと三時間(三時間⁉)、ついに王子様っぽい人が現れた。
 ガーデアに肩を揺すられる。

(起きて! キース様が)
「ふがっ?」

 暇すぎて眠っていたようだ。パチンと目を覚ますと、別次元の存在のような男性が歩いてくるところだった。
 何故か入場のファンファーレが鳴り渡り、ドーム状の天井から白い花びらが降ってくる。
 深々と低頭しているガーデアの横で、大口を開けて目を飛び出さんばかりに驚いていた。
 王子は、ガーデアと同じか少し下の少年だった。
 年齢にして十七~八くらいか。かっこいいとか、イケメンとか、そういう軽い表現は合わない。透き通るほどさらついた青白磁(春の空のような薄い青緑)の髪は歩くだけで風になびき、会場の女性の視線を掻っ攫っていく。涼やかな目元に通った鼻筋。神の寵愛を一心に受けたかのような容姿。
 色素の薄い彼は、白のスーツにファーのついたマントがよく似合っていた。ここが地球だったならば「奇跡の顔面」として連日テレビに映っていただろう。
 この世界の人たちの造形の良さを舐めていたかもしれない。そりゃあ俺としては美人さんが一番抱きたいかもしれなっ

(ぶっ)
(……)

 無言で肘打ちされた脳内俺がよろめく。

(なんで? 褒めたのに)
(……)

 美人さんがうんともすんとも言わなくなった。ここは褒めたら肘打ちが飛んでくる世界なのか。新たな発見を得た。

(人たらしだね。右舷は)
(あのキラキラの権化がキースで間違いないか?)
(権化て。そうだよ)

 見た目が良すぎて怒りすら湧かない。しかもスーツの上からでもしっかり鍛えているのか伝わってくる。脱いだら腹筋割れてそう。
 キースが段の一番上に立つと、一人の女性が小走りで駆け寄ってきた。お偉いさんなのに走るなんてらしくないと眺めていると、キースがその女性の肩を抱いたのだくたばれイケメンが。顔面が良くても許せるが女に不自由してません感が一番嫌いだ堕ちろ。

(え?)
(つい口が悪くなってしまった)

 彼らの立つ階段の下に、一際煌びやかな女性が佇んでいた。
 目がハートになる。

(めっちゃ美人! 誰?)
(キャルマリー様。でもおかしい。あの方が婚約者なのに。キース様の隣にいらっしゃらないなんて)
(な)

 なんだと? つまり婚約者の前で違う女性を侍らせているということか。理解した。

(あの王子の始末は俺が請け負ってやろう。料金はいらん。私怨ゆえ)

 殺スイッチが入り、指をバキボキ鳴らす右舷の後ろから抱きついた。

(待って待って! 話が違う)
(いーや違わないね。あんな、銀髪で一輪の花のような女性を目の前にして。他の女だと? これがこの世界の男か)
(男性に風評被害が。落ち着いて!)

 槍を構えて突進しに行きそうになっていると、壇上のキースがいきなり吠えた。



「キャルマリー! 貴様との婚約は破棄させてもらうっ!」



 ざわつく会場内で、俺とガーデアの目が点となった。
 石像と化している兵士になど目もくれず、キャルマリーはスッと面を上げた。

「理由をおたずねしても?」

 いつまでも耳に残る弦楽器のような声。女性の身で、声が低めなのもたまらない。
 キースは憎たらしく鼻で笑う。
 このすーぐ調子に乗りそうな雰囲気が、凄まじく左舷と重なった。

「貴様が我が父王……。国王を暗殺する計画を企てていたことをな! この聖女・エルシィが看破した! 衛兵。即刻その売国奴を捕えよ!」

 王子の指示に、兵士たちが銀髪女性を取り囲む。当然、その中に俺も混じっているぜ。

(ごめん。正体を見抜く魔法。存在していたようだ)
(魔法ってか、神の御業系じゃね?)

 婚約者の女性は悲しそうな顔でうつむく。
 その儚さに、周囲の貴族たちは胸打たれたような表情だった。

「キース様」

 キャルマリーは落胆したように息を一つ吐くと――ドレスを脱ぎ捨て、天井付近まで飛び上がった。銀の髪に、ステンドグラスの鮮やかな色が映り込む。

「⁉」
「ハッ! バレちまったようだね。ならば、直接殺すまでさ」

 豪奢なドレスを捨てた彼女は、スパイがよく着ているイメージのある、黒のぴったりスーツを身に纏っていた。身体のラインが分かってエロくていいな。
 ……ではない。

(この流れで⁉ 王子じゃなく婚約者側が真面目に悪だったパターンかよ!)
「死にな!」

 空中で、キャルマリーが刃物を五つも投げつけた。それは真っすぐにキースに迫る。

「危ない!」
「きゃあ」

 王子は聖女を庇ってしまい避けられな――



「おいおい。俺の弟(多分)に何すんだよ」



 エンジンが爆発する勢いで燃え上がる。
 鎧を着こんでいるとは思えない素早さで刃物と王子の間に割り込むと、槍ですべてを叩き落とした。
 キャルマリーは目を剥く。

「なっ! 馬鹿な――」
「捕獲せよ!」

 王子が叫び、キャルマリーは即座に捕縛された。会場はさらなる混乱に陥るも、王の一喝で静寂を取り戻す。
 ガーデアが胸を撫で下ろしたのを感じる。
 だが、俺はここで限界だった。

(う……やべ)
(右舷? しっかり!)

 鎧姿のまま、派手に倒れ込んでしまった。



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