わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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共鳴する群れ。

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「あ……あれ?」

どうしよう。
なんか、思ってたものと大分違うのが出てきたんだけど。

カレーの材料を煮込んだらなぜかボルシチが出来上がったような、「ん?」という違和感。

てっきり、巨大化した猛禽類か何かが現れることをイメージしていたのだが、実際に今目の前にいるのは、一匹の鴉。

サイズ自体は先程まで龍一が呼び出していた式神とほとんど変わりない。
だが、同じ黒をまとっているにも関わらず、その毛艶の違いは目に見えてわかるほどで。
墨汁で塗りつぶしたようなそれまでの黒とは違い、目の前のカラスがまとっているのは、純粋なる漆黒。

純度の高い黒鉛を更に煮詰めたような、深い闇の色。

空中にぴたりと静止したまま、羽ばたき一つしないその瞳は、鮮やかな真紅。
それが、三つ。

「み、三つ……??」

思わず二度見してしまったが、目の前の現実は何一つとして変わらず。

顕われた鴉の額には、ひときわ大きな第三の目が禍々しいほど美しく輝いている。

神の使いが顕現したかのごとく、その場が凍りついた。
寺尾少年を飲み込もうとしていた影の動きがぴたりと止まり、一瞬の後にまるで鴉から逃げ出すようにじわじわと少年の足元から後退していく。

『アォーーーン!!』
「ぶ、ぶちょー?」

共鳴するかのように遠吠えの上げる巨狼の足元。
太い前足に押さえつけられ、まさに縫い止められた影のようになっている黒い触手。

一匹と一羽。
その瞬間、視線が混じりあったと感じたのは果たして気のせいなのか。

触手の動きが鈍り、少年への侵攻が収まったのはいいことなのだが、しかしこれ、このあと一体どうすればいいのだろう。

巨狼といい、三つ目の鴉といい。
もしかしなくてもこれは、取り扱い不明な生物が一匹増えた事になるのだろうか。

「え~っと、ぴーちゃん………?」
「ーーーどうしてもその名で通すつもりなのか、お前は」
「いや、だってさ………」

一応そのつもりで呼び出したんだし。

どう考えてもそんな名前で呼べるような相手ではないと告げる龍一に、弱々しく反論する高瀬。
高瀬にだって、そりゃ龍一の気持ちはよくわかる。
目の前の鴉が放つ気配は有り得ないほど神々しく、明らかに「ぴーちゃん」などと気軽に呼びかけられるような存在ではない。

だが、それでも。
ぴーちゃんを呼んで出てきたのがこの子なのだから、この子はやっぱりぴーちゃんなのだ。

「三つ目か。
本来の八咫烏は三つ足のはずだが、そこは違うようだなーーーーーーーこれはなんだろうなぁ?」

ふむ、と興味深そうな表情で顕われた鴉を見つめる頼我。

本来とは違う、と言われても、そもそも別に八咫烏とやらを目指して作ったわけでも何でもないのだ。

「というか、三本足って歩きにくそう……」
「八咫烏は神の使いだぞ?今時の若者はサッカーも見ないのか?」

呆れたような声でいわれ、なんでサッカー?と思ったが、それは竜児が説明してくれた。

「八咫烏は日本のシンボル。サッカーの日本代表チームのイメージキャラクターでもあります。
選手たちのユニフォームにもしっかりプリントされていたはずですよ」
「ほぉ」
「さては興味のないことは全く記憶しないタイプだな?嬢ちゃん」
「否定したいけどあながち間違いでもない」

テレビで目にはしていたはずなのだが、全く気にしていなかった。
だが、サッカーに三本足というのは果たしてどうなのだろう。

足一本分有利と考えるべきなのか?いや、普通に考えてそれは反則だろう。

勝手なことを言い合う人間達を尻目に、呼び出された鴉はその血のような瞳で天を見上げ、一声大きく、「カァ」と鳴き声を上げた。

異変が起こったのは、その直後のことだった。

バサバサバサバサ――――。
「カァ」
「カァ」
「「カァ」」
「「「カァ」」」

「―――――!!」

一瞬にして天空から彼らを取り囲んだのは無数の鴉の群れ。

「な、なにこれ!?」
「………まるでヒッチコックだな」

鳥の群れに襲われる恐怖を描いた名作サイコホラーのタイトルに、「洒落にならないこと言わないでよ!」とブンブン首を振る高瀬。

「――――壮観ですね」

まるで空一面に闇がうごめいているかのような、異様な光景。

「この世の終わりにしか見えないけど!?」

終末。
その言葉が頭をよぎり、ムンクのような顔で頬を両手で挟み叫ぶ。

ひらひらと。
真っ黒な羽が大地に舞い落ちた―――。
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