わらしな生活(幼女、はじめました)

隆駆

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通りゃんせ

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「ん~…どこだろここ」
気づいたら、どこかの古いお屋敷の廊下に立っていたのだが。
多分、これは夢だ。
意識があまりにクリアな為に、一瞬無意識に幽体離脱したのかと思ったが、そうではない。
視界はいつもどおりで縮んでおらず、手足も長いまま。
要するに、いつもの幼女化をしていない。
……となれば、これは夢だろうとあたりをつけたのだが。
「問題はなんの夢か、だよね…」
前回の桃太郎はなかなか衝撃的であった。
今回は果たしてなんだろう。
浦島太郎か?金太郎か?
それとも一回ひねって三年寝太郎か。
なんでもいいや、と半ばヤケクソな心境であたりを見回す。
だが残念ながら、そこには人気どころか動物の姿もない。
屋敷の作り自体は前回訪れた室井家と似ているのだが、全体的にもっと古い…というか、格上な感じがする。
古民家というよりは、由緒正しい旅館か何かのような風情だ。
それでいて周囲はしんと静まり返り、来る者を拒む独特な空間。
本当に、なんだろうこの夢。
とりあえず目が覚めるまで歩くしかない、と長い廊下をひたすら進む。
ところどころ障子が張られた部屋らしき場所もあったのだが、なぜかそこを開ける気はしない。
開けても何もないとわかっているということか。
それとも、何か別の目的地に向かって、歩かされているのか。
嫌な感じだなぁ、と思いながらも歩みは止まらない。
行けども行けども同じ風景。まるで鳥居の中でも歩いているかのようだ。
なんとなく思い出すのは、古い童謡。
「通りゃんせ通りゃんせ
ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ」
この子の七つのお祝いに・・・。そう続けようとして、ふと足を止めた。
どうやら、目的地にたどり着いたようだ。
廊下の一番奥、戸が開け放たれた場所に、小さな人影が見える。
「誰?」
声をかけると、人影がびくりと揺れた。
子供…まだ少年のようだ。
畳の上にしかれた布団を前に正座をしている。
布団の上も人影が見えるが、あれは…。
―――――誰か、亡くなったの?
顔に、白い布が掛けられている。
よく見れば、子供が着ているのは黒い礼服。
だれか親族の、お葬式だったのだろうか。
「――――お前は誰だ」
振り返った少年が、こちらをじっと見据え、少年らしからぬ物言いで高瀬に向かって誰何すいかする。
その顔立ちにはどこか見覚えが……そう考えて、すぐに思いついた。
「エセ霊能力者!?」
「…?」
思わず指を指した高瀬に、訝しげな表情を浮かべる少年。
あ~あ、せっかく整った顔してるのに、眉間にシワが寄ってるよ。
――って、そんなことを考えてる場合じゃなくて。
「なんで私の夢に?」
考えてみるが、一向に答えが見つからない。
あからさまに怪しいそんな態度に、少年の表情が更に険しさを増す。
「――何者だ、どこから侵入した」
「どこからって…」
そもそもこれは侵入なのか?
だってこれは夢の中なわけで、その夢の中に勝手に侵食して登場しているのはむしろコイツの方では…。
「え~と、確か名前は……」
「…?」
なんだったっけ、確か。
「しのもり?よのもり?だっけ…」
そうそう、名前は覚えている。
竜児とお揃いの。
「りゅういち。そうだ、四乃森龍一!」
声高に宣言して改めて少年のを見下ろせば。
「――――なぜ、その名を知っている」
いつのまにかすぐ足元にまで迫っていた少年が、驚愕の表情でこちらを見上げていた。
「なんでって…」
そりゃ、あんたが名乗ったからだろうと。
言ったところで果たしてこの少年に通じるか否か。
困ったなぁと内心途方にくれた所で、少年の口から予想外の言葉が放たれる。
「それは僕の名じゃない」
「……え?」
「僕にはその名を許されていない。
――――四乃森の、名は」
許される……?
「それってどういう意味……」
問いかけようとした言葉が、途中で途切れた。
少年の背後。
着物を着た、年配の女性が立っている。
「何を見て…」
黙り込んでしまった高瀬に、少年がその視線を追って背後を振り返る。
だが、少年にはその姿は見えないのか、ただ不思議そうに首を傾げるのみ。
「見えないの?」
「…どういうことだ」
「だって、あなた霊能力……」
あるはずなんじゃ…?
だったらなぜ、見えないのか。
ただ単純に疑問に感じて問いかけただけだったのだが。
「…ど、どうしたの???」
少年の目から、涙が。
「み、見えないからって何も泣かなくていいんだよ!?別に見えないのが普通だし…!!」
さすがに焦って少年を慰めようと声を掛ければ、少年は涙を目尻にためたまま、きっとこちらを睨みつける。
「普通…?そんなものはいらないんだ、僕は、僕が認められるためには…!!」
「え、え~と……」
どうやらなにか事情があるらしいが、なぜ自分の夢の中でここまで焦らねばならんのか。
大人ならともかく、少年の泣き顔は少々心が痛む。
「と、とりあえず、泣き止もうよ」
ね?と少年の真正面にしゃがみこみ、彼の頭を撫でる。
大人版にはそんなことをする気は全くおきないが、少年版であればまた別だ。
「認められるとかなんとかはよくわかんないけど、ほら、その人も心配してるから…」
見えないのなら見させてあげればいい。
単純にそう考えて、高瀬は少年の手をギュッと握る。
「何を…!」
「まぁまぁ。ほら、とにかく見てごらんよ」
少し顔が赤くなったことには目をつむってあげて、着物姿の女性の立つ場所へと少年の視線を誘導してやる。
すると。
「……母さん」
――――あぁ、やっぱりお母さんだったんだ。
さっきからずっと、こちらに向けて頭を下げていたから、多分そうだとは思った。
「母さん、なんで…?」
「なんでとかいいから、ほら行きなよ」
ぽんと背を押すと、そのまま一歩、二歩と足を前に出す少年。
その手が離れかけたところで、このままだとまた見えなくなってしまうかもと気づき、慌てて「ちょっとまって!」と声をかける。
「ごめんごめん、そんな不満そうな顔しないでさ…」
あからさまに不服そうな表情をしながらも、高瀬が「そこで目を閉じて」と告げると、素直に目を閉じる。
そのほっぺに、ちゅっ!といつもハム太郎達にやっているような軽いキスを落とし、「もういいよ」と笑う。
何をされたのか分からず、ちょっと不思議そうなその表情がなんだかおかしい。
「ほら、これでもう大丈夫」
告げて手を離せば、やはりまだ少年の目にも女性は見えているようで。
少しずつそちらに向かって歩いていく様を見て、人ごとながらホッとする。
認められるだのなんだの言っていた割には、結局はまだ母親が恋しい子供なのだ。
あのエセ男にもこんな時代があったのかと感心し、でも所詮これ自分の夢だよなと気落ちする。
しかしなんでこんな夢を見てるんだかと不思議に思っていれば、少年がこちらをくるりと振り返った。
「ヒメガミ!」
「へ?」
―――――ひめがみ?
「貴方はヒメガミだな」
「…ん?」
一体何を言い出したんだろう?
さっぱり訳が分からず首をかしげるが、少年はそんな様子も気にならないようで、真剣な様子でこちら見つめている。
「僕に祝福を与えてくれたのか?」
祝福。
霊力をわけてやったことを言っているのだろうな、というのはなんとなくわかったので。
「……まぁ、そうかな?」
否定もせず曖昧に頷くと、少年の顔が輝いた。
「これで僕が四乃森の……!!」
「…?なんだかわからないけど、よかったね…?」
後ろの母親らしき女性が顔を上げ、少し表情を曇らせているのが気になるが…。
「ヒメガミ、貴方はなぜここに………」
今更な質問にまた戻ったところで、声を上げようとしてふっと意識が飛んだ。
「ヒメガミ……!!!」
少年の必死な声が微かに耳に残る。
結局、この夢は一体何だったのか。
思いながら、段々と意識が覚醒していくのがわかった。
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