215 / 290
血の因縁
しおりを挟む
『母親が一緒でも種が同じとは限らない』
それと同じことを、なんだか今回は何度も耳にしている気がする。
主に、矢部先輩関係で。
「ちょっとまって。なんか、すごい嫌な予感がするんだけど…」
この話の中に、登場人物は極めて少ない。
だが普通、こういった場合、対象となる存在は話の中に既に登場していなくてはおかしい。
そしてこの話の中で該当する人物が居るとしたら、それはただひとり。
「僧侶には、世話係として一人の娘が付けられていたらしい。
娘と僧侶はやがて恋仲となりーーーーそれを羨んだ長老の息子が坊主を騙し、その恋人を奪い取って自らの妻にした」
ーーーーーーーー!!!!!
その、赤裸々とも言える話に、全員が目を見開いた。
特に矢部先輩と中塚先輩の動揺はひどく、二人共互いに顔を見合わせたまま動くことができない。
「……って、ことはよ?話の流れからすると、その養子に出された娘っていうのは……」
「今となっちゃ真偽のほどがわからないが、少なくとも男は僧侶の子だと信じた。
もしかすると僧侶が即身成仏することを躊躇ったのは、自らの子ができたことを知ったせいだったのかもしれないな」
僧侶から相談を受けていた男が、その事を知っていたと考えれば辻褄は合う。
だから、先に生まれた娘は養子に出され、僧侶の死後に生まれた子は自身の子として残された。
自分の子ではないと、知っていたから。
「………」
きゅっと、視界の隅で矢部先輩が唇を噛む。
今矢部先輩が考えていることは、なんとなくわかる。
「血の因縁、って奴だな。
ーーーーーもしくはそれも、呪いの内か」
何もかも承知の上で、龍一はあっさりとそれを言い切った。
僧侶を裏切った男の血を引く中塚先輩達は、その怨念による呪いに怯え続けーーーーー。
そして、僧侶の血を引くもうひとつの血族は、まるでその愚かさの見せしめのように、何度も同じことを繰り返す。
奪い、奪われ、他人の子を宿したまま別の男に嫁ぐ。
それが全て、先祖からの因縁だというのなら。
「……そんな……」
そんな呪いが、果たして存在するのか。
信じたくない思いはあるが、残念なことに今この目の前にいる矢部先輩自身が、そのことを証明してしまっている。
「というわけでだ。今ここには偶然にも裏切った男と、裏切られた男との子孫がそれぞれ顔を合わせているわけだ。しかも、片方だけとは言え、同じ母の血を継ぐ子孫が。
……これは本当に偶然か?」
「「!」」
常識的に考えて、普通ならばそれは、確かにありえない確率。
「ーーーーー意図的なものだと、そう言いたいのか」
呻くように吐き出した部長の言葉に、それはありえない、とはっきり首を振るのは主任だ。
「本人たちですら知らないような話、誰が知り得るって言うんだよ」
たとえ本人たちの身上調査をしたところで、そう簡単に出てくるような話ではない。
それを二人の入社時まで遡って仕組むことなど、事実上不可能だ。
「俺は誰かが仕組んだ、などといった覚えはない。
ーーーーー血が呼び合った。そういうことだろう」
「血が…?」
「元は一つの血族。それが時を経て、互いに惹かれあったとしても不思議はない」
「つまり、それ自体は本当に偶然ってこと……?」
「恐らく、な」
龍一の調べを持ってしても、他の誰かの作為的な行為は見つからなかった、そういうことなのだろう。
この短時間のうちにこれだけのことを調べ上げた男の言うことだ。
今はその言葉を信用するよりほかはない。
「だが」
「……?」
本題はここからだ、と龍一はそれを視線で物語る。
「その偶然を利用して、自身の望みの為の道具として利用しようとした人間がいることは、間違いない」
「道具・・・・・・・」
嫌な言葉だ、と眉間にシワを寄せる主任。
高瀬の脳裏に浮かぶのは、さきほど見た猫蟲の存在。
あれもまた、その人間によって意図的に作られた、呪いの道具。
「…そこまでして、一体何を……」
何か、必ず目的はあるはずだ。
そう思って問いかけた高瀬に対する龍一の答えは実に意外なものだった。
「ーーーーー目的までは知らんが、術者の正体だけならば、既に判明している」
「え」
思いもよらぬその言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
「犯人……もう分かっちゃってるってこと!?」
なんだそれ!?と一気に龍一に詰め寄る高瀬。
勿体ぶっといてそれか、と襟首を掴みガンガン揺すぶるが、一向に応えた様子はない。
よく考えればこれは実体ではないのだから、それも当然のことかもしれないが…。
地団駄を踏み、「実力行使上等!」と叫ぶ。
「よし、今からそいつをとっちめてくる!!そうすれば今回の件は万事解決!!!」
よっしゃ任せろ!と意気込む高瀬だが、そう簡単に物事は運ばないと龍一は言う。
「今回の場合、術者はあくまで手足に過ぎない。
確かに術者の名は判明している。だが、問題はその術者に誰がこんなことを依頼したかだ」
依頼。
つまりはその男も、所謂「呪い代行」のような仕事を請け負う人間ということか。
そして依頼を受けた以上、その術者は確実に依頼者の望みを叶えるべく、動いているはず。
「その依頼者は………一体何を望んだんだ?」
「さぁ…」
バラバラのピースが、ここにきてようやく、ひとつの絵を描き出す。
「ケンちゃん……」
じっと賢治を見つめれば、「わかっている」とばかりに頷いた賢治が懐から取り出したのは一枚の写真。
高瀬にとっては全く見覚えのないその写真をピラりと指にはさみ、賢治はそれを主任に差し出した。
「なぁ主任さん。あんた、この男に見覚えはないか?」
それと同じことを、なんだか今回は何度も耳にしている気がする。
主に、矢部先輩関係で。
「ちょっとまって。なんか、すごい嫌な予感がするんだけど…」
この話の中に、登場人物は極めて少ない。
だが普通、こういった場合、対象となる存在は話の中に既に登場していなくてはおかしい。
そしてこの話の中で該当する人物が居るとしたら、それはただひとり。
「僧侶には、世話係として一人の娘が付けられていたらしい。
娘と僧侶はやがて恋仲となりーーーーそれを羨んだ長老の息子が坊主を騙し、その恋人を奪い取って自らの妻にした」
ーーーーーーーー!!!!!
その、赤裸々とも言える話に、全員が目を見開いた。
特に矢部先輩と中塚先輩の動揺はひどく、二人共互いに顔を見合わせたまま動くことができない。
「……って、ことはよ?話の流れからすると、その養子に出された娘っていうのは……」
「今となっちゃ真偽のほどがわからないが、少なくとも男は僧侶の子だと信じた。
もしかすると僧侶が即身成仏することを躊躇ったのは、自らの子ができたことを知ったせいだったのかもしれないな」
僧侶から相談を受けていた男が、その事を知っていたと考えれば辻褄は合う。
だから、先に生まれた娘は養子に出され、僧侶の死後に生まれた子は自身の子として残された。
自分の子ではないと、知っていたから。
「………」
きゅっと、視界の隅で矢部先輩が唇を噛む。
今矢部先輩が考えていることは、なんとなくわかる。
「血の因縁、って奴だな。
ーーーーーもしくはそれも、呪いの内か」
何もかも承知の上で、龍一はあっさりとそれを言い切った。
僧侶を裏切った男の血を引く中塚先輩達は、その怨念による呪いに怯え続けーーーーー。
そして、僧侶の血を引くもうひとつの血族は、まるでその愚かさの見せしめのように、何度も同じことを繰り返す。
奪い、奪われ、他人の子を宿したまま別の男に嫁ぐ。
それが全て、先祖からの因縁だというのなら。
「……そんな……」
そんな呪いが、果たして存在するのか。
信じたくない思いはあるが、残念なことに今この目の前にいる矢部先輩自身が、そのことを証明してしまっている。
「というわけでだ。今ここには偶然にも裏切った男と、裏切られた男との子孫がそれぞれ顔を合わせているわけだ。しかも、片方だけとは言え、同じ母の血を継ぐ子孫が。
……これは本当に偶然か?」
「「!」」
常識的に考えて、普通ならばそれは、確かにありえない確率。
「ーーーーー意図的なものだと、そう言いたいのか」
呻くように吐き出した部長の言葉に、それはありえない、とはっきり首を振るのは主任だ。
「本人たちですら知らないような話、誰が知り得るって言うんだよ」
たとえ本人たちの身上調査をしたところで、そう簡単に出てくるような話ではない。
それを二人の入社時まで遡って仕組むことなど、事実上不可能だ。
「俺は誰かが仕組んだ、などといった覚えはない。
ーーーーー血が呼び合った。そういうことだろう」
「血が…?」
「元は一つの血族。それが時を経て、互いに惹かれあったとしても不思議はない」
「つまり、それ自体は本当に偶然ってこと……?」
「恐らく、な」
龍一の調べを持ってしても、他の誰かの作為的な行為は見つからなかった、そういうことなのだろう。
この短時間のうちにこれだけのことを調べ上げた男の言うことだ。
今はその言葉を信用するよりほかはない。
「だが」
「……?」
本題はここからだ、と龍一はそれを視線で物語る。
「その偶然を利用して、自身の望みの為の道具として利用しようとした人間がいることは、間違いない」
「道具・・・・・・・」
嫌な言葉だ、と眉間にシワを寄せる主任。
高瀬の脳裏に浮かぶのは、さきほど見た猫蟲の存在。
あれもまた、その人間によって意図的に作られた、呪いの道具。
「…そこまでして、一体何を……」
何か、必ず目的はあるはずだ。
そう思って問いかけた高瀬に対する龍一の答えは実に意外なものだった。
「ーーーーー目的までは知らんが、術者の正体だけならば、既に判明している」
「え」
思いもよらぬその言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
「犯人……もう分かっちゃってるってこと!?」
なんだそれ!?と一気に龍一に詰め寄る高瀬。
勿体ぶっといてそれか、と襟首を掴みガンガン揺すぶるが、一向に応えた様子はない。
よく考えればこれは実体ではないのだから、それも当然のことかもしれないが…。
地団駄を踏み、「実力行使上等!」と叫ぶ。
「よし、今からそいつをとっちめてくる!!そうすれば今回の件は万事解決!!!」
よっしゃ任せろ!と意気込む高瀬だが、そう簡単に物事は運ばないと龍一は言う。
「今回の場合、術者はあくまで手足に過ぎない。
確かに術者の名は判明している。だが、問題はその術者に誰がこんなことを依頼したかだ」
依頼。
つまりはその男も、所謂「呪い代行」のような仕事を請け負う人間ということか。
そして依頼を受けた以上、その術者は確実に依頼者の望みを叶えるべく、動いているはず。
「その依頼者は………一体何を望んだんだ?」
「さぁ…」
バラバラのピースが、ここにきてようやく、ひとつの絵を描き出す。
「ケンちゃん……」
じっと賢治を見つめれば、「わかっている」とばかりに頷いた賢治が懐から取り出したのは一枚の写真。
高瀬にとっては全く見覚えのないその写真をピラりと指にはさみ、賢治はそれを主任に差し出した。
「なぁ主任さん。あんた、この男に見覚えはないか?」
0
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる