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まさかの事実。
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「道ができているな」
「ーーーー道?」
見えない何かを見つめる龍一の視線の先を見つめ、高瀬は首をかしげた。
あの後、とりあえずここに呼んだ経緯はマルちゃんから聞いていたようなので、早速この部屋の異常性を調べてもらったわけなのだが、そこで出てきた言葉がこれだ。
ちなみに驚くべきことにこの龍一、どうやら本体ではなく「式神」を使用した、一種の分身体のようなものらしい。
最近高瀬がマルちゃん相手にやったことと同じだが、龍一曰く本来は高瀬のやったことのほうが遥かに高位の技なのだという。
意思を持つ者の上に他人の意識を乗せ、自由に動かすことは難しいのだそうな。
その点この「式神」は、いわゆるロボットのようなものなので、慣れてしまえば操るのは比較的簡単だそう。
申し訳ないが、高瀬的には「へぇー」という感想しかない。
なにしろその簡単だという「基礎」を習っていない上に、応用技術を更に自己流で活用しているような形なので、イマイチ実感がないのだ。
正直にそういえば、どこか諦めたような顔で「まぁ、お前だからな」とため息をつかれた。
龍一だけではなく他のメンバーまで同意していたのはなぜだろう。
「んで、その道ってのはもしかして霊道ってやつ?」
高瀬は「ない」と断言してしまったが、もしかしたら龍一には違うものが見えているのかもしれない。
なにしろプロだし。
「いや、霊道とは違う。人工的な繋がりのようなものだな。
お前たちにわかりやすく説明すれば………一番身近なのは電線か」
「……電線」
「送られているのが光や電気ではなく霊だと想像すればいい」
つまり、この部屋には霊専用の回線が勝手に開通されている、そいうことらしい。
そしてここは受信口のようなもので、どこからか送られてきた霊力がこの場に溜まっている状態。
普通であれば自然に消滅してしまうはずのその力が、どうやってかこの場所から漏れ出ることのないように細工がされているらしい。
そのせいで、この場所にいる人間と霊体、その両方に影響が出ているのだと。
「ってことは、師匠がいなくなっちゃったのは、その回線を使ってこの部屋からどこかに移動したってこと?」
「だろうな。それが自分の意志なのか、それとも別の人間の仕業なのかは不明だが」
「それって…」
誰かが、意図的に師匠をどこかへ逃がした、そういうことではないのか。
そして、先ほどの猫蟲の件を考えると、この場合最も可能性が高いのは――――ー。
「今回の事件の、黒幕」
猫をつかって恐ろしい鬼を作り出そうとしている、張本人。
「その術とやらを解く方法は?」
難しい表情で考え込んだ高瀬の背後で、龍一に尋ねる賢治。
「こっちはその霊を何とかしてくれって頼まれてるもんでね。そう簡単に行ったり来たりしてもらっちゃ困るんだわ」
「ちょっとケンちゃん……」
「わかってるわかってる。平和的に話し合いで解決、だろ?」
心配するな、といつもの笑顔を浮かべる賢治。
師匠を排除する前提で話す賢治に意を唱えたいところだが、先に釘を刺されては文句も言えない。
話し合いで解決。
つまり、師匠には自ら納得の上で成仏してもらうのが一番なのだが、それにはまず師匠がこの場にいなくては話にならない。
たしかに賢治の言っていることは最もだ。
「あのさ、ちょっと質問なんだけど」
そう言って手を挙げ、3人の会話に割って入ったのは主任だ。
「その光ケーブルみたいなのが繋がってるってのはわかった。ここがその霊力とやらの受け口なら、発信元ってのはどこになるわけ?」
「それはー――――ーーー」
龍一にとってそれは、今更言うまでもないことだったのだろう。
高瀬にしても、半ば確信していた部分がある。
霊力の発信元。
それはつまり。
「――――ーーー例の、工事現場」
つまり師匠は、今そこにいる。
「工事現場って……あの場所のことよね…?」
中塚女史が、小さく「どうして…」と呟く。
「高木先輩とあの場所に、一体何の関係があるって言うの……?」
この中で、その二つに共通して関係を持つのは恐らく中塚女史、そして――――ーーー矢部先輩。
「そういえば面白いことがわかったんだがな」と、龍一が口を開いたのはその時だ。
「面白いこと?」
彼にとっての面白いこととやらがどんなものなのか、あまり想像がつかない。
だが、今この場で何の関係もない話をするはずはなく。
龍一が視線を向けたのは、中塚女史その人で。
「そっちのあんた。確か中塚だったな」
「え?ええ、それが何か?」
今日のあの場にいたのだから、面識があるのは当然。
今更何をと不思議そうに応えた中塚女史に、龍一は言った。
「人間ってのは、自分に都合の悪い話は隠したがるもんだ」
「……?…」
「さっき聞いたあんたの一族の話だがな。こっちでも調べさせてもらったよ」
「……え……?」
それは、例の即身仏の話のことだろうか。
「さっきも言ったろう?面白いことがわかった、と。
あの話には、子孫にも聴かせることのできないもっと面倒な秘密があったんだよ」
「……秘密?」
自身の一族の話だというのに、全く心当たりがないと困惑しているのがよくわかる。
そこでなぜか龍一が、他人事とばかりの態度を崩さなかった矢部先輩をちらりと見た。
そして。
「あんたらの直接の祖先となった人物は、即身仏となった坊主を裏切った男の息子。
だが、その男には実は、もうひとり娘がいたんだ。
男は、その最初の娘を生まれてまもなく養子に出している」
そしてそのその子孫というのが。
「――――――ー矢部麻子、お前だ」
「え…?」
指を指され、何の話か全く覚えのない矢部先輩がどうしたらいいのかわからない様子で視線をあたりにさまよわせる。
そうだ。
よく考えれば、矢部先輩は中塚女史の因縁にまつわる話を何一つ聞かされてはいない。
それでは困惑するのは当然だろう。
同じ困惑を見せながらも、事情を把握する中塚女史の立ち直りは早かった。
「つまり、私たちはもともと同じ一族…ということですか?」
「そういうことになるな」
だが、と。
ここで龍一は、今日一番となる爆弾をこの場に落とした。
「同じ母親から生まれた子供でも、その種が同じとは限らない」
「ーーーー道?」
見えない何かを見つめる龍一の視線の先を見つめ、高瀬は首をかしげた。
あの後、とりあえずここに呼んだ経緯はマルちゃんから聞いていたようなので、早速この部屋の異常性を調べてもらったわけなのだが、そこで出てきた言葉がこれだ。
ちなみに驚くべきことにこの龍一、どうやら本体ではなく「式神」を使用した、一種の分身体のようなものらしい。
最近高瀬がマルちゃん相手にやったことと同じだが、龍一曰く本来は高瀬のやったことのほうが遥かに高位の技なのだという。
意思を持つ者の上に他人の意識を乗せ、自由に動かすことは難しいのだそうな。
その点この「式神」は、いわゆるロボットのようなものなので、慣れてしまえば操るのは比較的簡単だそう。
申し訳ないが、高瀬的には「へぇー」という感想しかない。
なにしろその簡単だという「基礎」を習っていない上に、応用技術を更に自己流で活用しているような形なので、イマイチ実感がないのだ。
正直にそういえば、どこか諦めたような顔で「まぁ、お前だからな」とため息をつかれた。
龍一だけではなく他のメンバーまで同意していたのはなぜだろう。
「んで、その道ってのはもしかして霊道ってやつ?」
高瀬は「ない」と断言してしまったが、もしかしたら龍一には違うものが見えているのかもしれない。
なにしろプロだし。
「いや、霊道とは違う。人工的な繋がりのようなものだな。
お前たちにわかりやすく説明すれば………一番身近なのは電線か」
「……電線」
「送られているのが光や電気ではなく霊だと想像すればいい」
つまり、この部屋には霊専用の回線が勝手に開通されている、そいうことらしい。
そしてここは受信口のようなもので、どこからか送られてきた霊力がこの場に溜まっている状態。
普通であれば自然に消滅してしまうはずのその力が、どうやってかこの場所から漏れ出ることのないように細工がされているらしい。
そのせいで、この場所にいる人間と霊体、その両方に影響が出ているのだと。
「ってことは、師匠がいなくなっちゃったのは、その回線を使ってこの部屋からどこかに移動したってこと?」
「だろうな。それが自分の意志なのか、それとも別の人間の仕業なのかは不明だが」
「それって…」
誰かが、意図的に師匠をどこかへ逃がした、そういうことではないのか。
そして、先ほどの猫蟲の件を考えると、この場合最も可能性が高いのは――――ー。
「今回の事件の、黒幕」
猫をつかって恐ろしい鬼を作り出そうとしている、張本人。
「その術とやらを解く方法は?」
難しい表情で考え込んだ高瀬の背後で、龍一に尋ねる賢治。
「こっちはその霊を何とかしてくれって頼まれてるもんでね。そう簡単に行ったり来たりしてもらっちゃ困るんだわ」
「ちょっとケンちゃん……」
「わかってるわかってる。平和的に話し合いで解決、だろ?」
心配するな、といつもの笑顔を浮かべる賢治。
師匠を排除する前提で話す賢治に意を唱えたいところだが、先に釘を刺されては文句も言えない。
話し合いで解決。
つまり、師匠には自ら納得の上で成仏してもらうのが一番なのだが、それにはまず師匠がこの場にいなくては話にならない。
たしかに賢治の言っていることは最もだ。
「あのさ、ちょっと質問なんだけど」
そう言って手を挙げ、3人の会話に割って入ったのは主任だ。
「その光ケーブルみたいなのが繋がってるってのはわかった。ここがその霊力とやらの受け口なら、発信元ってのはどこになるわけ?」
「それはー――――ーーー」
龍一にとってそれは、今更言うまでもないことだったのだろう。
高瀬にしても、半ば確信していた部分がある。
霊力の発信元。
それはつまり。
「――――ーーー例の、工事現場」
つまり師匠は、今そこにいる。
「工事現場って……あの場所のことよね…?」
中塚女史が、小さく「どうして…」と呟く。
「高木先輩とあの場所に、一体何の関係があるって言うの……?」
この中で、その二つに共通して関係を持つのは恐らく中塚女史、そして――――ーーー矢部先輩。
「そういえば面白いことがわかったんだがな」と、龍一が口を開いたのはその時だ。
「面白いこと?」
彼にとっての面白いこととやらがどんなものなのか、あまり想像がつかない。
だが、今この場で何の関係もない話をするはずはなく。
龍一が視線を向けたのは、中塚女史その人で。
「そっちのあんた。確か中塚だったな」
「え?ええ、それが何か?」
今日のあの場にいたのだから、面識があるのは当然。
今更何をと不思議そうに応えた中塚女史に、龍一は言った。
「人間ってのは、自分に都合の悪い話は隠したがるもんだ」
「……?…」
「さっき聞いたあんたの一族の話だがな。こっちでも調べさせてもらったよ」
「……え……?」
それは、例の即身仏の話のことだろうか。
「さっきも言ったろう?面白いことがわかった、と。
あの話には、子孫にも聴かせることのできないもっと面倒な秘密があったんだよ」
「……秘密?」
自身の一族の話だというのに、全く心当たりがないと困惑しているのがよくわかる。
そこでなぜか龍一が、他人事とばかりの態度を崩さなかった矢部先輩をちらりと見た。
そして。
「あんたらの直接の祖先となった人物は、即身仏となった坊主を裏切った男の息子。
だが、その男には実は、もうひとり娘がいたんだ。
男は、その最初の娘を生まれてまもなく養子に出している」
そしてそのその子孫というのが。
「――――――ー矢部麻子、お前だ」
「え…?」
指を指され、何の話か全く覚えのない矢部先輩がどうしたらいいのかわからない様子で視線をあたりにさまよわせる。
そうだ。
よく考えれば、矢部先輩は中塚女史の因縁にまつわる話を何一つ聞かされてはいない。
それでは困惑するのは当然だろう。
同じ困惑を見せながらも、事情を把握する中塚女史の立ち直りは早かった。
「つまり、私たちはもともと同じ一族…ということですか?」
「そういうことになるな」
だが、と。
ここで龍一は、今日一番となる爆弾をこの場に落とした。
「同じ母親から生まれた子供でも、その種が同じとは限らない」
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