わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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血の因縁

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『母親が一緒でも種が同じとは限らない』

それと同じことを、なんだか今回は何度も耳にしている気がする。

主に、矢部先輩関係で。

「ちょっとまって。なんか、すごい嫌な予感がするんだけど…」

この話の中に、登場人物は極めて少ない。
だが普通、こういった場合、対象となる存在は話の中に既に登場していなくてはおかしい。
そしてこの話の中で該当する人物が居るとしたら、それはただひとり。

「僧侶には、世話係として一人の娘が付けられていたらしい。
娘と僧侶はやがて恋仲となりーーーーそれを羨んだ長老の息子が坊主を騙し、その恋人を奪い取って自らの妻にした」

ーーーーーーーー!!!!!

その、赤裸々とも言える話に、全員が目を見開いた。
特に矢部先輩と中塚先輩の動揺はひどく、二人共互いに顔を見合わせたまま動くことができない。

「……って、ことはよ?話の流れからすると、その養子に出された娘っていうのは……」
「今となっちゃ真偽のほどがわからないが、少なくとも男は僧侶の子だと信じた。
もしかすると僧侶が即身成仏することを躊躇ったのは、自らの子ができたことを知ったせいだったのかもしれないな」

僧侶から相談を受けていた男が、その事を知っていたと考えれば辻褄は合う。
だから、先に生まれた娘は養子に出され、僧侶の死後に生まれた子は自身の子として残された。
自分の子ではないと、から。


「………」

きゅっと、視界の隅で矢部先輩が唇を噛む。
今矢部先輩が考えていることは、なんとなくわかる。

「血の因縁、って奴だな。
ーーーーーもしくはそれも、呪いの内か」

何もかも承知の上で、龍一はあっさりとそれを言い切った。

僧侶を裏切った男の血を引く中塚先輩達は、その怨念による呪いに怯え続けーーーーー。
そして、僧侶の血を引くもうひとつの血族は、まるでその愚かさの見せしめのように、何度も同じことを繰り返す。
奪い、奪われ、他人の子を宿したまま別の男に嫁ぐ。
それが全て、先祖からの因縁だというのなら。

「……そんな……」

そんな呪いが、果たして存在するのか。
信じたくない思いはあるが、残念なことに今この目の前にいる矢部先輩自身が、そのことを証明してしまっている。


「というわけでだ。今ここには裏切った男と、裏切られた男との子孫がそれぞれ顔を合わせているわけだ。しかも、片方だけとは言え、同じ母の血を継ぐ子孫が。
……これは本当に偶然か?」

「「!」」

常識的に考えて、普通ならばそれは、確かにありえない確率。

「ーーーーー意図的なものだと、そう言いたいのか」

呻くように吐き出した部長の言葉に、それはありえない、とはっきり首を振るのは主任だ。

「本人たちですら知らないような話、誰が知り得るって言うんだよ」

たとえ本人たちの身上調査をしたところで、そう簡単に出てくるような話ではない。
それを二人の入社時まで遡って仕組むことなど、事実上不可能だ。

「俺は誰かが仕組んだ、などといった覚えはない。
ーーーーー血が呼び合った。そういうことだろう」
「血が…?」
「元は一つの血族。それが時を経て、互いに惹かれあったとしても不思議はない」

「つまり、それ自体は本当に偶然ってこと……?」
「恐らく、な」


龍一の調べを持ってしても、他の誰かの作為的な行為は見つからなかった、そういうことなのだろう。
この短時間のうちにこれだけのことを調べ上げた男の言うことだ。
今はその言葉を信用するよりほかはない。

「だが」

「……?」

本題はここからだ、と龍一はそれを視線で物語る。

「その偶然を利用して、自身の望みの為の道具として利用しようとした人間がいることは、間違いない」
「道具・・・・・・・」

嫌な言葉だ、と眉間にシワを寄せる主任。
高瀬の脳裏に浮かぶのは、さきほど見た猫蟲の存在。
あれもまた、その人間によって意図的に作られた、呪いの

「…そこまでして、一体何を……」

何か、必ず目的はあるはずだ。
そう思って問いかけた高瀬に対する龍一の答えは実に意外なものだった。

「ーーーーー目的までは知らんが、術者の正体だけならば、既に判明している」

「え」

思いもよらぬその言葉に、一瞬頭が真っ白になった。


「犯人……もう分かっちゃってるってこと!?」

なんだそれ!?と一気に龍一に詰め寄る高瀬。
勿体ぶっといてそれか、と襟首を掴みガンガン揺すぶるが、一向に応えた様子はない。
よく考えればこれは実体ではないのだから、それも当然のことかもしれないが…。
地団駄を踏み、「実力行使上等!」と叫ぶ。

「よし、今からそいつをとっちめてくる!!そうすれば今回の件は万事解決!!!」
よっしゃ任せろ!と意気込む高瀬だが、そう簡単に物事は運ばないと龍一は言う。

「今回の場合、術者はあくまで手足に過ぎない。
確かに術者の名は判明している。だが、問題はその術者にだ」

依頼。

つまりはその男も、所謂「呪い代行」のような仕事を請け負う人間ということか。
そして依頼を受けた以上、その術者は確実に依頼者の望みを叶えるべく、動いているはず。


「その依頼者は………一体何を望んだんだ?」
「さぁ…」

バラバラのピースが、ここにきてようやく、ひとつの絵を描き出す。

「ケンちゃん……」

じっと賢治を見つめれば、「わかっている」とばかりに頷いた賢治が懐から取り出したのは一枚の写真。
高瀬にとっては全く見覚えのないその写真をピラりと指にはさみ、賢治はそれを差し出した。


「なぁ主任さん。あんた、この男に見覚えはないか?」

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