わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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比丘尼塚伝説編⑨

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「も……俺帰るわ」

肩を落とし、そのまま部屋を出ていこうとする源太郎を慌てて引き止める高瀬。

「いや、ちょっとまって、さっきのは私が悪かったって、ね?」
「とか言いながらお前、俺の嫁の前でも平然と昔好きだった女の話を持ち出しそうだよな…」

恨めしい目で見られ、うっと言葉に詰まる。

「やらないやらない!!」

ぶんぶんと首を振って否定してから、ふと思った。

「嫁の前……って、もしかしてお嫁さんに合わせてくれるつもりはあるの?」

なかったら先ほどのようなセリフは出てこないだろうと思えば、案の定。

「子供が生まれてからの話になるが、落ち着いたらいずれは、な」
「!!」

思わず両手を上に喝采を上げた。

「ベビー服!!おもちゃとかいっぱい持ってくからっ!!性別わかったら教えてっ」
「…?なんでそんなに嬉しそうなんだ、お前」

明らかにテンションが上がった高瀬を訝しむ源太郎。

「そりゃ、赤ちゃん用品を堂々と購入できる機会なんてそうないしっ!!」

買い物するのが今から楽しみすぎる。
今時のベビー服というやつは、そりゃあ可愛いものが多い。
身内に子供がいなくても、つい目がいってしまうくらいにはプリティな代物が目白押しなのだ。

「あぁ?子供なら自分で作ればいいだろうよ、自分で……」
「その話題、まだ引きずるなら私も話を元に戻すけど」
「……………多分、娘だ」

なんなら好きだった女の子の名前を大声で叫んでやろうかと目で語れば、あっさりと陥落した源太郎。
こういう時のメンタルの弱さは、子供の頃から全く成長していない。

「そっかぁ、娘さんかぁ。いいなぁ。可愛いだろうなぁ」
「おう」

言葉少ないながらも相好を崩し、にやける源太郎。
この惚気よう、嫁は相当な美人と見た。

「奥さんは綺麗系?可愛い系」
「う~ん、まぁ綺麗系か?」

わくわくと訪ねた高瀬に応えたのは、なぜか賢治。

「あ?なんでお前が答えて…………」
「あれ?ケンちゃんも源太郎の奥さんにあったことがあるの?」
「以前、ちょっとした依頼を受けてな」
「ほぉ………」

ちょっとした依頼。
一体何があったのか気になるが、源太郎が大人しく口をつぐんだところを見ても、なにやら複雑な事情があるのは間違いない。

「ってことは、竜児も奥さんと顔見知り?」
「ええ。タカ子には叶いませんが、生臭坊主には勿体無い魅力的な女性ですよ」
「うわぁ、めずらしい、本当に美人なんだ…」

普段から美人を見慣れているせいで、女性の美醜には比較的厳しい竜児にしてはベタ褒めだ。
ちなみにその基準、高瀬に関してのみ当てにならないのはもはや常識。
及川高瀬は唯一無二のプライスレスだ。

「おい竜児、誰が生臭だよ、誰が」
「インチキ坊主の方がお好みでしたら言い直しますが?」

さらっとひどい言われようだが、そこでふと思い出したことがある。

「そういえば話を戻すけど、源太郎ってどの程度の霊感があるの?ピーちゃんたちは見えてるみたいだけど、除霊とか一人でできたりする?」
「んなもん無理に決まってんだろ」
「速っつ」

即答だった。

「お坊さんってそういうのの専門家じゃなかったっけ!?」
「陰陽師や祓い屋と一緒にすんな。坊主が全員霊感もちと思うなよ?大体の坊主がむしろ無能ってやつだ」

衝撃の事実。
え。じゃあなんのためのお経??

「それでやってけるの?」
「むしろ普段から寺に住んでる人間が霊感あったらうざくてたまらんだろ。
墓場やら何やらが自分地の敷地内にあるんだぞ?
おちおち寝てもいられん」
「ーーーーーー確かに!!」

そう言われてみるとその通り。
そうか、お坊さんって案外普通の人だったのか。

「まぁ中には修行をして特殊な能力を身につけた変わり者もいるが……そっちはむしろ坊主というより修験者だな」
「へぇ…」

『役小角、って聞いたことないか?』と尋ねられ、「う~ん?」と首をかしげる高瀬に、がっくり肩を落とす源太郎。
たしか、なにかの漫画でそんな名前を読んだような気もするが。

「つか、お前の場合は無関心にも程があるだろ…」
「なるようにしかならないがモットーなので」
「少しは勉強しろ!」
「え~?じゃあ源太郎の方はどうなの?」
「それなりの知識ならあるぞ。
霊能力は大したことがなくともな」
「ほぉ~エライエライ」
「馬鹿にしてんな?お前」
「全力で誉めてますが何か」
「……………」


まぁ話を元に戻すとして、一般的にお坊さんといえば霊能者のイメージ。
オカルト番組なんかでも、求められるのはそういうキャラなのではなかろうかと思うのだが、その辺の事情はどうなっているのだろう。

「テレビに出てると、除霊の依頼とかいっぱい来るでしょ?」
「ーーーーまぁ、来るな」
「そういう時、どうしてんの?」

妙に嫌そうな顔で頷いた源太郎に尋ねれば、これもまた、答えは本人以外のところから返された。

「嫁が何とかしてくれてるんだよな?ゲンゴロウ」
「本当に、君にはもったいない奥方ですからね」
「え………?」

なにその回答。

「うるせぇ!!言っとくけど別に押し付けてるわけじゃないからな!?俺は毎回断れっていうのにあいつがーーーーー」
「金になるもんなぁ、除霊って」
「寺を維持するには、なにかと物入りですからね。
甲斐性のない夫をもっと妻は苦労するものです」
「う……」

二人の会話にバツの悪そうな顔をして呻く源太郎。
その態度を見るに、実際に除霊を行っているのが源太郎の奥さんであることは間違いないらしい。

お金目当てとか、何気に奥さんとは気が合いそう。

「今はあいつがなにを言おうと、依頼は全部断ってる。妊娠中のあいつに無茶はさせたくないしな……」

「「それは当然」」

常識だ、と同時に返され、「うるせぇ!」と半ばヤケクソ気味の源太郎。

「それでなくとも君の奥方には色々と問題があるんです。
本来であれば、あまり人前には出て欲しくないところを………」
「わかってるよ!だから面倒が起こる前にその手に詳しそうなお前らに相談したんだろうがっ」
「面倒なら既に起こっていたような気がしますが……」

どこか含みのありそうな竜児の態度に、「やかましいっ」と仏頂面の源太郎。

どうやら源太郎の嫁にはとんでもない事情が隠されているようなのだが……。

ってか源太郎の嫁って、本当に何者なの???

今のやり取りで俄然興味が湧いてきた。
よし、もういちどスマホを見せろと要求してみよう。

そう思い口を開きかけたその時。

『きゅ!!』
「んん?」

真下から高瀬を見上げ、ピョコンとつき出された短い前足。

「あれ?ハムちゃん?」

いつのまにか目を覚まし、源太郎の袈裟から無事に脱出していたらしい。
それはいいのだが、その足元に何か四角い物体が……??

あれは。

「あ、チビっ!!お前俺のスマホ盗みやがったな!!!」
『きゅ~!!』
「よっしゃ!よくやったハムちゃん!!!」

どうやらハム太郎、袈裟の袖に入れてあったスマホをちゃっかり拝借し、ここまで運んできたらしい。
そして今それを満を辞して披露したと。

「源太郎のスマホ、GETだぜ!!」
『きゅい~!』
「あ、こら待て及川っ返せっ!!」

せっかくのハム太郎の活躍を無駄にしてはならない。
源太郎に奪取される前にと、足元に転がるスマホを素早く拾い上げ、手帳のようになったカバーを開いて、待受画面を確認ーーーーー。

「え?」

したところで、高瀬は一気に凍りついた。

「勝手に開くな!!返せっ!!」

慌てた様子でこちらに手を伸ばす源太郎。
かなり必死さが伝わってくるが、え~っと、まさか?

「ーーーー源太郎、いつの間に犯罪に手を……」
「はぁ!?」
「いやだってこれ……………」

高瀬の予想通り、スマホの待受は奥方らしき女性なのだが………。

大きくなったお腹をかかえてこちらに微笑む、どうみても十代半ばにしか見えない美少女の姿。

「え、まさか事情ってそういう話!?」
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