わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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美しすぎる~はもう古い。

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あの後、これ以上の騒ぎを恐れてか、「ここで待っているから後は好きに見物してこい」と疲れた表情の部長に送り出された二人。
長居をするつもりはないが、少しだけ気になることがあったのでお言葉に甘えて残らせてもらった。
高瀬の予想通り、猪は部長が神社の敷地を離れると同時にすっとどこかへ消え去り、少し残念そうな顔をしたピーちゃんは当たり前の様子でアレク君の上に移動。
元気にこちらに手を振っていたあたり、あのまま部長のお守りをしてくれるつもりらしい。
部長を一人にするのは不安だったのでちょうどいい。
買い物が終わるまでもうちょっと待っていて下さいな、部長。

「しかしこの神社、本当に人が多いですねぇ」

ある程度買い物を終えたところで辟易したように人の波を眺めていれば、「そう?」と平然とした様子の主任。

「正月だし、こんなものなんじゃないの?」
「いやいや、さっきチラっと見ましたけど、お守りを販売してる巫女さんのところに長蛇の列ができてましたよ」
「あぁ、それは確かに」

参拝で混雑するのはわかるのだが、列に並ぶ客は総じて、アイドルの握手会に並ぶファンのようなやたらと濃い集団だった。

「しかも並んでるのは一人の巫女さんのところだけっぽかったんですよね。
普通にお守りを買う人はみんな空いてるところに流れていって、一部の人だけがそこから意地でも離れないって感じで……」
「あぁほら、今流行りの美しすぎる巫女さんとかでもいたんじゃないの?」

特に巫女さんに興味もないのか、適当に会話に応じる主任。
言葉のチョイスがやや古い。

「美しすぎる巫女………」
「興味があるならちょっと覗いてみる?少し行列も落ち着いてきたみたいだけど」
「巫女さんには興味はありますが、あの列に突っ込むのは怖い」

美しすぎる巫女さんというレアなキャラがいるのなら、是非一度拝ませていただきたいところではあるのだが。

「なんなら肩車でもしてあげようか?」
「幼女姿なら喜んでお願いするところですけど、さすがに今はどうかと思います」

なんだかんだで高瀬も四捨五入すると三十路。
いい歳をしてと悪目立ちすること請け合いだ。

「それに、さっきからチラホラと見たことのある顔が……」
「あぁ、確かに。うちの会社の社員も参拝に来てるみたいだね」

先程も主任に対し、軽く頭を下げて通り過ぎる見知らぬ家族連れがいたが、多分それも得意先かなにかの人なのだろう。
できれば社内の人間とは遭遇したくはないものだが、主任はといえばいかにも余裕の顔でむしろ楽しんでいる。

「ねぇねぇ高瀬君。俺たちってこうして見るとなかなかお似合いに見えるんじゃないかな」
「確信犯ですか、主任。
変な噂になっても困りますし、念の為にちょっと離れて……」
「こらこら!!迷子になるから、離れちゃダメだってば!!」

すすすっと側を離れて行こうとする高瀬の腕をがっしりと掴む主任。

確かにこの人混みではすぐに互いの姿が見えなくなってしまいそうだが、高瀬としては無問題。

「心配しなくても大丈夫ですって。たとえ迷子になったとしても車のある場所はわかってますし」

部長の所に帰れば良いだけだし、現代人にはスマホという便利な道具もある。

そう説得する高瀬に、「あのねぇ」と苦い表情の主任。

「そうじゃなくて、痴漢とかスリとかナンパ男とか、世の中いろいろ危険だろ?こんな場所に高瀬君を一人にはできないよ」

まったく、と頭をぽんと叩かれ、きょとんと主任を見上げる。

「主任………意外とフェミニストな一面が」
「意外とじゃなくて、俺はそもそも紳士のつもりなんだけど。
後、俺がここまで面倒を見るのは高瀬君だけだからね?」
「相変わらず雰囲気イケメンですね、主任」
「…………雰囲気?」

そのセリフで女がイチコロか、とちょっと納得した。
モテる男はやはり違う。

ぽん、っと誰かに肩を叩かれたのはその時だった。
近づいてくる気配に全く気付かなかった。

「こんにちは!」
「ん?」

振り返ったそこにいたのは、厚手のコートを羽織り、マスクをつけた若い女性。

――――――え、誰??

「うちの社員……じゃないよな?」

同じく振り返った主任も少し困惑気味だ。
やはり知っている顔ではないらしい。
ニコニコと笑うその顔は、マスクで大部分が隠れていてもわかるほどに白く整っている。
こんな女性が社内にいたら、まず目に付かないわけがない。

心当たりがないと、こそこそ話し合う二人。

「…まさか部長の元カノとかですかね。さっき3人でいるのを目撃されてたとか」

こういうのは本人がいない時に忠告に来るものだし、部長がいないスキを狙ったとも考えられる。

「男を二人も侍らせやがって的な忠告に?」
「だったら笑顔で挨拶はしてこないだろ」
「いやいや、そこは油断させておいてブスリ……」
「言っておくけど、谷崎はそもそもあんまり若い子には手を出さない男だよ。
あの子、明らかに高瀬君よりも若いだろ」
「部長の女性遍歴はともかく、肌のハリは女子大生と見ました」

知らぬ間に年増認定を受けていたことはさておき、確かに若いこの女性。
部長となら10歳近く年の差がありそうだ。

「なんか………どこかで見た顔?のような気もするんですけど……」
「俺は全然記憶にない」
「……ってことは私関係ですよねぇ……?」

はて、誰だろう。


本人を目の前にこそこそと話す二人を咎めることなく、ニコニコと待っていてくれている様子は、こちらに対して敵意を持っている人物には見えない。

「あれ?その服もしかして……」

女性をじっと眺めていた主任がある違和感に気づいた。
上着こそ着ているが、その下はもしや。

「君、ここの巫女さん?」
「はい!」
「あぁ…………やっぱり」

納得した主任の視線を追えば、マフラーに隠れてよく見えなかった女性の髪。
後ろ手に纏められた真っ黒な髪に、ひときわ目立つ赤いリボン…………ではなくあれは。

「確かに、巫女さんとかがよく着けてるやつですね」

名前はわからないが、あの紙みたいなの。

「それにほら、足元」
「あ、草履…………」

納得した。
確かによく見れば一目瞭然だ。

「もしかしてさっきの行列の先に居たのは君かな?」
「行列…………はい、多分??」

そこはなんとも自信なさげに、ちょっと困った様子を見せる女性。

はにかむ姿もそこはかとなく神々しい。
人が並ぶのが少しだけ理解できた。

「確かに御利益がありそうな気が…………!!」
「うん、高瀬君はちょっと黙っていようか?」
「む」

お口チャックね、と言われ、先程の買ったばかりのミニサイズのリンゴ飴を口に突っ込まれた。

姫りんご……………うん、甘い。

「んで、君は一体何の用かな?俺達二人とも、君とは面識がないと思うんだけど」
「それは……………」

うんうん。

口にリンゴ飴を突っ込まれ、モグモグとかじりながら頷く高瀬に、女性が口を開きかけたその時。

「みゃあこ!!!!」
「!?」

人混みを掻き分けるようにしてこちらにやって来る1人の男。
完全に悪目立ちしている。
参拝客が明らかにさっと引いた。

「なんだあれ…………?」

訝しげに呟く主任には悪いが、今の声にはバッチリ聞き覚えがある。

そうしてまじまじと女性の顔を見れば、ようやく頭の中で線が一本に繋がった。

そうだ、通りでどこかで見た顔だと思った筈。

ツンツン、と主任の服を引っ張り訴える。

「主任主任!!!あ、あ、あ、あれです!あの男!」
「え?」

なんの話??と主任が困惑するのも当然。
あの男に実際に遭遇したのは、高瀬と竜児の二人だけ。
だが、話だけは主任も聞いた筈だ。


「―――――――例の、工事現場で遭遇したですよ!!」
「は?」


叫んでからなんかちょっと違ったかなと思ったがまぁいい。
大切なことはただ一つ。

「これぞ飛んで火に入る夏の虫!確保!!」
「え?ちょ………高瀬君!?」

前回の落とし前をつけさせて貰います!
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