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お土産は必要経費です。
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「ケンちゃんが?今何やってるって言ってました?」
「それがさ、俺もびっくりしたんだけど、今日の昼には富山に向かうって…」
はぁ!?
「だって、今朝○○県に向かうって…!」
「うん、昨日のうちにもう到着してたみたいね。もうすでに大体の調査は終わったみたい」
「えーっ」
竜児のやつ、なんて非人道的なことをっ!
おかしいと思ったんだ、いくら朝一での移動になるからって、わざわざ一度ケンちゃんを家に帰すなんて!
もしかしなくてもあの時、ケンちゃんはすでに○○県に向かってひた走っていたのだろう。
「かわいそうなケンちゃん…」
「いや、結構ノリノリだったぞ?及川くんにラーメンの土産を買ったから楽しみにしててくれって伝言が…」
「わ~い……じゃない!!」
さすがに今はそんな状況じゃないことくらい私にも分かるぞ!?
なにやってんのケンちゃん!?
グルメを堪能している余裕がどこにある!!
「それってもしかして俺の経費で払われんのかな?」
「いいと思います、それで」
冗談交じりに軽く首をかしげた主任に思い切り肯定してやった。
「便利屋?」
不審げな声を出したのは中塚女史だ。
そういえば彼女には説明をしていなかった。
「私の幼馴染で、今回の室井社長の件の調査を個人的に依頼したんです……主任が」
「…う~ん…確かに間違ってはいないかな」
調査を依頼したのは決して経営状態のことではないが。
「そういえば主任のご友人というお話でしたね…」
「まぁ、ちょっとどうなっているのか気になってね…」
曖昧に濁すということは、この件について中塚女史に話すつもりはないということだろう。
了解、という意味で主任に向けてアイコンタクトを取る。
モロバレなそれにツッコミも入れず、あえての不干渉を貫いてくれるらしい中塚女史は、「あぁ、もう時間ですね」と時計を見ると、用意してきたロールケーキのナイフやら皿やらを片付け始める。
「そんなに急がなくても、ゆっくり食べてっていいけど?」
「おい…」
「だってどうせここ、お前の部屋だろ?邪魔すんなって張り紙でもしときゃいいじゃん」
なぁ?といかにも軽く言い出す主任。
天才か。
でもこの甘さが逆に怖い。
何を企んでる。
「私はもう頂いたから、あとは及川さんとお二人でどうぞ。私はお先に失礼します」
すでに役目を終えたナイフを回収し、ゴミだけをそっと見えないように袋に隠して持っていく中塚女史。
疎外感を感じても良さそうなものだが、そんな様子は微塵も見せない。
これぞまさにデキる女。
「私悟りました。優秀な人間は嫉妬を表に出さないんですね…」
むきー!となるのは未熟な証拠なわけだ。
私もまだまだである。
「お、及川くんがひとつ賢くなったね。よかったよかった」
「もっと褒めてくれて結構です」
むしろ褒め殺しプリーズ。
「でもさ、実際問題、人の心の中は見えないもんだよ」
「?」
「顔で笑ってても、腹の中は怒りで煮えくり返ってる、なんて事も珍しくないのが大人の世界だからさ。
――及川くんの裏表のなさは見てて安心するよ」
「……それは否定はできない」
苦笑する2人。
――及川高瀬、リバーシブルだそうです。
「裏表ねぇ……。もしもあったらどうするんですか、私に」
舐められては困ると、ちらりと横目で見れば。
「及川くんが?」
「なんですかその有り得ないっていう表情は」
「だってそりゃ及川くんだもの。……君はさ、そのままでいいと思うよ、うん」
…うんって、おい。
「裏表はさ、君の幼馴染にでも任せておけばいいじゃない。短い時間だけどさ、君らの関係はよくわかったよ」
「あの連中……か」
昨日出会った二人を思い出したのか、何とも言えない表情で考え込む部長。
「そうそ。なかなか癖がありそうだったでしょ」
主任はそう言うが、癖があるのは主に竜治でケンちゃんはそうでもないはず。
――しかし部長の意見は違ったらしい。
「最初に頼んだ時は特には何も感じなかったんだがな…」
「及川くんが絡まなきゃ、ってラインじゃない?」
「……なるほどな」
「え、ケンちゃんなんか癖ありました?」
営業用スマイルは鉄壁を崩さないことで有名なんだが。
「問題はない。ただ…」
「ただ?」
言いよどむ部長に変わり、答えたのは主任。
「及川くんがいかに彼らに愛されてるのかはよくわかったって話だよ」
「?まぁ愛されてるとは思いますけど…」
本人たちも自分で言ってたし。
「え、そこ認めちゃうんだ。何君ら、もしかして3○とかしちゃう関係……」
「違うっ!!あくまで幼馴染としてです!」
なんて下品なことを言うんだ!!
「幼馴染の絆ですよ、絆!」
「男女間に友情は存在しないってのが俺の持論なんだけどねぇ…」
「友情じゃありません。家族愛です」
「君ら、家族じゃないから。それともやっぱり3人で……」
「ギャーーーッ!」
不適切な発言は控えてくださいっ。
「ま、俺にまで牽制してくるあたりはさすがにまだ若いよね。可愛いもんだよ」
「あの二人を可愛い扱いできるあたりさすがです、主任…」
「牽制…。そうか、あの態度は…」
納得したようにつぶやいたあと、ちらりと高瀬を見てため息を吐く部長
なんですか、そのため息は。
主任が部長の肘をつつき、こそっと何事かを耳打ちする。
「――奪い取るなら協力するぞ?」
「断固拒否する」
部長に睨まれましたが、それ、何の話ですか。
「それがさ、俺もびっくりしたんだけど、今日の昼には富山に向かうって…」
はぁ!?
「だって、今朝○○県に向かうって…!」
「うん、昨日のうちにもう到着してたみたいね。もうすでに大体の調査は終わったみたい」
「えーっ」
竜児のやつ、なんて非人道的なことをっ!
おかしいと思ったんだ、いくら朝一での移動になるからって、わざわざ一度ケンちゃんを家に帰すなんて!
もしかしなくてもあの時、ケンちゃんはすでに○○県に向かってひた走っていたのだろう。
「かわいそうなケンちゃん…」
「いや、結構ノリノリだったぞ?及川くんにラーメンの土産を買ったから楽しみにしててくれって伝言が…」
「わ~い……じゃない!!」
さすがに今はそんな状況じゃないことくらい私にも分かるぞ!?
なにやってんのケンちゃん!?
グルメを堪能している余裕がどこにある!!
「それってもしかして俺の経費で払われんのかな?」
「いいと思います、それで」
冗談交じりに軽く首をかしげた主任に思い切り肯定してやった。
「便利屋?」
不審げな声を出したのは中塚女史だ。
そういえば彼女には説明をしていなかった。
「私の幼馴染で、今回の室井社長の件の調査を個人的に依頼したんです……主任が」
「…う~ん…確かに間違ってはいないかな」
調査を依頼したのは決して経営状態のことではないが。
「そういえば主任のご友人というお話でしたね…」
「まぁ、ちょっとどうなっているのか気になってね…」
曖昧に濁すということは、この件について中塚女史に話すつもりはないということだろう。
了解、という意味で主任に向けてアイコンタクトを取る。
モロバレなそれにツッコミも入れず、あえての不干渉を貫いてくれるらしい中塚女史は、「あぁ、もう時間ですね」と時計を見ると、用意してきたロールケーキのナイフやら皿やらを片付け始める。
「そんなに急がなくても、ゆっくり食べてっていいけど?」
「おい…」
「だってどうせここ、お前の部屋だろ?邪魔すんなって張り紙でもしときゃいいじゃん」
なぁ?といかにも軽く言い出す主任。
天才か。
でもこの甘さが逆に怖い。
何を企んでる。
「私はもう頂いたから、あとは及川さんとお二人でどうぞ。私はお先に失礼します」
すでに役目を終えたナイフを回収し、ゴミだけをそっと見えないように袋に隠して持っていく中塚女史。
疎外感を感じても良さそうなものだが、そんな様子は微塵も見せない。
これぞまさにデキる女。
「私悟りました。優秀な人間は嫉妬を表に出さないんですね…」
むきー!となるのは未熟な証拠なわけだ。
私もまだまだである。
「お、及川くんがひとつ賢くなったね。よかったよかった」
「もっと褒めてくれて結構です」
むしろ褒め殺しプリーズ。
「でもさ、実際問題、人の心の中は見えないもんだよ」
「?」
「顔で笑ってても、腹の中は怒りで煮えくり返ってる、なんて事も珍しくないのが大人の世界だからさ。
――及川くんの裏表のなさは見てて安心するよ」
「……それは否定はできない」
苦笑する2人。
――及川高瀬、リバーシブルだそうです。
「裏表ねぇ……。もしもあったらどうするんですか、私に」
舐められては困ると、ちらりと横目で見れば。
「及川くんが?」
「なんですかその有り得ないっていう表情は」
「だってそりゃ及川くんだもの。……君はさ、そのままでいいと思うよ、うん」
…うんって、おい。
「裏表はさ、君の幼馴染にでも任せておけばいいじゃない。短い時間だけどさ、君らの関係はよくわかったよ」
「あの連中……か」
昨日出会った二人を思い出したのか、何とも言えない表情で考え込む部長。
「そうそ。なかなか癖がありそうだったでしょ」
主任はそう言うが、癖があるのは主に竜治でケンちゃんはそうでもないはず。
――しかし部長の意見は違ったらしい。
「最初に頼んだ時は特には何も感じなかったんだがな…」
「及川くんが絡まなきゃ、ってラインじゃない?」
「……なるほどな」
「え、ケンちゃんなんか癖ありました?」
営業用スマイルは鉄壁を崩さないことで有名なんだが。
「問題はない。ただ…」
「ただ?」
言いよどむ部長に変わり、答えたのは主任。
「及川くんがいかに彼らに愛されてるのかはよくわかったって話だよ」
「?まぁ愛されてるとは思いますけど…」
本人たちも自分で言ってたし。
「え、そこ認めちゃうんだ。何君ら、もしかして3○とかしちゃう関係……」
「違うっ!!あくまで幼馴染としてです!」
なんて下品なことを言うんだ!!
「幼馴染の絆ですよ、絆!」
「男女間に友情は存在しないってのが俺の持論なんだけどねぇ…」
「友情じゃありません。家族愛です」
「君ら、家族じゃないから。それともやっぱり3人で……」
「ギャーーーッ!」
不適切な発言は控えてくださいっ。
「ま、俺にまで牽制してくるあたりはさすがにまだ若いよね。可愛いもんだよ」
「あの二人を可愛い扱いできるあたりさすがです、主任…」
「牽制…。そうか、あの態度は…」
納得したようにつぶやいたあと、ちらりと高瀬を見てため息を吐く部長
なんですか、そのため息は。
主任が部長の肘をつつき、こそっと何事かを耳打ちする。
「――奪い取るなら協力するぞ?」
「断固拒否する」
部長に睨まれましたが、それ、何の話ですか。
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