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裏女王様の恋愛分析・2
しおりを挟むそれはあくまでも偶然だった。
昼休みに、音楽準備室へと写真部で使う暗幕を借りに行った時だった。
音楽準備室にある暗幕は防音のために使われることもあるが、普段はあまり使われないので、俺達写真部が本格的に現像する時に暗室を作るため、たまに借りることがある。
「あっ! やだっ……」
ずしっとする暗幕を抱き抱えて部屋を後にしようとした俺の耳に、誰かの喘ぎ声が聞こえてきた。
「ん……?」
どうやらその声は、隣の音楽室から聞こえてきたようだ。
(昼休みに音楽室でね……大胆なことで)
別に人の濡れ場に興味のない俺は、そのまま準備室から出て行こうとした。
すると……。
「やだって言う割には、ここは嫌がってないよ?」
「あっ、馬鹿……!」
(え……どっちも男?)
二人の会話はどちらも、男だった。
隣でヤッているのが男同士だとわかった途端、俺の好奇心が膨れ上がった。
(少しだけなら……いいよな)
俺は隣の二人に気づかれないように、そっと音楽室へと続くドアを開けてみた。
ドアの隙間から覗いて見ると、ピアノの向こう側から誰かの生足が見える。
(おっ、綺麗な足。アレなら顔もきっと美人だろうな)
俺がそんなことを思っていると、その足の間に顔を埋めていたもう一人の男が身体を起こした。
その男の顔を見て、俺は驚いて声を出しそうになる。
なぜならそこには、親友である千歳の姿があったからだ。
(千歳が……男と? 相手は……?)
以前は女との噂が絶えなかった千歳が、まさか男と寝てるなんて、さすがに俺も気づかなかった。
相手の顔を俺が確認しようとした時だった。
「そろそろ入れてもいいよな? 深海」
千歳の言葉に、一瞬、俺の思考が止まる。
(深海って……まさか、会長か?)
千歳の相手が会長だとわかった途端に、俺の中で色々な疑問が解けていく。
さっきの二人の間にあった、あの微妙な空気はこれだったのだ。
でも、あの雰囲気からして二人が付き合っているってことはないようだ。
もし付き合っているとしたら、あの千歳の切なげな視線の説明がつかない。
それと、もう一つわかったことがある。
俺は千歳に抱かれている会長へと視線を移し、その考えを確信する。
(会長は……男に抱かれ慣れてない)
媚びる様子も、芝居もなく、純粋に千歳に与えられる刺激に反応している。
きっと千歳以外の男に抱かれたことなんてないのだろう。
俺は二人に気づかれないように、音楽室と準備室を繋ぐドアをそっと閉めた。
さすがに親友の秘密の逢瀬を盗み見する趣味は俺にはない。
「あの噂も、案外当てにならないもんだな」
暗幕を持ち、準備室を出た俺はそう呟いた。
俺の言う『あの噂』とは会長に関してのものだった。
聖都学園生徒会長・深海優弥は『学園の女王様』と一部で呼ばれていた。
一年生と思えないようなクールな態度で、男女、年齢問わず、自分の虜にする高慢な女王様。
女にもモテるが、それとは別に『その綺麗な容姿で次々と男を手玉にとっている』というのも有名な噂だった。
「生徒会メンバーは全員、会長のセフレだ……なんて話もあったのにな」
それが実際はどうだろう? 色々な男を手玉に取るどころか、たった一人の男の腕の中で可愛く乱れているお姫様じゃないか。
千歳にしても、以前は途切れることがなかった女遊びの噂が最近はまったく聞かなくなったと言うことは、会長一人に絞っているということだろう。
「どっちもピュアだねぇ……」
俺は失笑と共にそう呟く。
別にあの二人を馬鹿にしているわけではない。
ただ、自分にはあの二人のような付き合いは出来ないと思ったからだ。
男と女なら、ある程度なんとかなってしまうことでも同性となると難しい。
千歳達だって傍から見たら『恋人』って言える関係なのに、実際には付き合っていないのがその証拠だ。
……どうせ、男を好きになったって上手くいくわけがない。
相手がノンケなら、失恋なんて当たり前。
勇気を出して告白しようものなら、気持ち悪がられて自分が傷つくだけだ。
たとえお互いに好きでも、世間の目はそんなに優しくはないだろう。
その世間の目を誤魔化して、いつまで一緒にいられる?
どうせ奪われる温もりなら最初から望まなければいい。
「やっぱり、男と恋愛なんて……俺には出来ないなぁ」
愛がなくても、一時の温もりと快楽があれば、それでいいじゃないか。
きっとそれが、一番傷つかなくてすむ方法なんだ。
そう思っていながら、千歳と会長が幸せになれればいいと願っている自分がいる。
あの二人は、絶対にお互いを想い合っているはずだから、世間の目に負けて欲しくない。
俺は密かに親友達にエールを送りながら、写真部の部室へと向かった。
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