おきつね様とたぬきちゃん

隆駆

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たぬきちゃんとおきつね様

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突然だが、私はいなり寿司が好きだ。
ラブ的に大好きだ。

若干煮詰まりすぎてるんじゃないかと想うくらい色の濃さを誇るのは、地元名物「カンカン寿司」の黒いなり。
砂糖の代わりに黒糖が使われている為コクが強く、当然ながら味も濃い。
一応商品には「薄味」なるものも存在するのだが、これも一般的ないなり寿司と比べれば十分に濃い。
薄味を選んだはずなのに、これって間違じゃ!?と、一瞬本気で疑いたくなるレベルの軽い詐欺である。

     ※※※

私のお昼の日課。
それは職場の片隅にたつ小さなお稲荷様にいなり寿司を日々奉納することである。

「おい。もう甘い飯は飽きたぞ。肉を食わせろ」

そういいつつ、指先についたいなり寿司特有の甘い汁を嘗めとるのは、金髪猫耳ーーーではなく金髪狐耳の美男子。
いなり寿司を食べる姿さえ様になる魅惑のケモ耳ことおきつね様である。
「………おい、今何か妙なことを考えなかったか」
「ばれてる!?」

流石は神様と戦けば、呆れた表情のおきつね様。

「………手が脳内と連動して妙な動きをしているのに気づいていないのか」

はっ!!

「すみません、無意識にモフろうとしてました。
というか今日もちゃんと貢ぎ物をしたのでモフらせて下さい!!」

わきわきと両手を動かしつつ頭を下げる。
モフる為なら土下座も厭わないいつもの姿勢に、軽くため息を吐くおきつね様。

え?貢ぎ物ならいなり寿司以外を持ってこいって?
無理ですよ、だっていなり寿司は私にとって至高の嗜好品ですから!!

「そもそも週5でいなり寿司とか、お前ちょっとどうかしてるんじゃないか?」

そういいつつも、こちらにむかって頭を下げ、ケモ耳という餌をこちらにちらつかせつつ、新しいいなり寿司を口に入れるおきつね様。

手が届きそうで届かない絶妙な距離感。
こやつやりおる。

はぁ………。

「…………やはり飽きたな」
「ため息をつくと幸せが逃げていきますよ」

文句をさらっと聞き流してちらりとケモ耳に視線を送れば、諦めたような表情で差し出される魅惑のモフ。
私は知っている。
おきつね様は寂しがり屋のツンデレなのだ。

「ありがたやありがたや……」

はは~と平伏した私に、不満顔のおきつね様。

わかってます。
これはモフるなら早くやれという表情ですよね。
んじゃあ遠慮なく。

ひゃっほう!!
わふわふわふわっふる!!

いそいそと自らの膝の上におきつね様の頭をのせ、頬擦りしつつ遠慮なくなで回す。
成人男性を膝枕している羞恥心なんぞ魅惑のモフの前ではゴミみたいなものである。

「毛並みが良くなってきましたね~。今度一本600円の牛タン串を奉納したら本体を思う存分モフらせてくれます?」

ケモ耳ふわふわ、金髪サラサラでたまりません。
満更でもないおきつね様だが、ここは毎回粘る。

「欲を張るならせめて串ではなくステ―キを寄越せ」

知ってます。おきつね様は肉食です。

だがそこは一つ妥協してほしい。

「じゃあサイコロステーキで手を打つというのは」
「成型肉はいらん。むしろ生肉を寄越せ」
「さすがは野生。
というのかおきつね様の口から成型肉なんて言葉が!?」
「………屑肉は好かん。混ざりものがあるからな。牛一頭奉納しろとは言わんからせめてまともな肉」
「贅沢は敵ですよおきつね様」

ちなみに言うならおきつね様が覚える妙な台詞の大半は私から覚えたものである。
しかし、成型肉なんていつ喋ったかな?はて。

「ま、やっぱいなり寿司が最高ってことで」
「勝手に話を締めるな」

おきつね様はご不満プンプンですが、なにしろたぬきうどんとセットで300円と言う爆安価格。
おまけに天かすはのせ放題だ。

「……つまり金がないんだな」
「その少ない資金から毎回貢いでるんですから、対価を貰ってもいいと思います」
「………いなり寿司一つでか?」
「文句を言うなら返してくださいよ私のいなり寿司!」


そもそも一個じゃなくて毎回三つは食べてますよ、おきつね様は!!
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