わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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You憑いてきちゃいなよ!

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「でも主任、いくらなんでも来るのが早すぎません?私、さっき部長から主任は数時間後に戻ってくるって聞いたばっかりだったんですけど」
数時間後どころか数分後にやってきたな、という疑問をぶつけてみれば、なぜか「う~ん」と考え込む主任。
「?どうしたんですか」
「それがねぇ…。俺にもよくわからないんだけどさ。こいつに電話した時にはまだ指先に痺れがあったんだよ。
それで車を運転するわけにもいかないから、一度病院で検査してもらって、それからタクシーを呼んでこっちに向かう予定だったんだけど…」
――だけど?
ちらっとまたこちらに向けられる視線。
なんだなんだ?私は何もしてないぞ。
「なんか急にハムスターが目の前に現れて、そうしたらいきなり指の痺れが治ってさ…」
「「!」」
――――――ハムちゃんっつ!!!!!!
「そういえば朝から姿が見えなくなっていたな…」
「ハムちゃん!?またか!」
そして今もまた姿が見えないところが怖い。
何をやらかしてるんだ、君は!?
「おかげで検査をパスして自分で運転してこれたってワケ。あれって前言ってた及川くんのペットだろ?」
「…黙秘権を行使します」
もはやハムちゃんはペットとかいう次元の存在ではなくなっている予感がします。
「ま、別にいいけど後でお礼言っといてね。間違いなくなんかされたと思うから」
「……ひまわりの種でも備えといてください…」
いっそ会社に祀るべきだろうか、ハム太郎。
部長のデスクに祭壇を設置―――――したら鬼のように怒るだろうな、うん。
「んでさ、これからの話だけど、とりあえず及川くん、君明日は風邪で有給取得ね」
「……へ?」
――――――有給?
どこからそんな話が出てきたのかさっぱり理解できませんが。
それ以前に正社員になりたてなのに有給なんてありましたっけ?
「まぁそのへんはちゃちゃっとなんとかしておくから気にしない気にしない。中塚くんには後で連絡しておくからさ」
「はぁ……」
「それに君一人いなくなっても大して仕事は変わらないから」
「それは人権侵害です」
せめて歯車のひとつくらいには組み込んで欲しい。
これがいわゆるパワハラか。
「……少なくとも事務処理能力は高いぞ、彼女は」
「部長…!!」
飼い主が珍しく褒めてくれました…!!
「お、珍しくかばったな。けど所詮周りがカバーできないほどじゃないだろ?」
「……」
否定できないんかい。
「今回に関してはさ、及川くんにしかできない事でこっちに力を貸して欲しいんだよね」
「こっちにって…」
まさか?
「明日は一日休みってことにして、例の幽体離脱で僕か谷崎、どっちかにとり憑いて出張について来て欲しいんだ」
―――はい?
ニコニコ笑顔の主任、一気に渋面を濃くする部長。
「できないの?」
「いや、出来る出来ないの問題ではなくやったことがありません」
そもそも幽体離脱ってとり憑くものか?
むしろそれ生霊…。
「あ、トイレとかお風呂とかの時はさすがに遠慮してね?見たいなら構わないけど…」
「主任にとり憑くのだけは遠慮しておきます」
部長の背中の方が頼りがいがあると思う、きっと。
先住霊がいる可能性は否定できないが。
というか、それってとり憑くと言うのか?
背後霊とか守護霊とかそういう感じ?
「私が部長の守護霊に……」
おぉ、そう言うとなんかいい感じかも。
だって部長は大事な飼い主ですから。
――精一杯媚びますので養ってください。
「………」
邪な思念が通じたのか、実に複雑そうな顔の部長。
けれど、その提案自体を却下するつもりもなさそうだ。
「できるのか?」
真剣な顔で尋ねられ、こちらも真剣に検討してみる。
「……できる気は…しますね」
多分、おそらく。
「一度行ったことのある場所ならすぐに移動できるので、一旦部長たちについて向こうに行っちゃえばあとは自由に動くことも可能だと…」
真昼間っから移動するのはほとんど初めての経験だが、やってできないことはない気がする。
「んじゃ、それでいこうぜ!向こうについたら俺が谷崎と分かれて室井の実家まで案内するから、そっから先は自由行動で…っていうのはどうよ」
ふむ。
「悪くない…とは思います」
なにしろ霊体はフリーパス状態だからな。
どこへでも入り込める。
「帰りは別にとり憑く必要もないんで、置いて帰ってくれて平気ですよ」
「そうなの?」
「まぁ」
お迎えは必要ありません。
本体が目を覚ませばそれまでだし、どこへ行こうと結局は本体に繋がっている。
そのつながりが切れた時がいわゆる「最期」なのだろうが。
「夜にはケンちゃんからなにか連絡が入っているかもしれませんし、それで何か分かるといいんですけど…」
「難しいだろうね。他人の家の中のことなんて、ズケズケ入って調べるわけにはいかないからさ」
確かにそれはその通りだが。
「主任、うちのケンちゃんをなめちゃいけませんよ…」
どこから手に入れたのかわからない裏情報をあっさり仕入れてくる、それがケンちゃんだ。
「随分信頼してるねぇ…。まぁプロのお手並み拝見かな」
そう言うと、両手を頭の上にあげ、「う~ん」と大きく伸びをする主任。
「ひとまずこの話はここまでにして、一旦仕事を片付けるとしますか!」
さぁやるぞ!と意気込むのは構わないが、ちょっとまて。
「主任のせいで部長がご飯も食べられない状態だったんですから、せめて部長のお昼タイムは確保してあげてください」
弁当を前にしてほとんど「待て」をされた犬状態の部長が気の毒すぎる。
「私と中塚女史からの愛と気配りの結晶なので」
ささ、どうぞどうぞ、と手のひらを上にして弁当をすすめる。
「なんなら新しいお茶を入れますよ」
私だってお茶くらいは入れられんです。本当です。
「そういや俺も昼はまだ食べてなかったなぁ…。んじゃ及川くん、なんか弁当買ってきて?」
「おい」
「上司の使いっぱしりも新入社員の役目だって、ほら」
そういってぺいっと投げられる千円札。
――うん、近くのコンビニでいいな。
部下を大切にしない上司はせいぜい添加物にまみれた昼食をとるがいいのだ。
「んじゃ、よろしくね~」
いってらっしゃ~い、と手を振る主任。
「部長!!ちゃんとお弁当食べてくださいね!」
くれぐれも後回しにして仕事を始めないように!
「俺が監視してるから安心して買いに行っていいよ。ほらほら、早く行った」
「了解しました~~」
千円札を握り締めて部屋を出る。
なんだか体良く追い出された気がするのだが、気のせいだろうか…?
「しっかしハムちゃんはどこへ行ったんだろう…」
アレク君といい、少し心配だ。
――――主に何かやらかしてないか的な意味で。

「元はといえば部長のペットだし、しょうがないか…」
はぁ。
飼い猫はつらいよ。
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