わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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比丘尼塚伝説編⑦

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「やっぱり、とは随分な言いようですね」
「あぁ?なぁにをすっとぼけてやがる竜児。そもそも一番ひどかったのはてめぇだろうがよ」

完全に僧侶としての顔を投げ捨てたのか、それともいつもこの調子なのか。
柄の悪さ全開の源太郎は、袈裟姿のままドサりとあぐらをかきその場に座り込む。

「あんだけあからさまに態度に出してりゃ、大抵のやつは空気読んでお前らから離れようとするわ!」
「んで、空気が読めなかったゲンゴロウだけが残ったんだよなぁ、はは」
「てめ、賢治っ」
「ぴぃ!」

人をKY呼ばわりする賢治に肩車され、ピーちゃんは実にご機嫌だ。
肩車どころか振り回されてジャイアントスイング気味なんだが、大丈夫かピーちゃん。
個人的にはスカートの中身が心配です。

「……ん?ぴぃ?ぴぃってなんだぴぃって。鳥じゃあるまいし」

その様子に毒気を抜かれつつ、首をひねったのが源太郎。
そこですかさず訂正を入れる高瀬。

「いや、ピーちゃんは鳥だし」
「あぁ?」
「だから、鳥だって」
「んなわけあるか………!!……あ?なんだ嬢ちゃん??」

再びするすると賢治の肩を伝って畳へと降りたピーちゃんが、源太郎の袈裟の袖を引っ張り、そこに顔を突っ込んでみたりして遊んでいる。
それはそれでなかなか楽しいらしい。

「おいおい、袈裟はそうして遊ぶもんじゃ…………」
「ぴぃ?」

ボンッ!!

「!?」

小首をかしげたピーちゃんが、一瞬にして視界から消えた。

「な、なんだなんだ!?」

慌てる源太郎だが、あいにくピーちゃんの居場所は反対側からは丸見え。

「源太郎、袖の中」
「んぁ?」

こんなところにいるわけ………そう言いながらも覗き込んだ袖の中、ひょいと顔を出したのは、お馴染みの。

「………鳥だな」
「でしょ?」

空気は読めないが、こういう場面における適応能力だけは人一倍高い源太郎。
早くも袖の中でくぅくぅと寝息をたてようとしているピーちゃんをゆっくり取り出すと、手のひらに乗せて矯めつ眇めつながめ、妙に満足気な表情で再び袖の中に戻す。
ピーちゃんとしては快適ハンモック状態なのだろうが、ちょっとまて。

「なぜ今戻したの?
そりゃ確かに楽しげに寝てるけど、それうちの子だからダメ!」
「くれ」
「一言!?」

そういえばこの男、見た目に似合わず小動物好きだった。

「しゃべれる小動物なんて最高じゃないか!可愛い!くれ!!」
「ダメ!!」

うちの子はあげませんっ!!

「ケンちゃんパパ!源太郎からうちの子を奪取!!!」
「はいはい、了解」
「あ!おい何するっ!!」

ノリのいい賢治が、ひょいと背中から源太郎を押さえ込み、その袖をまさぐってすぐにピーちゃんを見つ出す。

「ほれよ」

ひょい、っと畳の上に投げてやれば、転がり落ちたピーちゃんが「ぴぃ!」ともう一度鳴いてようやく高瀬の元へ。

「ぴぃ~」
「きっとふ~、って一息ついてるところなんだろうけど、この混乱の大本はピーちゃんだからね?」

わかってるのか、とツンツンその体をつつけば、くすぐったそうにプルプルと身を震わせる白い小鳥。

確信犯ピーちゃんは、基本やり逃げが得意です。

だか、ある意味タイミングとしてはバッチリ。
おかげで説明が楽になった。

「ほら、今ので分かったでしょ?
ピーちゃんは確かにうちの子だけど、厳密に言えば私が産んだ子ではありません」

流石に鳥の子供は産めない。
というか人間には不可能な芸当である。

「可愛い外見して腹が真っ黒そうなあたりお前ら3人にそっくりだが」
「名誉毀損!!」
「そりゃま、子は親に似るって言うしな」

むぅとほっぺを膨らませる高瀬に対して、当たり前だと答える賢治。

「僕は鳥の子供を持った覚えはありませんが、それはタカ子の分身のようなものですからね」
「確かに娘みたいなもんだよな」

ピーちゃんにだったら、父と呼ばれるのもやぶさかではないらしい二人。

「まぁ、さっきのはピーちゃん流のブラックジョークだとは思うけど……。
とにかく、このピーちゃんは私の、私の………??」

そこまで言って急に不安を覚え、二人に視線を向ける高瀬。

「こういう場合って、なんて言えばいいの?」

式神?いや、確かにピーちゃんは元々紙でできているが、今となってはそれも怪しいし。
とりあえず身内であることは間違いないが、ピーちゃんが何かと言われるとちょっと難しい。
二人としても専門家ではないため、「なんでもいいんじゃねぇの?」と適当な答え。
それに対して一番まともな回答をくれたのは、意外なことに源太郎だった。

「つまり、コイツはお前の眷属ってことだろ。
どういう経緯で出てきたのかは後でじっくり聞かせて貰いたいところだが………」

腐っても坊主、流石に専門家は違う。

「ってことは、さっき一緒に居たハムスターもお前のか?」
「ハムちゃんのこと?うん、そうだよ」

そういえばいつもの事とは言え、姿がみえない。

「コイツ、さっきから袈裟の中に入って寝てるんだが、こっちは連れて帰ってもいいんだよな?」
「!?」

ダメ!!!と叫んでから急いでハムちゃんを回収。

なんでそんなところ袖の中にいるの!

すっかりピーちゃんに気を取られて、ハム太郎にはまで気が回っていなかった。
あやうくそのまま連れ去られるところだったと焦る高瀬。

「ってか、いつからそこに」
「お前んところのその偽幼女が、あいつらをパパだのなんだの言い始めた頃だな」
「そんな前から!?」

なんということだ。
ピーちゃんよりもハムちゃんの方が一足先に侵入を果たしていたとは。
しかもピーちゃんが入り込んだのとは反対の袖だった為、一度袖に手を突っ込んだ賢治も気付かなかった模様。
ハム太郎の隠密スキルは日々レベルアップしている。

「ハムちゃんっ、知らない人について言っちゃダメでしょっ?」
「きゅ?」
「きゅ?じゃなくて!!目をこすらないっ!!でもそれなんかカワイイから許すっ」

ゴシゴシと腕で目を擦る素振りを見せるハム太郎。
本気で寝てたな、こいつ。

「無駄に肝が据わってるところがお前そっくりだな」

なるほど、と妙なところで納得している源太郎。
なんだか地味に精神が削られた気がするが、いい加減に本題に入ってもらえないだろうか。

「というか源太郎って、こういうオカルト系得意だったっけ?
それともお坊さんになってから勉強したの?」

昔は特に霊感があるなんて話は聞いたことがなかった。
その頃には高瀬も今ほど強い霊感があったわけではないので、絶対にないとは言い切れないがーーーー。

「まぁ、必要に迫られてってとこだな」
「必要?」
「色々あったんだよ、俺にもな」
「ほぉ……」

気になる。
すごく気になるので後で酔わせて聞いてみよう。

場が落ち着いたのを見計らい、ようやく真面目な話に入る四人。
説明は賢治の担当だ。

「んで、話をまとめると、そのってのが現在に繋がってるわけでな」
「?」
「あ~、ほらタカ子。こいつの顔をもう一度よく見てみろよ。どっかで見覚えはないか?」
「??だから源太郎でしょ?」

見覚えも何もないと首を傾げれば、「違う」と一言。
賢治から返ってきたのは、思いもよらぬ正解。

「テレビだよ。テレビCM」
「CM?」
「ほら、毎年やってるだろ?年末恒例超常現象特番」

オカルト否定派と肯定派が揃い、目くそ鼻くそなバトルを繰り広げるバラエティ番組だ。

「半分悪ふざけみたいな内容も多いが、去年あれに出てた霊能力者の一人がこいつ。
一時期番宣も結構バンバン流れてたから、一回くらいはタカ子も見たことがあるはずだぞ?」
「え、マジで」

オカルト番組?
源太郎が???

申し訳ないが、まったく記憶にない。

「同時期に放送してた、シリーズもの刑事ドラマの映画版なら覚えてるんだけど………」

東京がウィルステロの標的にされると言う、なかなかに衝撃的な展開だった。

ごめんごめんと謝れば、意外にも源太郎に怒った様子はない。

「所詮はやらせ番組だからな」

である高瀬なら興味がなくて当然、ということらしい。
賢治としても、初めからそのくらいのことは予測済みだ。
番組を見ていないとしても、そのC M位は一度は目にしているはずなのだが、残念ながら高瀬の記憶に一切残らなかったらしい。

「仕方無いか。そもそもあの手の心霊バラエティなんてほとんど見ないもんな、タカ子は」
「何しろ日常がオカルトなもので……」

ある意味では笑えるのだが、正直見ていて気の毒になるのであまり見ない。
を指差して大真面目に「あそこに女の霊が!」とか言われてもなんだかなと言う感じで。
むしろ貴方の後ろで指を指して笑ってますよと教えてあげたくなる。
ちょっと切ない。

「幽霊より生きてる人間のほうがよっぽど怖いよね」
「タカ子にとっちゃ、そうだろうなぁ」


人間とは非日常に憧れる生き物。
だからこそ人はオカルトに興味を持つのだろうが、高瀬の場合はむしろ反対。
リアル路線のサスペンスや、刑事ドラマのほうが見ていて楽しい。
定番の「犯人はお前だ!」という奴は、いつかどこかで言ってみたいセリフNo1だ。

と、脱線したが結局なんの話だっけ?

「つまりだな。その特番をやってたのがさっき話したのと同じ問題のテレビ局で。
ゲンゴロウが今ここにいるのは、テレビ局の人間が番組の伝手を辿ってわざわざ呼んできた、あっちサイドのオブザーバーだから、ってことだ」

………なんだって?

「え、じゃあ源太郎実はスパイだったの?」
「違うっ!!」

即座の否定が逆に怪しい。

「僕達がそんな間抜けな事をすると思いますか?
それは僕たちの手駒。彼等に仕掛けたですよ」
「手駒………?」
「なるほど、確かに虫だな」 

ゲンゴロウだけに、と笑う賢治をジロリと睨む源太郎。

「獅子身中の虫って確か、身内にいる裏切り者的な意味じゃなかったっけ?」
「タカ子にしては利口ですね」

つまり正解。

っこてはだ。
結局どっちにしろ、源太郎はスパイってこと??

「いわゆるミッションインポッシブル?」

それに対する竜児の反論はこうだ。

「とんでもない。不可能な任務どころか、彼らを足止めするだけの実に簡単なお仕事ですよ。
なにしろテレビ局の人間は誰1人として僕らの繋がりを把握していないのですから、疑われるはずもありませんし」
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