わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

文字の大きさ
52 / 290

お土産は必要経費です。

しおりを挟む
「ケンちゃんが?今何やってるって言ってました?」
「それがさ、俺もびっくりしたんだけど、今日の昼には富山に向かうって…」
はぁ!?
「だって、今朝○○県に向かうって…!」
「うん、昨日のうちにもう到着してたみたいね。もうすでに大体の調査は終わったみたい」
「えーっ」
竜児のやつ、なんて非人道的なことをっ!
おかしいと思ったんだ、いくら朝一での移動になるからって、わざわざ一度ケンちゃんを家に帰すなんて!
もしかしなくてもあの時、ケンちゃんはすでに○○県に向かってひた走っていたのだろう。
「かわいそうなケンちゃん…」
「いや、結構ノリノリだったぞ?及川くんにラーメンの土産を買ったから楽しみにしててくれって伝言が…」
「わ~い……じゃない!!」
さすがに今はそんな状況じゃないことくらい私にも分かるぞ!?
なにやってんのケンちゃん!?
グルメを堪能している余裕がどこにある!!
「それってもしかして俺の経費で払われんのかな?」
「いいと思います、それで」
冗談交じりに軽く首をかしげた主任に思い切り肯定してやった。
「便利屋?」
不審げな声を出したのは中塚女史だ。
そういえば彼女には説明をしていなかった。
「私の幼馴染で、今回の室井社長の件の調査を個人的に依頼したんです……主任が」
「…う~ん…確かに間違ってはいないかな」
調査を依頼したのは決して経営状態のことではないが。
「そういえば主任のご友人というお話でしたね…」
「まぁ、ちょっとどうなっているのか気になってね…」
曖昧に濁すということは、この件について中塚女史に話すつもりはないということだろう。
了解、という意味で主任に向けてアイコンタクトを取る。
モロバレなそれにツッコミも入れず、あえての不干渉を貫いてくれるらしい中塚女史は、「あぁ、もう時間ですね」と時計を見ると、用意してきたロールケーキのナイフやら皿やらを片付け始める。
「そんなに急がなくても、ゆっくり食べてっていいけど?」
「おい…」
「だってどうせここ、お前の部屋だろ?邪魔すんなって張り紙でもしときゃいいじゃん」
なぁ?といかにも軽く言い出す主任。
天才か。
でもこの甘さが逆に怖い。
何を企んでる。
「私はもう頂いたから、あとは及川さんとお二人でどうぞ。私はお先に失礼します」
すでに役目を終えたナイフを回収し、ゴミだけをそっと見えないように袋に隠して持っていく中塚女史。
疎外感を感じても良さそうなものだが、そんな様子は微塵も見せない。
これぞまさにデキる女。
「私悟りました。優秀な人間は嫉妬を表に出さないんですね…」
むきー!となるのは未熟な証拠なわけだ。
私もまだまだである。
「お、及川くんがひとつ賢くなったね。よかったよかった」
「もっと褒めてくれて結構です」
むしろ褒め殺しプリーズ。
「でもさ、実際問題、人の心の中は見えないもんだよ」
「?」
「顔で笑ってても、腹の中は怒りで煮えくり返ってる、なんて事も珍しくないのが大人の世界だからさ。
――及川くんの裏表のなさは見てて安心するよ」
「……それは否定はできない」
苦笑する2人。
――及川高瀬、リバーシブルだそうです。
「裏表ねぇ……。もしもあったらどうするんですか、私に」
舐められては困ると、ちらりと横目で見れば。
「及川くんが?」
「なんですかその有り得ないっていう表情は」
「だってそりゃ及川くんだもの。……君はさ、そのままでいいと思うよ、うん」
…うんって、おい。
「裏表はさ、君の幼馴染にでも任せておけばいいじゃない。短い時間だけどさ、君らの関係はよくわかったよ」
「あの連中……か」
昨日出会った二人を思い出したのか、何とも言えない表情で考え込む部長。
「そうそ。なかなか癖がありそうだったでしょ」
主任はそう言うが、癖があるのは主に竜治でケンちゃんはそうでもないはず。
――しかし部長の意見は違ったらしい。
「最初に頼んだ時は特には何も感じなかったんだがな…」
「及川くんが絡まなきゃ、ってラインじゃない?」
「……なるほどな」
「え、ケンちゃんなんか癖ありました?」
営業用スマイルは鉄壁を崩さないことで有名なんだが。
「問題はない。ただ…」
「ただ?」
言いよどむ部長に変わり、答えたのは主任。
「及川くんがいかに彼らに愛されてるのかはよくわかったって話だよ」
「?まぁ愛されてるとは思いますけど…」
本人たちも自分で言ってたし。
「え、そこ認めちゃうんだ。何君ら、もしかして3○とかしちゃう関係……」
「違うっ!!あくまで幼馴染としてです!」
なんて下品なことを言うんだ!!
「幼馴染の絆ですよ、絆!」
「男女間に友情は存在しないってのが俺の持論なんだけどねぇ…」
「友情じゃありません。家族愛です」
「君ら、家族じゃないから。それともやっぱり3人で……」
「ギャーーーッ!」
不適切な発言は控えてくださいっ。
「ま、俺にまで牽制してくるあたりはさすがにまだ若いよね。可愛いもんだよ」
「あの二人を可愛い扱いできるあたりさすがです、主任…」
「牽制…。そうか、あの態度は…」
納得したようにつぶやいたあと、ちらりと高瀬を見てため息を吐く部長
なんですか、そのため息は。
主任が部長の肘をつつき、こそっと何事かを耳打ちする。
「――奪い取るなら協力するぞ?」
「断固拒否する」
部長に睨まれましたが、それ、何の話ですか。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

処理中です...