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顕現せしものは。
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後一人………?
「あ」
この場にいる人間。
そうだ、確かにもうひとり。
「ーーーーー寺尾少年!!」
「………完全に眼中に無かったってツラだな、嬢ちゃん。
そっちの二人は知ってて無視してたって感じだが」
見るからに「やっべ!」な表情を浮かべる高瀬とは違い、龍一たちの様子は平然としたものだ。
「生憎、見知らぬどっかの坊やまで守ってやる義務はないんでな」
「ーーーーー僕も右に同じですね」
反省どころから端から無視していたと告白され、思わぬ手に持っていた靴で二人の頭を交互にペしんと叩く高瀬。
「アウト!」
巻き込まれた未成年を目の前で見捨てるとか人として駄目だと思います!
「ですが助けに行くといっても、彼と僕たちの間にはアレがいて動けませんよ」
「う」
確かに、少年を助けに行こうとしたならば、真ん中に立つぶちょーを超えていかねばならない。
この場から一歩も動けずにいる現在の状況でそれができるかと言われればーーーーー正直かなり難しい。
「緊急避難という便利な言葉もありますし、致し方ないことと割り切りなさい」
「ーーーー珍しく意見があったな、弁護士先生。
意識のない人間をここまで引きずってまで守る義務は俺たちにはない」
諦めろ、と。
二人の意見は完全に一致しているらしい。
だがちょっとまて。
「あの子が乗っ取られてまた敵に回ったらどうすんの!?余計面倒になるじゃん!!」
容易に想像がつく展開をなぜ無視するのかと問えば、答えは簡単だった。
「その時は倒せばいいだけでしょう?生身の人間ならばやり方はいくらでもあります」
「………だな」
「こんな時ばっかり意気投合しないで!!!」
駄目だ、完全に見捨てるつもり100パーセント!!
「ーーーーー二人がやらないなら、私が何とかする!!」
寺尾のおじいちゃんの名にかけて!!
孫は守るよ、おじいちゃん!!
ふんと拳を握り、龍一の作った防衛ラインを超え、寺尾少年の元へ向かって駆け寄る決意を固める高瀬。
「瀬津!!」
「タカ子、冷静になりなさい。君だけで一体どうやってあの子供を運ぶつもりですか」
「ーーーーーー気合!!」
為せば成る、なさねばならぬ、何事も、だ。
「だが、ちょっと気づくのが遅かったみたいだな?」
「!!」
さぁ行くぞ、と気合をいれた矢先。
頼我の指し示す先で、完全に見捨てられた状態の寺尾少年が、ぶちょーの足元からずるずると這い出す影にその全身を飲み込まれようとしていた。
「竜児!!」
「ーーーーーーー言ったでしょう。諦めなさい、と」
そんな!!
「まぁ、あっちのデカ物に乗り移られるくらいならそっちのガキのほうが大分マシだもんな。
賢明な選択だろ」
そう責めてやるなよ、嬢ちゃん。
大人な顔をした頼我はそう慰めるが、そもそもだ。
「おっさんが助けてあげればいいんじゃん!」
自由に動ける上に、影から避けられている。
むしろなぜもっと早くこのことに気づかなかったのか。
「まぁそうなんだが、そうしたところで俺にメリットはないだろ?」
「メリット!?」
「なんの得もしないことにゃ、自分からわざわざ首を突っ込まないって決めててな。
それに言ったろ?個人的に、こいつには同情すべき点もある、って」
清々しいまでの強欲さで不干渉を決め込む頼我は、その場から一歩も動くつもりはないらしい。
走って向かったところでもう間に合わない。
どうするかーーーーーーー!!
その時高瀬の視線に入ったのは、新しい札を手に、口元についた血を拭う龍一の姿。
さすが転んでもただでは起きぬというべきか、その血をそのまま再利用して使うつもりらしい。
その姿に、ハッと思いつくことがあった。
「ーーーーーーーちょっと貸して!!」
飛び上がり、龍一の手元から札を強引に略奪する。
高瀬の手に渡った札を訝しげに見下ろし、「どうするつもりだ」と尋ねる龍一。
どうもこうもない。
「前に言ってたでしょ?私のキスには力があるんだって。
ーーーーーならきっと、上乗せも可能······な筈!!」
最早勘だけが頼りです!
べっちょりと血のついた場所をできるだけ見ないようにしながら、その少しだけ上にぶちゅっと自らの小さな唇あて、「ん~~!!」とうなりながら、気合やら闘魂やらをそこに注入するイメージを作る。
そして。
「行け、ぴーちゃん!!!」
ド―ピング気味だし、何が出てくるのかまったくわからないけど、とにかく君はぴーちゃんだ!!
それ!っと。
龍一の真似をして札を宙に飛ばした高瀬。
固唾を飲んでその行方を見守るが――そこで予想外の事態が起こった。
ボッ!!
「嘘、失敗!?」
目の前で、札が禍々しい黒炎を放ち一瞬にして燃え落ちたのだ。
「ーーちっーーー負荷をかけすぎたな」
「オーバーヒートってこと!?」
まさかの裏目!!一枚札をダメにしただけとか泣けてくるんだがっ!!
目の前で消し炭となった札が、風に流されて宙を漂う。
あぁ、ぴーちゃんが………。
ーーーーって、のんきに眺めてる場合じゃなかった!!
「こうなりゃ特攻ーーーーーー!!!」
「おいまて、あれを見ろ」
よっしゃ、と腕まくりして飛び出そうとした高瀬の襟首を掴む龍一。
「あれ?」
「ーーーーーーどうやら、失敗ってのは俺の早合点だったらしい」
厳かにつぶやいた龍一のセリフに、消し炭となった札をもう一度見つめーーーーー高瀬は「嘘っ!?」っと声をあげた。
先程までそこにあったはずの消し炭がない。
代わりにそこにいたのは―――。
「嬢ちゃんあんた、とんでもないものを呼び出したな。
不死鳥―――――いや」
八咫烏か。
「あ」
この場にいる人間。
そうだ、確かにもうひとり。
「ーーーーー寺尾少年!!」
「………完全に眼中に無かったってツラだな、嬢ちゃん。
そっちの二人は知ってて無視してたって感じだが」
見るからに「やっべ!」な表情を浮かべる高瀬とは違い、龍一たちの様子は平然としたものだ。
「生憎、見知らぬどっかの坊やまで守ってやる義務はないんでな」
「ーーーーー僕も右に同じですね」
反省どころから端から無視していたと告白され、思わぬ手に持っていた靴で二人の頭を交互にペしんと叩く高瀬。
「アウト!」
巻き込まれた未成年を目の前で見捨てるとか人として駄目だと思います!
「ですが助けに行くといっても、彼と僕たちの間にはアレがいて動けませんよ」
「う」
確かに、少年を助けに行こうとしたならば、真ん中に立つぶちょーを超えていかねばならない。
この場から一歩も動けずにいる現在の状況でそれができるかと言われればーーーーー正直かなり難しい。
「緊急避難という便利な言葉もありますし、致し方ないことと割り切りなさい」
「ーーーー珍しく意見があったな、弁護士先生。
意識のない人間をここまで引きずってまで守る義務は俺たちにはない」
諦めろ、と。
二人の意見は完全に一致しているらしい。
だがちょっとまて。
「あの子が乗っ取られてまた敵に回ったらどうすんの!?余計面倒になるじゃん!!」
容易に想像がつく展開をなぜ無視するのかと問えば、答えは簡単だった。
「その時は倒せばいいだけでしょう?生身の人間ならばやり方はいくらでもあります」
「………だな」
「こんな時ばっかり意気投合しないで!!!」
駄目だ、完全に見捨てるつもり100パーセント!!
「ーーーーー二人がやらないなら、私が何とかする!!」
寺尾のおじいちゃんの名にかけて!!
孫は守るよ、おじいちゃん!!
ふんと拳を握り、龍一の作った防衛ラインを超え、寺尾少年の元へ向かって駆け寄る決意を固める高瀬。
「瀬津!!」
「タカ子、冷静になりなさい。君だけで一体どうやってあの子供を運ぶつもりですか」
「ーーーーーー気合!!」
為せば成る、なさねばならぬ、何事も、だ。
「だが、ちょっと気づくのが遅かったみたいだな?」
「!!」
さぁ行くぞ、と気合をいれた矢先。
頼我の指し示す先で、完全に見捨てられた状態の寺尾少年が、ぶちょーの足元からずるずると這い出す影にその全身を飲み込まれようとしていた。
「竜児!!」
「ーーーーーーー言ったでしょう。諦めなさい、と」
そんな!!
「まぁ、あっちのデカ物に乗り移られるくらいならそっちのガキのほうが大分マシだもんな。
賢明な選択だろ」
そう責めてやるなよ、嬢ちゃん。
大人な顔をした頼我はそう慰めるが、そもそもだ。
「おっさんが助けてあげればいいんじゃん!」
自由に動ける上に、影から避けられている。
むしろなぜもっと早くこのことに気づかなかったのか。
「まぁそうなんだが、そうしたところで俺にメリットはないだろ?」
「メリット!?」
「なんの得もしないことにゃ、自分からわざわざ首を突っ込まないって決めててな。
それに言ったろ?個人的に、こいつには同情すべき点もある、って」
清々しいまでの強欲さで不干渉を決め込む頼我は、その場から一歩も動くつもりはないらしい。
走って向かったところでもう間に合わない。
どうするかーーーーーーー!!
その時高瀬の視線に入ったのは、新しい札を手に、口元についた血を拭う龍一の姿。
さすが転んでもただでは起きぬというべきか、その血をそのまま再利用して使うつもりらしい。
その姿に、ハッと思いつくことがあった。
「ーーーーーーーちょっと貸して!!」
飛び上がり、龍一の手元から札を強引に略奪する。
高瀬の手に渡った札を訝しげに見下ろし、「どうするつもりだ」と尋ねる龍一。
どうもこうもない。
「前に言ってたでしょ?私のキスには力があるんだって。
ーーーーーならきっと、上乗せも可能······な筈!!」
最早勘だけが頼りです!
べっちょりと血のついた場所をできるだけ見ないようにしながら、その少しだけ上にぶちゅっと自らの小さな唇あて、「ん~~!!」とうなりながら、気合やら闘魂やらをそこに注入するイメージを作る。
そして。
「行け、ぴーちゃん!!!」
ド―ピング気味だし、何が出てくるのかまったくわからないけど、とにかく君はぴーちゃんだ!!
それ!っと。
龍一の真似をして札を宙に飛ばした高瀬。
固唾を飲んでその行方を見守るが――そこで予想外の事態が起こった。
ボッ!!
「嘘、失敗!?」
目の前で、札が禍々しい黒炎を放ち一瞬にして燃え落ちたのだ。
「ーーちっーーー負荷をかけすぎたな」
「オーバーヒートってこと!?」
まさかの裏目!!一枚札をダメにしただけとか泣けてくるんだがっ!!
目の前で消し炭となった札が、風に流されて宙を漂う。
あぁ、ぴーちゃんが………。
ーーーーって、のんきに眺めてる場合じゃなかった!!
「こうなりゃ特攻ーーーーーー!!!」
「おいまて、あれを見ろ」
よっしゃ、と腕まくりして飛び出そうとした高瀬の襟首を掴む龍一。
「あれ?」
「ーーーーーーどうやら、失敗ってのは俺の早合点だったらしい」
厳かにつぶやいた龍一のセリフに、消し炭となった札をもう一度見つめーーーーー高瀬は「嘘っ!?」っと声をあげた。
先程までそこにあったはずの消し炭がない。
代わりにそこにいたのは―――。
「嬢ちゃんあんた、とんでもないものを呼び出したな。
不死鳥―――――いや」
八咫烏か。
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