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宅配ピザと余計なお世話。
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「あいててて………しまった、寝違えた…」
今回の出張の代償は、なかなかに大きい。
痛む首を摩りながら、ベッドを抜け出した高瀬は、トボトボとキッチンへ向かい、インスタントのカフェオレを取り出す。
「っあ~!染みるわ~」
まるで酒のようにぐいっと飲み干し、そのままダイニングのテーブルに顔ごと突っ伏す。
いかん、何もする気が起きない。
「有給……明日まで伸ばしてもらうようにお願いしとけばよかった…」
今更ながらに自分の失敗を悟るが、時すでに遅し。
「…待てよ?今からでも遅くはないのか?」
今頃部長たちは新幹線にのってこちらに戻ってきている頃だろう。
そこに電話すれば……。
「――いかん、それはそれで面倒くさい事になる…!!」
どうせ電話したが最後、あれやこれやと追求されるに決まっている。
この体調でそれは無理。本当に無理。
むしろ出前を取るのに電話をするのも億劫なくらいだ。
「……ピザ……」
賢治から回収したお土産のラーメンはあるが、今は無性にピザが食べたい。
チーズをだらんと伸ばしたい。
そしてできれば、あの無駄に高級な1枚を、切らずにそのままもそもそ囓りたい。
「うっうっ……」
――――女の一人暮らしでピザ1枚、我ながら相当切ない。
だが今なら行ける。
余裕で焼肉三人前くらいいける。
どうやら無意識のうちに高カロリーなもの身体が欲していようだ。
もう1杯カフェオレを飲み干すが、そんなもので空腹が紛れることもなく。
”くぅ~ぅ”
「あぁ……ひもじぃ…」
――――腹、鳴りましたが何か。
家に戻ってきてみれば、アレク君はすでにおらず、ハムちゃんは枕元で一緒におやすみ、白狐は何処かへ姿を消していた。
恐らく部長の元へ戻ったのであろうアレク君に関しては特に文句はないが、用が済んだらそれで良しとばかりにいなくなった白狐には少し思う所がある。
やはり、神というのは至極勝手な存在だ。
それに比べて、枕元でお腹を晒して眠るハム太郎―――――うん、癒されました。
「しかしなぜハムちゃんは寝るんだろう…」
霊体なのにこれ如何に。
もしかしてハム太郎も今回の事で霊力を使いすぎてしまった、そういうことなのだろうか?
だとしたら、そのまま成仏してしまわないようにまた少し霊力を……。
「…いやいや、それは私の勝手、ハムちゃんの為にはならないや…」
ぶるぶると首を振り、自分の考えを否定する。
もし、自然に成仏するというのならそれが一番。
引き止めるようなことをするのは、本来反則技だ。
望む時に望む場所で。
それが最初の約束だった筈。
少し寂しくなり、テーブルにカップを置いて、もう一度ベッドに戻る。
――すると。
「あ、これ大丈夫だ。成仏する気ないな」
『きゅ~。ぐぅ。きゅぴ~。ぐぅ。きゅい~。ぐぅ』
ハムちゃんは寝ていた。
それも、さっきまで高瀬がいたベッドの真ん中を陣取り、枕の真ん中に半分埋もれながら、ゴロゴロと転がって寝心地の良さを堪能している。
その様子には、成仏する気など欠片も見当たらない。
現世を謳歌する気、満々と見た。
その姿に少し安心し、表情を緩めたところで、玄関先のチャイムが鳴る。
「?誰だろ」
部長達……にしては早すぎる。
「ケンちゃんか竜児のどっちか…?」
とりあえず、そのままで構わないかとパジャマ替わりのジャージ姿のまま玄関の扉を上げる高瀬。
そこへ。
「ちわ~っす!!妹さんちわ~っす!!!」
「うぉ!」
勢いよく被っていた帽子を取り、玄関口で頭を下げる青年――――。
見覚えがある。
彼は賢治のところの…。
なんでここに?そう思う前に、高瀬の目線は彼が手に掲げ持つ大きな箱に釘付けになった。
「そ、それはまさか……!!!」
「ピザっす!!!頼まれて持ってきたっすよ!!」
出来立てほやほや!と言われ、思わずひゃっほうと両手を上げた。
「で、でもなんで…!?」
「いやぁ。実は所長から電話があって、妹さんのところに食料を届けてきて欲しいって頼まれたんすよね。
あ、ピザなのは俺の独断っす。お持ち帰りで2枚頼むと1枚タダってCMの奴、一度やってみたくて」
もう1枚は事務所に持って帰って自分達の食事がわりにするらしい。
「ナイス判断」
「え、俺って結構イケちゃってる感じです?」
「うん、超イケイケ」
「あざ~っす!!!」
全くなんの中身もない会話を適当に切り上げ、ピザの箱を受け取る高瀬。
出来たて、と言うとおり、箱がまだ暖かい。
うん、これぞ持つべきものは幼馴染。
「いやぁ、妹さんが起きててくれてよかったっすよ~。
いくら合鍵を持ってるとは言え、人の家に勝手に入り込むってのはちょっと気が咎めて……」
――――――ん?
「待って」
んじゃこれで!と、威勢良く帰ろうとした彼を既で引き止める。
なんか今、聞き捨てならない発言があった気がする。
「合鍵って……?」
「え?妹さんが所長に渡したんじゃないんすか?」
ぶるぶるぶる。
そんな覚え、毛頭ございませんが。
というか、賢治がこの部屋にやってきたのは、先日の一件があって初めて……。
「まさか」
導き出される答えは一つ。
―――――この間家に来たとき、隙を見て合鍵を作りやがったな!?
その場合、確実に合鍵は一つではない。
竜児の手元にも渡っていると見て間違いないだろう。
あの土産はまさかその為のご機嫌取りか…!?
後で必ず取り返す。
魔王を倒し、合鍵という名の宝物を取り戻す…!!
そう決意し、ピザを持ったその手の下で軽く拳を握る高瀬に、彼は更に続ける。
「妹さん、もしかしたら寝てるかも知れないから、そうしたら勝手に入ってテーブルの上にでも置いてってくれって言われてたんすけど…」
「…ケンちゃんの馬鹿…!!!」
寝てる成人女性の部屋に若者を忍び込ませるような真似をしていいと思ってるのか!!!
「あ、ちなみに俺、妹さんに手を出すつもりとか、まったくないんで。
その辺り所長にもちゃんと認められてるっていうか…。恩人の大切な人に不埒なことをしようなんて、そんな人道に劣る様な真似をしたら地獄に落ちるってジイチャンが。
―――――それに俺の好みは妹さんみたいな絶壁じゃなくて巨にゅ…」
「ごめん、ちょっと黙ろうか?」
前半いいこと言ってたのに、後半で全て台無しです!!
「そしてとりあえず鍵を返せ」
「ダメっす」
プイッ。
「あぁ!?」
思いもよらぬ反撃に凄むが、さすがはゆとり教育の若者、どこ吹く風だ。
「これは俺が所長から預かった鍵なので、きちんと所長に返さないと…」
「そもそも本人の承諾なしに作られてるから、それ」
じりじりと後ろに後退していく彼に詰め寄る高瀬。
「鍵は所長に返すので、そこんところ含めて所長と交渉して下さい…!!」
「チッ!!」
あくまで返す気のない彼に、盛大な舌打ちをする。
こちらが諦めたと見て、ホッと息を吐く青年。
「俺はこれで…!」
逃げる限るとばかりに玄関を出た青年だが、開けっ放しのドアの向こうで据わった目をして彼を見ている高瀬に気づくと、ちょっと考えてそこで立ち止まり、もう一度深く頭を下げる。
「妹さん……所長の事、よろしくお願いします……!!」
「ん…?」
――――一体、なんの話だ?
「所長にとって、妹さんは大切な宝物なんすよ。だから、余計なことかもしれないっすけど…」
そこまで言って言葉を区切った彼は、突然の話題に戸惑う高瀬の前で、ニカッと歯を見せて笑う。
「オトコ選びに悩んだら、逆ハーレムもありっすよ!!!!」
ブッ!
「んじゃ!!」
「おーーーーーーい!!!!!」
思わぬセリフに吹き出したところで逃げ出していく青年。
お前、いい笑顔で何を言いやがった!?言うだけ言って満足そうに逃げるんじゃないっ!!
「待てやコラーーーーー!!!!」
混乱だけを巻き起こして帰っていくとは卑怯なりと追いかけるが、さすが若者、逃げ足が速い。
名前で呼び止めようとして、「あ…」っと絶句する。
しまった。
「あの子の名前……………!」
―――――いろいろあって、すっかり忘れた。
なんだっけ、と考えている間にあっという間に姿を消した背中。
まさに脱兎のごとくだと、ため息をつく高瀬。
ハァ……。
「……まぁいっか、とりあえず後で……」
ちらり、と目線を落とすのは手元の箱。
先程から、いい匂いが鼻をくすぐっていた。
今一番大切なのは、栄養補給。
腹が減っては戦ができぬとは名言。
「よし、食べよう」
ケンちゃんと竜児を問い詰めるのはいつでもできる。
アツアツピザは待ってはくれんのだ。
「それにしても」
――――恐るべし、ゆとり教育。
まさかの逆ハーレム推奨でした。
今回の出張の代償は、なかなかに大きい。
痛む首を摩りながら、ベッドを抜け出した高瀬は、トボトボとキッチンへ向かい、インスタントのカフェオレを取り出す。
「っあ~!染みるわ~」
まるで酒のようにぐいっと飲み干し、そのままダイニングのテーブルに顔ごと突っ伏す。
いかん、何もする気が起きない。
「有給……明日まで伸ばしてもらうようにお願いしとけばよかった…」
今更ながらに自分の失敗を悟るが、時すでに遅し。
「…待てよ?今からでも遅くはないのか?」
今頃部長たちは新幹線にのってこちらに戻ってきている頃だろう。
そこに電話すれば……。
「――いかん、それはそれで面倒くさい事になる…!!」
どうせ電話したが最後、あれやこれやと追求されるに決まっている。
この体調でそれは無理。本当に無理。
むしろ出前を取るのに電話をするのも億劫なくらいだ。
「……ピザ……」
賢治から回収したお土産のラーメンはあるが、今は無性にピザが食べたい。
チーズをだらんと伸ばしたい。
そしてできれば、あの無駄に高級な1枚を、切らずにそのままもそもそ囓りたい。
「うっうっ……」
――――女の一人暮らしでピザ1枚、我ながら相当切ない。
だが今なら行ける。
余裕で焼肉三人前くらいいける。
どうやら無意識のうちに高カロリーなもの身体が欲していようだ。
もう1杯カフェオレを飲み干すが、そんなもので空腹が紛れることもなく。
”くぅ~ぅ”
「あぁ……ひもじぃ…」
――――腹、鳴りましたが何か。
家に戻ってきてみれば、アレク君はすでにおらず、ハムちゃんは枕元で一緒におやすみ、白狐は何処かへ姿を消していた。
恐らく部長の元へ戻ったのであろうアレク君に関しては特に文句はないが、用が済んだらそれで良しとばかりにいなくなった白狐には少し思う所がある。
やはり、神というのは至極勝手な存在だ。
それに比べて、枕元でお腹を晒して眠るハム太郎―――――うん、癒されました。
「しかしなぜハムちゃんは寝るんだろう…」
霊体なのにこれ如何に。
もしかしてハム太郎も今回の事で霊力を使いすぎてしまった、そういうことなのだろうか?
だとしたら、そのまま成仏してしまわないようにまた少し霊力を……。
「…いやいや、それは私の勝手、ハムちゃんの為にはならないや…」
ぶるぶると首を振り、自分の考えを否定する。
もし、自然に成仏するというのならそれが一番。
引き止めるようなことをするのは、本来反則技だ。
望む時に望む場所で。
それが最初の約束だった筈。
少し寂しくなり、テーブルにカップを置いて、もう一度ベッドに戻る。
――すると。
「あ、これ大丈夫だ。成仏する気ないな」
『きゅ~。ぐぅ。きゅぴ~。ぐぅ。きゅい~。ぐぅ』
ハムちゃんは寝ていた。
それも、さっきまで高瀬がいたベッドの真ん中を陣取り、枕の真ん中に半分埋もれながら、ゴロゴロと転がって寝心地の良さを堪能している。
その様子には、成仏する気など欠片も見当たらない。
現世を謳歌する気、満々と見た。
その姿に少し安心し、表情を緩めたところで、玄関先のチャイムが鳴る。
「?誰だろ」
部長達……にしては早すぎる。
「ケンちゃんか竜児のどっちか…?」
とりあえず、そのままで構わないかとパジャマ替わりのジャージ姿のまま玄関の扉を上げる高瀬。
そこへ。
「ちわ~っす!!妹さんちわ~っす!!!」
「うぉ!」
勢いよく被っていた帽子を取り、玄関口で頭を下げる青年――――。
見覚えがある。
彼は賢治のところの…。
なんでここに?そう思う前に、高瀬の目線は彼が手に掲げ持つ大きな箱に釘付けになった。
「そ、それはまさか……!!!」
「ピザっす!!!頼まれて持ってきたっすよ!!」
出来立てほやほや!と言われ、思わずひゃっほうと両手を上げた。
「で、でもなんで…!?」
「いやぁ。実は所長から電話があって、妹さんのところに食料を届けてきて欲しいって頼まれたんすよね。
あ、ピザなのは俺の独断っす。お持ち帰りで2枚頼むと1枚タダってCMの奴、一度やってみたくて」
もう1枚は事務所に持って帰って自分達の食事がわりにするらしい。
「ナイス判断」
「え、俺って結構イケちゃってる感じです?」
「うん、超イケイケ」
「あざ~っす!!!」
全くなんの中身もない会話を適当に切り上げ、ピザの箱を受け取る高瀬。
出来たて、と言うとおり、箱がまだ暖かい。
うん、これぞ持つべきものは幼馴染。
「いやぁ、妹さんが起きててくれてよかったっすよ~。
いくら合鍵を持ってるとは言え、人の家に勝手に入り込むってのはちょっと気が咎めて……」
――――――ん?
「待って」
んじゃこれで!と、威勢良く帰ろうとした彼を既で引き止める。
なんか今、聞き捨てならない発言があった気がする。
「合鍵って……?」
「え?妹さんが所長に渡したんじゃないんすか?」
ぶるぶるぶる。
そんな覚え、毛頭ございませんが。
というか、賢治がこの部屋にやってきたのは、先日の一件があって初めて……。
「まさか」
導き出される答えは一つ。
―――――この間家に来たとき、隙を見て合鍵を作りやがったな!?
その場合、確実に合鍵は一つではない。
竜児の手元にも渡っていると見て間違いないだろう。
あの土産はまさかその為のご機嫌取りか…!?
後で必ず取り返す。
魔王を倒し、合鍵という名の宝物を取り戻す…!!
そう決意し、ピザを持ったその手の下で軽く拳を握る高瀬に、彼は更に続ける。
「妹さん、もしかしたら寝てるかも知れないから、そうしたら勝手に入ってテーブルの上にでも置いてってくれって言われてたんすけど…」
「…ケンちゃんの馬鹿…!!!」
寝てる成人女性の部屋に若者を忍び込ませるような真似をしていいと思ってるのか!!!
「あ、ちなみに俺、妹さんに手を出すつもりとか、まったくないんで。
その辺り所長にもちゃんと認められてるっていうか…。恩人の大切な人に不埒なことをしようなんて、そんな人道に劣る様な真似をしたら地獄に落ちるってジイチャンが。
―――――それに俺の好みは妹さんみたいな絶壁じゃなくて巨にゅ…」
「ごめん、ちょっと黙ろうか?」
前半いいこと言ってたのに、後半で全て台無しです!!
「そしてとりあえず鍵を返せ」
「ダメっす」
プイッ。
「あぁ!?」
思いもよらぬ反撃に凄むが、さすがはゆとり教育の若者、どこ吹く風だ。
「これは俺が所長から預かった鍵なので、きちんと所長に返さないと…」
「そもそも本人の承諾なしに作られてるから、それ」
じりじりと後ろに後退していく彼に詰め寄る高瀬。
「鍵は所長に返すので、そこんところ含めて所長と交渉して下さい…!!」
「チッ!!」
あくまで返す気のない彼に、盛大な舌打ちをする。
こちらが諦めたと見て、ホッと息を吐く青年。
「俺はこれで…!」
逃げる限るとばかりに玄関を出た青年だが、開けっ放しのドアの向こうで据わった目をして彼を見ている高瀬に気づくと、ちょっと考えてそこで立ち止まり、もう一度深く頭を下げる。
「妹さん……所長の事、よろしくお願いします……!!」
「ん…?」
――――一体、なんの話だ?
「所長にとって、妹さんは大切な宝物なんすよ。だから、余計なことかもしれないっすけど…」
そこまで言って言葉を区切った彼は、突然の話題に戸惑う高瀬の前で、ニカッと歯を見せて笑う。
「オトコ選びに悩んだら、逆ハーレムもありっすよ!!!!」
ブッ!
「んじゃ!!」
「おーーーーーーい!!!!!」
思わぬセリフに吹き出したところで逃げ出していく青年。
お前、いい笑顔で何を言いやがった!?言うだけ言って満足そうに逃げるんじゃないっ!!
「待てやコラーーーーー!!!!」
混乱だけを巻き起こして帰っていくとは卑怯なりと追いかけるが、さすが若者、逃げ足が速い。
名前で呼び止めようとして、「あ…」っと絶句する。
しまった。
「あの子の名前……………!」
―――――いろいろあって、すっかり忘れた。
なんだっけ、と考えている間にあっという間に姿を消した背中。
まさに脱兎のごとくだと、ため息をつく高瀬。
ハァ……。
「……まぁいっか、とりあえず後で……」
ちらり、と目線を落とすのは手元の箱。
先程から、いい匂いが鼻をくすぐっていた。
今一番大切なのは、栄養補給。
腹が減っては戦ができぬとは名言。
「よし、食べよう」
ケンちゃんと竜児を問い詰めるのはいつでもできる。
アツアツピザは待ってはくれんのだ。
「それにしても」
――――恐るべし、ゆとり教育。
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