わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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無様を晒すなら命をかけろ

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「……マジかよ。本当に消えちまったぞ」

忽然と姿を消した二人を前に、額に手を当て天井を見上げる相原。
いち早く活動を始めたのは二人から後を託された便利屋。

「うっし。
あっちも無事に成功したみたいだし、俺はこれから行く所があるんで、後のことはご両人に任せて大丈夫か?」
「……行く所?」
「タカ子が言ってたろ?それぞれ、己がなすべきことをなせってさ」

谷崎の追求をさらりと交わし、視線だけで「お前たちにはまだやるべきことが残っているだろう?」と語る便利屋。
違法な世界に片足を突っ込んだような仕事を日夜こなすこの男は、先に消えた弁護士とはまた違った意味で厄介な相手だ。

「俺達には行き先を教えるつもりはない、ということかい?」
「教えてもいいが、知ったところであんたらに何ができるのかを教えて欲しいな」
「…………」
「……正論、だな」

便利屋に向け敵意を表す相原を静止し、その言い分を認める谷崎。

「おい、谷崎…!?」
「……今ここで俺たちが言い争ってなんになる。よく考えろ。
俺たちが彼女から託されたことは何だ。
ーーーーーーこの二人を、無事に病院まで送り届けることだろう」
「それは……!!」

もちろん相原とてそれを忘れたわけではない。
だがだからといって納得できるわけではないと谷崎に食ってかかろうとしーーーーーそこで気づいた。

「……谷崎、お前……」
「ーーーーーーーー聞き分けろ相原。俺だって全てに納得しているわけじゃないんだ」

本心を言うならば、今すぐにでも彼女の後を追いたい。

だが。

そうすればきっと、彼女を失望させてしまうことも、谷崎には簡単に理解できてしまう。

それは、できない。
これ以上、彼女を失望させるようなことだけは。

血管が浮き出るほどに力が込められた拳。
握りこんだ手のひらは、爪によって肉をえぐられ、うっすらと血が滲み始めている。
相原を見る目は一見して冷たくーーーーその実、凍えるような絶望と激しい激情との狭間にゆらめくようで。

その鬼気迫るほどの姿に、言葉を失う相原。

「そうそう。あんたらにだって大事な役目があるだろう?
その二人はうちのタカ子のお気に入りみたいだし、絶対に死なせるなよ?」
「………高瀬君にとってだけじゃなく、俺たちにとっても大事な部下を死なせるわけがないだろ」

だが、恐らく彼らにとって、中塚と矢部、二人の価値とはただ一点。


、それだけだ。

「……高瀬君の言ってたことは正しいな。
あんたらみたいな人を人とも思ってなさそうな奴に、大事な部下は預けられない」
「頼もしいな、主任サン?」

その調子で頼むぜ、と。
相原の挑発を意に返すこともなくあっさり受け流した便利屋は、そのまま荷物をたたむと、「何かあったら携帯に連絡してくれ」とだけ告げ、あっさり二人に背を向ける。

『もうここに用はない』

そのことが露骨に分かりすぎるほどの態度。

「……クソっ!!」

腹立ち紛れにベッドから枕を掴みとり、たった今便利屋が出て行ったばかりのドアに叩きつける相原。
だが、流石に八つ当たりもそこまで。

「おい谷崎、俺は車をこっちに回してくる。とりあえずお前は着いたらすぐ出発できる準備を」

「ーーーーーわかった」

乱れた髪を手のひらで撫で付け、ようやく気持ちを切り替えた相原は、未だ気を失ったままの二人の女性を心配そうに見下ろし、「二人共、きっと大丈夫だよな……?」と。

「わからない。だが、彼女たちを救うためにも、今俺達にできることはもうこれしかない」

ーーーーー無事、二人を病院まで送り届ける。

言葉通りすぐに車を回してきた相原。
四人をのせた車が無事にその場を走りだすまで、ほんの数分。
目的地はこの場から最も近い救急病院。
既に病院への事前連絡は済ませ、緊急外来にて担架を回してもらえるよう手筈は既に整っている。
彼らにできるのは、二人を医師に託す、そこまで。


ーーーーだが、彼女達を苛む病の正体が「呪い」だとすれば、果たしてただの医者に一体何ができるというのか。

結局の所、鍵を握っているのはやはり、あの場から姿を消した3人ーーーーー。


付けていたはずのラジオを消し、沈黙と緊張が支配する車内。
先に口を開いたのは相原だった。

「………谷崎お前、その後でどうするつもりだ」
「……後?」
「二人を病院まで送り届けたあとだ。
勿論付き添いは必要だろうが、それにしたって医者に任せちまったら、大の大人が雁首揃えてで座って待つ意味もない」
「……相原、お前……」

短くはない付き合いだ。
なぜ今ここで相原がそんなことを言いだしたのか。
それが理解できない谷崎ではない。
何かを考えるよりも先に、谷崎は相原へと懇願していた。

「ーーーーーーーーー俺を行かせてくれ」

彼女の後を、追わせてくれと。

勿論、相原が初めからそのつもりであることを承知で。


「何もできないかもしれない。だがーーーーーーー」

「行けよ」
「!」

信号が赤に変わった瞬間。
相原は、横に座る谷崎の襟首を掴み上げ、噛み付くような激しさで声を張り上げた。

「何もできないかもしれない!?初めからそんな弱気で、一体お前になにができるってんだ!
それでも行かせてくれって頭を下げんなら、必ず、救って見せろ!」

そうでなければ、許さないと。


そのくらいの気概がなければ、わざわざ出向く価値などない。
むしろ彼女にとって、無駄な足枷となってしまう可能性すらある。

それでも尚、行くというのなら。

「意地を見せろよ、谷崎。
どんなに無様な姿を晒してでも、命懸けで高瀬君を守れ!!」
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