わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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だって干支だもの。

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そんなこんなで、やって来ました厄よけ神社。
初詣客賑わう境内の隅、高瀬は自らの軽率な思い付きを心の底から反省していた。

――――やっちゃったな、これ。

「あはははははははは……!!!」

腹を抱え、明らかに御神木らしき樹木に抱きつき爆笑する主任。
足元には先程購入したばかりの屋台グルメが放置され、その肩にはすっかり元の小鳥スタイルに戻ったピ―ちゃんが、ちょこんと鎮座している。

「主任、いくらなんでも笑いすぎですよ」
「だ、だってさ高瀬君、ま、まさかの干支って………」

あはははは、ともう一度振り替えって例のブツを一瞥し、更に笑いのツボにはまった様子の主任。

「部長、重くないですか?」
「………わかっているならもっと早くに何とかして欲しい」
「でも、干支ですし」
「それがなんだ。
なんでもいいから早くどかしてくれ」
「気持ちは分からないでもないですが、その子はこのお寺に祀られてる子みたいだから無理です」

切実な視線を向けられ心が痛まないもないが、流石に人様の縄張りで、そこの家のペット(?)を邪険に扱うのもどうかと思う。

「お、お前それ、いの……………いの…………!!」

なおも指を指して笑う主任。
まぁ言いたいことは分かる。
視線の先には、沈痛な面持ちで立ち尽くす部長の頭の上。

漂う野生が猛々しい、獣が一匹。

「まごう事なき猪ですね」

ちゃっかりとライドオンしていらっしゃいます。

「あはははははは!!!!!!」
「主任はすっかり笑い上戸になりましたねぇ……」

見た目インテリなのにな、としみじみ呟く高瀬。
まぁ、それはいいとして。

『ブヒ?』
「う~ん」

一応餌付けできないものかとベビーカステラを差し出してみたのだが、見向きもされずに鼻で笑われた。
そして上機嫌に部長の髪の臭いをフガフガと嗅いでいる辺り、こいつ絶対にメスだと思う。
どうやら部長を見初めてしまったらしい。
流石は人にも霊にも絶賛モテ期発動中な部長だ。
テコでも離れないスタイルで鼻息も荒い。

こりゃ無理だ。

「もういっそこのまま連れて帰ります?今更一匹増えたくらいじゃ変わらない気も…………」
「「変わる」」
「え、そうですか?」

なげやりな高瀬の発言に、部長だけでなく主任までもが声を揃えて否定した。

「めでたくていいじゃないですか、だって干支ですよ、干支」

商売繁盛でいいじゃないかと言えば、無理無理と首をふったのは部長ではなく主任。

「こんなの毎日見せられてたら仕事にならないって………!」

確かにそれも正論だが………。

「いや、でもそれ今更じゃ?」

既に犬、猿、ネズミ、狐、鳥をコンプしておきながら、何を言いますか。
説得力は皆無である。

「君は俺の周りを動物王国にでもするつもりか………?」
「餌代はかからないし、見た目は動物でも祀れば神ですよ、神」

深いのため息を吐く部長に、そのうち十二支全部揃いますかね?と能天気に笑う高瀬。

「悪いものじゃないから大丈夫ですよ。
ほら、アレク君だって大人しいし」

部長に害をなすような相手には容赦なく牙を剥くアレク君の、この穏やかな顔を見れば一目瞭然。
悪いものではない証拠だ。

「それよりも、問題は主任です」
「え?」

なんの事?と、首をかしげる主任。
いやだから、その手。

「主任がさっきから叩いてるその木、ご神木です。あんまり失礼なことをするとバチが当たりますよ?」

というか、さっきからふよふよと主任の周りを漂う精霊らしき姿をバッチリ目視していたりする。

「え、なにか見えるの!?」
「まぁ……………」

幸い怒っている様子はないが………。

え?
イケメンだから許す?
ばっちこい?

「なんか今寒気が………」

いそいそとご神木から離れる主任を、少し残念そうな目で見送るご神木の精霊(?)
どうやら、先程の主任の行動が精霊のツボに填まっていたらしい。

「なるほど。確かにある意味壁ドン」
「……………なんの話?それ」

いやいや、イケメンは得だという話ですよ。
ブサメンだったら多分呪われてたと思います。

うんうん、と謎の共感をした所で、ちょん、と服の裾を引っ張られる気配に振り返った高瀬。

………ん?

振り返った先で、笑顔で手を振る幼女。
身に覚え…………ではなく見覚えのあるその姿。

『ひめたま!』

元気に手を上げて激プリ……………ではなく。

「…………は!?ピ―ちゃん!?」

いつの間にか再び人化している事にも驚いたが、それだけではなく。

『ブ、ブヒィ!!』
『めっ!!』

ぺしり、と小さな手で猪の頭を叩くピ―ちゃん。

『ブ、ブヒィ…………』
『ん!』

大人しくなった猪を慣れた手付きでよしよしと撫でる。

「ありゃまぁ…………」

―――この短時間のうちに、問題の猪をすっかり手懐けてるって一体どんな早業だ。

おまけにいつ部長から引き離したのだろう。
どこからか調達してきたらしい荒縄を手綱がわりに猪へ巻き付け、見事にライドオン。

完全に調教済みだ。

「ピ―ちゃん、なんて頼もしい…………!」
「っていうか神様相手にいいの?この扱い」
「良くはないけど可愛いので許します!」

そして多分だが、この二匹の力関係は既に決定してしまっている。
間違いなくピ―ちゃんの方が格上。

身内であろうご神木の精霊も、本来獰猛な性質である筈の猪のあまりな姿にドン引きしてる。

あ、被害が及ぶ前に逃げた。

「ま、まぁ、嫌ならさっさと元いた場所に戻るんじゃないですかね?」

だから多分大丈夫………だと思います、はい。

「…………優秀だな」
「部長、感心してないで今のうちに帰りましょう。あんまりピ―ちゃんばっかり誉めるとアレク君が拗ねますよ?」

今も少し切なそうな顔でピ―ちゃんを見てるし。
いつもの役割を猪に奪われて悔しそうだ。
二匹の下僕(?)を従え、満更でもない顔のピ―ちゃんは確実にお姫様体質。

「誰に似たんでしょうね?」

ポツリと呟けば、両側から感じるあきれた視線。
高瀬の財布となった部長に、荷物もちとなった主任。

言いたいことはよく分かるが、ここは全力で知らぬ振りだ。

「…………誰だろうねぇ?」

白々しい主任の言葉に、ちょこんと首を傾げたピ―ちゃんが、楽しげに一言。

『ひめたま!』

「だよね」と頷く主任の満足げな顔。

「蛙の子は蛙だな」

そう呟いた部長の言葉に、がっくりと肩を落とす高瀬であった――――。


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