恋せよ乙女のオカマウェイ!!

隆駆

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普通の女の子に戻りたい。

間が悪い男

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「格上か…」
島本と別れた帰り道、ぼそりと呟いた明日夢の言葉を太一が聞き咎める。
「お前……妙なことを考えてるんじゃないだろうな?」
「妙な事って?」
「だからそれは…………」
ごにょごにょと口ごもる太一は、言い逃れは許さんとばかりにこちらを見つめる明日夢の視線に負け、改めて自身の胸の内を吐露した。
「…………あのヤクザから逃げる為に適当な男を捕まえてくるとか……」
「……それ、本気で言ってる?」
だとしたら呆れた。
「彼氏いない歴が年齢とイコールな事知っててそんな台詞言ってるなら、喧嘩を売ってるとみなすけど」
「何でそうなる!?」
驚愕する太一に、明日夢が不機嫌な顔でその理由を口にする。
「あのね、そんな簡単にハイレベルの彼氏が見つかるわけないでしょ。そんなことができるなら大学生にもなってオカマバーでバイトなんてしてないから」
今頃リア充を謳歌しているはず。
「お前それとこれとは………!」
「だから一緒だって。ただでさえ男女だのなんだのいわれてるのに、着飾ってもオカマにしか見えない女なんて明らかに恋愛対象外でしょ」
「んなわけあるかよこの馬鹿!!」
この台詞には流石にカチンと来た。
「馬鹿?誰が?」
「お前だこの馬鹿明日夢!お前な、せめて自分が女だってことくらい自覚しろよ…!着飾ったお前をみりゃ、男女だなんて言う奴なんざ誰もいねぇに決まってんだろ!?」
そこまでいって、はっと何かに気付いた様子の太一。
「………!まさかその調子で、あの店でも無自覚に男をひっかけてたんじゃないだろうな!?」
「ひっかけて……!?」
とんでもない暴言だと一瞬絶句した。
暗に着飾ればちゃんといい女だと褒められているのだがそこには全く気づかない。
たまった鬱憤を晴らすがごとく、猛烈な勢いで太一の襟首を掴みあげ、容赦なくその頭を揺さぶり倒す。
「むしろいい男が引っ掛かってくれるなら喜んでお持ち帰りされたい位だし!でも相手はこっちを男だと思ってんだよ!?裸になった途端やっぱ女無理とか言われたらいろんな意味で心折れるわ!」
例え鋼のごとき神経を持ち合わせていたとしても、あまりに無謀すぎるチャレンジだ。
敵前逃亡と言われようと、そこに挑むだけの勇気はない。
正直に言えば、明日夢だって惜しいとは思っているのだ。
「折角理想の人を見つけたとおもったのに、出会った場所が場所だけにこっちからアピールはできないし、再会できてもまともに話すらできないこの状況で、一体私にどうしろと!?」
しかも相手はこれから就職しようとする会社の社長と来た。
オカマバーで働いていたことがばれるのはともかく、下手したら性別を詐称したのかと疑われかねない。
勿論内定も一発アウトだ。
激しく頭を揺すぶられた太一は、それでも意地で明日夢の肩を掴むと、「俺の話を聞けよ!」と至近距離から怒鳴り付ける。
「俺が言いたいのは……つまり」
「つまり?」
早く先を言えと、互いの鼻先でにらみ会う二人。
視線を逸らしたら負け。
そんな意地の張り合いに発展しそうになった所で、太一がようやく腹をくくった。
「だから、な…」
「?」
わけのわからぬ顔をしている明日夢に、「なんでコイツはここまで鈍いんだ」と、半分頭痛をこらえるような表情を浮かべながら、最初からずっと言いたかったことをここでようやく口にする。
「……急いでほかの男を見つける必要なんてどこにもない。俺を選べばいいって言ってるんだ」
「選ぶって何を」
明日夢には話が全く通じていない。
これでもまだわからないのかと内心の落胆を覆い隠し、自身の気持ちを奮い立たせながら太一は続ける。

結果から言えば、早急過ぎた一言を。

「結婚しよう。幸せにする」

「………」

真顔でのその言葉に、明日夢の眉根がじわじわと中央に寄って行く。

「明日夢……?」

明日夢が無言でいることに不安を感じながらも、ここで決めなければ永遠に先へは進めないと覚悟を決めた太一。
「お前がすべきことは一つだ。今ここで頷いてくれ。それだけでいい」
そうすれば、後は全部何とかしてやる。


「俺がおまえを守る盾になってやる」

だから、と。

続けられるはずだった言葉は、その途中で強引に途切れた。

パンッ……!!

明日夢の肩に置かれた太一の手が、思い切り払いのけられたのだ。
「明日夢…!!」
まさかそんなことをされるとは思ってもみなかったのだろう。
もう一度肩をつかもうと腕を伸ばした太一だったが、その体がぐらりと斜めに揺れる。
素早い仕草で太一の腕を避けた明日夢が、なんの予備動作もなく太一へと足払いを仕掛けたのだ。
足元は完全に無防備だった太一は、声もなく背中から地面に倒れ込みそうになり………すんでのところで差し伸べられた明日夢の手によって救われた。
女性にしては強い力で引き上げられ、倒れかけた上半身をなんとか起こして前を向けば、そこにあったのは複雑な表情を浮かべた明日夢の姿。
繋いでいた手をゆっくり離し、明日夢がふっと笑う。
「…私がその気になれば、後一発でお仕舞いだよ」
今のように不意打ちでひっくり返され、そこから喉元を足で踏みつけられたとしたら、まず立て直す手段はない。
「あのね太一。そんな隙だらけのザマで、どうやって私のことを守るつもりなの?」
「……!!」
容赦ない指摘を受け、反論をしようにもできない己の無様さに、くっと唇を噛み締める。
「責任感じてそんなこと言ってるんだったらいい迷惑だから。自分のことは自分で何とかするし。
さっきの師匠の発言を間に受けたのかもしれないけど、自分より弱い相手に盾になってもらうほど、わたしは落ちぶれてはいない」
「……っつ」
ここでようやく太一は、己が犯した最大の過ちに気付いた。
先ほどの、「俺がおまえを守る盾になってやる」という発言は、明日夢を守れるだけの力を持った人物がいうのでなければ、ただの間抜けな自己満足でしかないと。
武道を学び、自身が誰かを守る側の人間だと自負している明日夢にとっては、ちゃんちゃらおかしな戯言だ。
今思えばプロポーズのタイミングも最悪だった。
明日夢は完全に、太一からの求婚を誤解している。
責任感と同情。そのための発言だと勘違いされた。
実際にはなんの関係もなく、島本に発破をかけられただけなのだが、そんな事が明日夢にわかるはずもなく。
一度こうと決めたら意外と思い込みの激しい明日夢を知る太一は、最悪の事態に気づき顔色を失った。
「あのさ、あんまり言いたくはないけど、どっちみに曽根さんは最初から私に目をつけてたんじゃないかな?
あの人のこの間の態度を考えれば、店でのことがなくても、いつかは必ずちょっかいをかけてくるつもりだったと思う」
ただ今回のことでそれが少し前倒しになっただけ。
恐らくそれが正解。
「幼馴染だもん、太一が心配してくれるのはよくわかるよ。
でもさ、相手は普通の人じゃないし、ここで安易に太一を巻き込んで、太一に何か危険が及ぶのが私は一番怖い。
それに、もし太一を人質にでも取られたら、私いくらでも取引に応じちゃう自信があるよ。
――――引換にするのが、私の命だったとしてもさ」
「!」
「もちろんただではやらせないし、まぁ現段階では命までは取られないと思うけど…」
代わりにもっと他のものを奪われるような気はするが、そこは言わぬが花だろう。
だが、その可能性に気づいた太一の動揺は激しいものだった。
「あの男が……そういう真似をする可能性があるってことか…!?」
一気に目を血走らせ、煮えたぎるような怒りにカッと燃えあがる。
意外と情に厚い太一の事、このままでは曽根のいる組事務所に乗り込みかねないと感じた明日夢は、それでも冷静に太一を制止し、現状を分析する。
「さっきのはただの例え。…正直まずその可能性はないと思う。あの人のことだから、やるなら自分の手でやるだろうし…」
そんな悲劇のヒロインのようなシチュエーションを明日夢に求めているわけではないと思う。
彼が求めているのは、自身とぶつかり合えるほど卓越した能力を持つ相手。
あの男は、そうした相手を己の力で屈服させたいのだ。
今回はたまたまそれが異性である明日夢だったため、恋愛ざたのように見えているに過ぎない。
本質にあるのは歪んだ征服欲であり、所有欲。
そんなものは到底愛情とは呼べないし、明日夢がそれを甘受せねばならない理由もない。
相手が力づくでやってくるのなら、こちらも力で抵抗するまで。
曽根のような面倒な人物を相手とる場合、意外とそれが一番の良策なのだ。
こちらが同じ土俵で戦っている限り、相手もルールを破るようなことをしてこない。
むしろ下手に逃げようとすれば、あぁいうタイプはどんな手を使ってでも追い詰めてくるだろう。
明日夢としては、島本に執り成しを頼むのも正直反則スレスレのギリギリのラインだと思っている。
ヘタをしたら余計に曽根を刺激してしまう可能性もある。

――――師匠の言った、曽根さんより格上の男を捕まえるっていうのはありっちゃありかもしれないけど…。

さきほど太一に言ったセリフではないが、そんな男が直ぐに見つかったら苦労はしない。

一瞬、つい先日面接会場で再会した例の人物の影が頭をちらついたが――――――到底無理な話だと直ぐに首を振る。
奇跡でも起きない限り絶対に無理だ。
第一、これから勤めるかも知れない会社の社長相手にどうしろというのか。


「とりあえずさ、師匠が何とかしてくれるって言うから様子をみるよ。
先のことは別にしても、今は就活が無事に終わればいいわけだし。
だから太一もこの話はこれでおしまい。ね?」
そんな言葉では太一が納得しないのは重々承知の上だったが、意外にも太一からの反論は返らない。
腕っ節で明日夢にかなわない今の自分が、ここで何を言っても無駄だと思い知ったようだ。
だがその目は先程よりずっとギラギラとした何かに燃えて、ここで全てを諦めたようには到底見えない。
何か仕出かさなければいいけど、これ以上は余計意地になるだけだろう。
太一は大事な幼馴染で、親友。それは間違いない事。

だが、だからこそ思う。


―――あのね、太一。
友情と愛情は、別物なんだよ……。
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