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裏女王様の恋愛分析
しおりを挟むそれは、移動教室だった二時限目を終えて教室へと戻る時だった。
「なんか今日の和彦、えらく機嫌良くないか?」
「そんなことないと思うけど~」
言葉とは裏腹に、俺は自分でも語尾に音符がついているんじゃないかというくらいの上機嫌で答えた。
変なものを見るような目で千歳が言ってきたが、俺は気にしない。
今日は朝練のなかった亮太が朝に迎えにきたが、その時の亮太も今の千歳と同じような反応だった。
「朝、迎えに行った時からこの調子で気持ち悪いんだよ」
いつもなら腹の立つ亮太の言葉も、今日くらいは許してやろう。
それくらい俺の機嫌がいいのは確かだった。
理由は昨日の夜のナオとのセックスだ。
あの時間だけで、ナオは見事に俺の欲求不満を解消してくれたのだった。
ナオ……彼は危険な男だ。
一夜限りの関係を望む俺の心に自然と入り込んできた。
ナオから連絡先を渡された時も正直喜んでいた自分がいたのも事実で、決して連絡することはないとわかっていても、俺はまるでナオの特別な存在になったかのようで嬉しかった。
俺は女と恋愛が出来ない……。
だけど、男とも恋愛するつもりはない俺にとって、誰かの特別な存在になることなんてあり得ないから。
一時でも、そんな体験をさせてくれたナオには本当に感謝している。
(でも、あれだけ完璧な男とヤッちゃうと、次から満足出来るかな?)
ちょっと先のことまで考えて、心配していた時だった。
「あっ……」
何かを見つけたようで、千歳が小さく声をあげた。
その声に、千歳の視線の先へと目をやると、そこには生徒会役員を数名引き連れた、俺達と同じ一年にして聖都学園高等部の生徒会長・深海優弥がいた。
「八神、部活代表のことで話がある。ちょっと来い」
相手の都合は気にしないってことね。
そんな会長の態度に、笑みを零しつつ俺は千歳と亮太に一声かける。
「ちょっとだけ待っててくれ」
「おう!」
亮太が元気よく答えたのに対して、千歳は複雑そうな表情で俺達の方を見ただけだった。
そんな千歳の様子を気にしつつ、俺は会長のもとへと近寄った。
「で、お話とは?」
俺がそう聞くと、取り巻きの一人がファイルからプリントを取り出し、渡してきた。
「急遽、来週に運動部と文化部の代表会をやることになった。詳しい説明はそれに書いてあるから、文化部の意見をまとめておけ」
会長の説明を聞きながら、俺は渡されたプリントにざっと目を通す。
これくらいなら、ほとんど今週中には形に出来るだろう。
俺は一年という立場ながらに、何故か文化部代表を務めている。
早い話、なる人がいなかったのだ。
もともと、文化部は幽霊部員が多く、真面目に活動している先輩達は物静かなコツコツタイプだ。
初日の集まりに、写真部代表として俺が参加し、あまりの手際の悪さに呆れてその場を仕切ってしまったのがまずかった。
それを見ていた生徒会長に、強制的に文化部代表に任命されてしまったのだ。
まあ、そのおかげで写真部に部費が優遇出来るから我慢するしかないだろう。
「わかりました。これくらいなら大丈夫」
「そうか」
俺の返事に頷きながら、会長の視線が一瞬、千歳の方へと向けられたのを俺は見逃さなかった。
そういえば……。
「会長は去年、中等部で千歳と同じクラスでしたっけ?」
「あ……ああ」
いきなりの問いに、会長は少し驚いたようだ。
一瞬、目を見開いたがすぐにポーカーフェイスに戻る。
「……特別、仲良かったわけじゃないけどな」
「ふ~ん」
まあ、確かに千歳と会長が仲が良いとは聞いたことがないけど……。
「会長、そろそろ」
「わかってる」
俺達の会話は、取り巻きの一人が恭しくそう言ったことで、終わりを告げた。
会長の一年で生徒会長というのが異例なわけだから、周りにいるのは二年か三年の先輩だろうに。
さすが学園の女王様、扱い慣れてる。
「それじゃあな、八神。来週だぞ」
そう言うと、会長は周りの彼らを引き連れてその場を去って行った。
その会長と千歳がすれ違う瞬間、二人の間に何とも言えない空気が流れたのを俺は感じていた。
「相変わらず、会長の周りはすごいな。病院とかの回診みたい」
会長の後ろ姿を眺めながら亮太がそんなことを言った。
「お前、ドラマとかの見過ぎ……」
亮太に呆れながらそう突っ込んでおいてから、会長の姿をじっと追いかけている千歳に俺は声をかける。
「会長のこと……気になる?」
「別に……」
俺の問いに千歳は我に返ったようにそう答えた。
今の視線はどう見ても恋する男のものだったけど?
「まあ、会長と仲良くなる機会があったら写真でも撮らせてよ」
「何、言ってんだか……」
千歳は失笑気味にそう言ったが、会長の写真が撮れるか撮れないかは俺にとっては大問題だ。
なぜなら写真部の写真の売り上げは一部、ポケットマネーとして撮った本人が頂けるからだ。
これは写真部内での暗黙の了解であって、決して活動規則として許されているわけではない。
まあ、これも活動意欲促進のための一つの手段と言えるだろう。
なんにせよ、学園人気ナンバーツーの高瀬千歳の親友である俺の懐は常にある程度は潤っている状態だ。
だが、そこに人気ナンバーワンの深海優弥が加われば完璧だろう。
千歳が女生徒限定なのに対して、会長の写真なら男女問わず売れるはずだ。
「カズ……親友で商売するなよ」
あれこれ計算していた俺に気づいた亮太が、呆れたように言ってくる。
「煩い。先立つものは金だ! 亮太、お前だって抜群のルックスがなくても、金さえあれば沙織や佳奈ちゃんにだって振られなかったかもしれないぞ」
俺がそう言い放った瞬間、亮太は……。
「うわ~~ん!」
「よしよし、お前もひどい幼馴染みを持ったな」
千歳に泣きついた……。
「和彦、お前が傷口に塩塗ってどーするよ」
「あ、悪い」
さすがに亮太を可哀想だと思ったのか、千歳に恨めしそうに言われ、俺は謝った。
亮太がまだ失恋から完全復帰したわけじゃないことを、すっかり忘れていた。
「またすぐにチャンスが来るから。な? 俺が知り合いの女の子に声かけてみるし」
そう言って、千歳が亮太を慰めている。
悪いな、千歳。俺には紹介出来るような、親しい女なんていないから。
こういう時、千歳みたいに女にモテる友達がいると助かる。
だが、この後、俺は学園人気ナンバーワンとツーの秘密を知ることとなったのだった。
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