255 / 290
共鳴する群れ。
しおりを挟む
「あ……あれ?」
どうしよう。
なんか、思ってたものと大分違うのが出てきたんだけど。
カレーの材料を煮込んだらなぜかボルシチが出来上がったような、「ん?」という違和感。
てっきり、巨大化した猛禽類か何かが現れることをイメージしていたのだが、実際に今目の前にいるのは、一匹の鴉。
サイズ自体は先程まで龍一が呼び出していた式神とほとんど変わりない。
だが、同じ黒をまとっているにも関わらず、その毛艶の違いは目に見えてわかるほどで。
墨汁で塗りつぶしたようなそれまでの黒とは違い、目の前のカラスがまとっているのは、純粋なる漆黒。
純度の高い黒鉛を更に煮詰めたような、深い闇の色。
空中にぴたりと静止したまま、羽ばたき一つしないその瞳は、鮮やかな真紅。
それが、三つ。
「み、三つ……??」
思わず二度見してしまったが、目の前の現実は何一つとして変わらず。
顕われた鴉の額には、ひときわ大きな第三の目が禍々しいほど美しく輝いている。
神の使いが顕現したかのごとく、その場が凍りついた。
寺尾少年を飲み込もうとしていた影の動きがぴたりと止まり、一瞬の後にまるで鴉から逃げ出すようにじわじわと少年の足元から後退していく。
『アォーーーン!!』
「ぶ、ぶちょー?」
共鳴するかのように遠吠えの上げる巨狼の足元。
太い前足に押さえつけられ、まさに縫い止められた影のようになっている黒い触手。
一匹と一羽。
その瞬間、視線が混じりあったと感じたのは果たして気のせいなのか。
触手の動きが鈍り、少年への侵攻が収まったのはいいことなのだが、しかしこれ、このあと一体どうすればいいのだろう。
巨狼といい、三つ目の鴉といい。
もしかしなくてもこれは、取り扱い不明な生物が一匹増えた事になるのだろうか。
「え~っと、ぴーちゃん………?」
「ーーーどうしてもその名で通すつもりなのか、お前は」
「いや、だってさ………」
一応そのつもりで呼び出したんだし。
どう考えてもそんな名前で呼べるような相手ではないと告げる龍一に、弱々しく反論する高瀬。
高瀬にだって、そりゃ龍一の気持ちはよくわかる。
目の前の鴉が放つ気配は有り得ないほど神々しく、明らかに「ぴーちゃん」などと気軽に呼びかけられるような存在ではない。
だが、それでも。
ぴーちゃんを呼んで出てきたのがこの子なのだから、この子はやっぱりぴーちゃんなのだ。
「三つ目か。
本来の八咫烏は三つ足のはずだが、そこは違うようだなーーーーーーーこれはなんだろうなぁ?」
ふむ、と興味深そうな表情で顕われた鴉を見つめる頼我。
本来とは違う、と言われても、そもそも別に八咫烏とやらを目指して作ったわけでも何でもないのだ。
「というか、三本足って歩きにくそう……」
「八咫烏は神の使いだぞ?今時の若者はサッカーも見ないのか?」
呆れたような声でいわれ、なんでサッカー?と思ったが、それは竜児が説明してくれた。
「八咫烏は日本のシンボル。サッカーの日本代表チームのイメージキャラクターでもあります。
選手たちのユニフォームにもしっかりプリントされていたはずですよ」
「ほぉ」
「さては興味のないことは全く記憶しないタイプだな?嬢ちゃん」
「否定したいけどあながち間違いでもない」
テレビで目にはしていたはずなのだが、全く気にしていなかった。
だが、サッカーに三本足というのは果たしてどうなのだろう。
足一本分有利と考えるべきなのか?いや、普通に考えてそれは反則だろう。
勝手なことを言い合う人間達を尻目に、呼び出された鴉はその血のような瞳で天を見上げ、一声大きく、「カァ」と鳴き声を上げた。
異変が起こったのは、その直後のことだった。
バサバサバサバサ――――。
「カァ」
「カァ」
「「カァ」」
「「「カァ」」」
「―――――!!」
一瞬にして天空から彼らを取り囲んだのは無数の鴉の群れ。
「な、なにこれ!?」
「………まるでヒッチコックだな」
鳥の群れに襲われる恐怖を描いた名作サイコホラーのタイトルに、「洒落にならないこと言わないでよ!」とブンブン首を振る高瀬。
「――――壮観ですね」
まるで空一面に闇がうごめいているかのような、異様な光景。
「この世の終わりにしか見えないけど!?」
終末。
その言葉が頭をよぎり、ムンクのような顔で頬を両手で挟み叫ぶ。
ひらひらと。
真っ黒な羽が大地に舞い落ちた―――。
どうしよう。
なんか、思ってたものと大分違うのが出てきたんだけど。
カレーの材料を煮込んだらなぜかボルシチが出来上がったような、「ん?」という違和感。
てっきり、巨大化した猛禽類か何かが現れることをイメージしていたのだが、実際に今目の前にいるのは、一匹の鴉。
サイズ自体は先程まで龍一が呼び出していた式神とほとんど変わりない。
だが、同じ黒をまとっているにも関わらず、その毛艶の違いは目に見えてわかるほどで。
墨汁で塗りつぶしたようなそれまでの黒とは違い、目の前のカラスがまとっているのは、純粋なる漆黒。
純度の高い黒鉛を更に煮詰めたような、深い闇の色。
空中にぴたりと静止したまま、羽ばたき一つしないその瞳は、鮮やかな真紅。
それが、三つ。
「み、三つ……??」
思わず二度見してしまったが、目の前の現実は何一つとして変わらず。
顕われた鴉の額には、ひときわ大きな第三の目が禍々しいほど美しく輝いている。
神の使いが顕現したかのごとく、その場が凍りついた。
寺尾少年を飲み込もうとしていた影の動きがぴたりと止まり、一瞬の後にまるで鴉から逃げ出すようにじわじわと少年の足元から後退していく。
『アォーーーン!!』
「ぶ、ぶちょー?」
共鳴するかのように遠吠えの上げる巨狼の足元。
太い前足に押さえつけられ、まさに縫い止められた影のようになっている黒い触手。
一匹と一羽。
その瞬間、視線が混じりあったと感じたのは果たして気のせいなのか。
触手の動きが鈍り、少年への侵攻が収まったのはいいことなのだが、しかしこれ、このあと一体どうすればいいのだろう。
巨狼といい、三つ目の鴉といい。
もしかしなくてもこれは、取り扱い不明な生物が一匹増えた事になるのだろうか。
「え~っと、ぴーちゃん………?」
「ーーーどうしてもその名で通すつもりなのか、お前は」
「いや、だってさ………」
一応そのつもりで呼び出したんだし。
どう考えてもそんな名前で呼べるような相手ではないと告げる龍一に、弱々しく反論する高瀬。
高瀬にだって、そりゃ龍一の気持ちはよくわかる。
目の前の鴉が放つ気配は有り得ないほど神々しく、明らかに「ぴーちゃん」などと気軽に呼びかけられるような存在ではない。
だが、それでも。
ぴーちゃんを呼んで出てきたのがこの子なのだから、この子はやっぱりぴーちゃんなのだ。
「三つ目か。
本来の八咫烏は三つ足のはずだが、そこは違うようだなーーーーーーーこれはなんだろうなぁ?」
ふむ、と興味深そうな表情で顕われた鴉を見つめる頼我。
本来とは違う、と言われても、そもそも別に八咫烏とやらを目指して作ったわけでも何でもないのだ。
「というか、三本足って歩きにくそう……」
「八咫烏は神の使いだぞ?今時の若者はサッカーも見ないのか?」
呆れたような声でいわれ、なんでサッカー?と思ったが、それは竜児が説明してくれた。
「八咫烏は日本のシンボル。サッカーの日本代表チームのイメージキャラクターでもあります。
選手たちのユニフォームにもしっかりプリントされていたはずですよ」
「ほぉ」
「さては興味のないことは全く記憶しないタイプだな?嬢ちゃん」
「否定したいけどあながち間違いでもない」
テレビで目にはしていたはずなのだが、全く気にしていなかった。
だが、サッカーに三本足というのは果たしてどうなのだろう。
足一本分有利と考えるべきなのか?いや、普通に考えてそれは反則だろう。
勝手なことを言い合う人間達を尻目に、呼び出された鴉はその血のような瞳で天を見上げ、一声大きく、「カァ」と鳴き声を上げた。
異変が起こったのは、その直後のことだった。
バサバサバサバサ――――。
「カァ」
「カァ」
「「カァ」」
「「「カァ」」」
「―――――!!」
一瞬にして天空から彼らを取り囲んだのは無数の鴉の群れ。
「な、なにこれ!?」
「………まるでヒッチコックだな」
鳥の群れに襲われる恐怖を描いた名作サイコホラーのタイトルに、「洒落にならないこと言わないでよ!」とブンブン首を振る高瀬。
「――――壮観ですね」
まるで空一面に闇がうごめいているかのような、異様な光景。
「この世の終わりにしか見えないけど!?」
終末。
その言葉が頭をよぎり、ムンクのような顔で頬を両手で挟み叫ぶ。
ひらひらと。
真っ黒な羽が大地に舞い落ちた―――。
0
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる