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お年玉企画~部長とおせちの甘い罠⑤~

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「谷崎が変わった気がする?そりゃ高瀬君、君のせいに決まってるだろ」



これお土産ね、と。

某有名パティスリーのケ―キを携えやってきた主任。

「ごろにゃん!」

しゅぱっ!

玄関を開けるなり、年賀の挨拶よりも早く目の前に差し出されたその箱に、高瀬は見事に釣り上げられた。

「あはは、予想通りの反応だねぇ」

箱を高瀬に手渡し、満足そうな表情の主任。
だが主任が持ってきたお土産はそれだけではなかった。

「こっちはうちの母親から高瀬君へ。
中身はバ―ムク―ヘンだってさ。
息子がお世話になってますだって」

一旦ケ―キの箱を隣にいた部長に預け、渡された箱を見れば、そこには結婚式の引き出物かと見紛うほどの立派な年輪バウムが。

横文字で記された店の名前に耳覚えはないが、どう考えてもその辺で適当に購入できる代物ではない。

「私が貰っちゃって大丈夫ですか?部長とかの間違いなんじゃ………むしろ主任にお世話になってるのはこっちですし」

上品で可愛らしいピンクの紙袋といい、いかにも女性受けを狙った品物らしいが、念の為一応確認。

「いいのいいの。
どうせ谷崎にやったって結果は同じだけど、今回はちゃんと高瀬君宛だよ。
ほら、俺が入院してた時にうちの母と何度か顔合わせしたろ?あの時の可愛らしいお嬢さんにってさ」

「……………美魔女様!!」

たった数回の邂逅なのに覚えていてくれたなんて感激。
とりあえずこれはもう私のもの確定だ。

すりすり。

「相変わらず高瀬君は食欲に素直だねぇ。
うちの母親に今の台詞を聞かせたら喜んで餌付けを開始しそうだよ。
中塚くんといい、矢部君といい、高瀬君って年上に可愛がられるタイプだよね」

母性本能をくすぐるのかな?と首を傾げつつ、身軽になったところでようやく無言のままのこの家の家主に目を向る主任。

「さて。
谷崎、お前にも一応は別にあるんだが――」
「土産………?」
「―――まずはコ―ヒ―の一杯位は出してくれるんだろ?」

にやりと確信犯的に笑う主任に、苦々しく顔を歪める部長。
そのまま玄関先で回れ右をして帰れと言いたいところだが、それを見越して用意したと思われるの正体が気にかかる。

「はい!お茶くみは下っぱの役割私が行きます!!」

既に勝手知ったる部長の家。
人数分のコ―ヒ―を用意することくらい楽勝だと、元気よく手を上げた高瀬。

実はつい最近になって部長の家にはバリ◯タが常備されるようなり、まさに蓋を開けてポンするだけの簡単なお仕事だ。

「いやいや、高瀬君も立派なお客さんだろ?
そういうのはここんちの嫁になるって決めてからやればいいんだよ。
なぁ谷崎?」
「………………………」

どうせまだなんの進展もないんだろ?と見透かしたような主任の発言に、ピリピリとした空気が辺りに漂う。

当人である高瀬としてはこの空気はかなり居たたまれない。

というか、沈黙と同時に感じるプレッシャーが怖いです部長。

しかし嫁云々と言われてなおもキッチンへ向かう度胸もなく。

「……………先にリビングへ行っていてくれ」

はぁ………。

折れた部長がため息をつきつつキッチンに向かうまで、長い時間はかからなかった。

「相変わらず高瀬君には甘いねぇ」
「?なんのことですか?」
「いいのいいの。愛されてるね、高瀬君」
「ん?」

全くと言っていいほど答えになっていない台詞を楽しそうに口にする主任。

ちなみに先程の部長のセリフは高瀬に向けられたものであり主任にかけた言葉ではない。
つまり今もって主任は部長にとって招かれざる客のままなのだが、こちらも同じく勝手知ったるもので、奥へ向かった部長に「ゆっくりでいいぞ~」とわざとらしい声をかけつつ、部屋の中へとちゃっかり上がり込んだ。

      ※※※

「おっ。これが例のおせちか。なかなかいいんじゃない?」
「大変美味しゅうございました」

うむ。

なぜ主任がその話を知っているかは分からないが、その言葉には概ね賛成だ。

「まだかなり残ってますけど、軽く摘まみますか?」

皿は多めにあるし、割り箸もある。

「いやいや、折角の谷崎の両親から嫁候補への贈り物だろ?遠慮しとくよ」
「…………嫁候補」

深く考えていなかったが、なるほどそう言う意図があった訳か。

「ま、食べ物に罪はないし、高瀬君は気にせず食べればいいんじゃないか?」
「そう言うものですかね?」
「うん。平気平気」

何をもって平気と言っているのかは非常に怪しいが、どうせ既に口をつけた後であるし、今さら元には戻せない。
それよりも気になるのは先程聞いた部長への「お土産」だ。

「主任、さっきの話ですけど…………」 

尋ねようとしたところで、主任がスッと片手を上げた。

「ちょっとまって」

「?」

「その前に、俺がここに来るまでに谷崎とどんな話をしていたか聞かせてほしいんだ」

「……話、ですか?」

なんでまた、そんなものを知りたがるのだろうか主任は。

しかもその顔は先程までのふざけた表情とは異なり、やけに真面目だ。

「忘れてるかもしれないけど、俺も一応高瀬君にプロポ―ズした男なんだよ?
―――――あいつだけ抜け駆けってのは、よくないだろ?」
「!!」
「てなわけで、どこまで進展があったのか聞いておこうと思ってさ。
…………で、キスくらいはもうしたの?」

好奇心と、少しの嫉妬を瞳に宿して追求してくる主任に、早くもダウン寸前の高瀬が叶うはずもなく。

そして話は冒頭の会話へと戻るのである――。
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